#06 箱型馬車とリヤカー造り
長旅の途中で雨に降られれば、輓馬に牽引された箱型馬車が欲しくなるはずだ。
幸いに俺の知識の中に輓馬と箱馬車とリヤカーの完成イメージは明確に残っていた。
今日は猟師小屋への弁当の配達を済ませて山倉庫の獲物も空間収納庫に入れたので、途中でアベルの秘密基地に立ち寄り懸案の輓馬ゴーレムと箱馬車製造を開始した。
馬車製造は楽しいな、まず箱を載せるチタン製フレームで梯子型枠を作った。
この枠下に前後の車軸を2本を置き、板バネ4組・スプリング8組・サスペンション4組も取り付けて基本形を完成させた。
2本車軸の両端に真球ボールベアリング軸受けをセットして鋼鉄製の後輪大型2個の車輪ホイールと硬質ゴムタイヤと前輪中型2個の車輪ホイールと硬質ゴムタイヤとを車軸に繋げた。
これで立ち上がったフレーム枠上に中空鉄パイプ箱フレームで箱馬車部分を接合して躯体部分とドア枠に車体用軽銀薄板を接合して、ドアの蝶番部分をボルトで絞めて窓ガラスも取り付けた。
任意の形状のボルトナットや真球ベアリングを製造できるスキルに感謝した。
結構馬車らしくなってきた、そのあと内部座席フレームを設置した。座席上と床そしてステップ鋼材上に木板を載せてビス止めした。座席上に熊の毛皮を貼る。
箱内装用の化粧板とか皮製クッションの座席と御者席用の座席・背もたれクッションも後日、専門店から購入したら毛皮と装換しよう。
後部に馬具等入れ用荷物箱を取り付けて、御者台の足ブレーキ・ステップ板からブレーキワイヤーを車体下部を配線して軸受けブレーキに接続した。
輓馬ゴーレムは基本同じ工程だ、核となる紫魔水晶石と各種金属タブレットは揃えてあるし、あとは明確な作動イメージがあれば召喚できる。
輓馬ゴーレムは馬重量600kgで頭高1.62m・体高1.4m・長さ2.34mの標準サイズで召喚した。
輓馬ゴーレムの色はたてがみと尾は黒色で肌は全体に栗毛色、前後の球節・繋部のみ白色の馬にした。
輓馬ゴーレムはゴーレムなので箱馬車と伴に空間収納庫に収納できる。
必需品の馬装具では馬銜と革製の手綱そして軛と牽引棒が必要で製作した。あとは牽引棒を両側に置き、軛で固定すれば完成だ。
輓馬ゴーレムはゴーレムなので収納する前に体全体を洗浄して泥を落として馬蹄などを検査すれば良い。
召喚した輓馬ゴーレムの名前はまだない。
あとは馬御者台に魔石ランプを取り付けて車体を黒色塗装すれば馬車の概ね完成だ。
この馬車は真球ボールベアリング軸受けをセットしてあり、さらにチタン鋼製中空パイプモノコックボディなので1頭立てで充分に牽引できる。あとの細部は街の専門店で内装施工しよう。
アベルは製作した輓馬と箱馬車を最終チェックした、夜刀姫も早速御者席に座って座り具合を確かめていた。
一応身長160㎝の夜刀姫でも足が御者席の床に届くように製作はしてある。
長旅になるので俺と交代して御者出来る様に期待している。
箱馬車の内装施工の出来る専門業者が欲しいが街の馬屋でいい人を紹介してもらおう。
夜刀姫に合図して降りてもらってから、俺の空間収納庫に輓馬と箱馬車を格納した。
◇◆◇
リヤカー製造は簡単だが、今日は遅くなった母親も心配するだろう、リヤカーは明日にしよう。
工作に入ると時間を忘れて熱中してしまうのが俺の欠点だ!
今日は早朝から草原に設置したコンテナユニットの玄関部の網引き戸を開けて庭園の中に夜刀姫と出た、引き戸の外はむせかえるようないっぱいの緑と藤色の日差しの世界であった。
別世界だ、でも手早くリャカーを製作して猟師小屋に向かわないとね。
アベルは空間収納庫の中より車軸を1本を出して、車軸の両端に鋼鉄製の真球ボールベアリング軸受2個を接合した。軸受を小型車輪ホイールと太目の硬質ゴムタイヤとを繋げた。
あとは箱型鉄パイプフレームを作成して上に載せて床板やH50㎝の側面板そして奥板を貼り、牽引部のフレームを人が牽引しやすく上方に曲げて接合する。
タイヤの周囲にガードレールを設置して、箱の後方に上下差し込み式の仕切り板を設置した。
最後に三角形の立型スタンドを車輪前方に接合して傾斜して自立するのを確認した。
リヤカー造りを繰り返して合計5台を作り終えた。
このリヤカーは需要は見込めるので部品は多めに作り新規依頼や修理に備えよう。
早朝3時間ほどの作業で手早くリヤカー5台を完成させて空間収納庫にしまった。
これで毎朝の共同井戸からのフラウ母さんの水甕搬送も便利になる。
◇◆◇
最近、マリ村の山羊などの家畜が何頭も襲われる被害が多発している。
目撃情報では長さ15m胴周り3mの全身鱗の地竜らしい。
アベルは村長の頼みを断れずに、村人たちの頼みに両親も承諾した。
多くの家畜の死骸から爪跡と尻尾の殴打傷や炎弾痕跡が確認できた。
空間バリアーがあろうとも、手斧での近接戦は不利だった。
周囲を走り廻りながら躱しの遠距離攻撃しかない!
夜刀姫は投的感覚が優れている、これは立証されている。
しかも敏捷で怪力である、最初から鉛玉は想定にあった。
俺の脳内イメージは30㎜チェーンガンの乱射だが中世での武器はどうなる?
径30㎜180g程の鉛球を初速330m/秒で投的して直撃すればどうなるか。
多分相手の体腔内で鉛球がキノコ状に潰れて跳ねまわる凶悪弾になる。
この簡単な鉛球は量産しよう。1000個程度は収納庫で備蓄しよう。
投的距離にもよるが魔物の甲殻に弾かれたらどうする、徹甲弾は作るか?
地竜の甲殻に弾かれたら考えよう。
今は手数が欲しい、目玉から相手の内臓がミンチになるくらい鉛玉を打ち込めばいいや!
当面は鉛玉で対応してみよう、弾かれた時に善後策を考えればいい。
形状が単純で鉛玉は量産できそうだ。当面は100個程度腰の魔法袋に常備させよう。
有効距離はどうなるのか夜刀姫の遠距離攻撃力を見たい。
直径80㎝長さ1mの丸太30本を用意した。コンテナ造りの河原で実験した。
30㎜鉛球を30個用意した。
広い砂地の河原に離して30本の丸太を立てた。
夜刀姫は立てた30本の丸太の正面150mから5mまで前進しながら全力投的した。
有効距離と集弾性能だな。
150mで左丸太は衝撃で割れて跳ね跳び、鉛玉は上下に散らばる。
有効射は100mの距離から出てきて同一の位置を狙えた。
50mからは丸太は衝撃で爆散した、鉛玉は狙った箇所に正確に当たる。
非公開実験でよかった。村人から夜刀姫が怪物扱いされてしまう。
結論、攻撃方法は100mの距離から鉛球の衝撃重視で体内跳弾を狙う直球勝負。
脳幹・心臓など急所狙い攻撃は接近戦でトマホーク打撃と決定した。
横からの初速は鉛球で330m/秒と魔法測定している。
地底湖への坑道は各種鉱石層が露出なのでその坑道で俺が鑑定・精錬・整形をして30㎜鉛球を1000個製作して900個は俺が収納庫に入れた。
俺の横で夜刀姫が腰バックに鉛玉100個を入れた。同じバックに投的用80㎝トマホーク10本も入っている、これで遠中距離用の武器は準備完了した。
さっそく村の共同牧場に夜刀姫と二人で出かけた。
広い草原の牧場に近づいて夜刀姫に魔力探知で探ってもらうと、森林の奥から大きな魔力の塊が近づいてくるみたいだ。
俺は牧場横の大きな樹木の枝に登った。
夜刀姫の鉛球が相手に通用しなければ、停止時を狙い上からクロスボウで狙ってやろう。
無理か、逃げるしかないかもしれない。
樹の上なら高い所からの方が全体の戦況が把握しやすい。
夜刀姫が下で指さす方向を見ると全長15mはある大きな爬虫類が牧場に近づいて来た。
今距離は300mを切ろうとしていた。
樹の上から見ると、大きなイグアナに似た地竜であった。
俺からは魔物が150mを切れば周囲を廻りながら鉛球を投的していいと夜刀姫に攻撃許可は出してある。
地竜は尾を振りながら四つ足で歩行するので意外と早く草原の上を前進して来る。
地竜が150m近くになり夜刀姫が前傾姿勢で走り始めた。
弧を描いて疾走する夜刀姫は早くも100mラインを割り込んだ!
側面攻撃を狙って夜刀姫の右腕が振られ始めた。
地竜の腹部に鉛球がヒットする度に、地竜の外皮が凹み体全体が飛び跳ねる。
鉛球は確実に体躯の中で潰れて跳ねまわっている、地竜体躯の痙攣が証明している。
しかも地竜の周囲を走り廻りながら右腕をアンダースロー気味に真横から振っている。
空中を飛翔する鉛球の姿は全く見えない。ほぼ直後に着弾している。
ただ微かに“シュー、シュー”と空気との擦過音だけが聞き取れる。
腰バックを前に回して、左手先を出し入れして弾を右手に渡している。
視線は外さずに、右手は素早く動き、足さばきはすり足で滑らかに曲線移動する。
のたうつ地竜の腹部が連続で凹凸んで波紋の様だ。腹部が凹むと地竜の口から赤い飛沫が吐き出される様になった。
怒りの地竜の口が開き首を回して炎弾が周囲に飛んでくるが狙いは大きく逸れて当たらない。
鉛球が当たるたびに“グギャ~・ゴガァ~”とか悲鳴を上げている。
10分程で地竜の動きが止まった、傍に接近して両眼への投的で悲鳴も止み沈黙した。
首も尾も地面にぐったりと伸びて生気がない。地竜腹部には多くの弾痕が開いている。
夜刀姫に聞くと、腹部に10個両眼へ2個鉛弾投的し全弾命中だそうだ。
俺は夜刀姫に地竜を仰向けに倒させて、胸部からラクビーボールほどの魔石を短剣で抉り出した。
地竜は死亡した。弾痕は12個を数えた。
330m/秒は火縄銃の初速と同じ速さで30㎜鉛球が体腔内で跳弾したのだ!
人間ならば160㎞の球速で大騒ぎになるが、彼女はさらに倍速の速さだ。
走りながらの鉛球が腹部にめり込んだ。人間なら1発で人体爆散するだろう。
これでマリ村の皆も喜んでくれるし、夜刀姫の攻撃方法も確立した。
エディ父さんに地竜を解体してもらおう、鉛球は回収して形状変化を確認したい。
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