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#70 地下迷宮12階層 重力魔法グラビティ



地下迷宮6日目の早朝、11階層の出口洞窟にキャンプしていたアベルは

テント前でドーラとタマルとミロが話していた所に近づいて行った。


「おはよう、今後の予定は決まったの」

「おはよう、話し合いの結果はタマルとミロはアベルパーティーへ参加したいそうよ、私とミレーヌとソラは実家に帰るので地上に連れていってくれないかな」


「了解、朝食後に”暁の紅い光”5人は俺と一緒に地上の冒険者ギルドに移動して被害に遭った経過説明をして欲しい、同時に俺も保管している冒険者達の遺品等をギルドに引き渡すね」


その時はギルド責任者に遺品以外は12人の均等割で払い戻しされる様に話そうとアベルは考えている。

冒険者を辞めて実家に戻る女性3人に報酬は少額でも役立つだろう。


ドーラと話していたタマルとミロの2人はそのままアベルに話しかけた。


「おはよう、私とタマルの2人はアベルパーティーへ参加をしたいの」

「有り難う、アベルパーティーはこれから30階層の赤龍ラードーンを倒しに行く途中だがそれでも大丈夫かい」


「私の土精霊は龍炎ブレスに耐えられるセラミックシェルターをつくれるの」

「私の風精霊はシェルター内の壁を風で冷却して、涼しい部屋にできるよ」

「あ~、熱対策は必要だね、2人には是非俺のパーティーに来て欲しい」


11階層の出口洞窟で朝食を済ませて設営を収納してからアベルは女性パーティーの5人を連れて1階層入口まで”迷宮の指輪”で移転した。


毎度顔馴染みになった広場の冒険者ギルド責任者に11階層のブラッドオーガ村の倉庫で見つけた大量の冒険者達の武器・鎧等と衣類や貨幣・水筒・革靴・金属札などを提出した。


同時に救助した女性パーティー”暁の紅い光”5人の治療と事情聴取が女性職員により長時間行われた。


ギルド責任者との話し合いの結果、アベルパーティーが帰還後に報酬の全員への支払いは行うと約束された。

特に実家に戻る女性3人には報酬を概算額で早めに払うことで合意した。


被救助者であるタマルとミロ2人の冒険継続申請は、アベルパーティー参加を条件に特別に認められた。


女性パーティー5人の治療と事情聴取が行われている時間を利用して付近の家具屋に入った。

店に入るとマッチョな体の店主が対応してくれた。

アベルは次の階層で重力魔法使いになるので事前に用意したい物があった。


「何か欲しい物があるかな」

「シングルベットと夏冬物セットで枕、シーツ、毛布、布団をあるだけ欲しい」


「そうゆう所帯物は引っ越し時期にしか出ないので在庫は3台分しかないな」

「全部下さい、それと板材と長椅子と長テーブルが欲しいのだけれど」


「どれぐらいの大きさが欲しいんだい」

「板材は幅5mで奥行10m程で厚さは20㎝程の1枚板材があれば欲しいな、長椅子と長テーブルは木製で幅4mぐらいの物が欲しい」


「それだけの大きさの1枚板はないな、だが以前外壁の門扉交換用に製作した予備が1枚あったな」

「門扉ですか」


「おうよ、框の部分は銅板が貼ってあるが他は格子材だよ」

「在庫の門扉は重量があるけど持ち帰るなら売るよどうだい、だが長椅子は10脚、長テーブルは2台だけだな」


「その門扉1枚と、長椅子10脚と長テーブル2台は買うよ、あとはシングルベット用の夏冬物セットで枕、シーツ、毛布、布団を3台分下さい」


「門扉は持ち帰りだね、外に何か欲しい物があるかい」


「木製門扉の上に木製長椅子5脚を固定して欲しい」

「俺は木工スキル持ちだからね注文ならやるよ、幅5m長さ10mの門扉の上に2m間隔で幅4mの木製長椅子5脚を”ほぞ継ぎ”で接合して接着剤で固定化するだけで出来るよ」


「では集会で使うので5脚の長椅子前に木製手すりを付けて欲しい、老人が立ち上がる時に便利でしょう、据え付け時間はどれくらいかかりますか」

「そうだね~幅4mの長椅子5脚と手すり5本を5m幅の門扉の上に設置するのね、作業自体は在庫品同志の”ほぞ継ぎ”だけだから接着剤が固定化する1時間で出来るよ」


「寝具の代金は夏冬物セットで枕、シーツ、毛布、布団の分が金貨4枚、シングルベット3台は金貨3枚で合計の金貨7枚ね」

「家具の代金は門扉で大金貨1枚ね、長いす10脚と長テーブル2台は合計で金貨12枚になるよ」

「寝具と家具の合計代金は、大金貨1枚と金貨19枚だよ」


「門扉の上に手すりと長椅子を固定化する作業代金は?」

「滅多に売れない在庫一掃セールになったので据え付け料金は特別サービスしてやるよ」


「有り難う、では代金大金貨1枚と金貨19枚は今払うよ、シングルベット3台と枕、シーツ、毛布、布団と長椅子5脚、長テーブル2台も今受け取るよ、あと1時間してから残りの門扉と手すり付き長椅子を受け取りに来るよ」

「毎度代金は確かに受け取ったよ、お~なるほどね空間収納持ちかうらやましいな!」


それからアベルはギルドに二人を迎えに行き、待っていたタマルとミロの二人を誘い昼食時なので歓迎も兼ねて広場の屋台でスープと焼き肉の昼飯を取った。

暖かい野菜スープと香草で煮込まれた肉を二人が美味しそうに食べてくれたので嬉しかった。


次に雑貨屋に寄り二人が必要な衣料雑貨を購入してあげた。

店を出たところで袋代わりに黒色腰バックを贈呈した。

ちょうど1時間程経過したので新メンバーと一緒に家具屋で門扉1枚に乗った手すり付き長椅子5脚を受け取りに行った。


残留組の夜刀姫とミーナ、ジェン、スーそしてゴーンとクロエは朝食後先行して、6人の隊列を組み地下迷宮12階層入口を目指して既に出発している。



◇◆◇



地下迷宮11階層から5㎞程の階段洞窟を歩いて下がると12階層ホールに着いた、そこは薄暗い階段洞窟を出るとすぐに明るく眩しい砂漠地帯だった。

12階層ホールの上空には多量の光魔石が輝き、周囲の崖肌が見えない程に砂丘が果てしなく続いていた。


12階層ホールの砂漠地帯を渡ってくる空気は乾燥して暑く、砂漠の奥に緑のオアシスが見える。

夜刀姫とミーナ、ジェン、スーそしてゴーンとクロエの6人は砂漠に出るよりは、日陰で涼しく広い洞窟部分でアベルが追い付くまで休憩することにした。


アベルはこの12階層ホールの砂丘地図と樹液ペンダントを持つており、砂丘で重力虫を発見補足するには不可欠な人間だった。


ジェンは洞窟と砂漠の境界に9層ブロックを張り乾燥空気の流入を遮断した。

日陰で涼しい洞窟で乾燥空気からも守られた空間で各自は腰バックに入れてある緊急用の食料と水筒で各々の毛布上で昼食を取った。


睡眠のいらない夜刀姫はいつもの様に洞窟の後方で侵入者警戒をしている。


アベルは”迷宮の指輪”を使い12階層の洞窟前にタマルとミロの新人2人を同伴して直接移転してきた。

ジェンがアベル達を見つけて入口の9層ブロックをすぐに解除してくれた。


「有り難う、待たせたかい」

「いいえ、皆さん休んでいたので」


階段洞窟で休んでいた全員が熱風の流入とジェンとの会話に気づいて起き上がりアベルの周りに寄って来た。


「長らく待たせたね、ギルドでの話が想定よりも時間がかかったので」

「新人2人も継続でダンジョン許可が出てよかったね、ここからはアベルの砂丘地図に記された重力虫の所在箇所の印に急ごうよ」


「そうだね、俺が砂丘で重力虫を発見して樹液ペンダントに確保出来れば魔法の発動媒体になるので、途中から階層出口までは楽な移動になると思うよ」

「それは楽しみにしているよ」



◇◆◇



地下迷宮6日目の午後、12階層ホールへの入口洞窟でアベルチームは合流して、先ずは宿泊予定地のオアシス目指して砂漠の中を徒歩で出発した。


暑い乾燥した空気の中を砂漠の丘陵地帯を歩くのは地味に体力が削られた。

砂漠の中を3㎞ほど歩くと緑のオアシスに辿り着いた。

アベルとミーナ、ジェン、スーそしてゴーンとクロエそしてタマルとミロの8人は下着姿になり、透明度の高い日差しに煌めくオアシス池に飛び込んで泳いだ。


今日の宿営地はナツメヤシが多く繁り湧き水池があり小川が流れ出ているこの地で決定だった。


遊んだ後のアベルは、今夜使用する8台のハンモックテントを収納庫から組み立てた形のまま取り出してナツメヤシの見えるオアシス傍のキャンプ地内に配置した。


食堂セット・トイレセット・風呂場セット・食器入れや調理道具そして鍋釜・流し台・調理台などは個別のコンクリート台座の上に据え付けられており小型地下浄化槽から排水構で小川に接続した。

食堂セット・風呂場セットなど排水配管接続後に火魔石をボイラーにセットし起動した。


続いて既に組立てある帆布の鉄パイプ屋根付きテントを空間収納庫から7張取り出した。

これには6枚の横幕を垂らすことが出来て日除け用にも使える大型テントだ。


7張りのテントはそれぞれ食堂テント・炊事場テント・調理テント・風呂場テント・トイレテント・洗面場セット・クロークセット用として各設備の上に被せた。


これらの施設はアベルの時空間収納庫の”収納”と”設置”機能を前提に作られている。


夕食では当然ナツメヤシの甘い果実がテーブル上に山盛りに出された。

アベルが明日行く12階層地図に記された重力虫の所在箇所は話題になった、オアシスから1㎞程北側に外れた砂丘の窪地にある3つの岩の間にあった。


地下迷宮7日目の早朝、まだ朝露が見える時に窪んだ土地にある3つの岩にアベルたちは歩いて着いた。


この場所は出口への1本道からは随分はなれた窪地の寂しい場所だった。

生存する水分は毎朝の露と地下水路(カナート)でも流れているのか、書かれてあった通りに3つの岩の中心点を掘って行くと湿った地層になり重力虫の巣穴が無数に発見された。


魔導書に書かれてあった手順で王から頂いた樹液入りのペンダントの蓋を開けて巣穴前に置き、アベルたちは遠くから望遠鏡で様子を静かに見ていた。

しばらくすると樹液成分に誘いの分泌物質があるのか巣穴から黒い昆虫が這い出してきてペンダントの樹液の中に入った。


1匹の重力虫が入ると遅れて出てきた他の虫は巣穴の中に戻って行った。

手順によるとペンダントの蓋を閉じて元の砂を被せれば良いとのことだ。

神秘的な行事が済んだので手順通りに作業を進めて現場を離れた。


アベルはオアシスに戻り重力虫入りの琥珀ペンダントを皆に披露してから、自分の首に架けると7センスが覚醒するのを感じた。

ここに全ての重力魔法の稼動条件は整った。

あとは対象範囲と加重を指定して魔力を加えれば重力魔法は発動する。


「アベル、なにか重力魔法を見せてにゃ」

「予想した質問ですね、実は地上の家具屋で購入したいい物があります」


アベルの時空間収納庫から、幅5m奥行10m厚さ20㎝の浮遊板(門扉)の上に手すり付き4m長椅子5脚が乗った木造工作物が出てきてあまりの重みで砂にめり込んだ。


「アベル、これは何かわからないにゃ⁇」

「砂漠とか湿地帯を移動する乗り物だよ、今から初運転するからね」


アベルは1番前の長椅子右端に座り、右手で手すりを掴み左手の掌で胸の重力虫が入ったペンダントを握った。


“範囲指定は5m×10mの浮遊板すべて”

“加重の程度は-1レベル軽減する”

重力魔法グラビティ”実行”で魔力を軽くペンダントに流した。


すると厚さ20㎝の分厚い浮遊板が自重を失いアベルと長椅子5脚を搭載したまま地上1mの高さにふわりと空中に浮き上がった。

前進と念じると時速10㎞程度のゆっくりとした速度で前方に浮遊していく。

“着陸”と念じると徐々に加重されて地上に着地した。


「すごいにゃアベル、これでもう歩かなくていいにゃ」

「攻撃を受ける危険な場所では注意しないとね」


「何人までは同乗できるのですか?」

「長椅子は4人掛けで5列だから、定員が20人程度かな」


さっそくミーナが浮遊板に乗り込んで1番前の長椅子中央に座った。

「アベル、出発進行にゃ!」

「出発するには、昼食を食べてから食器や調理道具を洗って拭いて溝を埋め戻してテントを収納しないとね」

「いけずにゃ!」


それからミーナの協力で無事にキャンプの道具清掃も施設収納も溝の埋め戻しも完了して、7日目の午後にアベルチーム7人とゴーンチーム2人の計9人が浮遊板に乗り込んで出口目指して出発した。


浮遊板の上昇降下は込める魔力量に比例しており、操作感はAT車並にスムーズだった。

重力-2以上のレベルは誰も同乗しない時に野外で試してみよう、万一宇宙空間に跳ばされると真空とか恐ろしい限りだ。


当面は微速前進でヨーソローだ、邪魔する魔獣は乗員が打ち倒すのみ、座席定員は20人で乗員9人だからミーナは座る場所を変えて風景を楽しんでいる。


浮遊板を動かして分かった事は、この板は地形追従機能を持っていることだ。

飛行機事故で山腹に突っ込む事故があるが、この板は地面からの距離で重力を加減しているのか地表の上下に合わせて浮遊板も上下している。


何も変化のない砂漠にミーナも飽きた頃に、前方の砂の中からアナゴみたいなふよふよと頭と体の一部分を揺らしている200匹以上の生物群が見えた。


望遠鏡で拡大して見ると円状に牙が並んだ口だけの頭と筒状の胴体だけの砂ワームの幼虫群(コロニー)だった。

12階層には危険魔獣はいないとギルド地図にはあるが、後日情報提供をしよう。


ふとアベルは重力魔法の+加重レベルの試験はしてないのに気がついた。

「加重を試してみますか」

「是非見たいにゃ~」


振り返ると期待に満ちた顔が多かった。

やむなし、これはワームの駆除も兼ねた正しい加重実験なのだ。

“着陸”と念じると浮遊板は徐々に加重されて地上に着地した。


“範囲指定はワームの幼虫群の蠢く300㎡の範囲すべて”

“加重の程度は+7まで加重する”

重力魔法グラビティ”実行”で魔力を普通にペンダントに流した。


するとグンと魔力が吸い取られる感覚がした、ああこれはそんなに持たないな。

ボコ・ボコ・グシャ・ズ~ン

見る見るうちに300㎡の範囲の砂地が窪み凹み底の見えない巨大な穴になった。


この加重はMP枯渇に直結する、すぐに魔力の供給を停止した。

時間の経過と共に魔力の供給が増大していった。

見ていたチームの面々の顔が茫然としていた。


(こんなの神の領域に近いんじゃね)

300㎡の巨大な穴を近づいて覗き込んで思った。

穴の底は砂が押しつぶされて硬いコンクリート様になっていた。


魔力貯蔵された魔晶石を右手に握ればグラビティは使えると確信した。

グラビティ加減の問題点と対策も判明したので再び浮遊板の飛行に戻った。


浮遊板は地上1mの高さに浮き上がり、前進と念じるとゆっくりとした前進を再開した。

時速10㎞程度のゆっくりとした速度だが1時間程で12階層出口洞窟に到着した。


地下迷宮7日目の午後の早い時間で到着したので、このまま13階層の入口洞窟まで歩いて行くことに9人の合意が出来たので、浮遊板を収納して下りの階段洞窟を歩いた。


7日目の夕方までに13階層の入口洞窟に到着した。

7日目の夜はここで野営して8日午前中から13階層の黄熊蜂10匹と岩石熊230頭、ミノタウルス3頭と対決することになる。


特筆すべきはこの13階層から22階層までは特定魔獣を倒せば個別にノーマルスキルが付与されるのだ。

13階層では黄熊蜂を倒した者が”身体強化”のノーマルスキルを付与される。


30階層の赤龍ラードーンと会敵するまでにチーム戦闘力の底上げをしておきたい。

18階層と26階層の地底湖では魔晶石や魔剣などのイベントも発生する。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


PV30,926アクセスに達しました、本物語を読んで頂きこころから感謝いたしますm(-_-)m! 

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