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Freedom Birth 戦えませんがなんとかなるみたいです  作者: なろといち
第二章 戦えませんがパーティー結成
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5.パール

「くぉらっ! 仔牛が怖がってるだろうが!」


「いたっ!」


「きゃふっ!」


 いつのまにか戻って来たケンの手刀が二人の頭へヒットした。


「まったく、物騒なことばかり言いやがって。誰かの所有物だったらどうすんだよ」


「はっ! 俺はいったいなにを……」


「わ、私も完全に我を見失っていました」


 正気に戻った二人は慌てて、零れそうになっていた涎を拭う。


「ほれ、早く逃がしてやれって。今頃持ち主も困ってるかも――」


「あっ、いや。こいつは俺のペットなんだよ」


「……は? ペット? 始めたばかりのお前がなんでペットなんか持ってるんだ?」


「お前からの招待キャンペーンで当たったんだよ。それで名前を考えていたんだ」


「その割には随分物騒な雰囲気だったが……まぁ、いいか。それにしてもペットなんてレアが当たるなんて運が良いってレベルじゃないな」


「こいつってそんなに珍しいのか?」


「ペット自体は中盤手に入る機会があるんだが、ドロップ率が低いんだ。その中から自分の好きな種類を引くとなると相当頑張ることになる」


「じゃあお兄ちゃんも持ってるの?」


「ああ、サイを持ってるぞ。ストレージボックスの容量が足りないからハウスに置いてきてるけど」


「容量が足りない? そんなに食うのか」


「俺の場合は戦闘のジョブで固めてるから容量自体が少ないんだ。生産系のジョブだったら多いって聞いたけどな」


「なるほどね。ケンは何のジョブなんだ?」


「俺はパラディンとガーディアンの二つだな。ちなみに、初対面の奴にジョブを訊くのはあまり良い顔されないから注意な」


「え、そうなの? どうして?」


「このゲームにはPVP、つまり対人戦がある。決闘ってイベントの時に相手のジョブを知っていると有利になることがあるんだよ」


「対人戦……私は絶対無理ね」


「そういうこともあって親しい間柄、パーティーやクラン内で共有するのが一般的だ」


「そのクランって何?」


「学校で言うところの部活とかサークルみたいなやつだ。規模はまちまちだが、仲間内で集まるチームのことを指す」

 

「へぇ、色々あるんだ。難しそうね」


 そんな会話をセラスとしているケンの装備を、ショウは観察していた。

 鉄のフルプレートメイル、背中にやや幅広のクレイモアを携えているところを見ると、恐らく重戦士に分類されるのだろう。

 昨日広場で見かけた他の冒険者たちと比べても、ケンの方が数段ランクが高いと見ただけで分かった。


「普段はもっと良い装備なんだが、そんな奴が始まりの街周辺に居ると目立つからな。いつもなら大盾をもってるんだが、今日はこいつだけだ」


 そう言って、ケンは背中のクレイモアを親指で指差した。


「シールドクレイモアと言って、防御系のスキルが使える剣だ。その分攻撃力はそれなりだけどな」


「そんな武器もあるんだ。俺もそういうのを作った方が良かったかも」


「なんだったら俺のおさがりの盾を譲ってやるけど?」


「いや、今そこで作ったからとりあえずは要らないよ」


「は? 作った? ……そのスモールシールドか?」


「ああ。見るか?」


 おう、と言ってショウが腕から外した盾を受け取るケン。

 普段は盾を持っていると自分で言っていたので、多分それなりに詳しいだろう。


(性能の良し悪しはいまいち分からないから評価してもらおう)


 そう思っていたショウだったが――。


「~~~~~っ!!?」


 その盾を手にした瞬間、ケンは目を見開いて、開けた口を閉じることなく、その場に立ち尽くした。


「おい、どうした? 大丈夫か?」


「……反応がありませんね、気絶してるようです」


 ケンの顔の前で手をパタパタさせていたセラスが、ショウを見る。


「……そんなにダメだったかな」


「えっ、そんなことは無いと思いますけど。でも、まだ初めて二日目なんですし、気にしないほうが」


「そ、そうだよな。まぁ、じゃあそれはそれとして――」


 ショウが再び仔牛に向き直る。

 ケンとの会話で少し冷静さを取り戻せたので、今度こそ真剣に考えようと、腕を組むショウ。

 しかし、昔からネーミングセンスが無いと自覚している彼は、なかなかいい案を出すことが出来ないでいた。

 少ししてセラスが――


「あの……『パール』ちゃんなんてどうでしょうか?」


「パール。なるほど、パールか」


「はい。白毛が多くて、綺麗な色なので」


「いいね。お前はどうだ? パールがお前の名前だぞ」


『モォー』


 仔牛改め『パール』は嬉しそうに首を縦に振る。自分が食べられることを示唆するもの以外なら大歓迎のようだ。


「そうか! じゃあ、決まりだ。これからよろしくな、パール」


「よろしくね、パールちゃん」


『モォー』


「――なんじゃ、こりゃぁああっ!!?」


「ひゃっ! び、びっくりしたぁ」


「どうやら戻って来たみたいだな」


 ほのぼのとした空気をつんざくケンの絶叫に、ショウとセラス、パールがそれぞれ顔を向けた。

 そんな中、ショウがケンに近づき、盾を受け取るように手を差し出す。


「とりあえずで作ったモノだから、大したこと無いだろ? そんな驚くほど出来が悪かったのか?」


「……」


 ショウの差し出された手を見たケンが、盾、ショウの顔と続けて見比べて、それを何回か繰り返す。

 そしてショウの顔を見開いたままの目で捉えて――


「とりあえずでこんなもん作るな! どうなってるんだ、これ。まるで化け物だぞ!?」


「……えぇー」


「ど、どういうこと? お兄ちゃん」


「外見はどこにでもありそうな盾だが、性能がだんちなんだよ。最高ランクって言っても良い」


「そ、そこまでなのか?」


「ああ。俺も武具職人に盾を作ってもらったことがあるが……造形師、ここまでのジョブかよ」


「ほら、やっぱり。ショウさんは驚かれるぐらい凄い人なんですよ」


 笑顔でそんなことを言いながら顔を覗き込んできたセラスに、気恥ずかしさが勝ったショウは鼻の頭を掻きながら――


「キツネにつままれたような気分っていうのは今の気持ちを言うんだろうな」


 と、苦笑いを浮かべた。

 それを見て、さも自分が褒められたかのようにセラスが笑う。


「……ショウ、不躾なことを言うんだが――」


 それまで盾を食い入るように見ていたケンが顔をショウへ向けると、こう切り出して来た。


「この盾、俺に譲ってくれないか?」


「え! それをか? なんでまた」


「これからの事を考えていたんだが、やっぱり一番良いのはお前たちが俺のクランに入ることだと思うんだ。そうすれば俺や仲間がサポートできる」


 いつになく真面目な顔で、ケンがショウを見据える。


「これを見せればクランの連中もお前が造形師に就いていると信じざる負えない。そのための証拠として譲ってくれ」


「……」


「ショウさん?」


 ケンの言葉を受けて、ショウは考えるように押し黙った。

 セラスがショウを気に掛ける言葉を口にする前に――


「そういうことなら、駄目だ」


「!? どうしてだ? このままだったら間違いなくお前の能力目当てで面倒な奴らが集まってくるんだぞ」


「理由はいくつかあるが、お前の言う通りの事態になったとしたら、お前やその仲間たちに迷惑をかけてしまう」


「そんな事気にするなって! お前のジョブは自分で思っている以上に凄い――」


「もう一つの理由は、お前たちが驚くほどの貴重なジョブを持った俺が、そのクランに入ったら周りはどう思う?」


「……」


「……あ、も、もしかして、自分たちのところへ取り込もうと奪い合いになったり」


 セラスがショウの考えていることを代弁すると、彼は一度頷いた。


「そうすれば、また迷惑をかけてしまう。自惚れかもしれないけど、そういうジョブなんだろ? 造形師ってやつは」


「……確かにそうだが」


「俺の本意じゃないんだよな、そういうの。お前の厚意はありがたいけど、自分の身の振り方は自分で考えてみるよ」


「……」


「それと、もう一つの理由は……」


 ショウはケンから自分の盾を受け取り、その場にいる全員が見えるように構えて――


「これを渡しちまうと俺が使う盾が無くなって、またセラスに叩かれることになっちゃうからな」


「……ぶっ! あははっ、確かにな!」


「も、もう! ショウさん! そんな言い方……」


「ごめんごめん。悪気は無いんだけど、やっぱり見た目的な意味でも控えたほうが良いかなって」


「……もう」


「ははは、そういう事なら俺も強くは言わないぜ。だけど、なにかあったら協力するからな。ちゃんと言えよ?」


「助かる。もう少しまともなモノを作れるようになったら、お前にもなにか送るよ」


「そいつは楽しみだ。期待させてもらうぜ、造形師さん」


 ケンは頬を緩ませ、いつものお調子者スタイルで軽口を叩く。

 どうやら今回の真面目な雰囲気は終了したようだ。

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