#72 地下迷宮18階層 騎士ゴーレム風林火山陰雷
地下迷宮8日目の夜、13階層の出口洞窟にキャンプしていた
アベルたちは夕食の後、初めて慣れない空中戦をして大部分の人が疲れてシャワーを浴びてトイレを使い各人のハンモックテントに早々に潜り込んで寝たみたいだ。
アベルは衣服も靴も脱いでいないのでそのままハンモックから起き上がった。
上に張っている天幕を押して外に出ると既に夜刀姫は外で待っていた。
アベルは今晩中にやる仕事があり、そのためには夜刀姫の力が絶対に必要な仕事で夜の不審番はミーナに頼んで交代して貰った。
不審番を引き受けたミーナは長椅子に座り2人を見て黙って片手を挙げた。
アベルは目礼だけ返して夜刀姫を促して14階層への下りの階段洞窟に入り大きく曲がりキャンプ場所を見通せない場所まで歩いた。
この場所まで降りたら2人の移転の光で寝ている人が起きないだろう。
夜刀姫の肩にふれて”迷宮の指輪”を使い地下迷宮18階層まで一気に2人で移転した。
アベルと夜刀姫が移転した18階層は中央部が深い地底湖であった。
縁の湖畔と江の島みたいな出島だけが冒険者のキャンプ地であった。
アベル達2人は出島の反対側の湖の縁に無事移転出来た。
今の時間でも出島のキャンプ群から灯りが漏れているテントが幾つか見える。
アベルが覗くと深い地底湖の底には七彩に煌めく魔晶石が深い湖底に見える。
7色の煌めきの周囲にはより小さい単色魔晶石の輝きも無数に見える。
灯が唯一の光源でも黒い蛇影が視線を時折横切っており不気味だった。
これから湖に潜る夜刀姫は戦闘スタイルでゴーグルを着けた黒いダイビングスーツ型液体金属鎧に全身を包まれている。
夜刀姫は夜目も効くし周囲の振動感知・魔力感知も出来るし、無呼吸であり短槍で反撃も出来るのでアベルはクエスト達成を確信している。
普通の人間では50mも湖底まで潜り、襲って来る大蛇と格闘した上で、魔晶石群を岩盤から引き剥がし採取してから浮上して来るなどは不可能だろう。
アベルは夜刀姫に空の腰バックと蛇対策で3本の短槍と採取道具として鉄製バールと鑿を手渡した。
夜刀姫は新腰バックに3本の短槍とバール・鑿を入れて、自分の衣装・刀剣・手斧・竪琴・鉛弾などが入った自分の黒色腰バックを外してアベルに手渡した。
新腰バックを装着した夜刀姫は、湖畔から自重で湖底に潜水を開始した。
アベルは夜刀姫が戦っている間に湖畔を300㎡宅地整地してOD色大型テントを時空間収納庫から出して設置した。
度々の事でゴーレム製造装置は揃いで時空間収納庫に入っているので出して設置するだけだった。
テント内にまず縦4m横2mの鋼鉄製製造作業台を中央に出して設置した。
頭部方向に木棚を置き6体分の各種素材群を置いて、横に魔水入りのドラム缶を7本並べた。
テントの上部棟パイプにランプ5個を吊るして、作業台横の左右に4脚の長椅子を並べた。
主要武器は2.3mハルバート(槍斧)6本と、剣帯用片手剣6本だ。
腰バック6個の中には副武器のトマホーク(手斧)6本と鉛弾600個と
解体用ナイフ6本と捕縛用ロープ6巻きも入れる。
防具は四角形大盾6枚と頬当て付き金属兜6個と、鎧として着る半袖で膝まである鎖帷子6着と革サンダル12足。
これに帯ベルト6本と剣帯6本が付く、大盾の肩掛け皮ベルト6本と、これに金属製手甲12個と金属製脛当て12個で完成だ。
昼間に地上で購入した6人分の衣類も4脚の長椅子上に置いた。
長椅子の上に普段着で男性用チュニック6着と半袖下着6枚と半パンツ6着あとはキュロット6本・赤スカーフ6枚と雨用コート(帆布)6着を並べた。
引き続き彩魔晶石を並べればゴーレム召喚できる段階まで進めよう。
続いて素材の純粋魔鉄鋼の10kgインゴットを100本ほど空間収納庫の中から取り出して製造作業台の横に置いた。
この魔鉄鋼は白銀色で軽くて魔力によるイメージ変形が容易であり、鉄鋼の10倍の張力がある素材である。武器防具乗り物フレーム等利用分野は広い。
魔水は7缶の200Lドラム缶に満水で入っており重く移動できないので6缶の中に入手した彩魔晶石6個を沈めて保護する予定で製造作業台の横に置いた。
製造台の上には既にチタンインゴット・白金インゴット・ミスリル銀インゴット・そしてルビーも製造作業台の上に置かれてあった。
イーゼル上の召喚ゴーレムデッサン絵は写実に着色されており、痩身長背の銀長髪で紅い瞳で笹耳小麦色の肌のダークエルフのカイン少年の外観図だった。
イメージ用のデッサン画は台横に立て掛けて、魔鉄鋼等の各種素材を作業台で再確認して、ドラム缶の魔水も確認して全ての召喚の準備完了を確認した。
大型テントの中ならばランプを灯しても出島キャンプ地からは見えないだろう。
帰って来た姫には笑顔で新しいバスタオルと黒色腰バックを渡して迎えよう。
◇◆◇
一方夜刀姫は潜水すると湖底に続く崖の途中に広大な台地があり、そこに輝く彩魔晶石の群落がハッキリと見えて来た。
潜って始めて理解する水底の姿を確認しながら、沈下する方向を手や足の泳ぎで方向修正を試みた。
地底湖は魔鉄鉱石層の陥没断層に地下水がたまり数万年かかり魔水湖となったものである。
この地底湖の水の層は二層になっていた、上層の地下水の透明度は50m程度ということだ。
彩魔晶石は黒い魔水の海に咲く水連の様に輝いていた、群落地より深くは濃縮の黒い魔水層らしく湖底までの見通しは出来ない。
上から見て湖底だと思っていたのは崖の途中の台地に過ぎなかった。
台地は無数の魔晶石群が黒い魔水に浸されており、輝いている彩魔晶石と小さな単結晶魔晶石群に触れた。
魔晶石が長期間にわたり濃縮魔水に浸され続けると彩魔晶石となり自発的に輝きだすのか。
夜刀姫は煌めく彩魔晶石基部に鑿で隙間を作りバールを梃にして岩盤から彩魔晶石塊を引き剥がす作業に入った。
剥離作業に入ると、湖底の深い闇から先程目視した大蛇が水中を滑るように迫ってきた。
夜刀姫は感知してバールと鑿を腰バックに入れて、手槍を構えて大蛇を迎えて交差する瞬間に大蛇の光る眼球を狙い槍頭を素早く突き出した。
“ガッ”と岩でも砕いた様な感触がして手槍が大蛇の眼孔に深々と突き刺さった。
途端に体を幾重にも捻り暴れ出した大蛇の勢いで手槍は突き刺さったままでさらに深い湖底に持って行かれた。
湖の主は痛みで遠くに逃げたので、夜刀姫は腰バックから再びバールと鑿を取り出して大きく煌めく彩魔晶石を岩盤からの引き剥がし作業に戻った。
それから夜刀姫は1時間程で全部ではなく7個の彩魔晶石と20個の単色魔晶石を完全形で採取することが出来た。
夜刀姫は10立方メートルの容積のある腰バックの中に工具のバールと鑿を仕舞い、7個の彩魔晶石と20個の単色魔晶石を大事に収納した。
腰バックの残容積に周囲の高濃度魔水を取り込んでから湖面を目指して崖を登り上陸した。
潜水道具のないこの世界では普通の人間は溺死している作業時間だった。
夜刀姫は両手で腰バックを抱きしめて湖の岸辺に無事帰還出来た。
夜刀姫は出島からの明かりの中でクエストの成果品である腰バックを主人であるアベルに渡そうと歩いて行った。
アベルは手渡された腰バックを草の上に置き、バスタオルで夜刀姫を包んだ。
「夜刀姫有り難う、テントの中で弟達のゴーレムを召喚しょう」
「うん、楽しみ!」
珍しくタメ口で夜刀姫の体全体から嬉しそうな感じが伝わった。
寂しかったんだ・・・
◇◆◇
アベルは地下18階層の地底湖畔の大型テントで6体の騎士ゴーレム製作に挑んだ。
召喚するゴーレムの外観上は島執事カイン少年だが、中身は騎士ゴーレムで外甲殻の状態で召喚する。
召喚された躯体の胸部胎内を魔水で満たして軽銀で覆えば頭脳である彩魔晶石の保護は達成できるはずだ。
今は採取された彩魔晶石6個は夜刀姫の予備の旧魔晶石から知識転写を完了しており、ドラム缶の魔水の中に沈んでいる。
これはすべての自律行動の頭脳としての知識集積の中核になり、日常の生活動作そして武技や戦闘行動などの判断をする司令塔なのだ。
あれだけ大きければ複数回のバージョンアップに耐えて、武技に練達した立派な騎士になるはずだ。
アベルは傍に控えている夜刀姫に、
「これから新しい仲間を召喚するよ」
「アベル様私は家族が増えて喜んでいます、コアが私の分身であり姿も弟のカインそっくりです、もうこれから私は独りぼっちではなく大勢の弟達と働けるのがとても嬉しいのです」
夜刀姫が長く話したので驚いた、いつもはうなずく程度なのに。
ゴーレムにも感情はあったのだな・・・
アベルは正面の等身大の少年裸身像を見つめて“ゴーレム召喚”と唱えた。
すると作業台周辺の素材群が光に包まれて激しく輝いた。
アベルはあまりの眩しさに眼を閉じたがやがて瞼を開けると作業台上にデッサン絵そっくりなダークエルフ少年が横たわっていた。
作業台横のインゴット群は1体分消滅していて、新しい彩魔晶石も1個消えていた。
魔鉄鋼の外甲殻体と胸部魔晶石そして神経の白金配線は召喚時にイメージで形成される。
そこから召喚したゴーレムの長期間作動のためのこれまでの経験則から起動の前に素早く鍛冶で胸部切開を施して、背骨部内にある彩魔晶石と配線を確認した。
確認後、開いた体腔内の空間を魔水で満たしてさらに魔晶石を軽銀箱で覆い保護した。
施術終了後、胸部切開部を錬金術で融合して閉じた。
ゴーレム6体は外観上は同じ島執事カインの顔であるが、四角形大盾や頬当て付き金属兜と板金鎧に名前は刻んであるから混乱は起きないとは思う。
ゴーレム同士の会話は何言語か波長の違いか自然と分かるみたいだがチーム員からは識別困難かもだ、ゴーレムを区別する必要な場合とは戦闘で指示を出す場合ぐらいだが混乱するのかな?
少し心配になり、防具上に刻まれた6体の名前を黒の大文字表記にした。
まあ戦闘に期待出来る身長187㎝体重85㎏と長身で筋肉質体系だが贅肉は一切ない引き締まった体形に造形出来た。
夜刀姫に頼み1体の起動前の躯体を長椅子に座らせた、これから連続で5回同じような工程を行うつもりだ。
筋肉質長身の銀長髪で紅い瞳で笹耳小麦色の肌のダークエルフ男性のゴーレム6体が誕生した。
盾役騎士ゴーレムとして6体召喚した、目的は前衛や後衛の出来る壁役ゴーレムであり冒険以外ではアベル山城の門番としても期待している。
基本は常に警護する対象は背後にある状態の守る高度な戦闘能力(SP警護要員)を期待している。
アベルは歩きながら戦闘ゴーレム6体に次々と触れて“起動せよ”と命じた。
すると左右の長椅子に別れて座った6体の戦闘ゴーレムが瞼を開けた。
左右ほぼ同時に6体の騎士ゴーレムは長椅子上で覚醒した。
「ようこそ歓迎するよ、俺はアベルというこちらは君たちの姉の夜刀姫だ、これから6人は自分の体に不具合がないか確かめて欲しい、異常がなければ整列して立ちなさい」
「はい、アベル様! 」
6人は長椅子から立ち上がり、全身を屈伸して小刻みに動かして不具合を調べていた。
「6人の名前は1人1文字で各々風・林・火・山・陰・雷と名付けた、右肩に名前を刻んである」
「名前、ありがとうございます」
「召喚した目的はアベルパーティーの前衛や後衛の出来る警護役であり、パーティー警護以外では後日にアベル山城の門番としても期待している」
「はい、了解しました」
「パーティーの前衛は風・林・火・山の4人だ、後衛は陰・雷の2人だ」
「了解しました」
「アベル山城の本丸、二の丸、三の丸、大手門の警護配備は後日指名する」
「了解しました」
「6人への第1命令権はアベルにある」
「第2命令権はアベルパーティー員にある」
「第3命令権は従女夜刀姫にある」
「第4命令権は執事カインにある」
「第5命令権は警護隊長の風にある」
「上位命令権者が戦闘不能になれば順次下位に継承する」
「了解しました」
「戦闘訓練は夜刀姫が教官となる、教官の指導に従え」
「了解しました」
「体に異常がなければ普段着を着てサンダルを履け」
「完了しました」
「引き続き鎖帷子を着て帯ベルトを締めて、片手剣付き剣帯を締めろ、それから手甲と脛当てを装着してから金属兜を被り顎紐を結べ、始め」
「装着しました」
「防具を装着した者は、作業台上の鉛弾と手斧を腰バックに入れて装備しろ」
「装備しました」
「全ての工程を終えた者は、作業台上の大盾とハルバートを装着して整列せよ」
「完了しました」
地下18階層の地底湖畔の大型テント内に6人の騎士ゴーレムは完全武装をしてアベルの前に整列した。
そして騎士ゴーレム6人が整列する前で、アベルは最初の命令を出した。
「今からこのテントの周囲を騎士6人で封鎖せよ」
「了解しました」
騎士達はテントの外に出て周囲に散開した。
◇◆◇
「姫の今の魔晶石と採取した彩魔晶石を今から交換しようと思う、単結晶魔晶石も4個使い夜刀姫の能力強化が図れると考える」
「アベル様、私の能力強化になるのなら、喜んでお使い下さい」
戦闘服を壺に入れてから傍の鋼鉄製作業台の上に夜刀姫が横たわった。
「有り難う、では彩魔晶石交換と能力強化を施術する、“スリープ”!」
アベルは素早く睡眠状態に入った夜刀姫を鍛冶で胸部切開をして、胸部内にある軽銀箱を外して魔晶石を融合してある背骨部から取り出してから、彩魔晶石に知識転写をした。
続いてミスリル銀インゴットを正方形に成形して彩魔晶石を上部にのせて融合して背骨部躯体に接合した。
続いてミスリル銀正方形の残る4面に単結晶魔晶石4個を躯体に触れぬ様に横面に3個下面に1個基部融合した。
最後にチタン製の保護箱を上下左右魔晶石群に触らぬように覆い背骨部躯体に接合した。
その後、魔晶石と手足の配線接合を再確認して胸部を閉じて錬金術で融合した。
目論見どうりに実際に夜刀姫の事務処理向上や反応速度向上が見られるのか確認は必要だ。
アベルは夜刀姫の体に触れて“起動せよ”と命じた。
すると鋼鉄製作業台上の夜刀姫が瞼を開けた。
作業台上の夜刀姫は能力向上に混乱しているようで暫らく動かない。
アベルの手元には姫の魔晶石と複写用の旧魔晶石とが残った。
どちらかの石の記憶を全消去して魔力を充填して魔力源とする必要がある。
これは複写用の旧魔晶石の全消去でしょう。
アベルは複写用の旧魔晶石を全消去してから魔水ドラム缶に入れて魔力を充填して重力魔法の魔力源とした。
周辺装置の6人共用のカマボコ型の自己点検装置と軍馬は後日製作だ。
夜刀姫が起き上がりメイド服を着用したのを確認してからアベルは立哨中の騎士6人を呼び戻してテントや関連資材を収納した。
そして全員8人でB18の地底湖畔から、B13階層の出口洞窟内に”迷宮の指輪”を使い移転した。
不審番をしていたミーナは大盾軍団のゴーレム達を見て叫んだ。
「アベル!にゃんじゃこりゃ~?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇