#58 猫人ミーナと狐幼女ジェンの邸宅訪問
アベルと仲間たちはヌールイ湖畔からオッタル翁の追跡を飛行船で開始した。
オッタル邸宅のあるカルマ市へ飛行する飛行船の中でアベルと夜刀姫やミーナ、ジェン、ジェドたちと邸宅訪問について話し合いをした。
「オッタルはカルマ市邸宅にいて俺たちが来るまで待っていると思う?」
「捕まれば死ぬ未来しかないのにおとなしく待つ選択はないにゃ」
「ジェンは呪術師が今どこに移転しているか感じるかい?」
「え~と、スーン海峡を越えた所に黒い靄を感じます」
「黒呪術のドードー教はソドム魔導国の土着宗教と聞いた覚えがあるな」
「途中のオッタル邸宅を捜索するけど誰か希望者はいる?」
「ミーとジェンがメイド服で訪問すれば相手は刺客と思わないにゃ」
「邸宅は生活の場所だから縁者の女子供たちがいるだろう、無抵抗の者は隔離するだけでいいよ、抵抗する人間は気絶させればいいかな」
「武器を持ち抵抗する女子供がいたらどうするにゃ?」
「その場合は怪我させない様に縛り無力化しなさい、方法は任せる」
「「了解しました、にゃ」」
白猫人ミーナと狐幼女のジェンは、革鎧からメイド服で黒の首リボンと灰色の半袖シャツそして黒色のワンピースに、灰色のエプロンとバック・リボンや黒パンティなどに着替えた。
捕縄や各種薬なども入れてある黒の腰バックは装備しても違和感はない。
湖畔などの戦場ならば命のやり取り前提で臨めるが、日常生活の邸宅では非戦闘員の女子供が混在するので慎重な配慮が必要だ。
エルフの霧の城遺構も取り込んだ広大な敷地のオッタル邸宅から離れた林に飛行船は着陸してからミーナとジェンが二人でオッタル邸宅を徒歩で訪問した。
◇◆◇
白猫人ミーナは尾を揺らして狐幼女のジェンはミーナの影に隠れてヌールイ街道をのんびり歩いて邸宅正門の警備兵の前まで着いて胸を張り言った。
「やあ!ヌールイ湖畔で見掛けたオッタル様にお話があるので取次をお願いするにゃ」
正門の警備兵は同僚の兵隊と目配せして、太い手で裏門の場所を示して。
「ここは子供が遊ぶ場所じゃないよ、メイド希望なら裏口に行きなさい、お嬢ちゃん」
「にゃ~説明してもだめか、しかたない裏口に行くにゃ」
「はい」
しょげた二人は尾を揺らして裏門につながる塀に沿った側道を歩き始めた。
(ここらでいいか、訪問目的のオッタルの不在確認と逃亡先の捜索を手早く済ますにゃ)
「ここなら正門から見えないから、あの建物の最上階に移転するにゃ」
「邸宅の中で咎める人がいたら、無力化していいんですよね」
「それでいいにゃ、では手をつないで」
「はいです」
“フッ”と二人の姿が消えた。
白猫人と狐幼女の姿が現れたのは、オッタル邸宅最上階の寝室の中であった。
5階角部屋を占めている寝室の真ん中にミーナとジェンは移転できたが、部屋の主人は逃げ出した後らしく人気はなく大麻の匂いの籠る部屋だった。
ここは本館の最上階で若干人気の感じられるのは清掃している使用人らしい数人の動きがあるだけだった。
移転した寝室を捜索していると壁面いっぱいに描かれた
フレスコ画があり、一目見たミーナとジェンの尻尾は極大まで毛が逆立って太くなってしまった。
“にゃ!”
夕方の赤光に浮かびあがった壁画の構図は、背景が赤黒い闇の中に右手に浮かび上がる白い裸身を木杭に縛られた銀髪の少女が絶望に俯き髪が乱れて顔を覆っており、左手には溶岩の上に大きな赤龍が口を開けて迫る場面の壁画だった。
耽美的な美しい色彩の壁画の前には祭壇の置かれた跡が残っていた。
この絵には実際にこの情景を見ていた画家が描いた臨場感があった。
白猫人ミーナと狐幼女のジェンがポカンと口を開けて見ていると。
「あの、どちら様でしょうか?」
と後ろから声が掛かったので振り返ると、執事らしい中年男性が寝室のドアを開けて二人を発見して驚き声を掛けてきた。
「あの赤い龍の名前は?」
「大迷宮スーンの主ラードーン様です」
「ラードですか、おいしそう」
「もういいです、本当になんの御用ですか⁈」
「ええと、ヌールイ湖畔からオッタル様を追いかけて来た者ですが、オッタル様がどちらに逃げたか教えて欲しいにゃ?」
「はいそうですかと教えるとお思いですか」
「ジェン逃がすな」
“スパン”
ジェンの神速の九尾パンチが10m伸びて入り口の執事の顎にヒットした。
そのまま仰向けに倒れる執事の背中を別の尻尾が支えて持ち上げて寝台に寝かせて、別の尻尾が腰バックから捕縄を取り出して両手両足を縛った。
別の尻尾はドアをそっと閉めた、手数が多いって便利だ。
執事の無害化に成功したので、これから尋問タイムになった。
「ジェン、そこの机の上の羽根ペンを持ってくるにゃ」
「ミーナ様はいです、これからどうします?」
ミーナはシーツ上で執事の靴と靴下を脱がしてから、腰バックから粉薬を取り出して執事の鼻孔に振りかけて大きな枕をすばやく顔面に乗せた。
“ゴアックツョン”
すぐに盛大なクシャミと共に目をさました執事は涙眼の視線をミーナ達に投げかけた。
「心配ないからね、この薬は体を知覚過敏にする薬で、刺激にどこまで我慢できるか実験するにゃ」
「今からこの羽根ペンでビリビリ痺れてる足裏をそっと撫でるにゃ」
「そんな、絶対にやめてください」
さわ~
“グッェ”
ミーナが羽根ペンで過敏状態の足裏をそっと撫でると、執事はビクンと体を反らして悶絶した。
目覚めて・・・
「話します!ご主人様の行き先を話しますから二度としないで」
「では、自分の名前とオッタルの行き先を言えにゃ」
「私はトーヤといいます、ご主人様の行き先はソドム魔導国のターネリア州のドードー教地下本部です、間違いないです」
「そこにオッタルがいなかったらここに戻ってきて今の続きをするにゃ」
「黒呪術師のアンギュラス様とご主人様の密談でその地名がもれ聞こえました」
「あとこの不気味な壁画の由来を教えるにゃ」
「前にアンギュラス様とご主人が誘拐して生贄にした某国王女の最後です」
「二人とも殺されて当然の悪事を働いているにゃ」
「ジェン気絶させて」
“スパン”
ジェンの九尾パンチが執事の顎に再びヒットして失神させた。
「これで移転は見られないにゃ、では手をつないで」
「はいです」
“フッ”と二人の姿が再び消えた。
(林に隠れる飛行船の客室で)
「という訳でソドム魔導国のターネリア州のドードー教地下本部まで追跡する必要があるにゃ」
「まずはソドム魔導国王ルシファーへの挨拶と協力依頼だな」
アベルと仲間たちはフェン公国カルマ市から離陸して、スーン海峡を越えてソドム魔導国へのオッタル翁追跡飛行を再開した。
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