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02.お手伝い

 

「樽酒一つ、入りまーす!」

「はーい!」


 片腕で抱え込むほどの大きさの樽をテーブル席に出し、厨房に向けて大声を上げた。

 ルイスの明るい声が奥から聞こえてくる。


「姉ちゃん、見ない顔だな。新入りか?」

「ずいぶん美人雇ったなあ」


 ガヤガヤと賑わう酒飲み場、ダイニング・ポプリ。

 ルイスがおばあさんのレイズと二人で切り盛りするその店で、わたしは現在ガタイのいいおじさんたちに絡まれている。


「ちょっとの間だけ、お手伝いなんですよ」


 体力ゲージが0になりかけていたところを助けてもらったお礼にと、半ば強引にお店を手伝わせてもらうことにしたのだ。

 社会人になって数年、自炊は数えるほどしかしていないわたしに料理ができるはずもなく、ホールと洗い物ならと任せてもらった。


「ふうん、ワケアリかい?」

「ルイスに行き倒れてたところを助けてもらったので、少しでもお手伝いできればと」


 ルイスの使った“治癒スキル”については内緒にするという約束なので、空腹で行き倒れていたところを助けてもらったという設定にしている。

 “治癒スキル”を持っていると冒険者にバレると、拉致されてでも冒険に連行される可能性があるんだそうだ。そんな横暴なことがまかり通っていいのかは別として、ルイスは死んでも冒険にはいきたくないらしい。


「はっはっは!姉ちゃんもルイスに餌付けされたクチかい!」

「あいつ、生き物何でも拾ってくるからなあ」


 酒が回って気分がよくなったおじさんたちは、ガハハと大口を開けて笑い飛ばした。


「あそこのガキもそうだぜ」

「なあ、アラン?」

「うるさいな、店員に絡むなっていつも言ってんだろ!」


 肩に回されかけた手をするりとかわし、おじさんが声をかけた方へ振り向く。

 アラン、と呼ばれた茶髪の少年は、心底鬱陶しそうに答えると、すみません、と頭を下げた。

 年はルイスと同じくらいか、タンクトップから覗く筋肉質の腕は小麦色に日焼けしていていかにも健康的だ。

 アランもかつて、空腹で倒れていたところをルイスに助けられたクチだそうだ。


(しかし、どこの世界にもお人よしはいるってわけね)

 ルイスの屈託ない笑顔を思い浮かべ、変な男に騙されないといいけど、と鼻を鳴らした。



「みなさんお知り合いですか?」


 下げた皿をカウンターの流しに置き、カウンター席にひとりぽつんと座るアランに声をかける。

 おじさんたちの方をちらりと見やり、アランはもったいぶってかぶりを振った。


「さっき話しかけてたあの人がナバム。この街で大工の棟梁をやってる。オレたちはみんなナバムの弟子だよ」


 頭にタオルを巻いたひときわ体格のいいおじさんを差して、アランは骨付き肉にかぶりついた。


「それじゃあ今日も仕事終わりに皆さんで?」

「毎日きてるよ。レイズばあさんの作るごはんがおいしいから」


 どうやらこの店は大工さんたちのいきつけらしい。仕事終わりにはお酒飲みたくなるもんね、とお皿を洗いながらうんうんと納得していると、


「アランはルイスにホの字だからだろ!」

「毎日顔が見てえんだよなあ!」


 おじさんたちがジョッキを持ってきてアランを囲み、茶々を入れる。

 ははん、そういうことですか。


「ちげーよ!あんたらが迷惑かけないように見張ってんだっての!」


 顔を赤くしながら言っても説得力はゼロ。

 おじさんたちはひゅう、と口笛を鳴らして囃し立て、アランは耳まで赤く染めながらお水を一気に飲み干した。


「ふふっ」

「ちょっと、店員さんまで笑わないでよ」

「ごめんなさい、仲が良くてうらやましくって」

「からかわれてるだけだよ」


 転生してきて初のにぎやかな場面に思わず笑みがこぼれる。


「ちょっと、おじさんたち、アランをいじめないの!」

「あっ、ごめんルイス、料理運ぶね」


 赤ちょうちんの飲み屋でのノリを思い出し、ついつい一緒になって盛り上がってしまったせいで、料理を運ぶのを忘れていた。

 厨房から両手いっぱいに皿を持って現れたルイスから、慌てて料理を受け取った。


「いいのいいの!おじさんたちもエリサと話せて喜んでるし」


 にしし、と歯を見せて笑い、ルイスはカウンター内に据えられた椅子にどっかりと腰を下ろした。

 ルイスがホールに現れたとたん、店内に花が咲いたように一層明るくなった。

 アランはもちろん、おじさんたちの顔もほっこりと柔らかくなっている。


「料理全部出たね!じゃー休憩っ!私たちもご飯食べよう!」

「よっしゃ、みんな酒持て―!」


 ちゃっかりと自分のぶんの料理を取っておいたルイスは、まだお客さんたちがご飯を食べているにもかかわらず、グラスを高々と掲げた。

 それに続くようにおじさんたちも楽しそうにジョッキを持ち上げる。


「今日もみんなお疲れー!かんぱーいっ!」


 まさかスナックでもあるまいし堂々と店員が客の前で乾杯の音頭を取り始めるとは思っていなかったので度肝を抜かれた。

 なんだ?ルイスはチーママなのか?


「す、すごいね。まだお客さんいるのにご飯食べちゃうんだ?」

「そうだよ!ナバムさんたちは家族みたいなもんだからね、いつも一緒にご飯食べるんだ」


 豪快にお茶を飲み干し、ルイスは口いっぱいにご飯を詰め込んだ。ハムスターみたいでかわいい。


「あんたも食べな。そんな細い体じゃまた倒れちまうよ」

「ありがとうございます、それじゃお言葉に甘えて」


 厨房からお盆を持って出てきたレイズばあさんに背中を小突かれる。

 常連客全員分の料理が出たら店員も一緒になって食べるのがこの店のルールらしい。


 レイズばあさんは盛り上がっているおじさんたちのテーブルに腰掛け、一緒になって酒を飲み始めている。自由だな。


「そういえば、エリサレベル1なんだって!」


 空いていたアランの隣の席に座って食べ始めると、ルイスが唐突に口を開いた。


「ぶっ!!」

「はあ?レベル1?ありえんのかよ、そんなの」


 思わずお茶を吹き出し、アランはありえねえ、と素っ頓狂な声を出した。

 ディアスでは、神様のギフトといって十歳になるまでは年齢が上がるとレベルが1上がるようになっている。

 赤ちゃんでもない限りレベル1はありえない。


「ちょ、ルイス、それは言わないほうがいいんじゃなかったっけ?!」

「あははっ、ここには悪い人いないもん。ダイジョーブ!」


 レベルが知られると、自分より弱いと知った悪い人間に襲われることがあるから、安易にレベルを明かしたり人前でステータス画面を開いちゃいけないと教えてくれたのはルイス自身だった。

 数時間前、彼女に倒れていた経緯を説明するときにステータス画面を開いて見せてものすごく怒られたのだ。


 その当の本人があっけらかんとわたしのレベルを言いふらすとは、お茶も噴き出すってもんである。


「神様もたまには忘れちゃうってことじゃない?」

「はー、そりゃあ不憫なこった。オレの分も食え食え!」

「俺のも食べな、エリサちゃん」


 同情した様子でナバムさんはじめおじさま方がわたしのお皿に次々とおかずを乗せてくる。

 ご飯食べたからってレベルって上がるんだろうか……。


「しかしお前さん、一体これまでどうやって生きてきたんだ?」

「確かに、レベル1なんて普通に過ごしてるだけでも体力切れるような……」


 赤ちゃんレベルの体力で生きてきたなんて信じられるはずもなく、おじさんたちの刺さるような視線が痛い。


「エリサは人には言えないような暮らししてたんだよ、詮索は禁止」


 ルイスは卵を差したフォークをおじさんたちに向け、しいっと口を尖らせた。

 ぷるぷるとしたハリのある唇に目が奪われる。

 おじさんたちは美女には秘密がつきもんだ、と頷いてそれぞれのテーブルに戻っていった。

 この娘、あの年にして既に、おじさんたちを手玉に取っている。

 わたしよりよっぽど“ビッチ”じゃないか。


「でも、いつまでもレベル1ってわけにもいかないだろ」


 アランが唐突に言い、ルイスも頷く。


「まあそうなんだけど、レベルってどうやったら上がるの?」

「うーん……レベル上げようなんて思ったことある?」

「ないな」


 そうだよねえ、とアランとルイスは二人して困ったように首を傾げた。


「たいていの人間にとってレベルってそんなに大切じゃないのよ。 “ギフト”のおかげで普通に生活する分には問題ないくらいのステータスはあるからね」

「攻撃力が上がったって攻撃する相手もいねーしな」

「なるほど……」


 至極まっとうなセリフに思わず納得してしまった。

 見た限り文明も発展しているようだし、モンスターをハントしないと食うに困るような世界観には見えない。

 一般的な職業、料理人だったり大工だったりにレベルはさして関係のない話なのだろう。


「冒険者くらいじゃない?レベル上げようなんて思うの」

「冒険者、ねぇ」


 ルイスが死んでもいやと言っていた、あの。


 わたしが生つばを飲み込むと、ルイスはハッとした表情で立ち上がった。


「アラン、明日休みよね?」

「そうだけど……なんだよ?」


 アランの顔がどきりと赤くなったのもつかの間、


「エリサのこと、冒険者ギルドに連れてってあげてよ!」

「はあ?なんでオレが」

「あたしは仕入れがあんのよ。エリサ、そうしなって!」


 ルイスと出かけられるのでは、と少し期待したらしいが、彼女にその気はないらしい。

 わたしを差し置いて着々と進んでいく話に、口を挟む隙は無く。


「ったく、人使いが荒いな」

「骨付き肉一本おまけしよう」

「乗った」


 知らない間にわたしの明日の予定は決定していたようだ。

 うーん、何か忘れているような気もするが、まあいいか。



 カランコロン、

 来店を知らせる扉の鐘が揺れ、ルイスが桃色のポニーで円弧を描きながら振り向く。


「ごめんなさい、今日はもう満席で……」


 言いかけた彼女の顔からは次第に笑顔が引いていき、手に持っていたスプーンが、かしゃん、と音を立てて床へ落ちていった。


「貧乏風情がブンブンとうるさいですねえ。はきだめですか、ここは」


 外灯の光をバックに、背筋が凍てつくような声音が響く。


 ピタリと図ったようにそれまでの喧騒がやみ、店内にピリピリとした空気が流れた。



「こんばんは、みなさん」



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