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Freedom Birth 戦えませんがなんとかなるみたいです  作者: なろといち
第三章 戦えませんが子分ができる
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14.再びギルドへ

 しばらくぶりに歩く街の中は、やはりショウにとって目を引くものばかりだった。

 街行く人々、味を感じる建造物。道の石畳でさえ、時間さえあればじっくり観察したいと思うほどだ。

 できることなら、建設途中の家屋や工事中の道を見てみたいという願望が強い。

 街を発展させるSLGにおいてショウが一番好きな瞬間は、ニョキニョキと建物が出来上がるのを眺めている時である。

 もしかしたらそういう場面に立ち会えるかもしれないと思わせてくれるこの中世風な街を、やはりショウは気に入っていた。


「ルナールはこの街のどの辺りに住んでいるんだい?」


「あたいの家は街の東側の端にあるっす。同じような新米や見習いなんかがまとまって生活している区画があるっすよ」


「へぇ、そっちの方にも行ってみたいね」


「ア、アニキが興味持つもんなんて無いですよ。ぼろい家が並んでいるだけっす」


「それは逆に興味がそそられるね」


「うぅ、できれば家の掃除が終わってからにしてくださいっす」


 肩を落としたルナールを見て、ショウとセラスが笑い合う。

 どうやら、そうとう他人には見せられない部屋らしい。

 訪問はまだしばらく先になるだろう、と心の中で思ったショウが冒険者ギルドの前で一度立ち止まった。


「俺はその『アッシュ』って冒険者の顔を知らない。もし中に居たら教えてくれ」


「分かりました」


「遠目でも視界に入ったら一発でわかるっすよ。見てるだけではらわたが煮え繰り返るような奴っす」


「確かに。ルナールの言う通りね」


「……ふたりとも、もし何かあっても冷静にね」


 一応セラスとルナールに釘を刺したショウは、開放されていた両開きのドアを潜って行く。

 エントランス、掲示板の前、カウンター前は閑散としており、そこだけでは静寂が包まれた空間だっただろう。

 しかし、中二階の酒場からは相も変わらず大きな喋り声と笑い声が響き渡り、一気にたまり場へ踏み込んだと感じてしまう。

 カウンターへ向かうショウに、後ろの二人は何も言わない。

 一階にはアッシュが居ないということを察した彼は、カウンター越しに座っていた見覚えのある受付嬢へと近づいて行く。


「リリィさん、ご無沙汰しています」


「……っ!?」


「……あの?」


「……あ、あぁ! ショウ様!」


 唖然としながら席を立ったリリィが、ショウとの再会を神に感謝するように自分の手を握り、声を上げる。


「あ、あの、私てっきりもうこちらにはお越しくださらないかと……いえ、あの」


「ちょっとリリィ、テンパり過ぎ。落ち着きなさいって」


 涙目で取り乱していたリリィを、隣に居た同僚が宥める。

 それを受け、一つゆっくりと深呼吸をするリリィ。


「……申し訳ありませんでした。お見苦しいところをお見せしてしまって」


「いえいえ。もう大丈夫ですか?」


「はい、大丈夫です……えぇっと、ショウさんがこちらにいらっしゃったという事は、クエストの報告では……?」


「あー、はい。まずはそちらをお願いしたいです」


 『まずは』という言葉に反応したリリィ。

 その場では言及せず、頷いて答える。


「畏まりました。では、パーティーリーダーの方の冒険者証をこちらにお願いします」


「は、はい」


 カウンターの上の小さな石板を促されたセラスが、一歩前へ出る。

 報告の一連の作業の後、ピロンッと通知音が鳴り、終了を告げた。


「はい、結構です。討伐依頼、お疲れさまでした」


「……あの、リリィさん」


「はい?」


「受注の時はあんなこと言って、すいませんでした」


 お辞儀をして謝罪するセラスを見て最初こそ驚きの表情を浮かべたリリィだったが、すぐに微笑みへ変わった。


「いいえ、大丈夫です。セラス様がショウ様を大切に思っているからこそだと私も分かっています」


「リリィさん……」


「セラス様も、今のショウ様と同じでお互いを助けたいという気持ちが十分に伝わりますから。お気になさらないでください」


「……ショウさんも?」


 頷きながら笑みを絶やさないリリィを見て、セラスはキョトンッと隣に居たショウへ目を向ける。

 同じく頷いたショウが、今度はまだ自分の後ろで待機していたルナールを前へ促す。


「リリィさん。この子のクエスト報告もお願いしたいんですけど」


「そちらの……ル、ルナールちゃん!?」


「あ、あははっ……どうも」


 ショウに背中を押されて前へ出たルナールを見て、リリィは驚く。

 その言葉に反応して勢い良く席を立ったのは、隣で仕事を再開していた同僚の受付嬢だった。


「ルナール!? あ、あなた無事だったの? 怪我は? どこか怪我してない?」


「だ、大丈夫だよ。見ての通り、ピンピンしてるって」


「はぁ、大丈夫なわけ無いでしょ? あんなことがあって、クエストを受けたまま姿が見えないから無茶して討伐へ行ったのかと心配してたんだから」


「うっ……それは、悪かったよ」


 まさか荷馬車に紛れて街から逃げようとしていたとは言えず、ルナールは決まりが悪そうに頭を掻いた。

 その隣でまだ驚いた顔をしているリリィが、ショウへ訊く。


「ルナールちゃんのクエスト報告ということは、まさかショウ様たちが?」


「俺たちがこの子のクエストの手伝いをしました。同じクエストだったし、色々教えてもらって、こっちが助けられた割合が多いくらいでしたけど」


「そうでしたか。あぁ、良かった」


「……ショウ様」


 会話を聞いていた同僚の受付嬢が、ショウへ向き直る。


「ギルドの受付、『アンリ』と申します。ルナールは私が最初から担当していた冒険者でした。事情を知っておられるかは別として、この子を手助けできなかったのは私の責任だと思っています」


「……」


「ですから、今回ルナールを助けてくださったショウ様には感謝しております。ありがとうございました」


「い、いえいえそんな。言いましたけど、ルナールが居たから俺たちも助かったので。感謝されるほどのことは……」


 頭を下げられたショウは泡を食ってしまい、思わず彼もお辞儀をしてしまった。

 しばらくその応酬が続き、その間にルナールがクエストの報告を終える。


「はい、これで良いですよ。アンリ、いつまでやってるの? ショウ様が困ってますよ」


「え? あっ、わ、私はそんな……困らせるなんて。ただ――」


「はいはい。詳しいことは後でルナールちゃん本人から聞いて頂戴ね」


「……わかったわ」


 最後にもう一度ショウに頭を下げたアンリは、気まずそうに席へ着いた。


「では、ショウ様。これでクエストはすべて完了いたしました、が――」


 そこまで話したリリィが声のトーンを幾段か落として――


「ここでははばかられることでしょうか?」


「……」


 リリィの言葉を受けて、ショウは改めて周囲へ目をやる。

 少ないとはいえ、掲示板や出入り口付近に設けられたソファなどには他の冒険者がたむろしていた。

 このままここで長話に耽れば必然と目立つし、注目されるのは本意じゃない。

 そう考えたショウは無言で、一度頷いた。

 理解したと言わんばかりに、リリィも頷く。

 一度、隣のアンリに視線を送り、それに気付いた彼女は目だけで了承を伝えた。

 再びショウと向き合ったリリィは――


「では、奥の応接室までご案内いたします。こちらへ」


 カウンターから出て、脇に設けられた扉へショウたちを促した。

 三人は彼女に先導されて、冒険者ギルドの奥へ入っていくのだった。

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