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Freedom Birth 戦えませんがなんとかなるみたいです  作者: なろといち
第三章 戦えませんが子分ができる
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7.事の経緯

「あたい……じゃない。俺は最近エーアシュタットで冒険者に登録したばかりなんだ」


 セラスとルナールを落ち着かせると、ショウを加えた三人は林の終わりに生えている木に背中を預けて座っていた。

 しばらくして、ストレージボックスから取り出したお茶を飲み終えるとルナールが喋り始める。


「元々住んでいた場所は窮屈で、自由な生活に憧れて飛び出して来たんだ。街に行って冒険者になって、一人前になってやるって思ってた。ひとりでこなせる依頼なんかをやって装備も揃えた。店やギルドに顔を覚えてもらえるようになった。そんなとき……」


 膝を抱えて座っていたルナールはそこで一度言葉を区切ると、おでこをその膝小僧へくっつけた。

 それを見ていたショウとセラスは、お互いに顔を見合わせて首をかしげる。

 少ししてからおでこを離したルナールが、先ほどより声のトーンを下げて続きを話し出した。


「プレイヤーのクラン、『スケアクロウ』っつうふざけた名前の奴らが俺を勧誘してきたんだ。プレイヤーがシムを目に掛けるなんて珍しいから最初は警戒してたんだ」


「それまではずっとひとりで?」


 ショウの言葉に、ルナールは小さく頷いた。


「俺、こういう性格だからパーティー組んでもすぐ喧嘩しちまうし……でもクランに入ってしばらくはそれなりに上手くやってたんだ」


「じゃあどうして逃げるみたいに街から出たんだ?」


「……クランの連中とパーティーを組んでクエストを受けたんだ。人数が居れば簡単な討伐だったさ。その場所に着いてすぐ、他の奴らがいきなり転移で帰りやがった。俺ひとりじゃ依頼は難しかったから追いかけるように街に戻ったんだ」


「……それで?」


「街に戻ったらパーティーどころかクランから強制退団させられた通知が来て、慌てて連中のところへ行った」


「強制? そんなことできるのか?」


「えっと、確かクランマスターっていうリーダーの人なら、違反者やシムに対してできるってガイドに載ってました」


「連中は『お前が居るとゲームのモチベが下がる』って理由つけて俺を突っぱねた。クエストは俺がリーダーだったから、そのまま続いてたんだけど……家に帰ってアイテムを揃えてから、新しい仲間を見つけるつもりだったんだ」


 そう言うと、再びルナールのおでこは膝にくっつく。

 今度はそのままの態勢で――


「でも、家に置いてあったアイテムが全部……無くなってたんだ。パーティー権限だかでクランの奴らが盗って行きやがった。だからあいつら転移を使ってまで俺を離したんだって思った時には、もう終わってた」


「……」


「俺に残ったのは達成不可能な受注済みのクエストだけ。違約金も払えなくなっちまったから、ギルドや元クランの連中に見つからないようにあの荷馬車に忍び込んだんだ……」


「……冒険者ギルドに相談はしなかったのか? 事情を話せば力になってくれたかもしれないのに」


 おでこをグリグリ擦るように首を横に振ったルナールは、諦めの深いため息を吐いた。


「あそこで優遇されるのはプレイヤーだけだ。シムの俺が何を言ったって『自己責任だ』って追い返されちまう。俺がバカだったんだよ、シムがプレイヤーのクランに入るなんて……」


「……」


「……それで、あなたはこれからどうするの?」


 哀れみの目でルナールを見ていたショウの横から、セラスが口を開く。


「どうする、って……国に帰る。冒険者の資格は剥奪されるけど、違約金と罰金はその後ちゃんと払うつもり――」


 ――ゴンッ!


 気づいた時には、セラスのげんこつがルナールの頭頂部で良い音を立てていた。

 あまりの速さだったため、ショウは隣にいたにも関わらずセラスを止めることが出来なかった。さすがモンクである。


「――っ!! ってぇ!! な、なにしやがるんだ!?」


「プレイヤーだとかシムだとか、そんなの関係ない。あなたはただの腰抜けよ。頑張ってたのに騙されて、悔しくないの?」


「悔しいさ……悔しいに決まってる! でも、俺ひとりじゃどうしようもないんだよ」


「……そ、分かったわ。じゃあ好きにしなさい。私たちもクエストを受けているからもう行くわよ」


「早く行けよ。清々するぜ……ったく、なんで殴られたんだよ」


「じゃあ、ショウさん『フォレストウルフ』の討伐に向かいましょう」


「あっ、ちょっとセラス、待ってって」


「――っ!?」


 肩を竦めたセラスがルナールからショウへ向き直って歩き出す。

 それを追いかけようとショウが一歩踏み出した時――


「ま、待ってくれ! あんた達、フォレストウルフの討伐依頼を受けてるのか?」


 二人は立ち止まり、ルナールへと振り返る。


「あ、ああ。俺たちが受けたのはフォレストウルフ15匹の討伐だ」


「……」


「なにか言いたいことがあるのかしら?」


「――っ!」


 ルナールは姿勢を正し、正座の状態から土下座をすると――


「頼む! 俺も連れてってくれ!」


「……あ、もしかして君が受けていたクエストって、俺たちと同じやつか?」


「ああ、そうだ。頼む……お願いします!」


「……どうしますか? ショウさん」


 そう言ってショウと目を合わせたセラスは、なぜか小さく微笑んでいた。

 敵わないな、と苦笑いを浮かべたショウは、ルナールに近づくと肩に手を置く。


「分かった、じゃあ一緒に頑張ろう。ほら、立って」


「ほ、本当かっ!? ……あ、ありがとう」


「でも、いくつか条件があるわ」


 ショウがルナールを立たせると、二人に近づいてきたセラスが人差し指を立てた。


「まずは、クエストの共有はできないから、私たちとあなた、二つ分の討伐をしなくちゃいけないこと」


「ああ、分かってる」


 クエストはパーティーリーダー単位で受けるため、それぞれのパーティーのクエストを受注後にまとめることが出来ない。

 特別な事例を除き、リーダーが最後まで責任を持つこととなっている。

 それは知っている、とルナールが頷く。


「もうひとつは……その乱暴な言葉遣いをやめなさい」


「はっ!? な、なんでお前にそんなこと言われなくちゃならないんだ!」


「あなた、女の子なんだからもっとお淑やかにした方が良いと思うの」


「……え? 女の子?」


「だっ! お、俺は……お、男だ!」


「そんな背伸びしてもバレバレ。同じ女子からすれば丸分かりよ」


「ぐっ、ぐぬぬっ」


「な、なんでそんな嘘を?」


「……子供で、しかも女って知られたら周りからナメられると思って」


「それでわざわざ一人称まで変える必要は無いと思うけど」


「……うぅ」


 バレていたということで恥じらいが生まれたのか、ルナールは頬を赤らめて身体を小さくした。

 言われるまで気付かなかったショウがそんな彼女をフォローする。


「そ、そうだな。俺たちの間だけでも自分の口調に戻しても良いんじゃないかな」


「……そうか?」


「ああ。とりあえずは協力する者同士ってことで。お互いに遠慮は無しにしよう」


「……ふぅ、分かったよ。じゃあ『あたい』もいつも通りにする。その、よろしく頼む」


「それがいつも通りなの? お淑やかな言葉遣い、教えましょうか?」


「や、やめて! 実家の婆様を思い出しちゃう!」


「ならせめて身だしなみくらいは――」


 げんこつをくれる女の子がお淑やかかどうか疑問に思う所だが、ショウは苦笑いを浮かべてそれには触れないでおくことにした。

 まるで妹に色々世話を焼く姉のように、セラスがルナールの髪を手櫛で整え始める。

 くすぐったそうにしながら、反抗するとまた拳が飛んでくるかもと思ったルナールは、身体を動かさないように肩へ力を入れるのだった。

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