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15.わたしのスキル

 

「す、スキルがなくなってる……!」


 ようやく泣き止んだばかりのローグは、ステータス画面を確認するなり膝から崩れ落ちた。

 スキル解除の号令とともにわたしの姿は元に戻り、ローグはわたしに掴みかかってきた。


「か、返してよ!お、おれのスキル!!」

「返し方わからないんだって……!なんでスキルが発動したかもわからないのに……」

「そ、そんな……」


 わたしの肩を掴んだままわなわなと体中を震わせ、ローグはこれまでで一番はっきりと吠えた。


「ふざけんなよ!童貞だけじゃなくスキルまで奪うのかよ!!!ビッチってやつは!!」

「えっ……と、なんて?」


 ローグの言っている意味が分からず、しどろもどろしてしまう。

 童貞なんて奪った記憶はないんだけれども。


「もしかして……お前、スキルが発動したタイミングは?」

「……ローグに触った時、かな……?」


 ヨルはまじめな顔でしばらく思案し、


「まじかよ……お前、あれでイッたのか」


 行った?どこに?言った?何を?逝った?誰が?

 真顔のヨルが発した言葉が、正しく変換されるまで1分弱。


 わたしとローグは、ぼんっと湯気が上るほどに顔を赤くした。


「な、な、何言ってんの?!」

「違う?今さっき童貞捨てたんだろ?」

「~っ!!」


 言葉にならない声を上げてのたうち回るローグのよこで、呆然と立ちすくむわたし。

 ヨルはそんなわたしたちをよそに、顎に指をあてて物憂げな表情だ。


「よし、お前ら、もう一回ヤってみろ。スキル返せるかもしれないぜ」

「「やだよ!!!」」


 わたしとローグは同時に叫び、顔を見合わせる。

 定かではないが、尤もビッチらしいスキル発動条件。それが相手をイかせることだったとしたら。

 そんなの絶対やりたくないんですけど!!ぶるぶると首を横に振り、わたしは頑として突っぱねた。


「そんなセクハラ、もうやらないわよ!!」

「返すなんて甘いこと言って、今度は何を奪うつもりだよ!やだよ!!」


 わたしに続き、ローグも首を振る。

 膠着状態になったわたしたちを見て、ヨルははあ、とため息をついた。


「オレは別に、お前のスキルをあいつが盗ったままでも問題ないんだぜ。でも、それじゃ困るのはお前だろうが」

「で、でも……返し方、ちゃんとわかってないんだろ……。そんな博打、乗れないよ」

「じゃあスキルの戻し方がわかるまで待っててくれんのかよ?いつになるかもわかんねえぜ」

「それは……そのままトンズラすることだってできるじゃないか」


 どもらず喋れるようになったローグは、きっぱりヨルに言い返している。


「だったらスキルの返し方がわかるまで見張ってろよ」

「え?」


 ヨルはにやりと口端を上げると、鼻を鳴らして言った。


「一緒にパーティ組みたいんだろ?ちょうど良いじゃねえか。返してもらうまで一緒にいれば解決だろ」

「い、いいの……?」

「別にいいぜ。お前、あいつよりは使えそうだし」


 あの顔は、何か企んでいる顔だ……。

 ヨルに一緒に旅をしたらいいと言われ、ローグはすっかり毒気を抜かれている。


「じゃ、じゃあ、さっそくパーティ抜けてくる!!」

「ちょっと待って!一緒に旅するのは別にいいけどさ、そんな簡単にパーティ抜けていいの?あんたたち四人、幼馴染なんでしょ?もともとは仲良かったんじゃないの?」


 いくら今仲が悪いとはいえ、最初から仲が悪かったわけではないだろう。

 喜び勇んで進もうとしたローグを抑えると、さっきまで明るかった顔が少しずつ暗くなっていく。


「幼なじみなのは、ジレットとセーブルとおれの三人だよ……」


 シグナルは、ファイターのジレット、魔法使いのセーブル、そして暗殺者のローグの三人で組んでいた幼なじみ三人組のパーティだった。


「なのにあいつら、荷物持ちが必要だからって……あんな女連れてきやがって」


 爪が手のひらに食い込むほどに拳をきつく握り締め、ローグはふつふつと煮えたぎる怒りを一言一言ぶつけるように吐き出した。


「ん?ロキが荷物持ち?剣士じゃなくて?」

「あの女の職業は荷物持ちだよ……」


 大きな剣を振り回して戦っていた姿からは、荷物持ちとは想像できなかった。

 ロキは『マジックポッケ』という重量も体積も無視して荷物をポケットにしまえるというスキルを持った、正真正銘の『荷物持ち』。

 戦闘特化の男三人組が、荷物持ちと少しの華やかさを求めてパーティに招き入れた彼女は、冒険に出るなら剣士以外やりたくないとごね、ローグに荷物持ちを押し付けた。

 それどころか、早く冒険に出ようとしていた彼らを引き留め、彼女が剣士として冒険に出れるレベルになるまでスライムを倒し続ける日々を強いたのだ。

 そんなワガママがまかり通ったのは、ジレットとセーブルがロキの味方についたからで、その理由は至極簡単で、ロキがあの二人とだけ寝たから。


「そんなパーティ、抜けりゃいいじゃねえか」

「い、言ったさ、そんなこと、ずっと前に」


 ヨルが呆れたように言えば、ローグは顔を赤く染め、荒い息で続けた。


「む、無理なんだ。ロキにギルドカードとられてて……。返してほしかったら言うことを聞けって、それで、ずっと」

「再発行できないの?ロキにとられたって言えば」

「リーダーのロキが持ってるって、ギルドに言ってるんだ。ロキはリーダーだよ。信頼されてる。お、おれの言うことなんて、だれも信じてくれない……。」


 ギルドカードがないと任務は受けられないし、パーティも組めない。

 失くしたと言えば再発行はできるけれど、ロキが持っていると言っている以上はできない。

 いつかロキが返してくれるまで彼女のご機嫌取りをする以外に、ローグにできることはなかった。


「き、君のカバンだって、あいつに言われて盗ったんだ」


 ローグは指先のささくれをむしり取りながらぶつぶつと呟く。


「こ、これが最後だって。か、解放してくれるって、いうから」


 こんな小心者が、盗みなんてできると思えなかった。やっぱり、黒幕が居たんだ。

 ただ、あの女がなんでわたしのカバンなんかを。

 美女コンテスト一位のルイスを潰そうとしたんだろうか。潰したとて自分が優勝できるとも限らないのに。


「よくわかった」


 辛そうに肩を震わせるローグの肩に手をのせ立ち上がった。


 幼なじみには裏切られ、やりたくもない盗みなんてやらされ、パーティも抜けられず。

 そんな不幸な人生があってたまるか。

 ローグがかわいそうで、心臓がぎゅうっと握り締められるよう気がした。

 息が苦しくなって、鼻の頭がつんと熱くなる。


「わたしたちとパーティを組もう。あんなやつら、こっちから捨ててやろう!」

「う、うん!」


 ローグはわたしの顔を見てぱぁっと顔を明るくさせ、紅い瞳を輝かせる。


「でもその前に、カバン返してくれない?ルイスにブレスレット渡さないと」

「あ……、ごめん、それなんだけど……」


 ローグは言いづらそうにもじもじと俯き、


「ブレスレットだけ、ロキに渡しちゃった……」

「なんで!?」

「こ、この巾着……ロキのポケットと繋がってて」


 おずおずと差し出された黄色い巾着。

 ロキのスキル『マジックポッケ』をかけたポケットの中に入っているものは、ロキのポケットにつながっているらしい。ただし、取り出すのはロキしかできない。


「不思議なスキルね……」


 猫型ロボットが不意に頭をよぎり、首を振って振り落とす。


「まあいいわ。どうせロキ達みんな一緒にいるんでしょ。ブレスレット返してもらって、パーティ抜けて終わりにしましょう」

「じゃあオレは帰って寝る……」

「あんたも来る!」


 一人帰ろうとするヨルの首根っこをひっつかみ、わたしたちはシグナルの拠点、ジレットの家に向かったのだった。


 ***


「はァ?!パーティを抜ける?」


 ジレットの家に着くなり、開口一番で脱退宣言したローグに、あっけにとられたのはジレットのほうだった。

 姿を消して横で見守っていたわたしに気づくはずもなく、ジレットは悪態をつき続ける。


「許すわけねえだろ」


 まさか本気でパーティを抜けるとは思っていないのだろう、余裕さえ感じられるその口調に、ローグは語気を強めた。


「ろ、ロキが言ったんだ!これが、最後だって……!ずっとお前らのいうこと聞いてきた!もういいだろ!」

「本当にロキが言ったのかよ?」

「ホントだよ……!」


 証拠はないけど……とわざわざ自分の不利になる言い方をする馬鹿正直なローグ。


「フン、そういうことは本人がいる前で言えよ」

「じゃ、じゃあ、ロキがいいって言ったら、いいんだね?!」


 鼻で笑って出直してくるよう手を振ったセーブルの顔は、ロキが許すはずがないと自信ありげだ。


「ロキは?ど、どこにいるの?」

「ミムズさんとこだよ」

「わ、わかった!連れてくる!」


 ローグはジレットの家に踏み入れることなく、そのまま踵を返した。


「大体、おまえみたいな姿を消すしかできない荷物持ち、だれがパーティに入れてくれるってんだよ」

「え、エリサが、一緒に組んでくれるって!言ったんだ!」

「はあ?!あの美人が?!」


 ジレットとセーブルは顔を見合わせ、そして腹を抱えて爆笑し始める。


「おまえ、そんなの揶揄われてるだけだぞ!」

「そうだよ、やめとけって!童貞には不釣り合いだよ!」

「う、うるさい!」


 ぴたり、動きを止めてローグははっきりと言った。

 これまで一切口答えせずにいうことを聞いてきた、あの気の弱い彼は、もうそこにはいなかった。


「お、おれはもう、童貞じゃない!!」

「え……?」


 目を丸め、呆然とするジレットとセーブルにはっきりと向き合い、ローグは胸を張って声を張り上げた。


「童貞はさっき、捨てたんだ!!!」


 そう言って走りだしたローグの後ろで、あっけにとられた二人は一言も声を出せないままその場に取り残された。


「捨ててないけどね」

「今は言ってやるな」


 駆けだしたローグを追いながら、声を潜めてつぶやくと、ヨルは小さく笑った。

 わたしも笑いが止まらなかった。



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