俺様が恋に落としてやる
…は???
「今なんて???」
「だから、俺様がベルを恋に落としてやるって言ったんだ。」
正気か??ほんと一体どうしたの?
そんなセリフよく出てきたわね。
……そういえば、昔私が読んでた小説に出てくる俺様王子とそっくり。あの小説、当て馬の近衛騎士がめちゃくちゃに優しくてカッコよくていつも読んでたっけ。
主人公はなんであの俺様王子を選んだのか未だに謎だわ。いやあ懐かしいなあ。
っていまはそんなことどうでも良くて!
「断るわ!!!」
だいたい何でそんなこと今更言い出したの?って思ったけれど、リックの両親は私との婚約にとてもノリノリだしそのせいもあるのかな。今更婚約破棄しましたなんて親に言えない!的な?
「婚約破棄するって親に言えないならそちらの家にも私から破棄しましたって言うわよ?」
という私の優しい提案にリックは、は?という顔をする。
「いや、親は関係ないし破棄しないからその必要は無い。」
じゃあ一体なんなのよ!!
「ベルの言い分はこうだろ?俺が優しくないから婚約を破棄したい。つまり俺が優しくなれば良いわけだな?」
そんなわけなくない??いやあるのか??
たしかに優しい人となら結婚したいって言ったけど。
いやそもそも優しくなるって出来るの?
「……それがほんとうに出来るわけ?」
リックの優しいところなんてもう数年見ていない気がするけど。
でも、もし、もしも、ほんとうに彼が優しくなったら?お互いの両親が願った婚約が叶うし、それに婚約破棄された女なんて外聞が広まったら良くないのは確かだ。
私たちはよく言い争いをしていたしデビュタントもまだで社交界に出ていないからあまり婚約していると回りに知られてはいないけれど、万が一知られてしまったらそれなりにリスクがあるだろう。
だとしたら、この賭けに乗るべき。
「いいわ。デビュタントまでに私が納得するくらい優しくなったら婚約破棄は諦める!」
「言ったからな?」
初めのどこか自信なさげだったリックから、いつもの様子が戻ってきたらしい。
得意げに笑うその眼は闘争心みたいなもので燃えていた。
「ところでベルは優しい男がタイプってことだよな?具体的にはどんなやつだ?」
具体的?どう言えばいいんだろう。
でも確かにリックに多少情報を渡さないとフェアじゃないわよね…。
「昔読んでいた小説に出てくる近衛騎士みたいな人…かな。」
物語の登場人物が理想だなんて少女趣味なんだな!とか言われるかと思ったけれどリックは真剣な顔で眉間にはシワが寄っていた。
「近衛騎士…だと…?それであの本を読んでいたのか!!」
「え、覚えていたの?」
一時期はそれはそれはハマってずっと読んでいたけれど、まさかリックまで覚えているとは思わなかった。
「た、たまたまな!俺は記憶力が良いからな。」
私が好きなものだから覚えていたとでも言ってくれたらときめくのにこんな調子だ。
でも記憶力がいいのは確かだから黙るしかない。
「ちなみにヒーローであるあの王子様はどう思う…?」
「あまり好みじゃないわね。」
私の答えに目の前の男はぐおおと小さく唸っていた。
「そんなにそのヒーロー好きなの?たしかにあなたに似てるものね。」
私が言うとさらに落ち込んだ様子だった。
一時自信を取り戻していた?のにまた落ち込んだリックをさすがに可哀想に思って
「いや、好みは人それぞれよ?」
とフォローをしてみたけれど、無駄だったみたい。
「悪い、今日はもう帰る…。押しかけてきたのも悪かったな。」
そう言ってふらふらと出ていってしまった。
読んでくださってありがとうございます!