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Freedom Birth 戦えませんがなんとかなるみたいです  作者: なろといち
ミズホ編Ⅱ
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13.山姥

 ショウたち四人に向き直り、手に持っていた『包丁』の切っ先を突き付けながら山姥が奇声を上げた。


『ぎゃぎゃっ!』


 身長は百二十センチくらいで顔面は大きく、三等身のビジュアル。

 身に着けているモノは白い着物のみで、そこから見える手足は細く、裸足。

 叫ぶ口には歯が生えておらず、興奮しながら叫ぶたびに唾液が飛び散っていた。

 長い白髪からは角が二本見えている。


「うわっ……これは、予想していたより怖いな。トラウマになるのも分かるよ」


「そうですね。モンスターの中でも不人気な部類ですし、私も初めて実物を見ましたが少し腰が引けてます」


「……このまま素通りとか、できないかな?」


「――来るっす!」


 山姥を見据えていたルナールがグラディウス『セレネ』を抜刀しながら叫ぶ。

 その言葉に反応してショウ、セラス、シャルムが臨戦態勢を取る。

 役には立たないと思いつつも、ショウも腰に携えたグラディウス『ヘリオス』を抜いた。


『ぎゃぁあっ!』


 持っていた包丁を口に(くわ)えて、両手をも地面に着けて獣のようにこちらへ駆けて来る山姥。

 その迫力に思わず身を引いてしまうショウとセラス。

 しかしルナールとシャルムは敵に臆する事をせず、集中して武器を構えていた。


「……ルナール……少し、勢いを削いで」


「任せな!」


 地面を駆けている山姥に向かって低い位置からの切り上げを繰り出すルナール。

 鼻先を狙ったその斬撃を山姥は首を曲げてすんでのところで躱す。


『ぎゃっ!』


 しゃがれた声を出した口から落ちた包丁をキャッチして、ルナールに飛び掛かる。

 素早く剣を返してそれを刀身で受けたルナールが、山姥の腹部に前蹴りを食らわせた。

 その攻撃を受け、後ろに飛ばされた山姥が着地をした瞬間、周囲の地面が影に染まる。


「……『グラッジバインド』!」


 シャルムが魔法を発動させ、影から何本もの帯状の影が山姥の身体に巻き付き、動きを止める。

 彼女のジョブ『死霊術師(ネクロマンサー)』のスキル、『グラッジバインド』。

 闇の怨霊で敵を縛る拘束系の魔法で、ショウの作成した装備で高まったその効果はかなり強力だった。

 このタイミングでやっとセラスも身体が動く様になり、追撃のため先に駆けたルナールへと続いた。

 セラスが棍『ネメスィ』を叩きつけるように振り下ろし、ルナールは面積の広い顔面へ突きを繰り出す。

 しかし――


『ぎぎゃぁっ!』


 巻き付いた帯状の影をまるで紙で出来たモノのように山姥は簡単に引きちぎった。

 セラスの攻撃を避け、ルナールの突きを包丁で受ける。

 受けた攻撃で少し後方に飛ばされた山姥だったが、何事も無かったかのように再びぎゃっと声を上げてその場で軽く飛び跳ねた。


「シャルムの拘束を、あんなに簡単に……どうなっているんだ?」


「……呪術系は効かないみたい……相性最悪」


「それは、参ったな」


 杖を構えながら不機嫌そうに発した彼女の言葉を聞いて、ショウは鼻の頭を掻いた。

 彼が見ても、自分では到底敵わないセラスとルナールの二人を相手してもぴんぴんしている山姥は強敵だと分かる。

 それに加えてシャルムの援護も見込めないとなると苦戦するということは明白だ。


「……火炎魔法で援護する……ガンバ」


「頑張れって言ってもさ、シャル」


「これは……手強いわね」


 少し跳ねては横に移動し、また跳ねる。

 ぎゃっぎゃっと止むことが無い声が響く台地で、山姥はセラスたちに向けて包丁の素振りを見せていた。

 威嚇とも取れるその行動に、武器を構えながらも攻め手を見つけられずに手をこまねくセラスとルナール。

 いつでも二人の援護が出来るように、ジョブ『火炎術師(フレイムソーサラー)』のスキルでは初歩の単発魔法、『フレイムバレット』を準備するシャルム。

 淡い光に包まれたシャルムの杖の先端に小さな火球が現れると、それを見た山姥がひと際大きな声を上げた。


『ぎゃぎゃっ!』


 火球を見た瞬間、包丁を手に持ったまま片手と両足でシャルムへ駆け出す山姥。


「――このっ!」


 駆ける小さな影にタイミングを合わせたルナールが横薙ぎの斬撃を繰り出すが、それを山姥は地面を這うようにさらに身体を低くして回避する。

 彼女の脇を抜けるように勢いを落とさない山姥に再びセラスが棍を振り下ろし、進行を止めようと試みる。

 しかしその攻撃も跳躍で回避して、シャルムへ空中から手にした包丁を振りかぶる山姥。

 素早い動きに狙いが定まらず、杖の先に火球を出したまま狼狽えていたシャルムに、凶器が迫る。


 ――ガキンッ!


 ギリギリの所でシャルムと山姥の間に身体を割り込ませたショウが、攻撃を左手で防いだ。

 本来なら、反射の効果でスタン乃至(ないし)硬直を相手に状態異常として付与できるはずだった。

 しかし――


『ぎゃぎゃぎゃーっ!』


 包丁をショウの腕へ当てたまま、着地した山姥が力任せに彼をそのまま押し出そうとしてきた。

 骨と皮しか無いように見える細い四肢のどこにこんな力があるのか、頭が混乱したショウは力負けしてどんどん後ろに押される。


「なっ!? ちょっ――」


「……ふぶっ!」


 攻撃から庇ったシャルムが背中にぶつかる衝撃を受けても、ショウは山姥に押され続けた。

 足の踏ん張りも空しく、地面に引きずられたような跡をつけながら、ショウの視界は山姥の大きな顔面に埋め尽くされる。


「――んのっ! 一か八か!」


 左手で包丁の刃を止めながら、ショウは右手に持っていたグラディウス『ヘリオス』を破れかぶれに、目の前の顔に突き出す。

 自分のステータスを考えるとこれで相手を倒せるとは思っていなかったが、それでも勢いは殺せるはずと必死に攻撃を試みた。


『ぎゃふっ! ~~~~っ!』


 しかしショウの放った突きは、山姥に防がれる。

 少しでも弱点を突こうと『口の中』を狙った刀身を、山姥は歯の無い口で噛み止めたのだ。

 がっちり噛み付かれたヘリオスを、ショウは押すことも引き抜くこともできなくなり、冷や汗が身体全体から噴き出る。

 それでも一時的にショウを押す山姥の力が弱まり、その場で拮抗したように彼の身体が停止した。

 刃物を相手に突き付けながら、お互いに押し返そうと力を込める。

 徐々に再び山姥の力に負け始めたショウの足が、踏ん張りながらも後ろへ下がりだした。


「ショウさん! そのまま、動かないで下さい!」

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