7.レベル上げ
昨日のクエストでお世話になった林の入り口付近で一度立ち止まり――
「それじゃ、危なくなったらフォローするから、それまでは二人で連携の練習だな」
ケンが腕を組んでショウとセラスに言う。
「連携、か……とりあえず、昨日みたいにやってみるか」
「はい! 攻撃は任せてください!」
ブンッブンッと棍を振り回してやる気をアピールするセラス。
「戦闘に関してはショウの方は問題外として、セラスはいかにダメージを受けずに攻撃を当てるかというのが重要だ。セラス以外に攻撃の手段が無いからな」
「なるほど、確かに。問題外なのは昨日でよく分かったし……セラス、頼んだ」
「はい。ショウさんも危なくなったら下がってください。私が回復魔法をかけるんで」
セラスの言葉にショウが頷き、先ほど作成した盾を右手に構える。
ショウが先頭となり、その後ろをセラスが付いて行き、ケンはさらにその後ろで控えていた。
ちなみにパールの手綱はケンが持ち、引率してもらっている。
「!!……セラス、スライムだ。二匹」
「はい、見えました。あちらも気付いたようですね」
「この盾の試し受けの相手になってもらおう」
ショウに標的を絞ったスライムが二匹、それぞれが彼に近づいてきて飛び上がり、突進を繰り出す。
しかし、昨日今日とショウも何も考えずに黙って攻撃を受けていたわけでは無い。
まだ見切るという段階では無いが、それでも攻撃のパターンはなんとなく理解していた。
『ピュー!』
「なんの!」
先に飛んできたスライムをショウは盾でガードする。
相手が柔らかいので、派手な音はしない。
ボヨヨンッと擬音が聞こえそうな程、相手は少し前方へ吹き飛んだ。
『ピュ!?』
それを見たもう一匹は怯んだように、移動を止めた。
「セラス、俺の後ろから突け!」
「は、はい! えいっ!」
距離を詰めて盾を構えたショウの脇から、セラスが棍でスライムを攻撃する。
突きを喰らったスライムは、出番無しと言いたげな断末魔を上げ、光の粒になった。
それを確認して、ショウは先ほどの吹き飛ばしたスライムへ向き直る。
しかし――
『ピ、ピュ……』
「? ……なんだ、動かないぞ?」
「本当ですね。どうしたんでしょう」
跳ね返ってから少しも動かず、スライムはその場でプルプルと震えていた。
それを見たセラスはゆっくり近づいていき、棍が届く距離になるとそのまま振り下ろす。
えいっ! と当たったスライムが光の粒になり、討伐される。
手応えを感じない戦闘に拍子抜けしたのか、セラスは少し意外そうにショウへ振り向く。
「昨日より楽に倒せましたけど……」
「最後はなんで動かなかったんだ? ケン、分かるか?」
二人が後方に居るケンへ顔を向けると――
「……まじかよ」
今の戦闘を見ていただろう彼は、口を半開きにして細かく震えていた。
そんな彼を見たショウたちは、お互いに顔を見合わせて首を傾げる。
「そうか、なるほどな。そりゃ元々ショウが持っていた奴だもんな。その棍もお前が作ったんだろ?」
「昨日な。それがどうしたんだ?」
「棍に関してはまぁ、まだ良い。全然上が見えないが、ここら辺では恐らくどのモンスターも一撃だろう」
「ほ、ほんと!? 確かに昨日からそうだったけど、やっぱり……これを使うと自分の力以上の実力が出せている感じがします」
「だが、今驚くのはそこじゃない」
「というと……なんだっていうんだ?」
「その盾だよ」
ケンはショウの右腕に装備されている円形の盾を指差した。
「基本として、盾にはダメージを軽減する『カット率』というものがある。品質が高ければそれも増えて、100%になるとダメージを受けない」
「確かに、ダメージはまったく受けてないな」
「このカット率はモンスターのレベルによってもそれぞれ変わってくるんだが、150%を超えると『反射』の効果がある」
「反射? ……跳ね返すってことか?」
「そうだ。ただし、ダメージとして返るわけじゃない。怯みだったり、硬直だったりのデバフで現れるんだ」
「それじゃ、ショウさんがさっき跳ね返したスライムも?」
「ああ。反射でも最高の『スタン』……気絶してたんだな。本来だったら200%超えてないとできない芸当だが」
「なかなかのぶっ壊れな性能ってことか」
「今の段階でこれだからな。もしお前が成長してまともなモノを作ったらと考えると……末恐ろしいぜ」
自分の盾をまじまじと眺めているショウに、ケンが肩を竦めて言った。
そして、気を取り直したかのように――
「でもまぁ、今はレベル上げに集中だ。それに利用できるもんなら大歓迎だぜ」
「分かった。今の調子でやれば良いんだな。セラス、頑張ろう!」
「はい! どんどんいきましょう!」
「俺が受けているクエストは『モンスター20匹』の討伐だ。とりあえずはレベル12を目標にしてやっていくぞ」
ショウとセラスが各々で返事をすると、再びモンスターを探して林の中を歩いて行く。
この後しばらくして、クエストの条件を満たした。
ケンは報告の為、『転移のアイテム』でエーアシュタットとは違う街へ戻る。
報告を完了した通知がくると、ショウはレベルが上がって6に、セラスは8になった。
再び転移してきたケンといくつか雑談をして、今日はこれでお開きにする話運びとなる。
三人とパールは街へ帰る途中でこれからの事を確認しながら歩いていた。
「いいか、ショウ。俺が居ない間はセラスとなるべく一緒に居ろよ」
「ああ、分かったよ。妹のことが大事なんだよな」
「んもう、お兄ちゃんは心配性が過ぎると思う」
「それもあるが、お前の為でもある。二人の方が色々と問題に対処できるだろうからな。勧誘には乗るな、ギルドには近づくな」
「あとは……調子に乗るな、か?」
「まー、自惚れは自滅するからな。だがその心配はあまりないな、むしろ足りないくらいだ」
「自覚しろってことか……気を付けるよ」
「セラス、こんな奴だから監視の意味で見守ってやってくれ」
「うん、分かった。まかせて!」
嬉しそうに頷くセラスを見て、ショウはまいったな、と鼻の頭を掻いて苦笑いを浮かべた。
ケンたちと合流した地点、城門から少し離れた所まで帰って来たショウは二人に挨拶をしてログアウトするのだった。
――
フリーダムバースを終えた匠太はゲームデバイスを頭から外して、ベッドから起き上がる。
軽く首を回した後、トイレへ行くために立ち上がり、その途中で時計が視界の片隅に入って来た。
夜の11時を過ぎている。
熱中し過ぎると時間の感覚が狂ってしまう……いかんいかん、と頭を掻いて反省をする匠太。
いくら誰かと一緒にプレイするゲームが楽しいからと言っても、節度は守りたいものだ。
「だけど……まぁ、あいつとセラスも楽しそうだったし、良いか」
トイレを済ませて、就寝の準備も終え、明日の大学の予定を確認した匠太はよっこいせっと、ベッドに再び横になった。
明日はどんな冒険が待っているのか。
やはり匠太は、年甲斐もなく浮かれていた。
――第二章・完




