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21.出発

 

「それでは、最終審査の発表の時間です!予選を勝ち上がった美しい面々にご登場いただきましょうー!!」


 軽やかなBGMに乗せて、華やかな恰好に身を包んだ女性たちが舞台袖から現れる。

 もちろん、先頭を歩くのはルイスだ。


 借金がチャラになった以上、美女コンテストに固執することないかな、とブレスレットを返すと、優勝はするよ?とけろりと言われた。何とも逞しいことだ。


 白地にレモンイエローのリボンをあしらったショートドレスは、ルイスのはじけるような笑顔を引きたてる。

 そこらのアイドルよりよっぽど愛らしい姿に、わたしでさえハートが奪われそうになった。

 当然、舞台の最前列にいるアランなんて、もっとだろう。


「まずは、第3位の発表から!!!」


 くりくりとした目をきらきらと輝かせ、わたしたちに向かってウインクを一つ。

 名前が呼ばれるのは最後だと分かっている顔だ。



「栄えある優勝は―……!」



 ◇ ◇ ◇ ◇


「おめでとう、ルイス」

「ありがとうね、エリサ。あなたがいなかったら、優勝できなかった」

「いやいや、実力でしょ」


 優勝目録の10万ゴールドをひっさげて店に帰ってきたルイスを抱きしめる。

 ゆるく巻かれたピンク色の髪の毛が頬にあたってくすぐったい。


「惜しかったね、エリサ」

「全然惜しくないって。恥かいただけ」


 結局、わたしは一般の部の予選を通過することはなく、参加賞の焼き菓子を片手に、優勝インタビューを受けるルイスを置いて先に店に帰ってきたのだ。

 店に集まったナバムさんをはじめとする常連の皆さんも口々にお祝いだと酒を口にする。

 みんな上機嫌に酔っ払い、顔が赤い。



「おめでとうございます、ルイスさん」


 ゆったりとしたリズムで手を数回たたき、ミムズが現れる。

 ダークグレーのスーツは相変わらずしわ一つなく、ぴっちりと固められた髪型からは嫌味ったらしさを感じる。


「ミムズさん」


 その場に一瞬だけ走った緊張感は、ルイスの笑顔ですぐにかき消された。


「来てくれてありがとう!」

「私なんかが、よろしいのでしょうか」

「よろしいのよ!」


 ふざけた口調でニシシと歯を見せ、ルイスはなみなみとお茶が入ったジョッキを高々と掲げた。


「今日はみんなに報告があります!!」


 なんだなんだ、と全員の注目が集まり、ルイスはニコニコと微笑んだ。


「今日、私は美女コンテストで優勝しました!これがその賞金です!」


 拍手とともに歓声があがり、一瞬にして店内は祝福ムードに染まる。


「そして、これであのバカ親父の借金は返し終わりました!」

「そんな、いただけません!これまで迷惑をかけてきたんですから……!」

「お金の借りっぱなしなんて、私が嫌なの」


 ミムズの胸元に賞金を押し付け、返そうとするミムズの手を振り払ってルイスは続けた。


「でも……」

「そのかわり、前みたいにまた、ご飯食べに来てよ」


 渋るミムズにパチン、とウィンクを投げ、ルイスはニヤリと笑った。


「私とおばーちゃんに、ご飯おごってくれてもいいんだからね?」

「……本当にあなたは、頭のキレる……」


 苦笑いで頭に手を乗せると、ミムズは天井を仰いだ。

 ここで受け取りを拒否しては、借金の試練を乗り越えた彼女の努力を踏みにじることにもなる。


「わかりました、受け取りましょう。今夜は私のおごりです!」

「うおおおお!」


 ミムズの気前の良い発言に、おじさんたちは口々に雄たけびを上げた。

 ルイスが優勝報告した時よりも野太い叫び声に、ルイスは拗ねた顔で唇を尖らせた。


「ちょっとぉ、まだ報告は終わってないのに」

「スマン、つい」


 勝手に乾杯をし始めたナバムさんはアルコールで赤く充血した目を眠そうにこすり、へらへらと笑った。


「ま、いっか。みんな酔っちゃったし」


 真っ赤な顔でどんちゃん騒ぐおじさんたちを前に、ルイスは白い顔を膨らませてわたしのほうに向き直った。


「なにを言おうとしたの?」

「うふふ」


 口元に手を当て、ルイスは顔を綻ばせた。


「プロポーズされたの」


 わたしの耳元にそっと口を寄せ、ルイスは小さな声でそっと声に出した。


「ええっ!!?」

「しーっ!」


 びっくりしてアランとルイスを交互に見比べる。ルイスはにこにこと嬉しそうに目を細め、横に座っていたアランは水ばかり口にして、額に汗をにじませている。


「エリサにだけ、報告ね」

「えっ?!いつ?なんて言われたの?」


 ゆでだこみたいに真っ赤になっているアランをちらっと見て、ルイスは肩をすくめた。


「うふふ、ひみつ」




 おじさんたちは酔いつぶれ、騒ぎ疲れて寝たルイスとアランに毛布を掛けていると、ヨルがどこからともなくやってきた。


「そろそろ行くぞ」


 ルイスが優勝するところを見届けるまで、そう約束して出発時間を延ばしてもらっていたのだ。

 むしろ一緒にお祝いするまで待ってもらえるとは思っていなかった。

 ヨルはいじわるに見えて実は優しいところもある。


「ああ、エリサさん。あなたにひとつ、贈り物を」


 ミムズは全く酔っぱらっていないのか、顔色一つ変えずにわたしの肩を叩く。


「これって」

「その恰好じゃ長旅には向かないでしょうから」


 底の厚いショートブーツに、体のラインがくっきりわかるシャツとミニスカート。


「洋服は私の趣味ですけれど」

「……」


 にやり、と眼鏡を押し上げて笑うミムズに、若干引きながらもわたしはもらった服にありがたく袖を通した。

 ルイスの服を勝手にもらって出ていくわけにはいかないなと思っていたところだ。


「それとこれを。あなたの体力じゃ道中不安でしょうから」


 ずっしりと重みのあるカバンを受け取ると、これでもかというほどポーションが詰められていた。


「ありがとうございます!」

「早くしろよ」


 受け取ったカバンに荷物をまとめるわたしを置いて、ヨルは先に外へ出ていく。

 これ以上待つつもりはないらしい。


「お嬢さん」


 最後にみんなに一礼して出ていこうとすると、ミムズに腕を掴まれた。


「わっ」


 瞬間、鼻を掠めるオーデコロンと、薄い胸板から伝わるぬくもり。

 回された腕は頭を柔らかく包み、横顔にそっと息が吹きかかる。

 ばくばくと早鳴る心臓が煩い。


「み、ミムズさ……」

「彼には気をつけて。あなたに隠し事がたくさんあるようですから」


 抱きしめられた事実に顔を真っ赤にしていると、ミムズはわたしの耳元で低い声でささやいた。


「彼って……」


 熱を持った耳元を抑え、わたしは慌ててミムズの腕から離れた。

 くらくらしてどうにかなってしまいそうだ。


「もし何かあればいつでもここに来てください。愛人の枠、開けておきますから」

「~っ!!」


 そんなわたしの様子に満足そうに笑い、ミムズは小さく手を振った。


 こんなことにドキドキして、ばかみたい。

 ずっと激しく主張し続ける鼓動に、羞恥で顔から湯気が出そうだ。


「さようなら、素敵なお嬢さん」


 何も言えず、わたしは逃げるように店を飛び出した。


「お前、なんでそんな顔赤いの」

「う、うるさいなっ!酔いがまわったのよっ!」


 地面でヤンキー座りをしていたヨルのフードを掴み、わたしはずんずんと進む。

 本当は一滴も飲んじゃいないが、このくらいのウソはつかせてほしい。


「行くわよ!次の街に!」


 呆れ顔で息を吐き、ヨルは半歩後ろを歩く。

 月あかりが眩しい。


「で、どこに行くの?」

「言ってなかったっけ?」

「聞いてないって」


 街から出る唯一の門をくぐったところで、次の目的地を聞いていないことに気づく。

 すっとぼけた表情のヨルは、ちら、と門の後ろに視線を送った。


「ちょ、ちょっと、ま、待って……!」

「ローグ!?」

「やっと来たか、おせーぞ」


 大きなリュックを肩に担いだローグが、ぼさぼさの髪の毛を振り乱して走ってきたのだ。


「え、なんで?」

「一緒に行くって、や、約束しただろ……!」

「あ、忘れてた」


 ぜえはあと息を切らし、ローグは困り果てた表情でわたしに詰め寄る。

 どうやってスキルを奪ったのかも、戻し方すらもわかっていないんだった。


「スキル、も、戻してもらうまで……は、離れないからな!」

「だとよ」


 固まるわたしをよそに、すべてわかっていたかのようにニヤリと笑って、ヨルは先頭を歩き始めた。


「行くぞ、お前ら」




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