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#54 アーサー皇帝と水晶宮のアベルたち(2)



アベルは女王クレアのアーサー皇帝への挨拶文(写)と共に7ケ条回答文を取り出したが、この瞬間応接間の帝国側要人の空気は固まった。


アーサー皇帝も手元にある「西エルフ聖樹国7ケ条回答文」を条文ごとに再度熟慮してみた。

皇帝の言葉は、一度発言したら取り消すことはできない。


アーサー皇帝は熟考する。


“1.アケニア騎士団領の承認は取り消す。”

この条文はオッタル大公が西エルフ聖樹国西端部分を騙して侵食した領土を世界会議で武力を背景に承認させたものだ。

帝国の建国は世界統一を志しているが、今後は剣ではなく経済的に支配した方が反発は少なく利益は大きい。

合法的に貿易相手としてウルク大陸を原料供給地兼製品消費地としてウィンウィン(Win-Win)な相互依存関係に持ち込む。


“2.同上領土は獣人自治区とし、獣人自治政府を承認する。”

この条文は明らかに迫害されてきた種族を帝国との緩衝材に利用して1石2鳥を狙ったものだ。

§1を認める以上はこの項目は拒否できないから、ここはいったん獣人国を認める。


“3.ダンジョンシバはシバ族と魔族の共同管理とする。”

この条文はダンジョンシバの管理を昔の共同管理体制に戻すものだ。

元騎士団領内に存在するダンジョンシバの所有権は法的に失効する。


“4.ダンジョンギルアはドアーフ族とエルフ族の共同管理とする。”

やはりこの条文はダンジョンギルアの管理を昔の共同管理に戻すものだ。

ダンジョンギルア挑戦へのノルン人冒険者参加を実態的に認めて貰う。


“5.ウルク大陸の冒険者ギルドマスターは現地人とする。”

この条文はウルク大陸の魔石採掘に直結する冒険者ギルドから帝国を排除する狙いだ。

これから帝国は産業動力源として魔石はいくらでも需要はあるのだ。

ノルン人冒険者をギルド内部に送り込み購入ルートを切らない様に関係改善していく以外にない。


“6.ウルク大陸上に帝国駐屯地もノルン人居住も認めない。”

この条文はそのままにウルク大陸上に帝国の進出を認めないというものだ。

認め難いが、武器や生活製品の交易を通して聖樹国との信頼を再構築してウルク大陸に徐々に進出する以外にない。


“7.魔王島への干渉は魔導国への宣戦布告と認める。”

この条文は魔王島への帝国の進出を認めないという特異なものだ。

勇者による再度の魔王退治を恐れての条項だろうが、魔導技術を得られる利益の方が国是より反射利益は大きい。


アーサー皇帝は発言する。


「西エルフ聖樹国7ケ条回答文の全条文を皇帝として受諾する。

しかし冒険者なら共感できると思うが大森林での魔物退治や巨大ダンジョンギルアでのレベル上げの場は失いたくない。

居住滞在は避けるが、ノルン人冒険者たちの冒険目的のウルク大陸短期入国は認めて貰えないだろうか?」


「ノルン人冒険者たちの冒険目的のためのウルク大陸入国は認めてもらえる様に私からも西エルフ聖樹国に伝えますわ」


(言ってしまったアイラ発言をいまさら否定できない以上、冒険のための短期受け入れは受諾するしかないだろう)


「皇帝陛下の西エルフ聖樹国7ケ条回答文受諾と、ノルン人冒険者の短期入国希望については聖樹様にお伝えします」



◇◆◇



《皇帝会談10日前》


飛行船でイシ河原から山城に着いてスフィと冒険の準備中に執事カインからの魔道具連絡で帝都に呼び出された。


アベルは魔王島のカインを乗せて帝都に急ぎ、ミーナ、ジェンから情報を聞いた。


帝都ベルブルグの住宅地域にあるダン侯爵の秘密アジトで、ジェンとミーナの二人が入手したフェン公国の暗殺計画についてダン侯爵と魔王島側との会議が開かれた。


会議の議題はナドウ翁、嫌われ者ネロ公爵そして直接民族浄化を指揮したエリツィン将軍の排除だ!この3人とは平和を望む者にとって共存できない。


会議の参加者はダン侯爵とアイラそしてアベル、スフィ、ミーナ、ジェン、夜刀姫、カインの8人だ。


「アイラ姫が入手したフェン公国側の陰謀について今後の戦略を話し合う場を設けた」


「今回は、帝国軍の作戦と皇帝陛下の護衛という2つの作戦行動が求められます」


「そうだ、フェン公国軍対応は帝国軍がやる殲滅戦しかあるまい、陛下を狙う毒殺と吊り天井については恐らくヘル城での晩餐会と当日夜の寝所だね、これはミーナさんとジェンさんの能力頼みになるよ」


「もう少し詳細を詰めたい!ではアベル殿の考えを聞かせて下さい」


「フェン公国軍対応では帝国軍しか出来ないでしょう、陛下護衛ではミーナの移転とジェドの毒検知とジェンのブロックがお役に立てるはずです」


「貴族が使う毒は即死級の猛毒だからジェドに舐めさせたくないにゃ」


「最後のお願いよ、ミーナさん協力して、陛下を失うことは出来ないの」


「危険性は承知している、すまんがそれでも協力してくれミーナ殿」


「陛下の寝台や馬車を守るのはジェン殿のブロック頼みになる、天井の構造を事前に調べるのはミーナ殿しかいない」


「皇帝紋の3台の馬車のどれかに陛下の影武者でジェンが乗ります、俺は飛行船で上空から監視して埋設兵に動きがあれば魔道具でジェンに知らせてブロックを貼ります」


「それは助かる、想定されるヘル城戦からヌールイ湖畔野戦に移行してウルク市街戦まで連続で戦うと72000人の将兵は覚悟している」


「フェン公国を本気で潰すにゃ?」

「陛下暗殺計画を知り現地での確認も取れた以上、大逆者たちとの共存はあり得ず、雌雄を決する時が来たと覚悟している」


「アーサー皇帝の帝国の繁栄あればこそナデシュ半島も栄えるわ」


「そうだ、姫も為政者の覚悟が出来て来たな」


「選ばれた青い血(ノブレス・オブリージュ)は自覚してます」


「あとカインを執事にする研修をセバス執事殿にお願いしたい!」


「その程度の事、喜んで協力させて貰いたい」


帝都ベルブルグの住宅地域にあるダン侯爵の秘密アジトで、ダン侯爵とアベルとの開戦前会談はアムル族の帝国内ダンジョン管理人復帰問題にまで及んだ。


「これからのアーサー皇帝陛下の治世に於いては、混乱をもたらしたオッタル大公の政策は是正して欲しいのです」


「例えばどの様な問題解決を是正して欲しいのか?」


「帝国内のダンジョンエデンとダンジョンカルマの問題ですが、以前のアムル人管理人制度を採用して頂きたい」


「確かに帝国内ダンジョン経営はノルン人で、採掘の環境管理や労働安全管理人にはアムル人を採用していた体制だった」


「そうです、ダンジョンエデン管理人にはエデン族を、ダンジョンカルマ管理人にはカルマ族を再び採用して頂きたい」


「経営的には、採掘の環境重視や労働安全強化はデメリットでしかないのだが、旧体制に戻すメリットがあるのだろうか?」


「アーサー皇帝陛下の国家方針は、豊かな臣民生活の向上と産業革命でしたね、水質悪化は深刻な生活破壊につながります。産業革命に役立つ鉄道技術を提供しましょう」

「鉄道技術ですか、それでは帝国のダンジョン管理人にアムル人を採用しましょう」


「有り難うございます、では帝国から管理人採用の通知をエデン族とカルマ族に通知して頂きたい」

「アムル人に通知しましょう、鉄道技術については帝都ベルブルグの循環鉄道路を最初に建設したいので技術者派遣をお願いします」


「エデン族とカルマ族も喜ぶでしょう、鉄道技術では島からのドワーフと技術工ゴーレム派遣になるはずです」

「ゴールデン造船に技術指導をお願いします、あとはどの様な問題がありますか?」


「アーサー皇帝陛下の国家方針は、内政重視で外征はしないと決意表明しましたよね、今後のウルク大陸での西エルフ聖樹国の発布した[西エルフ聖樹国7ケ条回答文]についてのご見解はいかがでしょうか?」


「[西エルフ聖樹国7ケ条回答文]についてはそのまま受諾します、今後のウルク大陸との関係は世界会議で両大陸の相互不可侵条約の締結が相応しいと考えています」


「[西エルフ聖樹国7ケ条回答文]についての受諾に感謝します、また世界会議で両大陸の相互不可侵条約の締結は支持します」


「現実にウルク大陸のアケニア騎士団領は獣人自治領になりました、またダンジョンシバは魔族とシバ族の共同経営に、ダンジョンギルアもエルフとドワーフの共同経営になりました」


「ナスル大陸のフェン公国領は皇子領になり、ダンジョンエデンの経営権は皇室財産となり採掘の現地管理人にアムル人を雇用します」

「その処分に感謝します」


ダン侯爵と従者たちは支城に帰り、残ったアベルたちはお茶会をした。

ミーナが毒見名目で皇帝の紅茶葉や御菓子類を大量に持ち込んでいた。


「さきほどのゴールデン氏を誰かしってますか?」

「ジョン・ゴールデンなら知ってるにゃ」


「教えてクレメンス」


「皇帝派ダン侯爵の庶子にてゴールデン建設、ゴールデン商会、ゴールデン農場、ゴールデン造船の会長で一人娘がいたにゃ」


食事も済み、食後のお茶を飲んでいると、夜刀姫がソファーに腰かけて竪琴リラを6曲ほど1時間演奏してくれた。


パチパチパチパチ・・・全員が盛大に拍手した。



◇◆◇



《皇帝会談7日前》


ジェンとミーナが掴んだ情報はアイラから帝国側に軍事組織に直ちに伝わった。

しかし、アーサー皇帝のフェン公国への行幸はそのまま準備は続けられた。


行幸随伴の近衛騎士団10000とは別に皇帝直轄軍の50000とダン侯爵軍12000規模に及ぶゲヘナ砂漠での大演習が計画され告示された。

その場所はフェン公国に近いゲヘナ砂漠で想定下の状況で実施される。

演習内容は防御軍50000と攻撃軍12000との2軍に分かれて紅白模擬戦を行うものだ。


しかも従軍兵士には正規戦と同様な軍馬と征矢と真剣や長槍、ポーション、毛布テントの携帯着替えそして医療部隊と小荷駄隊の同行が求められていた。


これはそのまま演習から軍事侵攻に切り替え可能な体制となる。

実際の行軍ルートはゲヘナ砂漠ではなく、防御軍団50000はフェン公国ヌールイ湖畔の背後の森林地帯を目指しており、仮想敵部隊の12000はノーム半島目指して二手に大きく分かれて進軍を開始した。


それとは別にアーサー皇帝のフェン公国への行幸は皇帝馬車3台と10000の近衛騎士団随行と決定され公布された。

行幸馬車にはブロック役ジェン、毒見役ジェド、移動役ミーナが派遣されて途中から皇帝馬車3台に同乗する。


山城から急遽呼び戻されたアベルと夜刀姫は飛行船で1000m上空から行幸馬車の安全警護の空中監視をする予定だ。


「なお作戦の指揮役アベル、毒味役ジェド、ブロック役ジェン、移転役ミーナ、警護役夜刀姫の5人に魔道具の携帯通話機を供与するそうだ」


「6台目の誰かが本陣で盗聴しているはずにゃ」


「聞かれる前提で会話して、終了時に本陣に返せばいいだけだ」


カインは今回のフェン公国戦には帝都で執事研修をしながらマイク・ハーベスを窓口に、洞窟での野営道具の製作をゴールデン商会で依頼中だ。


スフィ巫女は聖樹神殿での巫女見習いのために聖都アースへの帰還要請があったので、ミーナの移転で即日移動した。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


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