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#50 ジェド・バーデンの冒険(4)



《到着日午後》

ジェド・バーデンは茫然としていた、帝都ベルブルグの北東部軍演習場の草花は見渡す限り人の背丈ほどのケシの花が赤白桃紫と咲き誇っていた。


この300,000㎡に及ぶ広大な軍演習場の領域責任者はオッタル大公から支城主のネロ公爵に引き継がれていた。


北東部の広大な軍管理領域の左は流入ガド支流れで住宅地域と区切られており南側は直接に商業地域と接している。


この大草原は一見すると美しい風景に見えるが、ケシの茎に毛が生えており落花後の蕾からアヘン原料が取れて精製すれば麻薬になる品種だ。


アヘン収入は大公の財力の一部でもあり、商業地域の暴力組織を使い精製して歓楽街の娼館にも麻薬が浸透して観光客や中毒者を長年蝕んでいた。


アルナカ峠の様にフェン公国の軍事力を背景に帝都の中でも闇の非合法組織を使い栽培・収穫・流通を支配して暴利を貪っていたのだ。


商業地域の支城主は第二皇子のルイ公爵でフェン公国との繋がりが不透明だ、ルイ公爵は何故麻薬の流通を許しているのか?


今夜の商隊の飲み会の前に商業地域の土地勘を養いに来たが、場所的には軍の演習場の傍にモアボ組事務所が有ったので午後は草原側から建物を監視していた!



◇◆◇



《到着日午前中》

アルナカ峠からは、襲撃もなく商隊はルビー鉱山からキラウ火山の麓を経由して帝都境のカルメル川を渡り商業地域に入りゴールデン商会の本店敷地内に到着した。


会長マリンに依頼書に完了のサインを貰い紅光とジェドは同じ商業地域にある冒険者ギルド本部受付に書類を提出しそれぞれの護衛報酬を得た。


当然、ヒカルたちと歓楽街の飲食店で夜に飲み会の話となったがまだ午前中で夜に再度集合の約束になった。


ジェドも時間があり同じ商業地域にあるモアボ組事務所やアヘン窟周辺の土地勘を養おうと歩いてきたのだ!



◇◆◇



《到着日深夜》

ジェドは到着日の飲み会はほどほどで切り上げて、昼間見つけたアヘン窟のある娼館の立ち並ぶ一角に歩いて入っていった。


表通りはほろ酔いの娼館に行く庶民の群れで賑やかだったが、通りの外れた裏通りのこちら側には人影は見えなかった。


帝都の一角でもここら一帯は暴力の匂いがプンプンとしてその筋の人間たちが暗がりに点々と潜んでいた。


目星をつけたモアボ組の息のかかる娼館を眺めていたら、建物脇の地下に降りる階段があり、時々貴族の様なマントで装った人影が人目を忍ぶように出入りしているのが見えた。


阿片のかすかな匂いが敏感なジェドの嗅覚に警報を告げている。

暗闇の中人影も見えず、時々鼠が路上を急いで走り過ぎた。

ジェドは暗がりから三連星の明りのなかに体を晒して、酔った足取りで石造りの建物横の地下にいく階段を降り始めた。


階段の降りた踊り場に木造の扉がポッンとあった。

監視して知った様に扉の除き窓に3回ノックすると窓が開き男の眼が見えた。


「何の用だ?」

「上で聞いたが、薬を欲しいにゃ。」


「猫人か、金はあんのか?」

「金貨がこんなにあるにゃ。」


ジェドは金貨30枚はある革袋を開いて男の見える様に見せた。

カシャカシャ


「よし、そんだけあれば朝まで吸わせてやるぜ。」


鉄板で補強された扉が中から開いて、ジェドは薄暗い中に迎い入れられた。


「入会金が金貨4枚な、部屋代が金貨1枚で今払ってくれ。」

ジェドは金貨5枚を革袋を開いて男に払った。


「13番の部屋付の女に薬を1包金貨1枚で頼め、抱くのも金貨1枚な。」

ジェドは乾いた笑い声で、


「女は要らない、薬だけ頼むにゃ。」

「ケッ、藥中かよ、まあ楽しんでこいや。」


ジェドは酔った足取りで13番の木札の小部屋の扉を開けて中に入った。

部屋付の女は15歳ぐらいの赤いガウンを着た痩せた少女であった。


「いらっしゃい、あれを吸うの?」


「ああ、薬を頼むにゃ。」


ジェドは金貨1枚を少女に払った。

少女はジェドを寝台に案内してから、金貨1枚を扉にある穴に入れるとすぐに下の皿に分包が落ちてきた。魔道具かよ。


少女は寝台横の水パイプの皿に紙包の中の軟膏を乗せると、吸い口の1つをジェドに渡して自分も片方の吸い口で煙を吸い始めた。


ジェドには毒物耐性があり麻薬の効果はないのだが酩酊を演じた。


部屋は狭く扉と寝台と木製椅子とパイプ台だけしかなかった。

パイプ台が置き台になり下に小物入れも付いていた。

部屋の中もアヘンの独特な香りと怠惰な空気で満ちていた。

やがてリリーと名乗る少女の眼もトロンとしてきて話し出してきた。


「ねぇ、世の中っておかしくない?」

「ああ、どんなことにゃ。」


「だって、昨日まで上役だった奴がきてお前は人民の敵だなんて言うんだよ。」


「なにそれ?」


「昔の話でね、ある半島で代官の仕事を真面目にやっていたうちの父親のところにナドウって上役が来てね、お前たちは人民の敵だなんて言って村人の前で両親を打ち首にしたんだよ。」


「ひどい話だな、それ?」


「父親と母親は晒し首になるし、私は捕まって性奴隷に売られるし、7歳の妹は行方不明だしね、ああ権力者は悪魔だって悟ったわ。」


「権力者なんてそんなもんよ。」


「ねぇどこかでナタリア・ウーゴっていう女の子を見かけたら教えてね、この世で私のたった1人の肉親なんだ。」


「ああ、見かけたら絶対に教えるぜ。」


(ナタリア・ウーゴの生き残りの姉がここにいたのか。)


「ありがとう、その言葉だけでこれから生きていけるよ。」


(悪いね、今日は偵察に来ただけだ、次回組事務所にカインと家探しに来た時にそっと助けるよ。)


モアボ組の子分達は常時30人は警備していて、支城の兵士も騒ぎがあるとすぐに駆け付けるそうだ。


(ルイ公爵も阿片仲間なのか?)



◇◆◇



《数日後》


リリー・ウーゴ15歳の死体がカルメル川の杭に引っ掛かって発見された。


ダン侯爵の情報網からジェドは知らされてすぐにカルメリ川岸に駆け付けた。

死体の顔は腫れており、河原での裸検視で体中に殴られた痣が残り、死因の絞殺跡が見える。


ジェドは堤防上の人垣から死んだリリーの顔を確認した。先日の少女だった。


死体は戦場で散々見てきたがこれは違う、ジェドはあの日助ければという後悔と腹の底からの犯人への怒りが湧いてきた、俺は必ずリリーを殺した奴を必ず見つけ出して復讐する。


どんなに偉い奴でも衆目の前に引きずり出して正体を暴いてやる。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


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