10.茶屋にて
「それは楽しそうで良かったですね!」
ノートに倣い同じくログアウトしたショウは現実世界でやる事を一通り済ませた。
約束の時間になり再びログインしたショウがセラス、ルナール、シャルムの三人と宿に併設されていた茶屋に入った。
その時に彼女たちと合流する前、ノートとクエストに向かい、キョウカと出逢った事を話す。
ショウが話終えて、セラスから貰った感想が先のひと言だ。
セラスも別れる前のノート同様、少し頬を膨らませている。
似たような状況ではあるが、解決策を見出せていないショウは苦笑いを浮かべるしかできなかった。
「えっと……セラス、何で怒っているの?」
「怒ってません。ええ、怒ってなんかいませんよ」
「いや、どう見ても怒っているようにしか見えないんだけれど」
「ショウさんにはそう見えているだけで、私は別に普通ですけれど!?」
「あ、ああ、そうか。じゃあそうなんだね、うん」
頬を膨らませながらそっぽを向いてしまったセラスを見て、ショウは苦笑いのまま鼻の頭を搔く。
そんな彼の横で、興味深そうに話を聞いていたシャルムが目を輝かせた。
「……骸武者……見てみたい」
「ほとんど鎧みたいなものだったけれど、シャルムはそういうのが好きなのかい?」
「……外見というより、中身が……日本風のゾンビ、興味ある」
「ああ、そっち。仮面も被っていたから良く見えなかったけれど……スタンしてるときだったら見れる、かな」
「……是非」
「き、機会があればね。ゲーム内で夜にしか出て来ないらしいけれど」
「でも、話だけ聞くとそのキョウカっていうシム、相当強いみたいっすね」
串に刺さった団子を頬張りながら、ルナールが感心したように言う。
「モンスターは基本夜に出て来る奴の方が昼のモノより強いんすよ。それでも瞬殺出来るって事はシムにしては凄いと思うっす」
「うん。戦闘の姿を見たけれど、洗練された見事な戦いっぷりだったよ。アイリやルナールとはまた別のスタイルというか」
「いやぁ、同じシムとして一度は会ってみたいっすね。どっちが強いか比べてみたいっす」
「ルナール。それはやめておきましょう」
団子を一本食べ終えたルナールに、セラスが笑顔で静かに諭す。
「これ以上その人をショウさんに会わせない方が良いと思うの。夜に外を徘徊するような不良にはあまり関わらない方が良いでしょ?」
「えっ、あっ、はいっす。アネゴの言う通りっす」
「そうでしょうそうでしょう」
「でも、いい子だよ。少し分かりづらい話し言葉だったけれど、明るくて素直な子だった」
ショウの言葉に笑顔のまま湯呑みを傾けるセラス。
ひと口、緑茶で口を潤すと――
「そうですか……で?」
きっとセラスたちも友達になれると思うよ、と続けようとしたショウだったが、どうも言う空気では無いということを本能的に悟る。
えぇっと、とショウは口ごもってしまった。
ルナールは経験から知っている。
セラスが本気で怒っている時は、少し眉間に皺が寄った『笑顔』になるということを。
心の中でショウを応援しつつ、ルナールは気が付かない振りをして再び団子を食べ始めた。
「……では、そろそろ行きましょうか。ショウさんは一度山へ行ったみたいなので、道案内をお願いします」
「あっ、うん。分かった」
「……ガンバ」
立ち上がったセラスに倣い、頷きながら席を立つショウ。
そんな彼の腕を叩いたシャルムが、激励を送るのだった。