13.突入、冒険者ギルド
ショウの説明が終わり、一行は街道を歩いてエーアシュタットの外壁付近まで歩いて来ていた。
セラスとルナールは若干緊張した面持ちだったが、一番先頭を進んでいたアイリは鼻歌交じりで足どりは軽い。
これから面白いモノが見られるかのような、期待に満ちた雰囲気を漂わせて街の中を歩いて行く。
その様子を見かねた殿を務めるケンが頭を掻きながら、彼女に釘を刺す。
「アイリ、俺たちはこいつらの補助役だからな。くれぐれも前に立つなよ?」
「分かってるわよ、私たちが出張っても意味ないもの。先輩たちが頑張っているのを物陰から見守ってますから」
含み笑いを浮かべ、ショウへ振り向いたアイリが手で口元を隠す。
どうやら本格的に楽しんでいるようだったが、ショウは肩を竦めて苦笑いで返した。
「もしもの時は頼りにしようかと思っていたんだけど、君たちの力を借りずに済むように頑張るよ」
「わ、私もショウさんの作戦通りに行くようにしっかりやります!」
「あたいも! ……と言いたいところだけど、あたいはそんな重要な役じゃないっすから力になれるかどうか」
一度意気込んだルナールがすぐに肩を落とす。
そんな彼女の頭を撫でるように手を置いたショウが――
「そんなことは無いよ。ルナールにはあいつらに騙されたっていう大義名分を周りに知らせるって重大な役があるんだから」
「……うっす」
「辛い事を思い出させるような役回りになってしまったけど、ごめんね」
「そ、そんなことないっす! あいつらスケアクロウに酷い目に遭わされたみんなのために、やってやるって決めたっすから」
「うん、一緒に頑張ろう」
「そうだよ。よろしくね、ルナール」
「はいっ! アニキもアネゴも、よろしくお願いするっす!」
ルナールを挟むようにして、セラスも彼女の肩に手を置く。
感極まった様子のルナールが力強く頷き、気合を入れた。
そんな三人の様子を伺っていたアイリが最後尾に居たケンに近づき、ショウたちに聞こえないくらいの小声で耳打ちをする。
「先輩は話を聞いてたから分かってたけど、セラスちゃんの方も結構シムに入れ込んでるのね……これから大丈夫かしら?」
「……なんとかなるだろう」
「あら、シスコンを拗らせている兄らしからぬセリフね」
「そうか? まぁ、もしこれから何かあったとしても、それはあいつの成長に繋がると思うしな。俺は陰ながら見守るだけだ」
「……やめてよ、ストーカーって言われて御用になるのだけは」
「うっ、それは、気を付けないとな」
冷めた目でケンを見るアイリに、彼は自信なさげに頷いた。
その時、前を歩いていた三人が立ち止まったため、後ろをついて歩いていたケンたちも足を止める。
ショウの目線を追うように、アイリは通りの建物へ目を向ける。
そこは、相変わらず外まで喧騒を響かせている『冒険者ギルド』だった。
開放されている両開きの扉を前に、ショウは仲間たち全員に頷いてみせる。
各々で返事の頷きを返し、それを確認したショウは一歩、冒険者ギルドへ入っていくのだった。
――
ギルドのエントランスへ訪れたショウはその場を注意深く見回す。
クエストの掲示板前で固まっているグループがいくつか目についたが、どれも真面目に次に受けるクエストを相談しているようだった。
今日もカウンターの内側で仕事をしていたリリィが居るのに気が付いたショウは、彼女に目を向ける。
彼の視線にすぐ気付いたリリィが顔を上げ、ショウたちのグループを見つけ、頷きながら視線を中二階へ続く階段へ向ける。
どうやらショウたちが探している輩はすでにここへ来ているらしい。
それに会釈で答えると、彼はセラスとルナール二人を連れて階段を上がっていく。
「何かあったら合図をくれ。すぐに加勢するからな」
「セラスちゃんとルナールちゃんも、頑張ってね」
エントランスで待つことにしたアイリとケンは上って行く三人の背中に声をかける。
振り向かずに手を振ったショウの背中を見て、二人は顔を見合わせて頷いた。
「この度はギルドの要請を受けて頂き、ありがとうございます。アイリ様、ケン様」
仕事を切り上げて近づいてきていたリリィが二人に頭を下げる。
「……気にしないでください。先輩たちの付き添いのついで、ですから」
「俺たちもスケアクロウには少なからず憤りは感じてるんだ。利害が一致した協力関係ってわけだな」
「心得ております。今回のギルドの処罰には賛同を得られていないことも」
「……まぁ、明日は我が身と考えるとな」
「しかもそれがシムの決定、だもんね。こわいこわい」
「……それでは私も上へ行って参りますので、失礼致します。お二人は――」
「あいつらを誘導してから待ち合わせ場所へ向かいますよ。ご心配なく」
愛想笑いで手をひらひらさせたアイリに、リリィは再び頭を下げた後ショウたちを追うように階段を上って行った。
「……悪いな、アイリ。俺がショウたちにレクチャーしてるのがバレてたからお前まで――」
「声が掛かったタイミング、どんびしゃだったものね。蚊帳の外になるくらいなら、片棒担いだ方が私は良いから気にしないの」
「とは言っても、これっきりで勘弁してほしいな」
「まさかギルドのクエストに要請されるなんて。私たちも強くなってるってことで今は喜んでおきましょう」
「そうだな。あとは、ショウたちの成功を祈るとしよう」
二人は顔を上げて階段の上、中二階の酒場へ視線を向けるのだった。