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Freedom Birth 戦えませんがなんとかなるみたいです  作者: なろといち
第四章 戦えませんがなんとかなるみたいです
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8.原木加工とガザン

 外壁を西に向かって進んで行くと、そちらへ延びる幅広の街道が見えてきた。

 近づきながら眺める様子だと、歩く人影よりも大小様々な大きさの馬車が多く見える。

 どうやらこちらは主に物流を担っている道らしく、その馬車がすれ違うために広く敷かれているのだろう。

 そして街へ入る城門の割とすぐ横に大きな倉庫のような建物が見えてくる。

 入り口が広く、天井が高いことが遠目からでも分かり、そこで作業している人たちが扱っているのが伐採した木であることも見て取れた。

 ショウたちは入り口ではなく建物の横に設けられた原木が重なる置き場へ辿り着き、忙しそうに動き回る作業員たちを目で追う。


「へぇ、たくさん木が積まれてるけどここで素材をもらう冒険者も多いの?」


「んー、あまり多くは無いと思うっす。自分で伐採までしたほうが元手もかかりませんし、スキルを持ったプレイヤーだったらそっちの方が手っ取り早いっすからね。それ以外はわざわざここに来るより素材屋で買い足すのが普通っす」


「今回は時間もあまり無いし、斧のテストも兼ねてるからここで十分だね。伐採に関してはまた林に行った時でも良いか」


「あたいや他の見習い連中なんかは工房や家で使う薪をここで安く譲ってもらってるっす。加工の時に出る切れ端なんかもオマケしてくれるっすよ」


 そう言うとルナールは顔なじみの作業員を見つけ、頭目の場所を訊いた。

 居ると思われる方向を指差されると、体格の良い彼に礼を言って歩き出すルナールとショウ。


「あっ、親方! こんちわ!」


「――ん? おぉ、よく来るひよっこじゃねえか」


「だからその言い方はやめてって。あたいのどこに羽が生えてるってのさ!」


「がははっ、そういうところがひよっこって言ってるんだ」


 短く乱雑に切られた髪に、立派にこしらえた髭。

 袖の無いチョッキから見える上半身は筋骨隆々としていて、腕の太さひとつ取ってもショウの倍以上ある。

 そんな厳つい、いかにも木こりの頭目といった壮年の男性に、ルナールが近づいて行く。

 大口を開けて笑う顔に皺が寄ると、この人物がそんなに怖い性格ではない事を感じたショウは胸を撫で下ろしてルナールの後を追う。


「おっ、そっちの兄ちゃんは初めて見るな。どこの村から来たんだ?」


「初めまして。最近冒険者になったばかりのショウと言います」


「冒険者? にしてはひょろひょろな身体してるじゃねぇか。その恰好も羊飼いかと思ったぜ」


 ショウを見て再びがははっ、と笑う親方。

 苦笑いを浮かべて鼻の頭を掻いていたショウに代わり、ルナールが間に入って話を進める。


「親方、今日はこのあたいのアニキが素材集めの練習をしたいってことで来たんだ」


「アニキ? ひよっこ、お前この兄ちゃんの舎弟なのか? ……もっと人を選んだほうが良いんじゃないか?」


 後半は一応小声で耳打つ仕草をしていたが、地声のでかさで筒抜けだった。


「そんなことない! アニキはプレイヤーの中でも凄い人なんだぞ!」


「……とてもそうは見えないが? 冒険者っつっても装備してるのは盾ぐらいじゃねえか。恰好からしても職人って訳じゃなさそうだしよ」


「あ、あははっ、自分でもそう思います」


「ほら見ろ、本人も自覚してるじゃねえか」


「ちょっとアニキは静かにしていてくださいっす!」


「……はい」


 一回ルナールに胸を叩かれたショウは、大人しくその場から一歩退いた。

 それを見ずに親方と向かい合ったルナールは腰に手を当てて胸を張る。


「確かにアニキは見た目こそ普通のそこいらに居るようなシムと大きな違いは無いけど――」


 うんうん、と相槌を打つ親方とショウ。


「困っていたあたいを助けてくれた恩人なんだ。それに、ジョブは生産系だから弱く見えても仕方ないの!」


 フォローというには些か微妙な言葉だったが、ジョブに関しては納得がいったのだろう。

 ルナールの言葉をがははっ、と笑って締めくくった親方がショウに近づく。


「そうか、まぁこいつがそう思うんならそうなんだろうさ。前につるんでた連中よりはよっぽど誠実そうではあるからな」


 親方はそう言うと右手を差し出し、握手を求めた。


「ここの頭目を任されてる『ガザン』だ。親方でも名前でも、好きに呼んでくれ」


「分かりました。よろしくお願いします、ガザンさん」


「おう、よろしくな兄ちゃん!」


 差し出された手を握り、握手をした腕をブンブン上下させられたショウは、苦笑いを浮かべながらそうそうに切り上げた。

 体格差もあり、力加減もしてくれなかったガザンの握手で外れそうになった肩を、軽く回して労わるショウ。

 それを見てやっぱり頼りねぇな! と、今度は背中を叩かれた。


「もっと飯を食って鍛えないと駄目だぞ! がははっ!」


「あ、あははっ、そうですかね」


「……親方、そろそろ本題に入りたいんだけど」


「あ? おぉ、そうか。用事があるんだったな……で、なんだって?」


「聞いてなかったのかよ! ったく、もう。素材採取の練習をしたいから原木を譲って欲しいって――」


「おーっ! そうだったそうだった、原木な! こっちだ、ついて来な!」


 自分の膝を叩いたガザンが、豪快に笑いながら二人を木材置き場の方へ腕を振って促す。

 加工設備のある建物から少し離れるように設けられたそこには、伐採され枝を落とされた幹の部分が積み重ねられて置かれていた。

 その中の一本へ近づいて、ガザンが振り向く。


「こいつでどうだ? 質も量も問題無いと思うぜ」


「お、大きいですね。林の木と比べても太いし」


「生産なんかにはこっちの種類の木が使われるな。丈夫だしよ。その分加工に手間が掛かるから店に並ぶと値が張る代物さ」


「なるほど……素材としては全然大丈夫そうですね」


「それで、親方。これいくら?」


「そうだな――これでどうだ?」


 ガザンが手の平を開いてショウとルナールに見せる。

 それを見たルナールは渋い顔をして首を横に振った。


「そんなんじゃ店で買ったのとどっこいどっこいじゃないか。こんくらいでしょ?」


 そう言って彼女は指を三本立ててガザンに突き出す。

 ここでもショウは相場というものには疎かったため、ルナールの邪魔をしないように静かに見守っていた。


「おいおい、ここに来るまでの手間賃もあるんだぜ? それじゃ工賃にもならねぇ」


「練習用って言っただろ? 今回が初めてでそんな値段じゃ元なんか取れないよ」


「スキルを持ってたらもしかしたら取れるかもしれねぇぞ?」


「だから言ってるのさ。未加工でも良いからもっと安いのにしておくれよ」


「とは言っても、この種類の木は優先的に手を付けちまうからな。すぐに渡せる奴はこれしか無い」


「んなことあるわけ――」


「そんじゃ、これでどうだ?」


 悪戯っぽく笑いながらガザンの差し出された指が四本になった。

 これ以上は交渉も無意味だと感じたルナールは一度ため息を吐いて首を振った後、隣にいたショウへ顔を向ける。


「アニキ、今はこれが精一杯です。少しは元が取れる感じですが、どうします?」


「んー、所持金に関しては問題ないと思うから、試しにやってみようと思う。ありがとうね、ルナール」


「い、いえそんな……えへへっ」


 労いを込めてショウがルナールの頭を撫でると、それに連動するように尻尾が振られる。

 照れ笑いを浮かべている彼女を見て、ガザンが大口を開けて笑い出した。


「がははっ、随分と懐いてるみたいだな、えぇ? お互いに気遣える関係なのは良いことだ、結構結構」


「あ、あははっ、すいません、お忙しいのに……えっと、じゃあ支払いは――」


「ほい、これ」


 ガザンは腰に付けていた小袋から手のひら大ほどの石板を取り出し、ショウに差し出した。

 ショウがそれに手をかざすと、通知音が鳴って精算が完了したことを伝える。


「毎度あり! んじゃさっそく素材に加工していくか」


 ガザンがショウの首に腕を回し、原木へ連れ立つ。

 どうやら親方自らがレクチャーしてくれるらしく、ショウは苦笑いを浮かべてその厚意に甘えることにした。


「木の伐採や加工には斧なんかのツールが必要だが、兄ちゃんは持っているんだよな?」


「ええ、持ってます」


「んじゃ話は早い。プレイヤーの場合だとそのツールで対応したモノを叩けば素材が手に入る。叩かなくちゃならん回数や取得量なんかはスキルの有無で変わってくるが、やり方は一緒だ」


「叩くだけ……大体どれくらいの素材が取れるんですか?」


「これくらいの原木だと、そうだな……初心者だったら30~40くらいだな。回数は十数回ってところだろう」


「なるほど、やってみます」


 ショウはそう言うと腰からハチェットを抜き、刃を木に当てて一度握り直す。

 それを大きく振りかぶり、幹の丁度真ん中あたりに勢いよく打ち付けた。

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