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02.銀色の少女

 

「まるで要塞だね……」


 フォート唯一の出入口の門は、見上げてもその頂が見えないほどに高く聳え立っていた。


 街をぐるりと囲む巨大な壁は、外部からの侵入者を徹底的に拒む。

 壁の外側には深い堀があり、門へは大きな橋がかけられている。

 どこか懐かしいその様相に、城めぐりが趣味だった友達の顔が思い出された。


「通行証なんてあるの?」

「焦るなよ。まだ待ってろ」


 出発日が遅れたといってヨルにお尻を叩かれたせいで、あの後も寝ずに夜通し歩き続けたのだ。

 丸一日半ろくに休ませもせず歩かせておいて橋の前で待ちぼうけを食らったわたしは、ヨルを小突いた。

 街へは通行証がなければ入れず、門の前には屈強な門番が構えている。

 正面突破は不可能に近い。


「待たせるくらいなら途中で休ませてよね……」


 今すぐ汗でべたつく髪の毛を洗い流したいが、堀に飛び込む勇気はない。

 横にいるローグはすでに汗で髪の毛がぺったんこになっている。

 ぼんやりと橋を見つめながら、わたしたちは近くの茂みに腰を下ろした。

 往来の人通りは多いものの、街に入らない人たちはそそくさと目の前を通り過ぎていく。


「だれかー!!」


 じわじわと削られる体力に眠気が襲ってきたそのとき、右手の方角で女の子の甲高い悲鳴が上がる。

 振り返ると、馬車の周りを取り囲む黒ずくめの男たちと、車体から体半分身を乗り出した銀髪の少女の姿。

 屈強な男たちは荷台から次々と積み荷を引きずり落としている。


「だれか……!」


 往来を行く人たちはその姿に目を留めながらも足を止めることなく、素通りしていく。

 目に涙を溜める儚い少女の姿を見ても、誰も助けるそぶりはない。


「ローグ!行こう!」


 一目でわかる強盗の姿に、眠気は一気に吹き飛び、わたしは荷物も持たずに向かっていた。


「やめなさい、あんたたち!!」

「ちょ、エリサ……!」


 4人組の男たちの前に立ちふさがり、わたしは両腕を目いっぱい広げた。

 わたしの後ろを一歩遅れてついてきたローグが、後ろでオドオドしている。


「なんだァ?!お前!」

「強盗なんてやめなさいって言ってるの!」

「ギャハハ!止められるんなら止めてみなー?!」


 広げた腕は簡単につかまれ、ねじり上げられる。


「んぐっ!」

「ヒュー。いい女!先に犯っちまおうか?」


 つま先がかろうじて地面を掠める程度に吊り上げられ、痛みで嗚咽が漏れる。

 目出し帽の中の瞳が卑劣に光る。


「きゃっ!」


 地面に放り投げられ、派手に砂利の上を滑った。

 起き上がると四人の男たちに取り囲まれ、喉がひゅっと空吹く。

 周りの人はだれも助けてくれる様子はない。


「や、やめ……」


 四方から延ばされる太い腕に、喉からは声がうまく出てこない。

 ヨルは猫のままだし、ローグは頼りない。

 転生してからこんなのばっか。


 考えなしに突っ込んだ自分を呪いながら、わたしはぎゅっと目をつむった。


「ギャッ!!」


 突如、耳に響く野太い声と、何か大きなものが転がる音。

 目を閉じていてもわかる、立ち上る土煙の匂い。


「あ……れ?」


 おずおずと顔の前で組んだ腕を下ろすと、わたしを囲んでいたはずの男たちは地面に転がり、ローグがその体を踏みつけていた。

 鋭い眼光と、手のひらに握られた木の棒。


「エリサに手出したら殺す……」


 別人のように鋭い視線で見下ろして、ローグは聞いたことのない低い声で言った。


「ひ、ヒィッ!」

「命だけはッ!!」


 口々に叫び、男たちは足を絡ませながら転がるように逃げ去っていった。


「な、なんで?」

「エリサ!!!」


 何が起きたかつかめず目が点になっていると、ローグは木の棒を投げ捨てて駆け寄ってきた。


「だ、大丈夫?けがはない?」

「う、うん……。ローグは?」

「お、おれは大丈夫」


 駆け寄ってきたローグは突然オドオドしはじめ、言葉を詰まらせた。

 さっきまでのは別人なんじゃないかと顔が引きつってしまう。


「ローグが追い払ったの?」

「そ、そう、だね」


 ローグは他人事のように言って、わたしを立ち上がらせた。

 戦闘は得意ではないと言っていたから、こんなに強いとは思っていなかった。


「あなたたち!!」


 わたしがローグの豹変ぶりに困惑していると、馬車から少女が声を張り上げる。

 すっかり忘れていたが、あの子を助けようとしていたんだった。


「あっ……ええと、大丈夫だった?」

「ええ!私は大丈夫!本当に助かったわ!ありがとう!」


 銀色の肩にかかるほどのミディアムヘアをハーフツインにした少女は、高い声を張り上げた。

 少し吊り上がった大きな瞳と透けるように白い肌に、ライトグリーンのドレスが良く映える。


「お礼をさせていただくわ!何が欲しいかしら?」


 さっきまで助けを求めていたとは思えない堂々とした立ち振る舞いからは、お金持ちの高飛車な空気が漂ってくる。


「いや、そんな……」


 こういう人間とはあまり関わりたくない。

 わたしが遠慮して断ろうとすると、いつの間に近くにきたのか、ヨルがひょいと肩に飛び乗って囁いた。


「街に入れてもらえ」

「は?」


 聞き返すと、余計なことは言うな、と首筋に爪を掛けられる。喉元掻き切るおつもりですか。


「どうしたのかしら?」

「あの……。わたしたち、フォートに入りたくって……」


 喉元に突き付けられた爪に緊張しながら、わたしはおずおずと声を出した。


「なんだ、そんなことならお安い御用よ!乗りなさい!」


 少女は胸を反り返らせて笑った。

 あまりにもスムーズな顛末に、わたしは頬をひきつらせた。


「まさかとは思うけど……あんた、仕組んだ……?」


 ヨルのことだ、フォートに住む貴族をわざと襲わせ、それを助けた見返りに街まで入れてもらう、なんて筋書きを用意していたっておかしくない。


 小声でヨルに聞くも、そっぽを向いてどこ吹く風。

 その態度を見れば、疑念は確信に変わる。

 こいつ、目的のために手段を選ばないタイプの男か……!


「どうかしましたの?」

「あ、いえ、なんでも!」


 少女は幼い声でわたしの顔を覗き込み、早く馬車に乗るように促した。

 思ったより広い車内には、ふかふかの真っ赤なクッションが敷かれ、土足で乗るのが躊躇われるほど。


「名前を聞いてもいいかしら?」

「ごめんなさい、名乗りもせずに。エリサです。さっき暴漢を倒したのがローグで、この猫はヨル。あなたは?」


 なれない馬車に身を縮こまらせていると、少女は扇子で顔の下半分を隠して言った。

 おそらくは、わたしたちが泥臭いせいだろう。


 オドオドするローグに代わって紹介すると、少女は扇子をパン、と閉じて甲高く声を張り上げた。


「私はシャルロッテ・ワイズマン!シャルで良いわ。フォート一番の大金持ちの娘よ!」


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