4.盾、作成
「どっちにしても盾は必要だと思っていたんだ。時間があるようだから、作ってみるよ」
「えっ、今ここでですか?」
「そういえばセラスは棍を作るところは見てなかったんだよね。このスクロールを使うと――」
手にしていたスクロールをスキル『新規作成』で消費する。
アイテム本体は光の粒になって消えて、変わってショウの目の前に立体空間の作業台が現れた。
「わっ! こ、これは?」
「アイテムを作成するための設計図をこれから作るんだ。と言ってもまだ二回目だからうまくできるか分からないけど……」
セラスに説明しながらショウはカテゴリのタブから『盾』を選択する。
すると作業スペースに四方のマス目が描かれた盾の3Dモデルが表示された。
「こうやってモデルの大きさや形を変更して、自分の好きな感じに作れるんだ」
「へぇ、面白いですね。どんな盾にするんですか?」
「それは……」
セラスの言葉でショウの手が止まる。
盾は欲しいと思っていたが、どういうものとまでは想像していなかった。
少し考えてみたが、まるで見当がつかない。
ショウは仕方なく――
「とりあえず簡単そうなモノを選んでみるよ。それを使っていって不満点が出たら今後の作成に活かしていこうかなって」
「それもそうですね。まだ始めたばかりで、持っている素材も心許ないでしょうし」
「確かに。作れると言ったらこのウッドシールドってやつだな。木材と端切れで作れそうだ……待てよ」
「どうしたんですか?」
「使用素材の消費個数によって出来上がったモノの性能が変わるんだけど、今回は『素材を追加』を選んで鉄インゴットを一つ入れてみよう」
ショウの頭の中では、木から切り出したような一枚物の盾ではなく、鉄の枠で板を並べた物をイメージしていた。
それを反映して形にするように使用素材を追加、モデルの編集を行っていく。
「直径は五十センチくらいにして……よし、こんなもんだな」
全体のレイアウトを確かめるように、モデルを回転させてみる。
「丸い盾なんですね」
「角張ってると引っかかったり扱いづらそうだからね。今は取り回し重視にしてみようと思って」
「なるほど。それで、これからどうするんですか?」
「ちょっと待って。今考えたこれを保存して――」
ショウがボタンを押すと立体空間が消えて、再びスクロールが現れた。
もちろん内容は盾の設計図が描かれている。
「これと素材を使えばアイテムができる……って、え――」
『モォーー』
「うわぁっ!」
「あっ! 仔牛ちゃんが!」
盾の使用素材を取り出そうと、ストレージボックスへ手を入れていたショウ。
しかし、彼が握ったのは手綱だった。
それに従うというより、逆に手綱を引っ張る勢いで仔牛が飛び出して来る。
草原へ降り立った仔牛は、同じところをグルグルと歩き回り始めた。
「な、なにか不機嫌そうですけど」
「えっ……そういえば出すのを忘れてたけど、それが原因か? でも、ストレージボックスは時間経過が無いって言ってたし……ペットは違うのか?」
「どうしましょう?」
「んー……とりあえず盾を作ってしまおう。その後あいつと遊んでやれば機嫌を直すだろ」
そう言って、ショウは再びストレージボックスへ手を入れる。
今度は間違えずに、盾の素材を必要数取り出す。
それをスクロールの上へ置き、腰に掛けていた槌を手に握って、そのまま振り下ろした。
光のエフェクトが弾けると、その場にショウがイメージした通りの盾が出来上がる。
『スモールシールド(木製):木材を少量の鉄で補強した円形の盾。扱いやすく、割と丈夫。投げても戻ってこないので注意』
「よし、できた。なかなかいい感じじゃないか」
「す、すごい! こんな簡単にできてしまうんですね。皆驚く理由が分かりました」
「そ、そんな大それたことをしてる実感は無いんだけど……まぁ、これで多少打たれ強くはなったかな」
盾を手にして仕上がりを確認した後、ショウは右手にそれを装備した。
大きさ、重さも問題なく扱えるぐらいの丁度良さ。
予想より若干嵩張ると感じたが、慣れれば大丈夫だろう。
「これで今度からは相手の攻撃は盾で防いで、その隙にセラスが攻撃を担当してくれれば完璧だな」
「は、はい! 頑張ります!」
「あははっ、そんな気張らずに、肩の力を抜いていこうな。さてと――」
作成に使った物は盾の生成時にすべて消えたので、片付けの手間は無い。
ショウは少し向こうで草を食べている仔牛へと目をやった。
「あいつの相手をしなきゃな。すぐ機嫌を直してくれれば良いけど」
「……そういえば、あの仔の名前って、なんていうんですか?」
「え? 名前……あっ、付けるの忘れてた」
「あ、あはは。なら、今名付けてあげたらご機嫌になるかもですよ」
「あー、えー……なかなか難しいな」
ショウとセラスが話をしながら仔牛に近づくと、それに気付いた仔牛が草を食べるのを止め、二人とは反対方向へ顔を向けた。
どうやら存在を忘れられていたことが相当トサカに来ていたらしい。
「んー、牛だろ? ビーフ、カルビ、ロース、ハツ、タン……いやいや、なんでそっち方面ばかり出るんだよ」
「なんだかお腹が空いてきましたね。不思議です、《《ゲームの中》》なのに」
『……!?モ、モォ!』
二人の様子を横目で窺った仔牛は、彼らの涎を流さんばかりの不気味な顔を見て、数歩後退った。
「ステーキ、生姜焼き……あ、ストロガノフとかはどうかな?」
「私はシチューとかプルコギなんかが良いんじゃないかと」
『モォー!モォー!』
恐怖で動けなくなってしまった仔牛を挟むように、ショウとセラスは笑みを絶やさず名前の候補を言い合った。
二人が仔牛を見て、一段と破顔した瞬間――