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#57 ヌールイ湖畔の黒い死神


“ウォォォォォ~~~”


ヌールイ湖畔森林に潜むオッタル軍将兵に歓声が沸き上がる。

森林の中に異様な雰囲気が伝播していた。


うまくいきすぎている、ひょっとすると俺達がこの大陸を支配する大帝国の皇帝を討てるかもしれない。

皇帝の首を取った兵の名前は永遠に歴史に刻まれるだろう。


空前絶後の大金星になる、その可能性を眼前の朱に染まる女性騎士たちの遺体が告げていた。


次の攻撃で皇帝の首も取れるぞ、数千本の矢で皇帝の女性護衛兵アンも仲間と負傷して軍馬も傷つき倒れている。

後ろの皇帝馬車列も同じ惨状だ、馬も御者も倒れて金飾りの馬車には無数の矢が突き刺さっている。


「前列の弓隊は後ろに、槍隊は前列で隊形を組め」

オッタル軍の指揮官の大声が森林に複数響く。


いっぽう夜刀姫のほうは、飛行船からオッタル翁の馬上旗が樹海の中に視認出来たので移転してきたが本陣の幕舎の脇には旗は立てられているが本人の姿は側近の呪術師と共に掻き消えていた。


むろん幕舎の中にいた13人の参謀達の首は斬り落としてあるが老人には危機感知の7センスがあるのだろうか。


オッタル翁の居住区にはなにやら禍々しい黒呪術祭壇が置かれてあり香炉に大麻が炊かれて魔獣の首と供物が供えられてあった。

供物は女子が被る麦わら帽子に血痕があり呪術の的にされていた。


オッタルは今までいた様な雰囲気だったが魔力感知には反応はなかった、

ただ大麻の煙が幕舎の中に漂っていた。



◇◆◇



傍にアベルのいない夜刀姫は次の行動を切り換えた。

皇帝馬車列が危ない状況は知っていたので、腰バック中の1000個の30㎜鉛弾を投的したら、二刀流で斬りまくり馬車列を助ける選択をした。


漆黒の異形の刺客は本陣から出てオッタル軍5000人の背後から鉛弾を投げ始めた。


““グァ!” “ギァ!” “オァ!” “ゲッ!” “ギァ!” “ウァ!” “ゲッ!”


樹間を縫って飛来する高速弾にたちまちのうちに後列の弓隊から崩れ始めた。

頭に当たれば頭部は西瓜みたいに四散した。

胴体に当たれば二つに千切れ跳んだ、絶叫を残せたのはまだ幸運な兵だった。


ただ漆黒の死神がオッタル軍の背後から迫ってきた。


しかも次第に走りながら右腕で左右の将兵に真横から当てている。

空中を飛翔する鉛球の姿は全く見えない。ほぼ直後に着弾している。

ただ微かに“シュー、シュー”と空気との擦過音だけが発生している。


腰バックを前に回して、左手先を出し入れして弾を右手に渡している。

視線は外さずに、右手は素早く動き、足さばきは駆け足で前列に接近する。

もうすでに数百人は絶命している、着弾のあまりの衝撃エネルギーに人体は内臓破裂して手足が四散していく。


本陣から皇帝馬車列までの直線上で惨劇は繰り広げられていった。

騎馬戦とか兵同士の斬り合いではなく一方的な蹂躙虐殺であった。

森林の中では急速に生きている人間の魔力の輝きが減っていった。

沈黙の断末魔の衝撃波は最前列の槍兵の隊列にも伝わった。


振り向く指揮官の顔面が爆ぜる、胴はしばらく首から血を拭き出しているが仰向けに倒れる。


それを見た槍兵の股間から液体が広がり、槍を捨てて逃げだそうとするが彼の胴体も前列の同僚と共に四散した。

戦線崩壊が現実に起こっている、


最前列に到達した夜刀姫が今度はTの字に横に移動を開始した。

当然、夜刀姫から数百mの空間は即死した兵か、流れ弾で負傷した兵で溢れていた。


1弾で数人が討ち抜かれて即死して、弾は運動エネルギーが消失するまでは飛翔した。


最前列から数百mの空間は血に染まった兵士達の身体で埋め尽くされた。

即死した兵は幸運で手足を飛ばされた兵は失血死するまで呻き続けた。

やがて鉛弾は尽き、夜刀姫は潰走を始めたオッタル軍の残兵たちに双剣で追撃戦を開始した。


後に夜刀姫には生き残りから”黒い死神”という二つ名が付いた。


結局、皇帝側は赤薔薇隊女性騎士47人が死亡して113人が負傷した。

オッタル軍側は軍兵1785人が死亡して、953人が負傷して残りは潰走した。


オッタル翁本人と呪術者2人は湖畔より逃亡して行方不明になっている。


アベルと仲間達は飛行船から皇帝を移転で下した後オッタル翁と呪術師の追跡を開始した。



◇◆◇



湖畔戦の翌日に遅参した皇帝直轄軍50000人は皇帝の指揮下に入り、戦後処理を熟慮していた皇帝の命により近衛騎士団の武装解除を実施した。


帝国法に照らして皇帝にたいする大逆罪で指揮官全員の有罪が裁決された。

罪状は戦闘で赤薔薇騎士隊と皇帝馬車列を意図的に戦線前面に放置してオッタル謀反軍に討たせた罪だ。


証拠は10番隊長ゲンッが書き写した激文控えと皇帝の目撃証言だ。

戦時中なのでジャロック近衛騎士団長及び幕僚達と部下の千人隊長9人百人隊長90人の幹部109人の斬首が即時処刑された。


有罪判決と同時に武具と衣服をはぎとられ、後ろ手に縛られて裸のまま波打ち際まで歩かされて跪かされて斬首された。


処刑された首と遺体は、やはり裸に剥かれたオッタル兵士の遺体と共に森林の中に掘られた大穴に投げ込まれて土砂で埋められ踏み固められた。


赤薔薇隊の53人と30輌の皇帝馬車列は皇帝直轄軍の保護下に入り治療を受け、戦死者はヘル城下軍人墓地に運ばれて丁重に埋葬された。

負傷者が多く下士官パトリシアは埋葬責任者となり帝国軍人墓地の開設をした。


幹部109人と敵兵2738人の武器武具金銭の売却代金は戦死者47人の遺族に戦功を讃えて遺品武器武具に感状と褒賞金と売却代金を添えて贈られた。


皇帝直轄軍は現場で戦後処理に3日間費やした後、皇帝の行幸馬車を護衛して次のカルマ市目指して進軍を開始した。


アーサー皇帝は10番隊長ゲンッを功績により近衛騎士団長に親任した。

ゲンッ新団長は残存兵と共にヘル城に入り、近衛騎士団の再編成作業に入った。

今回の功績でパトリシアは赤薔薇隊の分隊長に昇進した。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


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