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Freedom Birth 戦えませんがなんとかなるみたいです  作者: なろといち
第二章 戦えませんがパーティー結成
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2.兄妹

 フルダイブ型のゲーム特有、起動時の脱力感を経て、ショウはフリーダムバースの世界へ再びログインした。

 前回ログアウトした地点、噴水の広場で目を開けたショウが、とりあえず辺りを見回す。

 ゲーム内の時間的には昨日と同じ昼頃だろうか。

 太陽が空高く昇っている。

 街を行きかう人々も、かわらずに日々の生活を送っているようだった。


「さてと――」


 自分の置かれている状態を確認した後、ショウはフレンドリストの画面を開く。

 ログインしたことをケンへ知らせようとしたのだが――


「ん、なんか通知が来てる。差出人は、ケン……もう待ってるのか」


 メッセージのタブに未読通知が一件と表示されていたため、ショウはそれを開いてみる。


 『南門を出た草原に居る。三十分待って来なかったら先に行くので昨日行ったっていう林まで来ること』


「……あいつ、俺がセラスにも連絡しなくちゃいけないこと分かってないのか?」


 集合時間まで少し余裕をもってログインしたが、このメッセージが来たのは十分ほど前のようだ。

 とりあえずフレンドリストの画面はそのままで、昨日追加したばかりのセラスへメッセージを送ることにした。


 『今日、なにも予定が無いようなら一緒に冒険しないか? 経験者の友人が色々教えてくれるらしいんだけど』


 そう送った後、ショウは南門を目指して歩き出す。

 一旦ケンと合流すれば、セラスが来るのを待つこともできるだろう。

 そもそも、今日もセラスがログインしているかなんて分かるはずも無く――


 『ピロンッ』


「お、返事早いな」


 『お誘いありがとうございます。申し訳ないのですが今日は先約がありまして……また今度誘っていただけると嬉しいです』


「あー、まぁしょうがないか。今日って約束をしてたわけでもないし」


 『大丈夫だよ。また時間が合う時にやろう』


 そのまま返信をしたショウは少し残念そうな顔をして、再び歩き出した。

 今日はケンと彼の連れの三人。

 次はセラスも入れてみんなで冒険できたら楽しそうだな。

 そのためにはまず、少なくとも戦闘で足を引っ張ることのないように地固めしておかなければ。


「問題は『もう一人』か。初心者って言ってたし、仲良くなれれば良いけど」


 どうなることやら、と肩を竦めながらショウは南門へ向かう。

 この時のショウには、昨日のログアウト時に感じていたこのゲームに向いていない、という懸念は薄れていた。

 フリーダムバースでしか見ることができないクオリティの高い仮想の街並み、生活感を色濃く見せる住人たち。

 そしてまだ体験したことのない探検や冒険。

 そういった、ここでしか味わえないであろう出来事に、心が躍っていることにショウは気づいた。


「昼間のセリフ、健に言えた義理じゃないな」


 ショウは鼻の頭を掻いて、苦笑いをする。

 二十歳にもなった男が年甲斐もなく子供の様にはしゃいでいるのだから。


 ――


 少し歩いて、ショウは外壁に設けられた門へ辿り着いた。

 今日は冒険者ギルドなどには寄り道せずに来たため、随分とスムーズに感じる。


「おーい、こっちだ!」


 門衛の横を通り過ぎて草原の道へ出ると、少し離れた所からショウへ手を振っている男の姿が見えた。

 俺のことだよな? と疑心暗鬼になりながらも近づいていく。

 普通の声量で話せる距離まで来ると、リア友の健こと『ケン』は嬉しそうに笑みをこぼした。


「早かったな……えーっと、あれ、もう一人っていうのは?」


「予定が埋まってるそうだ。また指導を頼むかもしれないけど、今日のところは俺だけだ」


「そっか、そりゃ残念。お前と組んだ奴っていうのを見てみたかったのに」


「っていうか、よく俺が分かったな」


「そりゃ分かるさ。あっちとあんまり変わってないじゃんか」


「髪色やら細かいパーツなんかは調整したんだけどな」


「それでも分かるぜ。雰囲気までは消せてないな」


「そういうお前は――」


 にししっ、と笑うケンを見るショウ。

 髪色が明るいブラウンから派手な金になっており、肩より少し伸ばした髪を結ってある。

 顔立ちもリアルより多少整えられていて、元からイケメンに分類されているため最強に見える。

 それを差し引いてもショウが見る限り、大きな違いは無いように感じた。

 ……いや、一つあった。

 現実世界の身体を反映させたショウは、主に顔だけで体格の調整はしていない。

 そして、匠太と健はリアルでは並んで立ってもほぼ同じ身長。

 それが今はどうだろう。

 ショウは少し目線を上げ、彼と喋っていた。


「おい、随分盛ってるじゃないか。上げ底か?」


「そう言うなよ。こちとらもう成長期は過ぎたんだ。これぐらい欲しいって思っても良いじゃんか」


「なるほど、そういうズルの仕方もあるのか」


「ズルじゃねぇよ! 理想の体現だ!」


 こうやって大学生活の延長をしているような会話は楽しいが、ケンに連れがいることを思い出したショウが、話題を変えた。


「――それで、お前の方の連れは来れたのか?」


「ああ、そうだった。……おい、なに隠れてるんだよ。ちゃんと挨拶しろって」


 ショウの言葉で思い出したかのように、ケンは自分の背中へ声を掛けた。

 すると、ケンの影から身体を小さくさせた一人の少女が出てきて――


「……は、初めまして。あ、あの……私――」


「セ、セラスじゃないか!」


「へぁっ!? ……え、ショウさん!? ど、どうして?」


「それはこっちも同じ気持ちだよ。まさかケンの連れが君だったなんて」


「え、え……じ、じゃあいつもお兄ちゃんが話してる大学のお友達って――」


「お兄ちゃん!?」


 セラスの口から明かされたケンとの関係に、ショウは驚きを隠せず、声が大きくなってしまった。

 しまった、といった表情で手で口を隠したセラス、彼女の言葉で目を見開いたショウ。

 二人ともお互いへ向けていた視線を、脇にいたケンへとゆっくり向ける。

 ケンは見るからにぎこちない、硬い笑顔をして――


「……な、なんだ。もしかしてお前たちもう顔見知りなのか? はは、す、すごい偶然だな。そうかそうか、昨日俺が居ない間にそんな出会いがあったなんてな。え、じゃあ昨日から妹の機嫌が良かったのはお前のせいなのか? え、今日お前が連れてくる予定だった子って妹のことなのか? は? なにそれ、どうなってんの?」


「ちょ、ちょっと、落ち着いてよお兄ちゃん!」


「そうだぞ、気をしっかり持てお義兄さ――」


 ショウが言葉を言い終える前に、ケンは彼の首へ腕を回してセラスから離れるように引っ張った。

 今までに感じたことのない力で、身体を強張らせたショウが抵抗をするもまったく意味が無かった。


「どういうことか説明しろ」


「そう凄むなって。言ったろ、クエスト中に知り合ったって。それだけだよ」


「……」


「大体、昨日の今日でなにかあるわけ無いだろ。俺がナンパでもしたっていうのか?」


「そりゃ……ねぇな」


 ショウの言葉に納得して、拘束を解いたケンは苦虫を嚙み潰したよう渋い顔をしていた。


「俺も衝撃的な事実に驚いているけど、少し落ち着けって」


「……そうだな、悪かった。昔から妹のことになるとムキになっちまうんだ」


「(シスコンかよ)……そんな大切な妹のお守を俺に頼もうとしてたのか?」


「お前なら信用できる、と思ったんだが……不安になってきたからもう一度考える」


「俺ができる範囲だったら喜んで協力するよ、お義兄さん」


「無し無し! この話は無し! お前は帰れ!」


「ちょっと、お兄ちゃん!」


 少しおちょくってやろうとショウが茶化して、その言葉にケンが噛付いた。

 ケンの大声を聞いたセラスが小走りで二人に近づいてくる。


「なんで帰れなんて言うの! ショウさんが可哀そうでしょ!?」


 頬を膨らませながら、セラスはショウをかばうように二人の間に割り込んだ。


「こ、これは、その……でもこいつが――」


「でもじゃない! どうせまた『お前のことが心配だったから』とか言って人のせいにするんでしょ!」


「……すいません」


 降参したように頭を垂れたケンを見て、セラスはショウへと向き直る。


「ショウさん、すいません。私の兄が酷いことを」


「い、いや、大丈夫……です」


「ほら、お兄ちゃん。仲直りして! 握手!」


 そう促されて、ケンが差し出した手をショウは握り、仲直りした。


「……俺の妹だぞ」


「分かったって」


 本気の握手で腕を動かすことができなかったショウに、ケンが耳打ちをしてくる。

 真剣な表情のケンを見て、ショウは苦笑いで頷くことしかできなかった。


(これは重度だな……なにか面倒なことにならないと良いけど)

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