4.街道にて
所変わって街の外、街道沿いの草原にいたショウに、一通のメッセージが届いた。
『クエストの受注とお買い物、終わりました。すぐそちらに戻ります』
セラスから送られてきたその文にショウは笑みを浮かべながら、ゆっくりで良いから気を付けて、と返信をして門の方を眺める。
街道から少し外れた所でパールが食事をしていたので、手綱を引いて道の脇へ歩いて行く。
しばらくすると、街の方から一つの小柄な人影が歩いてくるのが分かった。
まだ少し遠い人影はショウの存在に気付き、大きく手を振り始める。
ショウがそれに手を振り返すと、セラスはこちらに速足で駆けてきた。
声を張ればお互いに会話ができそうな程まで近づいた時――
「!! セラス、危ない! 後ろ!」
彼女の後方、街の方から荷馬車が猛スピードで走ってくるのが見えて、ショウは声を上げた。
その声に後ろを振り向いたセラスの横スレスレを、荒ぶった操車で通り過ぎる馬車。
それに驚き、セラスは身体を引いて、尻もちをついてしまった。
「セラス! ――うわっ!」
ショウがセラスの元へ駆け出そうとすると、一向にスピードを落とさない荷馬車に邪魔をされる。
御者が邪魔者を見る目を向けてきたので、ショウはそれをにらみ返し、脇へ避けた。
そのまま街道を行く馬車を横目に、再びショウはセラスへ近づいていく。
「いつつっ……」
「セラス! 大丈夫!? 怪我してないか?」
「あっ、はい、大丈夫です。ちょっとびっくりしちゃって。あははっ」
「そうか、良かった。立てる?」
「すいません。ありがとうございます」
ショウが差し伸べた手を申し訳なさそうに取り、セラスは立ち上がる。
自分の下半身をパッパッと払い、土草を落とす。
そうした後、ショウと向かい直したセラスが――
「それじゃあさっそく買って来た素材をお渡ししますね。あとパーティー申請も」
「あ、ああ。ありがとう、頼むよ。すごいやる気だけど、街でなにかあった?」
「……いえいえ、特に何も、はい。えっと、申請どうぞ」
「う、うん……へぇ、フォレストウルフか。初めて聞く名前のモンスターだね」
「いつもの林を道に沿ってもっと進んだ先が生息域みたいです」
「なるほど。じゃあさっそく行ってみようか」
「あっ、素材も今渡しておきます。ショウさんのストレージボックスへ入れておいてください」
「ありがとう。どれくらいした? 払うよ」
インベントリから取り出された素材を受け取り、ショウはセラスに訊いた。
しかしセラスは目を泳がせて――
「あー……いえ、大丈夫です」
「えっ、そういうわけにはいかないって。ちゃんと言ってくれ、払うから」
「そ、そうですね……あっ!」
何かを閃いたように、セラスは胸の前で手を叩く。
そして、足元に置いたままだった棍を拾い上げて――
「この棍のお礼として、今回は私がお譲りします」
「いや、でもそれはあげた物だし。お礼なんて――」
「前からなにかお返しがしたいと思ってたんです。遠慮しないで受け取ってください」
「んー……」
どうやら譲る気配を見せないセラスに、ショウは鼻の頭を掻いて折れるしかなかった。
その意図を察したセラスは嬉しそうに頷き、街道を林に向かって歩き出す。
今度ちゃんとしたモノを作ってあげれば良いかな、と心で思いながらショウも彼女を追いかけるのだった。
――
二人で何気ない会話をしつつ歩いていると、通い慣れたと言っても良い程の街道は全然苦にはならなかった。
もっとも、ショウがセラスに街でなにか変わったことが無かったかと訊いても言いたくないようにはぐらかされる。
仕方ない、とショウも今は現実世界での雑談に花を咲かせていた。
「全然問題ありませんでした、何も心配するようなことは無いです」
なんて必死に言われると、逆に何かあったのでは? と勘ぐってしまう。
ショウに心配を掛けないようにとったセラスの言動は、見事にその反対の結果を残すこととなった。
ちなみに、今回はいつもより少しばかり遠い場所へ行くのでパールはあらかじめストレージボックスで留守番をしている。
「――それでその時、お兄ちゃんがひと口だけ食べたアイスを落としちゃって。しょうがないから私のを分けてあげたんです」
「ははっ、あいつは子供の頃からそそっかしかったんだな」
「今だってそうなんですよ。この前なんか――」
雑談の中心は主にお互いが知る人物、ケンについてだ。
生まれてからの付き合いであるセラスは、実兄の体たらくを如何に自分がフォローしてきたかを高らかに喋っていた。
いつものモンスター討伐を行う為に道を逸れる箇所をそのまま過ぎ、ショウたちはさらに街道を歩いて行く。
その時、二人は前方の道に荷馬車が停止しているのに気が付いた。
徐々に近づいていくと、それは先ほどの猛スピードを出していた暴走馬車だとショウは見て取る。
横を通り過ぎる時、御者席を見てみるとそこにあのいけ好かない男の姿は無かった。
「このガキ! ふざけやがって!」