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#67 地下迷宮10階層 計略編 ワインと40人の盗賊


地下迷宮4日目の朝、10階層の兎草原に設営した野営キャンプのハンモックテントでジェン・フォックスは呼ばれた気がして目覚めたが、外に出ると小さな妖精2人がテントの上で銀粉を撒き散らかして飛び回っていた。


「9枚空中ブロックの子狐さん、おはよう~」

「おは…え?」


「ピピからかっては駄目だよ」

「ルルはもっとおおらかになれ~」


不審番の夜刀姫には敵意を持たない妖精は見えないのだろうか。

「ねえ、妖精さん何か僕に伝えたいことがあるの?」

「賢いね、僕ら26階層の妖精島に住んでいる妖精なのね」

「僕の名前はジェンだよ、いたずら好きな妖精さん」


「もう~教えてやらないよ!子供たちが悪い大人に捕まっている場所を」

「すぐに助けに行かないと捕まっている場所に」

「え~なにそれ?」


「悪い大人達は自分達を40人の盗賊て自称してるよ」

「その部屋の入り口扉の合言葉は”開けゴマ”ね」

「扉の合言葉は1階層も10階層も同じね」


「ん~、26階層にいる妖精さんが何でわかるの」

「それはね、ここのダンジョンのどんな場所でも私たちには遊び場だから」

「イェ~!!世界中が遊び場だよ」

「面白そうな場所には僕たちは人の眼には見えないが必ずいるよ」


「お願いです妖精さん、捕まった子供たちの場所を是非教えて」

「隠し部屋はね1階層の雑木林の中にあるよ」

「雑木林の中だよ」


「この前10階層の大人たちが外で可笑しな事をやっていたよね」

「髭だらけで体臭の濃い大人たちが”お酒のみたいぞ~”と叫んでいたね」

「いろんなこと叫んでたが一番多かったのは酒だね、これはヒントかな」


「隠し部屋はね1階層入り口近くの切り株の下にある半地下室だよ」

「隠し部屋で6人の子供たちが縛られているのを見たよ」

「隠し部屋には子供たちを見張る大人がいつも2人はいるね」


「あ、もう行かないと、また遊ぼうね」

「ああ、本当にありがとう」

「26階層でまた会えるよ」

「またね!」


パッと消えた

テントの周囲は清浄な空気に包まれていた。

この話は早くアベル様に知らせないと・・・



◇◆◇



「皆に一緒に聞いて貰った、子供達を助ける班と盗賊退治の班に分けよう」


10階層の兎草原に設営した食堂テントで朝食後のジェンの報告も終わりアベルは周囲に集まったパーティーの面々を見渡した。


「皆も聞いての通りだ、移転罠を利用できる俺が夜刀姫と1階層に戻り隠し部屋を制圧して子供たちを広場のギルド案内所で保護させるよ」

「それでいいよ」


「10階層の盗賊はどうするにゃ」

「盗賊の洞窟の場所は大勢の足跡が教えてくれるよ」

「うんそれで?」


アベルは時空間収納庫から大きなワイン甕を取り出してミーナに言った。

「この甕にはたっぷりワインが入っているのでミーナの痺れ薬を添加して盗賊の洞窟扉前に置いてしばらく様子を見てみよう」


「40人の盗賊が素性の知れない酒を素直に飲むかな」

「扉を叩いて誰何されたら”開けゴマ”と答えて見つからない様に消える」


「ワイン甕を不審に思っても夢見た酒に長年の洞窟暮らしでは手が出るだろう」

「遅効性で一口飲めば一日は効く痺れ薬を入れるにゃ」


「3時間ほど経ったらミーナが皆を洞窟前に移転させてそのまま盗賊たちを打ち取れば作戦終了だろう」

「直接炎弾をスーが洞窟内に打ち込むよりは洞窟崩壊の危険はない」

「盗賊の財宝は焼けないまま溶けないまま入手したい」


「1階層の隠し部屋は合言葉で開けたところを姫が見張りを切り捨てる」

「それで一番早く子供たちを安全に助けられるね」

「方針が決まれば素早く動こう」

「「「「「了解」」」」」



◇◆◇



俺ミナト14歳が人族剣士で“シャロム”リーダーだ、ツナテ13歳が妹で魔術士、クシネ10歳の狐人探索人そしてアギト14歳の熊人タンク最後に姉のソネ12歳でエルフ弓手と妹のチリ11歳のエルフ治癒師の6人でD級パーティーになったばかりの編成だ。


ところが、今俺たちはダンジョンギルアで盗賊に捕まり、奴隷商の迎えがくるまでダンジョン1階層の半地下室床に下着姿で縛られて転がされている。


これはなんだよ、夢に見た冒険者ってもっとかっこいいものなんじゃねえのかよ。

魔獣を倒して金貨が一杯詰まった宝箱をと夢見て来たんだぜ。

生まれた貧しい村には大勢の腹をすかせた子供たちがいるんだ。


あの時1階層の雑木林で冒険者2人が昼食を炊事していて親切に振舞われたハーブティーに眠り薬が入れてあったなんて、だから子供は甘いなんて言わないでよ。


でももうじき終わりさ、奴隷商人が来て箱に入れられて船積されるらしい。

行先は大事件があって住民全員いなくなった半島に送られるらしい。


2年前に俺ミナトは迷宮都市ゴンゾーの孤児院を卒業したんだ、妹ツナテとその友人クシネそして仲間のアギトとギルドで知り合ったソネとチリとの2人のエルフ異能者と知り合うことが出来て急遽6人でF級パーティー“シャロム”を登録したんだ。


岩山や砂漠で砂兎狩りそしてコブリン狩も出来るようになった、2年間実積を積んでやっとD級パーティーにこの前昇格したばかりだ。

特例の1級上狙いのC魔獣狩で大儲けするはずの自分達が奴隷落ちかよ。


ミナトが絶望して見張り人たちを睨んでいたら、木製扉がコンコンと叩かれた。

「誰だ?」

「開けゴマ」

「お~待っていろ、今開けるからな」


符牒の言葉に見張り人が安心して扉を開けて顔を出すと、外に漆黒の夜刀姫がいて刀を横にして突きの構えでいた。

驚いて大きく見開いた眼球に夜刀姫は素早く水平に突き立て引き抜いた。

“ザクッ”


刀身は眼窩を貫通して脳を破壊して後頭骨を貫き再び引き抜かれた。

声も無く見張り人の身体から力が抜けて膝から前向きに床に崩れ落ちた。

後ろの見張り人が慌てて子供の一人に飛び掛かろうとしたので脇差を相手の心臓の位置に飛ばした。

“ウッ”


2人目の見張り人はそのまま背中に脇差を生やして床にうつ伏せに倒れた。

入口の扉が開かれてから2人目の見張り人が倒れるまで60秒だった。

6人の子供たちは全員が信じられない物を見た様に茫然としていた。

騒動が収まってからソネとチリのエルフ姉妹は見つめ合って怖くて泣いている。

“ウェ~ン”


入り口の扉を大きく開けて漆黒の刺客が手に持った白刃からは血潮がまだ垂れていた。

体形からは若い女性のフォルムが窺えるが怖いものは怖いのだった。


女性は倒れて痙攣している盗賊の身体に刺さっていた脇差を抜いて腰バックから出した布と鹿革で刀身を拭い大小の鞘に納めた。

女性の眼の部分にあるゴーグルが時折鏡面みたいに光を反射する。


女性は床に倒れている6人の子供たちに近づくと指先でロープを摘まむとプチプチと草の葉みたいに簡単に千切り始めた。

ミナトたち6人の子供の手足の縛りはあっという間に切断されて解放された。


その時に入り口から俺達とそんなに年齢の変わらない少年が入って来た。

「大変でしたね俺はアベルだよ、これからダンジョン前広場にあるギルドの案内所まで歩いて行くので体調が悪い人いますか」


「武器と防具を返して欲しいです」

「そうだね、先ずはこの部屋の箱を探してみようか」


女性の人が木箱の蓋を開けると傍にいて覗いたソネとチリのエルフ姉妹が歓声を上げた。

「私達の武器と防具はここに有ったわ」

「きっと奴隷紋を入れたら私達と一緒に奴隷商人に売り払うつもりだったのね」


「先ずは皆が武器と防具を身に着けてね」

「「「「「はい」」」」」


久しぶりに装備すると剣士14歳、魔術士13歳、探索人10歳、タンク14歳そして弓手12歳と治癒師11歳で少年2人少女4人のD級パーティー“シャロム”がここに復活した。


でも数日間水だけ飲まされてたので彼らは体がフラフラするみたいだった。

アベルは時空間収納庫から長テーブルと長椅子2脚を出して果物とパンを籠に山盛りに置き、冷たい水の瓶と木のカップ6個セットを並べた。


「先ずは軽く食事して休憩してから出発しょう」

「「「「「わ~い、ありがとう」」」」」

見張り人二人の死体はアベルが時空間収納庫の中に直接収納した。



◇◆◇



「これは嗅覚がやられるレベルで駄目にゃ」


真っ暗な洞窟の中は猛烈な異臭の世界だった。

さすがのベテランのミーナも困惑した、40人の盗賊たちの洞窟は嘔吐の匂いや濃い体臭で涙が出てくるレベルの悪臭の世界だった。


これは換気しないといけません、出口の扉を手探りで探し当てて扉を開いた。

新鮮な空気と光線が洞窟の中に差し込んできた。

扉の外にはゴーンやクロエそしてジェンとスーたちが待機していた。


最初にミーナが扉を叩いて”誰だ”と問われたので”開けゴマ”と答えてすぐにゴーンたちが洞窟を監視していた岩陰に移転して消えた。


アベルたちの筋書き通りにワイン甕は不審がられたが、誰かが一口飲んだら騒ぎとなり酒を飲みたい連中に甕は洞窟内に運び込まれた。

騒いでいた洞窟内の音響反応もなくなり、3時間経過したのでミーナが中に移転して扉を開けたのだ。


首領のサイゾー以下40人の盗賊たちがワインを飲み遅効性の痺れ薬により宴会途中で全員が嘔吐して意識不明状態に陥っていた。

甕のワインは底が見える程だったので倒れた振りの盗賊はいないはずだ。


丁度そこにアベルと夜刀姫が到着したので、40人の盗賊は洞窟外に搬出した。

盗賊の取り扱いは異世界の慣習法に従って処理した方が無難だ。

意識不明状態のまま40人の盗賊たちの処刑は迅速に実施された。


アベルも収納庫から2人の死体を出した、これで40人が揃った。

夜刀姫が40人の斬首は担当した、場所は洞窟外の彼らが不浄の場所として使用する穴の前で首を斬り胴体は穴に入れた。作業終了後スー魔導師に炎弾で胴体たちを火葬して貰った。


首領のサイゾー以下の盗賊たちの首級はアベルが収納して後日広場のギルド案内所に40個を提出して賞金首と手配された氏名が判明した。


盗賊たちの処理も終わったが、薄暗い洞窟の中は相も変わらずに猛烈な異臭の世界のままだった。

盗賊の財宝探しも夜刀姫が頼りで、罠感知スキルで周囲との異質物質を感知して夜目で確認すれば隠した物体は発見できる。

ミーナも出来るが異臭の嗅覚障害でダウンしてます。


財宝は複数の部屋で種類別に木箱で積み上げてあった。

後日確認だが内訳は大金貨7枚、金貨294枚、銀貨567枚、銅貨1344枚、片手剣56本、短槍35本、弓14張、革鎧32、盾7、革サンダル12、革靴14、水筒43、穀物多数、干し肉多数、水甕多数、寝床多数等々


財宝は事後になったが全部を冒険者ギルドに提出してから市とギルドに事情聴取をされた後で、孤児院への寄付勧告と共にアベルたちに返却された。

アベルたちも相談後、貨幣と武器以外は全部市の孤児院に寄付した。 


地下迷宮4日目の夜は10階層出口に設営した野営キャンプになる。

明日は11階層でオーガ3種族なので夜刀姫とゴーン達が頼りだ。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

                       



PV27,781アクセスに達しました、本物語を読んで頂きこころから感謝いたしますm(-_-)m! 

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