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Freedom Birth 戦えませんがなんとかなるみたいです  作者: なろといち
第四章 戦えませんがなんとかなるみたいです
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11.セラス、合流

「お待たせして申し訳ありません! ちょっと用事を頼まれてしまって――」


 その日、セラスがログインすると視線の先にショウとルナールの背中が見えたので、彼女は駆け足で近づきながら声をかけた。

 その二つの背中が振り返り、セラスを迎える。

 しかしその表情はなぜか硬く、あははっ、と乾いた笑い声を彼女に送った。


「……ああ、セラス。全然大丈夫だよ」


「……アネゴ、お疲れ様です。こっちは取り込み中だったんで丁度良かったっす」


「? どうしたんですか、二人とも。取り込み中って、なにを――」


「こらっ! アイリ、待て!」


「もう、ムキにならないでよ! ただの冗談じゃない!」


「いいや! マスターだからってクランの決まりは守ってもらう! 目には目を、だろうが!」


 ショウたちの隣まで来たセラスが見たのは、見知らぬ女性を怒りながら追いかけている兄、ケンの姿だった。

 銀髪の女性、アイリが可笑しそうに笑い、ケンを翻弄している。

 状況が呑み込めないセラスが、ショウへ視線を向けて――


「あの、これはいったい?」


「んー、なんていうか……痴話喧嘩では無い、というか」


「これは犬も食わないっすね」


「? ……あの兄が追いかけている人は?」


「ケンが所属しているクランのマスターで、アイリって言うんだけど……」


 そこまで説明したショウが、ちらっとセラスの顔を見る。

 はぁ、と驚いたまま納得した感じを見て、ケンの恋人ということは知らないのだろうと思ったショウは、わざわざ説明に加えなくても良いかと言葉を止める。


「どうやらあたいたちに協力してくれるみたいなんですが、気づいたらこの有り様でして」


「今はこの事態が収束するのを待っているところなんだ」


「……もう、お兄ちゃんってば」


 二人から状況を聞かされたセラスがため息を吐いて、二人の方へと歩き出す。

 アイリと向かい合い、フェイントの応酬をしていたケンの背後まで近づいて――


 ――ゴンッ!


 流れるように爽快に、彼の頭頂部を持っていた棍で叩くセラス。

 一度首を身体に沈めたケンは、目を回したように頭をフラフラさせて、その後仰向けに倒れる。

 その場に居たセラス以外のメンバーは、目を点にしてその状況を傍観するしかできなかった。

 仰向けに倒れた、白目をむいて口から泡を出しているケンを見下ろしたセラスが腰に手を当て、説教を始める。


「ちょっとお兄ちゃん! ショウさんたちが居るのにいつまでも遊んでるんじゃないの! 私が遅れたのだってお兄ちゃんの用事を私が代わりにやってきたのが原因なんだからね、聞いてるの!?」


「……」


「お兄……えっ、じゃあこの子がケンの妹? あははっ、凄いじゃない! レベル差がこれだけあるのに一撃でケンを倒しちゃうなんて!」


「えっと、あの、兄がご迷惑をお掛けしました。私、セラス・プリアといいます」


 地面のケンを無視してアイリと向き合ったセラスが、お辞儀をして挨拶する。

 ご機嫌に笑っていたアイリも手をひらひらと振って応えた。


「良いのよ、元はといえば私のせいな所もあるし。改めて、クラン『オルトリンデ』のマスターをやってるアイリ・キャステンよ。よろしくね、セラスちゃん」


「こちらこそよろしくお願いします。今回は協力してくださるということで、ありがとうございます」


「ううん、気にしないで。なんてったって義妹のピンチだもん」


「? ……はぁ、どうもです? ほら、お兄ちゃん、いつまで寝てるの? 早く起きて!」


「あー、これはね――」


 アイリはしゃがんでケンの顔を覗き込んでステータスを確認する。

 表示されたHPのゲージがほとんど残っておらず、赤いバーはあと数ミリも無かった。

 頭部に大ダメージを受けたため昏倒したケンを、哀れみの表情で合唱するアイリ。


「虫の息。ケン、良い奴だったわ」


「え? ……えぇっ!? お、お兄ちゃん!?」


「セ、セラス! 回復魔法を! 俺も回復薬を使うから!」


「はい! ――ファーストエイド!」


 その後、セラスとショウの介抱の甲斐もあってなんとか一命を取り留めたケン。

 ほんの軽い気持ちで窘めようとしたセラスであったが、棍の性能かセラスの技術か、どちらにしても彼女は自身で瀕死に追いやった兄を回復するという盛大なマッチポンプを初対面のアイリに披露したのだった。

 その事が余程面白かったのか、意識を取り戻して首を回していたケンを見て、アイリは腹を抱えて笑い転げる。

 クラン内ではタンク(壁役)を担うことが多いケンのピンチは見慣れているのだと彼女は言っていたが、それにしても瀕死の彼氏を見て笑うのか、とショウは苦笑いを浮かべた。


「ふぅ、一瞬本当に神殿が見えたぜ。レイドボス並の衝撃だったな」


「ご、ごめんね。まさか私の攻撃がお兄ちゃんに通用するとは思ってなくて……」


「……ぷふっ」


「いや、油断していたとはいえ俺も不注意だった。しかし今度からは注意したほうが良いぞ、下手したらキルしかねないからな」


「……くくっ」


「アイリ! 笑い過ぎだ!」


「あははっ! ごめんごめん! でもだって、あなた、実の妹に頭割られるって……あははっ、ひー、可笑しい」


「……クランの連中には言うなよ、笑い話のネタにされるのはごめんだ」


「言うに決まってるじゃない! こんなに面白いこと、きっと皆大爆笑よ」


「勘弁してくれ、ほんと」


 項垂れるケンに近づいて、ショウが起き上がらせようと手を差し伸べる。

 それを取り、またアイリを追いかけようとした彼の肩を掴んで、ショウは――


「まぁまぁ……ところで、昼間言ってた事の目星はついたのか?」


「ぐぬぬっ……まぁな。俺の方は付与したい効果が付けられるアイテムを見繕ってきた。これをセラスの棍に組み込めれば大丈夫なはずだ」


 ケンは怒りをなんとか抑えつつ、インベントリから大工道具の『のみ』を取り出した。

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