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1.完璧な理論には

 僕の理論に間違いは無かった。これを完成させられれば時間を止められる。


 研究室で僕は今日もいつもの研究に没頭していた。


 理論の正しさを確信してからというもの、寝る間も惜しんで研究に没頭した。


 そして、この他に類をみない素晴らしい理論を、やっとのことで完成させ発表するに至った。


 その内容とは『右脳と左脳を最大活用した並列思考、それを直列思考に置き換えることで思考を最高速化する。思考と時間の進みを同じ速度にすることができれば特殊相対性理論上、時間を止められる。』というもの。


 この天地をひっくり返すような革命的な理論は、皆に賛美されるものと思っていた。


 しかし……


 「そんなことできるはずが無いだろ」

 「何言ってるんだ、意味が分からない」

 「は?」


 予想に反して僕の理論は皆に馬鹿にされ、笑われることになった。


 だが、僕にはできると確信があった。だって、この理論に不備は無いのだから。


 成果をレポートで提示しても教授にはそんな研究今すぐ辞め既存の医療を改良する論文を書くことを強要された。

 辞めなければここでの研究はさせない、今すぐ出ていけ!と言われてしまったのだ。


 教授は、何故だか怒っていた、何故だわからないこれは完璧な理論なのに。


 それからといもの、後輩達には変わり者だと後ろ指をさされ、僕に聞こえる声のトーンで陰口を叩かれている。


 だがこれはおそらく、ただ真に皆が理解できていないだけだろう。地球が丸いことを理解されていなかったのと一緒だ。


 結果を出せば誰も文句を言わないはずだ。机上の理論を成功させれば良いのだ。


 この理論の特性として、脳の思考を高速化させるだけで良い。

 初めから最後まで脳内で完結できる理論であるため必要な機材もない。僕の脳内では完全に理解できている、そのため実験はすぐにでも可能だ。


 検証はしてないが。おそらく、危険は無い……と思う。


 僕は意を決し、試してみることにした。


 理論に合わせて思考の構成を組み上げていく。


 頭が熱くなる様だ、マルチタスクを僕の脳が行う。


 脳内に電気が駆け巡った。


 すると、すぐに結果を理解できた。


 壁に掛かっている時計の秒針がとてもゆっくりと動いてたのだ!


 換気扇の羽が回る速度も遅くなり、周囲の時間の流れがだんだんゆっくりとなっていた。

 現実時間よりも僕の脳内の時間が加速しているのだ。


 そのまま思考を最高速化させて、時間を止めてみようと試みた。


 そして、当たり前のことだが……


 成功した。


 それはそうだろう、僕は完璧な理論を組み立てていたのだから。


 この理論で()()()()()()のは間違いなかった。


「んー」


 しかし……


 時間を止めたが、僕は動けなかった。


 指先の、先端の、その先っぽすら動かない。


 それ以前に、時間を止めた時点で目の前が真っ暗になっていた。目蓋は開いているはずだ、だが、何も見えない。


 しかし、すぐに原因が分かった。それは光も止まっているからだ。

 眼球に光が入らなければ何も見えない。そして、その眼球すらも動かない。


 それに音も聞こえない。それも理解できる。空気も止まっているのだから、空気の振動が無ければ鼓膜は音を伝えない。


 息も止まっているが苦しくない、それも理解できる。心臓も止まっているのだから、酸素も必要ない。


 止まっている時間の中はできないことばかりだった。何かできるようにならないかと、何度も時間を止めた。


 何度も何度も、何度も、何度も時間を止めた。


 そうして、ついに成果が出る。


『止めていられる時間が伸びた』のだ。


 初めての変化に進歩したように感じた。


 だが、それだけだった。


 できたことは、


『止めていられる時間が伸びた』


 ただそれだけだった。


 止まった世界で、僕は世界に干渉することができない。


 故に、


 結果が出ない。否、結果が誰にも分からない。


 誰にも理解されない。否、誰にも理解できない。


 恐らく、誰にも観測できないだろう。


 だって、僕しか時間は止められないのだから。


 でも、時間を止められたことは世紀の大発見だ。直ぐに成功したことを教授には伝えねば!


 教授室へ走り、ノックもせず扉を開け報告する。


「時間を止めることに成功しました!」と言った。


 すると、


 二つ返事で僕は研究所を追い出された。


「ただ、時間が止まったことは僕にしか分かりませんが」


 と、思い出したかのように続けて言った言い方が悪かったのかもしれない。


 たしかに、時間を止める理論に不備は無かった。だが、それ以外のことには不備しか無かった。


 時間を止めることに思考のリソースが取られ過ぎていたようだ。僕は他のことに頭が回っていなかったのだ。


「んー」


 今ならちょっとだけ考えが足りなかったことを理解できる。


 研究所を追い出されてしまったのは痛手だ。


 今、僕にできることは時間を止めることだけだ。


 物心がつき、時間の概念が分かり始めた時から、それ以外のことに興味が無かった。


 数学、物理学、哲学以外はからっきしだ。むしろ、研究施設に就職できたことすら奇跡だ。


 バイト経験も就活経験も、料理をしたこともお米を研いだことすらない。


 僕は焦っている。冷静に考えているつもりだが、焦っている。


 多分、このままでは飢え死にするかもしれない。


 今、僕にできることは一つだけだ。


 とりあえず、時間を止める。


 ん〜


 やはり、真っ暗で動くことができない。


 僕だけの世界。


 時間はある。時間を止めて考えた。何をするべきか。


 飢え死にしないことが一番かな?


 時間の研究をしたいが、それは命あってのものだ。


 そして、思い出した。


 ーーそうだ、僕は死にたくなくて時間を止めたかったんだった。







 ベッドに横になっている透明で細長い管が繋がっていた僕。




 まだ六歳だった。




 母と病室に居た僕、原因不明の病気で体がだんだん動かなくなっていた。僕の命はもう一ヶ月もないとお医者さんが教えてくれた。


 その事実に僕は衝撃を受けた。あと一ヶ月しか生きていられないなんて、どうして


 しかし、母は驚いておらず泣いていた、前から知っていたみたいだ。


 今のうちに好きな食べ物を何でも食べて、できることは何でもするといいと言われた。


 いきなりそんなことを言われてもな、食べたいものか、やりたいこと……


 そんなことより、僕はまだ死にたく無かった。







 余命一ヶ月。


 夜寝るのが嫌だった。だって、朝起きれば次の日が来てしまう。


 三十回の朝を数えれば僕は死んでしまうのだ。






 余命二十日。


 どうすることもできず一日、一日と死に近づいていく。


 何でもするといいって言われたから僕は小学校に通いたかった。


 でも、僕にはあと三百日ぐらい時間が足りなかった。







 余命十日。


 怖かった、死ぬってどんな感じなのか。分からないからすごく怖かった。


 余命三日。


 あと、僕には三回しか朝は来ない。


 もう、残りの日にちを数えたくなかった。


 余命0日。





 おかしいな


 僕の体におかしなことが起きていた。


 昨日まで頭がボーッとしていたのだが、今は意識がはっきりしていて、苦しかった呼吸が苦しくなくて、痛かった心臓が痛くなくなった。


 その日、検査をしたら、どこもかしこも良くなっていると言われた。


 奇跡的なことに僕の体は良くなった。

 

 原因不明の病気が原因不明に治った。


 今の今まであった心の苦しみも無くなって、落ち着いたら顔が勝手に笑顔になった、気がつくと右目から勝手に涙が流れてた。


 もう二度と自分の死へのカウントダウンはしたくない。


 だから、僕は時間を止められるようになりたくて、時間の勉強を始めたのだった。

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