2.準備の前準備
「まさか、こんな初心者が『造形師』だとはな」
「まっ、私は知っていたけれどね。なかなか凄いわよ、ショウは」
「うーむ、生産職を極めた者しか就けんジョブじゃと聞いていたが」
「へぇ、彼が話にも出てきた造形師ね……僕の弓も作ってもらおうかな」
「じゃ、じゃあ、私の人形のパーツも――」
「あんたたち、現金ね」
ショウに対しての説明をすべて終え、クランメンバーたちのテンションは先ほどと比べて急上昇していた。
生産系のジョブに就いている者はその腕前に興味を持ち、戦闘系のメンバーはお零れにあずかろうとしている者もいる。
そんな話題の渦中にあるショウは、苦笑いを浮かべながらただ端々から聞こえてくる声に当たり障りのない返事をするだけだった。
「作成の腕は私とケン、レオが保証するわ。だけど、先輩はフリーダムバースを始めて日が浅く、究極的に経験不足。生産系のみんなにはノウハウを叩きこんで欲しいの」
指を組み、テーブルの上で膝を立てていたアイリが真剣な目でメンバーを見渡す。
「私は全然良いわよ。元々やりかけの仕事はあるし、ショウとの仕事は楽しいもの」
一番に手を挙げたのはレオーラだ。
彼女は気楽な笑みを浮かべながら、上機嫌に答えた。
「他のみんなは?」
「……」
「……テツ爺、見てみたくない? 自分が考えた最高の武器が出来上がる瞬間ってやつ」
「ふん、それが人の手で、となると話は別じゃ。自分で鍛えてこその職人……しかし」
テツは組んでいた腕を解き、自慢の髭を撫で始める。
「最高の武器、か……それには興味がある。儂が目指す最高、かどうかは別としてな」
「つまり?」
「もし下手なモノを作ったら、そいつごと炉に放り込む。その条件なら、良いじゃろ」
途端に命の危険にさらされたショウを尻目に、アイリが指を鳴らした。
頷いたテツを見て、他の生産系に就いているメンバーからも了承を得ると、次は戦闘系の切り込み隊長、フレッドが手を挙げる。
「それで、俺たちは何をすれば良いんだ? 戦闘訓練か?」
「そ、先輩には期間中丸々作成に専念してもらって、他のみんなは私の対人戦の訓練相手になってもらいたいの」
「でもよ、大丈夫か? 相手とタイプが違う奴だって居るぞ」
「僕の弓とかね。相手は最高位のジョブ、魔法剣士と影忍なんでしょ?」
「弓はノートが使うサブウェポン対策として、フレッドの強攻撃はアヤの弱攻撃を受ける練習にするわ」
「俺の攻撃が、弱……まぁ、本当のことなんだろうが」
「そして、パメラには組手用のオートマトンを何体か用意して欲しいの」
「えっ、それは構わないけど……多人数の戦闘もやるの?」
「先輩は戦えないし、私が二人を相手するのは必然。動きに追いつけないようじゃお話にならないでしょ?」
それって無理ゲーなのでは、とその場の全員は思ったがやる気満々なアイリを見て心に留めておくことにした。
「お、俺も足を引っ張らないように、頑張るつもりなんだけど」
「あっ、大丈夫です。決闘では先輩には一ミクロンも期待していないので」
「そ、そうか」
ショウはどうやら自分は最初から見限られているようだと鼻の頭を掻いた。
「それで、いつから始めるんだ?」
「もちろん今からよ。先輩も、良いですか?」
「あ、ああ。分かった」
「ぃよっし! どうせやるんだ。お嬢が納得いくまで付き合ってやるぜ!」
「みんな、今回も私の我が儘に突き合わせちゃって悪いけど、よろしく頼むわ!」
応ッ! と一同は返事をした後各々席を立ち、アイリ達はハウスの中庭へ、ショウはレオーラが集めた集団へ、それぞれ行動を開始するのだった。
――
オルトリンデ内で生産系のジョブに就いているのは少ない。
プレイヤーはジョブを二つ選ぶことが出来るのだが、両方生産系で固めてしまうと自分で必要な素材を集めるフィールドワークが難しくなるためだ。
よって、レオーラやテツなど職人として自分の工房に籠り、作成をゲームの主に置いているメンバーは数人ほど。
その数人と集まって挨拶を済ませたショウは、改めて今回の事にお礼を述べて、今後の予定を立てていた。
仕切るのは両方に顔が利くレオーラだ。
「それじゃ作成のスケジュールについてだけど、みんな、今抱えている仕事はどんな感じかしら?」
「儂は今受けている依頼がいくつか。その後も予約が埋まっておるな。他の連中も同じようなもんじゃろ」
「時期的に、イベントに間に合わせて欲しいって依頼が多いものね」
集まっていた他の面々も頷く。
ちなみにパメラも生産系のジョブなのだが、作り置きの人形をアイリご所望の組手仕様に改造するため、そちらから先に取り掛かってもらっている。
「作成自体はショウが担当する事になるけれど、アイリの癖を熟知している私たちが設計やアドバイスをしなくちゃね」
「あいつに半端な武器を持たせると一日で壊して戻って来るからの。できれば特訓中に渡して細かい調整まで済ませておきたい」
「……となると、テツ爺さんにはやりかけの依頼を急いで仕上げてもらって、まず最初は私と防具の作成に取り掛かりましょうか」
「任せておけ、二日で終わらせる。予約の連中は……少し待たせても大丈夫じゃろ」
「オッケー。他の皆も防具を考える過程で出てきた課題を分担して解決していく、ってことで良いかしら?」
全員が頷いたのを確認して、レオーラはショウへ向き直った。
「それじゃショウ、まずはアイリの新防具から取り掛かりましょう」
「……分かった。やれることは全部やる。必死について行くよ」
こうしてとりあえずは各自受けている依頼をこなしつつ、時間が取れるように調整する事となった。
ショウはレオーラと防具を作成するため、一緒にハウスを後にする。
中庭からはすでに激しい剣戟の音が響いて来ていた。




