17.おたのしみ
「あなたまで一緒に来ていたとは、驚きですね」
真っ赤な顔に流れる汗。姿を見せたわたしに、ミムズはおやおや、と目を丸めた。
ここにローグだけでなく、わたしがいることまでは想定していなかったのだろう。
「もー、お預けなんですけど」
頬を膨らませ、ロキは怒り心頭のままひょいと机から飛び降りた。スカートの裾からちらりと覗く太ももがきらりと光って麗しい。
「人の家に侵入して盗み聞きですか。感じが悪いですねえ」
「あんたに言われたくないわ」
「ミムズ様、処分しますか」
ロキに乱されたズボンを表情筋ひとつ動かさずに持ち上げ、ギルゥはミムズの前に立った。
ローグは顔を赤くしたまま慌てふためき、なんの戦闘力にもならなさそうだ。
「ギルゥはせっかちですねえ」
前に立ったギルゥを押しのけ、ミムズはわたしの前に迷いなくまっすぐ進んできた。
わたしなどが、自分に危害を加えるはずがないと確信している目だ。
「今日のお洋服も、とても素敵ですよ」
「どうも」
やわらかく微笑んだ瞳は笑っていない。
頭のてっぺんから足の先までぬるぬると舐めるような視線に吐き気がする。
「愛人の件、お考えいただけました?」
「お断りします」
「なぜですか?」
ぴくり、と眉根をほんのすこしだけ動かし、ミムズは微笑みを口元に残したまま続けた。
「不自由な暮らしはさせないと自負しているのですがね」
「あんたみたいに汚いことする人間の愛人、死んだって嫌!」
わたしが中指を立てるのと、喉にナイフが突き立てられたのはほぼ同時で。
うすく切れた首筋から血が一筋流れていくのを感じる。
アドレナリンがドバドバ出ているせいか痛みは全く感じないが、脈うつ鼓動が頭いっぱいに響いてくる。
「穏便に済ませたかったのですがねえ」
ミムズはそう言い、眼鏡を中指で押し上げた。
後ろ手に組まれた腕は固く留められ、身動きが取れない。
「え、エリサを放せ!」
わたしの後ろに隠れていたローグがギルゥに飛びかかるも、足を払われ、べちゃっと音を立てて顔から床にダイブしていった。
「あんたの相手はあたしがしてあげる」
転がったままロキの長い脚でみぞおちを踏まれ、ローグは悶え転がった。
ポケットの中から紫色をした怪しげな液体の入った小瓶を取り出し、ロキは口角を不気味に持ち上げた。
「うぐっ」
「ローグ!」
「そっちの心配をしている余裕はないと思いますけれど」
「っ!」
頬を掴まれ、無理やり合わせられた視線の先で、ミムズの眼鏡がライトを反射して揺れた。
ギルゥから受け取ったナイフが、シャツの胸元に差し込まれる。
無機質なナイフの冷たさに、鳥肌が立った。
「や、やめ」
「ふふ、その顔もそそりますよ」
ほんの少し引き下ろしただけで、びり、と簡単に布が裂ける音が部屋に響いた。
ワンピースは胸元を裂かれただけで簡単に肌を滑り落ち、下着だけが取り残される。
恥ずかしい、よりも先に、ルイスの服なのに、ということが頭をよぎった。
「下着は白派なのですね」
「変態」
赤い舌をのぞかせて恍惚とした表情を浮かべるミムズを見上げ、わたしは畜生、とギルゥに掴まれた腕をじたばたと動かした。
「エリサ!」
「ちゃんとあたしの方見なよー?」
「うあっ」
心配して声を上げるローグの肩に針を刺し、ロキはつまらなさそうに言った。
彼の上に馬乗りになったまま、小瓶から針を出してはくるくると指先で回している。
「これはー、キモチよくなるお薬がたーっぷり塗ってあるの」
「ひ、ぐ」
「もう一本刺しとこ!」
ひょい、とローグの右腕にもう一本刺して、ロキはけたけたと楽しそうに笑った。
「おかしいなー、まだ効かないの?」
「ふ、う」
ロキにぐりぐりと股を押され、ローグは目に涙を溜め、唇から血が出るほど強く噛みしめている。
「めんどくさいなぁ。あんまり刺すと不能になっちゃうから嫌なんだけど」
「ぎゃっ」
ロキはそういって残りの針をいっぺんにローグの腕に刺し、針が入っていた小瓶を放り投げた。
転がってきたそれには、紫色のまさに、といった書体で媚薬の二文字が躍る。
「つまんないなー。ギルゥ、薬効くまで続きしない?」
「論外」
「ちぇっ」
痛みと薬の効果で悶絶するローグを横目に、ロキは立ち上がって大きく伸びをした。
細いウエストからへそがちらりと覗く。
「ローグ大丈夫!?」
「あなたはご自分の状況がわかっていませんね?」
「ひゃっ!」
背中に回された無骨な指先が探るように動き回り、ぷち、と背中に止められていたホックが外される。よどんだ空気が胸元を流れていく。
ひんやりとした床の温度が背中に伝わり、下着がハラりと床に落とされた。
「こんなことして、絶対に許さないんだから!」
「フフ、負け犬ほどよく吠える」
ミムズはそう言ってナイフを床に置き、あらわになったわたしの腹部に指を這わせた。
ぞぞぞ、と指が通ったところから円を描くように鳥肌が広がっていく。
「ひゃ、あ!」
「感度はよろしいみたいですね」
「ふぅ……っ」
ぞわぞわと粟立つ鳥肌に、口からは声が漏れる。
視界が涙でぼやけてきた。悔しい。なんでこんな声が出るんだ。
必死に唇をかんで耐えるも、鳥肌が止まらない。
「アハッ!どうしたの?!あのバカ女の声聞いて反応しちゃったんだ!?」
「ち、ちがっ」
「やっぱり童貞って想像力がたくましいね!」
刺された針の痛みと効いてきた媚薬の快楽とでのたうち回るローグを見下ろしていたロキは、彼のわずかな変化を見逃さず、きんきんと悪役さながらの高笑いを上げた。
「すっごい立派!」
「むぐ……ッ」
ローグのズボンに素足の指を這わせながら、ロキは短いスカートから下ろした下着でローグの口を塞いだ。
むこうの心配をしている場合じゃないが、破廉恥展開に意識が吹っ飛びそうだ。
「もっとたくさん焦らしてあげるね!あたし、お楽しみは最後まで取っておく派なの!」
嬉しそうにローグの上にまたがったまま腰を前後に振ってロキは笑った。
「ミムズさん、早くそのバカ女ヤッちゃってよ!こいつ、その女に惚れてるから!」
「あなたは本当に趣味が悪い……」
「そう?美少年が絶望に落とされる顔が一番綺麗だと思わない?」
口元からこぼれるよだれを腕で拭う仕草に寒気がする。
「ほら、ちゃんと見てなさい!あんたの好きな女が犯されるとこ!」
「んん!!」
ローグの前髪を掴んでわたしのほうに首を向けさせ、ロキはバキバキにキマッた目で叫んだ。
ばちん、とローグと目が合い、わたしは目を逸らした。
「勘違いしてほしくないのですが、私は嫌がる女性を組する趣味はないのですよ……。ふむ、ちょうどいいですね、ギルゥ、解放してしまいなさい」
「承知しました」
ミムズの指示と同時に腕が引かれ、背中にゴリ、とギルゥのそれが当たった。
なんてことない顔をしていても下半身は素直で、ロキに散々弄ばれて固くなったそれは布越しでもわかるほどに熱を帯びている。
「ひっ!」
首筋に這わされた舌の感触に腰が浮く。
やばい、やばい、やばい!!
ヨルは全然来る気配ないし、ローグは倒れてもごもご言っているだけだし、わたしの力じゃ何もできない!
心臓は爆発しそうなくらい早く打ち付け、恐怖で目の前が真っ白だ。
ズボンのファスナーが下ろされる音が、ずいぶん長く感じる。
「大丈夫、彼は上手ですから」
耳元で囁くようにミムズはニッコリと微笑み、ひゅっと喉が鳴った。
後ろに組まれた腕が強く引かれ、腰に当たるそれは一層重量を増している。これから起きることの恐怖で目の前がチカチカする。
「~っ!!」
汗と涙とでぼやける目をぎゅっと瞑り、わたしは唇をキツくかみしめた。
「やめろぉっ!!!」
来ると思った衝撃は、ローグの怒鳴り声とともに吹き飛んだ。
突然の大声に腕を掴む力が緩まり、わたしは前に倒れるようにしてギルゥの腕から逃げ出した。
「ちょっ!なんで動けるのよ!?」
ローグに吹き飛ばされたロキはバク宙しながら着地して、目を丸くした。
「だ、大丈夫!?」
「うん……!ありがとう……!」
腕に針が刺さったままに、ローグはわたしを抱きかかえて軽やかにミムズたちから離れた。
「これ着て、逃げろ」
視線を逸らし、マントをわたしに掛けるとローグは腰に下げていた短刀に手を掛けた。
「でもそれじゃローグが……!」
「大丈夫だから!」
ローグは切りかかってきたギルゥのナイフを受け止め、わたしのほうを見ずに叫んだ。
キンキン、と刃と刃のぶつかりあう音。
飛び散る汗と薄暗い部屋に舞う埃。ギルゥに圧されながらもローグは必死に抵抗している。
ここで逃げたら、ローグが殺されちゃう……!
それに、さっきの衝撃で足が震えて一歩も動ける気がしなかった。
「ブレスレットはおれが必ず取り返すから!」
「甘いわね!あんたはあたしが殺すのよ!」
震える足を叩き、這うように扉の外に出ようとした瞬間、ロキの甲高い声とともに床の大理石が割れるほどの爆音と衝撃が走る。
「ちょっと、部屋を壊さないでくださいよ」
「こんなのすぐ直せるでしょ?」
振り向けば、さっき投げ捨てていたあの大剣が地面に突き刺さっていた。
「二対一なんて卑怯だよ!」
「あんたも入れたら二対二でしょ?ミムズさんは見てるだけなんだから」
ロキはにやりと笑って突き刺さっていた大剣を肩に担ぐ。
リーチの長い大剣からくる斬撃と、間合いを詰め次々と繰り出されるナイフの攻撃を、ローグ一人で受け止めきれるわけがなく。
一度でも食らえば脳天カチ割られる大剣の一振りだけはなんとか避けるも、ギルゥの攻撃が徐々にローグの肌に傷をつけていく。
「わたしが戦えるわけないでしょ!!」
「そんなのは言い訳にしか過ぎないわ、ねッ!」
わたしの頭に向って一直線に振り下ろされた大剣をローグが蹴り飛ばし、ダァン!と大きな音を立ててわたしの肩を掠めた。
「っは……!」
蹴り飛ばした反動に見せた隙をついたギルゥの刃がローグの腹に突き刺さり、ローグは血を吐いて床に転がった。
じわりと滲む血がシャツを赤黒く染めていく。
「大丈夫?!」
「は、やく、逃げて……」
わたしがモタモタしていたせいだ。
ローグ一人だったら、かばって刺されるなんてことなかったはずなのに。
罪悪感とふがいなさとで目の奥がつんとする。
「あら、もう終わり?なっさけない」
「情けなくないわ!寄ってたかって弱い者いじめよ!!」
「だからぁ。あんたを入れたら数は一緒でしょ、ほんとバカな女ね」
「くっ……!」
ロキはしゃがんで転がるローグの前髪を掴んで持ち上げ、その首筋に剣を当てた。
朦朧として力なくされるがままにされるローグ。ロキの足に縋り、なんとか引き留めようと力を込めるも、簡単に蹴り飛ばされてしまった。
「ホントはもっと遊びたかったんだけど。ま、もう勃たないだろうし、バイバイ」
ふっ、と振り上げた大剣が、ローグの首にめがけて下ろされる。
時間がゆっくり流れ、見ていられずに目をつぶった。
「え……?」
ガキン、と首が飛ぶのとは違う金属音に、ロキの素っ頓狂に力の抜けた声。
恐る恐る開いた目の先で立っていた彼の姿に、耐えていた涙腺は安堵で決壊した。
「選手交代の時間だな」
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