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#63 ダンジョンギルア入り口前広場


ゴンゾー市の構造は北側ダンジョンから離れる程地価が上がり、南西側の港寄り区画が一番の高級住宅街になった。


港の景観が良くスタンピードになれば交易船で脱出できるからでもある。


港は大きな入り江の中にあり帆船が行き交う穏やかな良港だった。

広い天然の湾のなかには様々な交易船が木製の桟橋に停泊していた。


初夏の朝のゴンゾー港の岩場寄りの桟橋の床板に腰かけた小柄な二人の獣人の姿があった。


頭上にはゆっくりと数羽の白い海鳥が舞っている。


「本当に魚がいるにゃ・・・?」

ポチャン・・ピコ・・ピコ


猫人ミーナは港の桟橋から白い尾を海に垂らして寄ってくる小魚たちを観察して尻尾を揺らしていた。


傍に九尾の子狐ジェンが真剣に朝日のきらめく海面を覗き込んでいた。


12歳のジェンと16歳のミーナが魚船の出払ったゴンゾー港の白い海鳥の舞う桟橋でまったりと浜釣りに挑戦していた。


別に遊んでいるわけではないのだ、アベル達と今日からダンジョンに入り30日間程は地上に戻れないので2人の好物を集めているのだ。


この近海の魚は寒流育ちで美味しくミーナの好物で干物よりは生が好きだ。


ジェンは鳥の唐揚げが好物ですでに市場で山の様に腰バックに買い込んである。

魔人のスーの嗜好を二人はあまり知らないので果物は用意した。


アベルに日頃好き嫌いはなく、野営で何でも食べてくれるので楽だ。


でも今回のアベルは冒険で探索しているのではなくスフィの解呪の為に赤龍を倒しに最深部30階層まで必ず潜るのだ。


(どんなに事前に用意しても長期間に渡れば精神的に疲労は蓄積してくる。

午後からはアベル達と共に深層階まで強行突破の日々になるにゃ)


ガブッ・・・ん?


“フギャ~~~尻尾が痛いにゃ!”


考え事した瞬間にミーナの尻尾の先に石鯛みたいな大物が噛みついていた。


「フー許さない、この魚は絶対にミーが食べてやるにゃ~!」



◇◆◇



西側港と北側岩山を取り囲むようにゴンゾー市があり、北側の岩山にダンジョンギルアがあるので自然に港から上り道になる。


ゴンゾー市の中央広場にはギルドや宿屋群そして専門店が多く、中央のテント群は生鮮食品や雑貨品の店で埋まっている活気のある市場がある。


ミーナとジェンが腰バックに〆た魚を入れて港から上り道を歩いていると、前にやはり冒険者風の二人連れが歩いていた。


様々な人間や亜人や獣人があつまる迷宮都市らしく、背の高い竜人とダークエルフの珍しいカップルであった。


竜人は投槍ピルム3本と革盾を持ち、ダークエルフは長弓を肩にかけている二人は狩人らしい。


ミーナとジェンは二人共に背が低いので前方が見え難いが中央広場に入ると大勢の人の大声と怒りの雰囲気が直に伝わってきた。


ミーナが顔を二人の横からひょこり覗かせると中央広場のテント脇に人垣が出来ていた。


好奇心旺盛なミーナが人垣の中に潜り足の間から覗き込むと1人の商人を捕えて男8人が手に刃物を持ち何か喚いていた。


「命が惜しければ早く船と金を用意しろ」


こんな面白い出来事なのに、宿屋に戻りアベルたちと互いの買い物の結果を報告する時間が迫っていた。


人々の話を聞くと奴隷商のジャンに犯罪奴隷として払い下げられた終身鉱夫のドンガと仲間達7人が奴隷印を焼き付ける寸前に奴隷商を人質にして交易船と金の要求をしている所らしい。


見たことのあるドンガは両手首を拘束していた手錠の片方を器用に開錠して、商人のジャンの片手首に手錠をかけていた。


「買い取ったばかりの奴隷たちをダンジョン前で焼き付け作業中だった、油断した」


「そうだぜ、奴隷紋を焼き付けられる前で良かったぜ、命が惜しければ早く船を用意しろ」


暴徒のリーダー格のドンガはゴンゾー市の元職員で、たしかダンジョン内で終身鉱夫の身分に落ちていたはずだった。


毒蛇同士の喧嘩みたいでどちらにも味方したくないが、以前子猫のサクラを蹴り飛ばしていた情景を思い出してミーナの気持ちが決まった。


「クズはどこまでいっても屑にゃ」


ミーナはジェンを連れて見物の人垣から離れて後ろに来て耳打ちした。


「この場所に人質の商人を連れて移転してくるからブロックかけてくれる」

「はい、9層重ねで貼ります」


突然、白猫ミーナの姿がドンガとジャンの間に出現した。

手には探索に備えて購入した新品のミスリルダガーが握られていた。


“スパッ”


「え、ギィャ~ッ」


ドンガの手首が落ちて、手錠が商人ジャンの手首にぶら下がった。

ドンガは片手で血の噴き出す手首を抑えて広場を転げて喚いている。


ミーナはそのままジャンを掴むとジェンの横に移転した。

ジェンは3人を覆うように9層重ねの空間ブロックを素早く貼った。


ドンガの仲間達7人が茫然としている瞬間にタイミング良く、竜人の若い男が人垣の外から跳躍して中心に入り残りの男達を投げ飛ばし始めた。


あっという間に制圧は終わり、ようやく駆け付けた警備の兵士に倒れている8人の男達を引き渡していた。


ミーナとジェンは制圧に協力した若い男が坂道の竜人だったことに驚いた。

すぐに空間ブロックを解除して奴隷商人ジャンを解放した。


この流れで騒ぎの参考人として竜人達と共々に警備隊の本部で4人は話しを聞かれた。


傷の手当中のドンガと反乱の7人の男たちは奴隷商人ジャンと共に本格的に本部で取り調べをされるみたいだ。

ミーナたち協力者4人は聴取から解放された。


「いや~、この度はおおきにお世話になりました。命と引き換えに金と船を要求されたんでは大損ですわ、有り難うさん」


奴隷商のジャンに遠くから声を掛けられて、ミーナとジェンと竜人とダークエルフの4人は顔を見合わせたが、相手が奴隷商ではこんなものだろうと納得した。

警備隊本部の石造建物から4人は出た。


「いや~ダンジョンギルアに来ればなにか面白い事があるような予感がして来たが有ったな、ねえ君達もっと血がたぎるような事を知らないか」


「最深部の赤龍退治なら今から行くにゃ」

「おお、悪名高い赤龍退治か、それに是非参加させてくれ」


「二人共遠距離攻撃型なら後衛でお願いするにゃ」

「心得た、経験値が稼げそうで飯さえ出してくれればやるぞ」


「ふふ、後衛ゲットで心強いにゃ」


「ミーナさん、アベルさんにも了解取らないと」


「大丈夫、後衛で魔導師警護が出来てアベルも喜ぶにゃ」


「これで俺もドラゴンバスターを名乗れて、父上にも自慢が出来る」


「あの、互いに自己紹介しませんか」

「失礼した、拙者は東エルフ聖樹国出身のゴーンと申す」

「私はゴーン様の侍女兼治癒師のクロエと言います」


「ミーは前衛で探索役のミーナで、こちらは中衛役のジェンにゃ」


「中衛で護衛役のジェンです」


「そこの宿屋で昼飯食べながらアベル達に紹介するにゃ」



◇◆◇



そのままミーナたち4人はヤーセンから来てアベルたちと宿泊している宿屋に入って行った。


ミーナは1階の食堂で昼飯中のアベルとスーのテーブルに近づき


「アベル、後衛で魔導師警護が出来る助っ人二人が見つかったにゃ」


「え、最深部まで本当に来てくれるの?」

「ゴーンです、喜んで冒険にお付き合いしますよ」

「クロエといいます、治癒師役で参加させて下さい」


「アベルだ、人手不足で助かるよ、寝所と食事はこちらから提供できるし、ルールどうり素材や魔石は狩った者の取り分だ。」


「なるほど納得だ」


「あと武器の供給は、魔鋼鉄で良ければ投槍も鏃も供給は可能だ」


「手持ちのピルム槍3本が毀損したらやって貰うよ」

「矢は消耗品だからお願いするわ」


「それと俺の侍女は戦闘ゴーレムで不審番が出来るので交代は必要ないよ」


「戦闘ゴーレムかすごいな、睡眠が長く取れるのは嬉しいな」


「スーです、魔導師です」

「これは上級魔導師のかたですね、強い魔力を感じます」


「とりあえず全員でしっかりと食事を取ろうよ」


「地上での食事は当分これが最後にゃ」


食事を終わりアベルは、帝都内の百貨店で購入した洞窟野営に必要なハンモックテントや調理器具・浴槽・トイレ等の説明をした。

続いてアベルは時空間収納庫に収納した資材と食料品の量も報告した。


出発の時間がきたのでアベルは昼飯6人分とエール6杯分の代金に1銀貨20銅貨を受付けの女将さんに支払った。


「これから30日程ダンジョンに潜るので」

「そうかい、また泊まりにきてね」


7人は坂道を上がり、ダンジョン入り口広場についたが景観は前と変化は

なかった。


アベルたちは7人パーティーとしてダンジョン入り口広場の入場届用紙に

記入した。


「予定が30日間か、気を付けて行ってらっしゃい」


「有り難う」


入場届の手続きを終えてダンジョンギルア前の広場を横切ると冒険者向けの獣人の子供たちが群がって来る。


今回は長期間に渡りとても子供の搬送人を連れては行けないので、地下26階層までの地図を売りきた子供達から買い上げながら入り口前まで移動した。


さあ、あとはこの7人でダンジョンギルアの最深部まで戦闘開始だ。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


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