#73 地下迷宮14階層 スリープシープは夢を見るのか
緑の牧草の上で寝ていた子羊は夢を見ていた
周囲には光があふれて、そよ風が心地よかった
優しい母親羊も傍で見守ってくれている
このまま寝ていれば父親羊が迎えに来てくれる
心配することはなにもないよと
ダンジョンマスターはもう結界を張らなくていいからね
でも、人がやってくると誰かが鳴いている
大変、みんなについて逃げないと
いたずら好きな弟の小羊が一緒に逃げようと呼んでいる
でも私の体は目覚めないの
不思議に寝ている私の姿や逃げていく家族たちは見える
私は寝たままなの、誰かがすぐ傍まで近づいて来たわ
そう、私は主に選ばれた雌のスリープシープの子羊
これから夢の中で自分が生贄になるのを見るのね
生まれ変われたら・・・私は家族に囲まれてもっと生きたい
◇◆◇
地下迷宮9日目の早朝、13階層の出口洞窟にキャンプしていたアベルたちはキャンプの中央に立たされてチーム6人から質問を浴びせられていた。
アベルや夜刀姫そして不審番だったミーナを除いた6人は朝起きて出口の4人の騎士とB14階層に続く下り階段の入り口に立哨する2人の騎士の姿に気が付き驚いたのだ。
それでそのまま昨夜の出来事の説明会になった次第だった。
朝食は未だなので、鎖帷子の6人の騎士ゴーレムが朝食の用意に動いていた。4台の長テーブルに食器やホーク・ナイフを人数分配り、パンや果物の籠を出して、寸胴鍋から湯気の立つスープをスープ皿に器用に盛り付けていた。
夜刀姫の旧魔晶石から知識転写を受けているので従者の気配りは完璧だ。
アベルに質問しながらも皆の目は温かいティーを注ぎ廻る従者みたいな騎士の姿に注がれていた。
「これだけ盾役の出来る騎士が6人もいれば私達はいらなくないですか」
「そうね、私はもうジェドに頼んでいるヤーセン市のギルド運営が心配で帰りたいわね」
「いやいや、確かに赤龍は抑え込めますがそこまでです、決め手がありません」
「はい、やはり上級魔法でしか龍級魔獣は倒せませんし」
「見た目ですが、兜などの防具が古風に見えるのですけれど、今風の兜飾りも付いた銀色フルプレート鎧にした方が見栄えが良くありませんか」
「そうね、使用感がすごく感じます、私ならもっと家紋入り菱形の片手盾を選びますわね」
「ええと、急いでいたので盾役の中古品を纏め買いしました」
「下のB14から付与されるスキルには桁外れのスキルがあるのですよ」
「ほ~う、例えばどんなのがあるにゃ」
「B14のスリープシープからは”結界”スキル持ちになります」
「アンデット系や魔獣を寄せ付けないスキルにゃ」
「熟練すれば多重まで覚えるそうだ」
「B15のサーベルタイガーからは闇夜も見通せる”暗視”スキル持ちになります」
「それはもう持っているにゃ」
「B16のハーピーからは”危機感知”スキル持ちになります」
「不意打ちや奇襲を感知出来るスキルにゃ」
「未来予測かな」
「B17のガーゴイルからはサモナー”召喚”スキル持ちになります」
「召喚魔獣に周囲を偵察させるスキルにゃ」
「ミーナが失業するのが見える」
「B19の走り小竜からは”加速”スキル持ちになります」
「”身体強化”と”加速”重ね合わせると超人になれるにゃ」
「縮地も夢ではないな」
「B20のケルベロスからは”回復”スキル持ちになります」
「もうヒーラーは失業するスキルにゃ」
「熟練すれば広域も覚えるな」
「B21のワイバーンからは”千里眼”スキル持ちになります」
「遠距離先の出来事が見えるスキルにゃ」
「もう神の領域かも」
「B22のミノタウルスからは幻影迷彩スキル持ちになります」
「任意の姿に変身出来るスキルにゃ」
「透明迷彩も出来るんかい」
「こんなスキル全部使える人間は化け物か、英雄譚の登場人物ね」
「スキル欲しいの半分、化け猫怖いの半分の心境にゃ」
「しかし赤龍ラードーンを倒すにはこちらも超人レベルまで変化しないとね」
いつの間にか全員がテーブルについて朝食を食べながら話し合いを続けていた。
なんだこの快適空間は、カップにお茶が少なくなると後ろに控える騎士ゴーレムがお替りを持ってくるし、スープのお替りも聞いてくる心配りがすごい。
騎士ゴーレムの普段着は黒ズボン黒ベストのウェイター服にするかな?
顔はカイン少年で美男子だし、白の長袖シャツも似合うかもね。
赤い蝶ネクタイもいいかも、ついにアベルは現実逃避を始めた
「下のスリープシープ話に戻りませんか、結界スキルが付与されるのでしょうか」
「スリープシープはいつも100匹程度草原にいて草を食んだり寝ていたりの状態らしい」
「冒険者が近づくと寝ている10匹を残して他のシープは逃げ出すそうです」
「寝ている10匹は夢でも見ていて逃げないのかな」
「昔からスリープシープは夢を見ないと言い伝わっています」
「なんで見ないと言えるの」
「それでは寝たまま刺殺されるのか・・・」
「なんかモォワ~としますね」
「絶体に、スリープシープは夢を見ないそうです」
「アベルは思い込みが激しいにゃ」
◇◆◇
9日目の午前中に13階層から14階層に到達した、出口からは15人全員を浮遊板に搭乗させて前面の展開する丘陵地帯に入っていった。
幾重にも重なる丘陵地帯の中央に走る道路に乗って1m上空を浮遊していった。
楽は楽だった、歩かずに目的地まで時速10㎞で連れていってくれる乗り物。
中央に走る道路の左右丘陵地帯は牧草が生えており一面緑色だった。
その牧歌的風景の中に白い羊が100頭ほど点在して見える。
アベル達が近づいていったら、10匹の寝ているスリープシープの子羊を残して他のスリープシープ達は皆逃げ出してしまった。
アベルは手槍を構えてモフモフした子羊のそばに近づいても目覚めなかった。
“サクッ”とアベルの手槍が寝ている毛玉の様な子羊の胸に入った。
途端にアベルのステータスボードに”結界”スキルの取得通知が届いた。
牧草の上に倒れたスリープシープの子羊の目から涙が一粒落ちた。
多重結界まで育つ貴重スキルを獲得した瞬間なのに気持ちが晴れない。
でも原点に帰ればスフィの救命のための赤龍狩りだ、迷う事はない、スフィが助かるなら汚名は我が身に受けよう。
◇◆◇
10匹のスリープシープを退治して14階層の出口方向を眺めると、そこは風の吹く風紋の見える乾燥した砂漠地帯だった。
上空には多量の光魔石が輝き、周囲の崖肌が見えない程に砂丘が果てしなく続いていた。
14階層ホールの砂漠地帯を渡ってくる空気は乾燥して暑く、遠く陽炎の奥に出口の崖穴が見える。
アベルパーティー員7人と警護騎士6人そしてゴーンとクロエの15人は何故か手槍を下さずに浮遊板に乗り込んだ。
浮遊板が砂丘の上を移動してても誰も無口で怒っている様に見える。
珍しく鷹みたいな魔鳥が1羽砂漠の空で獲物を見つけたのか旋回を始めた。案内地図によると砂サソリが220匹ほど砂漠地域で生息しているみたいだ。
昼間は岩陰などで隠れているみたいだが巣から出た子供サソリの1匹が魔鳥に見つかったのだろうか。
砂漠といってもすべて砂漠ではなくけっこう岩山や地下水脈に沿った緑地帯もある。
アベルは浮遊板を操作中に下を眺めて、昼食を取るのに丁度よい小川沿いの草地が有ったので着地した。
振り向いて”お昼にしませんか”と誘った。
「ここでお昼を食べるにゃ? 」
「地図ではこの先は出口まで荒野地帯なのでここで昼食を取りませんか」
「おいしい昼食を食べて気分を切り替えるにゃ」
肯いたアベルは収納庫から食事セットを取り出した。
木製テーブルと長椅子を出して昼飯タイムに移行して、さらにパンと果物と肉料理とスープの寸胴鍋を取り出して深皿に盛り付けてスプーンとホークを人数分セットしてチーム全員の昼飯となった。
もちろん冷却した水瓶とマグカップもテーブル上には人数分出してある。
隅にはトイレセットも忘れずに、衛生・調理系の排水は全てスライム付き排水槽まで配管を配置した。
一番MP容量の大きなスー魔導師が慣れた仕草で”結界”を休憩場所に張ってサソリの侵入と魔鳥の接近を防いだ。
集合したメンバーはいつものお気に入り席に座っている。
6人の騎士ゴーレムはメンバー8人の従者の役割に専念している。
調理場に1人、配膳に2人、給仕に2人、洗い場に1人立っている。
夜刀姫は全体が見える位置に立って周囲を観察している。
この先全長80㎝と手ごろな大きさで砂サソリを探す場所は多くありそうだ。
昼食も終わり、再び浮遊板に乗ったアベルパーティー員7人と警護騎士6人そしてゴーンとクロエたちが下の大地でサソリの気配を探知するとアベルに声を掛けるので着地するとメンバーが手槍を構えて降りて周囲の捜索が始まる。
隠れている大サソリがいくら尾節で毒針を構えても、手槍の方が間合いを大きく取れるので狙って倒せた。
倒せばダンジョン内なので赤いルビーをドロップしてくれる。
浮遊板で移動もあり何故か皆さんが怒りを込めて狩るから
迅速に砂サソリクエストは終了した。
砂サソリクエストは終了した時点で、丁度14階層の出口洞窟前に到着した。
地下迷宮9日目の午後の日差しのある時間で到着したので、このまま15階層の入口洞窟まで歩いて行くことに9人の合意が出来たので、浮遊板を収納して下りの階段洞窟を歩いた。
9日目の夜7時までに15階層の入口洞窟に到着してキャンプ設営した。
今夜はここで野営して10日朝食後から15階層のサーベルタイガー10匹の暗視クエストに挑戦して昼食に入り、そのあと巨人ゴーレム狩りに入ることになる。
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