#05 コンテナハウスと竪琴リラ
14歳のアベルは大森林のなかで下り斜面の獣道を自宅まで駆け足で下っていた。
10歳からは「魔の森」への立ち入りも許されて、もう4年間も父親の狩りの手伝いをしている。
本格的には12歳から体の鍛錬を兼ねて、一日一回父親の狩りの獲物搬送をした。
アベルの家は大森林で採取した珍しい山菜や食用獣の肉と仕掛けた川魚などを村の商店に卸していた。
アベルの空間収納庫の中には猟師の父親エディが取った獲物達が入っている。
今日も足腰の鍛錬をかねて猟師の父親と後継者兄の獲物の運搬をしているのだ。
ただし、最近はアベルと並走している黒い影の伴走者がいる。
アベルの接近の気配で魔物が身を起こした瞬間に魔物の首は下に落ちていった。
アベルは常に空を飛ぶ二本の回転手斧に守られている状態だった。
ただその黒い影を目撃した魔物は絶命するので噂は大森林に拡散してない。
夜刀姫の実力は実践の中で証明されたが、魔力のある生物を広域で探知できた。
アベルに敵意があれば赤色表示で敵意がなければ青色表示になる。
探知対象よりも早く夜刀姫は敵に投的行動に入っていた結果なのだ。
◇◆◇
アベルは来年15歳の成人式を迎えたら、夜刀姫と伴に冒険旅行に出発する。
晴れた日も雨の日も嵐の日も吹雪く日も野宿と旅が果てしなく続く。
旅の対策としてアベルはテントではなく、簡易に移動できる宿泊施設を作り空間収納庫に入れて快適な旅行をしたいと考えていた。
前世の知識からアベルは旅行対策で空間収納庫に4つに分割収納できて簡単に展開できるモジュールユニットの宿泊施設を考え製作した。
展開条件としては300㎡程度の平坦な空地を土魔法で整地が必要であり、排水も考えると川沿いの草原地帯が設置条件だ。
アベルがノーマルスキルで製作した1ユニットは4つのモジュールで構成されていた。
1つのユニットは60㎡18坪程度のオンドル兼用のH50㎝鋼鉄箱の上に構築されている。
長方形のコンテナハウス2棟をL字型に組み合わせて余りの敷地は庭園に作られる。
寝室ユニットは寝室コンテナ1棟と浴室ボイラーコンテナ1棟から構成されている。
庭の部分には鋼鉄箱の上にフローリング板を貼り上空は藤棚で覆った、庭の端には椅子と円形テーブル1/4部分も柱と共に設置した。
なお寝室ユニットはアベル用とゲスト用の2ユニットを製造した。寝室コンテナ1棟の中には2台のシングルベットがゆったりと縦に配置できた。
次に製造したのは炊事場ユニットで、調理台・流し台・竈3口の炊事場コンテナ1棟と玄関部分と食料倉庫からなるコンテナ1棟と庭園部分と円形テーブル1/4部分から構成されているモジュールだった。なお玄関部分にはクローゼットと階段も設置されている。
最後にトイレユニットで化粧台と個室トイレ3部屋のトイレコンテナ1棟と裏口部分と飲み物倉庫コンテナ1棟と庭園部分と円形テーブル1/4部分から構成されているモジュールだ。
水洗トイレは背中のタンク部分のレバーを回すと、水が流れて汚物も同時に下の排水構に流れる構造にしてある。蓋つきだ、個室仕切り板で3部屋造り付けてある。
トイレ自体は水タンク付き水洗トイレに金属成形した。タンク内に使用時毎に湧く水魔石をタンク内にセットしてある。
生活雑排水は地下排水漕に流れて込んで設営時散布してある下水分解菌の餌になる。
全ての8棟コンテナ上部は草花テトラポットが両側に配置されており、目隠しのH1m防風鋼板もコンテナ外側に貼られている。
コンテナ上部への出入りには玄関部分と裏口部分に金属製階段が設置されている。
基礎兼用のオンドル部分とコンテナ外側は窓無しであり防風鋼板上部までのH5mの緑色塗装が周囲300㎡の外部鋼板に塗装されている。
コンテナ内側の出入りは曇りガラスか網引き戸・薄鋼板引き戸で解放感を演出している。
8棟コンテナの5m上空は軽量鉄骨フレームで屋根構造に覆われている、不意の強雨や雪対策ではアベルが軽量波板鋼板を収納庫から位置指定で切妻屋根形状に展開する。
モジュールユニット以外でも、厩舎と一体化した車庫も付属施設として製造した。
基礎鋼鉄箱は移動可能状態で地面に固定せず、空間収納庫に4分割で収納する。
出す時には在庫リストが浮かび、出す場所を位置指定して実行すれば出現する。
下水や生活用水の排水は野営設営時に排水溝・沈殿抗を掘削して処理する。
暴風時・厳冬期・夜間は天井棟材に16分割した波鋼板を展開し固定化した。
◇◆◇
鉄骨構造に断熱材を挟んだ薄鋼板で溶接したモジュールユニットを実際に展開した。
風よけの鉄板を屋上に溶着した緑色に塗装されたコンテナ群8棟がこの草原に出現した。
明るい日差しの中世時代の草原の一角に、近代工学技術で製造されて緑色に塗装されたコンテナ群の出現だった。
違和感ありまくりだが、アベルは玄関部から夜刀姫と鋼板扉を開けて内部に入ってみた。
まだ日中なのでコンテナ内部はしっかりと確認できる。
夜刀姫もアベルに付き添ってモジュールユニット内で警備上の不都合箇所を点検していた。
やはり外壁の高さが5m未満なのが気になるらしい。
夜刀姫と伴に玄関部に併設されている金属階段を上り屋根上に登ってみた。
そこは草花の聖地だった。 8棟の屋上は2列左右にテトラポットの鉢植えが置かれており、快晴の日差しに異世界の赤白黄色と色々な草花が咲き誇っていた。
大きな敷地面積を中央部分に占める庭園では薄紫色の藤棚が一面満開に咲いていた。
植物は空間収納庫に収納されている間は時間が停止している。
花の匂いに誘われたか風に乗って蝶や蜂に似た昆虫類が花々の周囲を飛び回っていた。
なんと心が休まる景色だな、ここでは300㎡のパラダイスが存在していた。
階段を下りて玄関部に戻り網引き戸を開けて庭園の中に出た、中央に四本の円柱と根本から絡まる藤樹の鉢植え4個そして廻りを取り囲むように白色のドーナッツ状の4分割テーブルと椅子が置かれている。
よく見ると円卓には4分割線が見える。この広い庭園自体が四分割されているのだ。
庭園の床は木材が貼ってある。将来は芝生を全面に敷き詰めてみたい。
上は正方形の棚状に組んだ藤棚が上空を覆い、大森林から移植した藤の蔦が絡めてあり薄紫の日差しが庭に漏れてくる。
左手正面のコンテナハウスが俺の寝室だ。庭から見て内壁は木質系の色で塗装してある。
寝室2棟・浴室・炊事場・トイレ・倉庫棟6棟は網戸や雲母の曇りガラス戸・木目調引き戸で庭園から見れば解放的に製作してある。
大森林で発見したテンサイの苗やゴムの木も鉢植えして露地栽培を待っている。
コンテナ内の木製ベットや丸椅子・風呂場・家具そして金属製の倉庫棚・流し台・トイレ等は設置してるが、繊維系の絨毯やベットマット・寝具・魔石ランプ等はこれから購入する。
旅で冷たい地面のテント内で毛布に包まれて寝るよりは別天地の生活環境だった。
母親から譲られたテントは地下ダンジョンでの野営用にした。
今日は前世の知識を活用したモジュールユニットを展開して結合具合を確認した。
満足したアベルは再び空間収納庫に4分割収納した。
生物以外は簡単に収納庫に入るし、即時展開できる機能性が貴重だった。
◇◆◇
猟場自宅の中間にアベルの製材現場がある。大森林の中でも建材に適した樹木を見つけては伐採して乾燥させて草地で製材している。
内装材造りや備品の家具造りで大量の木の切れ端や枝葉や木皮などの屑が出たので乾燥のうえ細断して空間収納庫に薪区域を作り膨大な量の即火力となる薪も貯蔵した。
家具や床材用の伐採の斧も製材用のちょうなも両親の許可を取り魔物の部位を販売して村の鍛冶屋で購入したものだ。
ベッドの厚板は豊富なので暫定で製作した4台のシングルのベッド木枠と村の雑貨屋購入の藁マットのみだ。後日、街の家具屋でオーダーベットと厚手マットそして毛布や枕などの寝具や入浴時必要なタオル・肌着類は専門店で大量購入しよう。
鉄鉱石の洞窟は発見出来ているので土魔法で堀削して錬金術で精練は出来た。既にL形鋼・薄鋼板・基礎鋼材・板材・換気窓・ボイラー・バルコニー・屋根材・雨樋・配管・網戸・コートハンガーのイメージはあり鍛冶魔法で生産できた。
各種の大きさ長さのボルト・ナットが出来れば鉄パイプと板材とで家具は製造できた。
ガラスは水晶洞窟や石英の砂地も見つけて・鉄炉の中で溶解して厚いガラス板だが生産できた。大型鏡も銀吹き付けで造り化粧室に設置した。
時間かけて生活関連設備の製作が終わった後は、大量の消耗品だ。
野営で大量に消費しそうな真水は手造りの大甕1000個に大森林で一番うまいといわれている湖の水を入れて空間収納庫の水区域に貯蔵してある。
旅行に備えて鍋や網・包丁・食器類・携帯水皮袋・手持ち水瓶・小麦粉・野菜・塩・鉈・斧・ちょうな・薪・縄・鍬・桶等も収納した。
あとは浴槽コンテナに入れる香木製の風呂・簀子・腰かけ・脱衣籠などを手造りした。
木製冷蔵箱も製作した。上部に氷塊を入れると内部の棚が冷蔵される。
炊事コンテナ用の調理台・竈門3台や流し台と水洗トイレ3台を土魔法で製作して硬化処理した。
実際の設営では、土魔法で300㎡の敷地に合わせて整地して溝・排水構を作り宅地化してから4分割ユニットを引き出して結合作業をすることになる。
野営の後始末で周囲の環境を復元することや、汚水処理・火の始末は冒険者の基本だ。
別途、馬小屋や柵や鞍や鐙の馬具が必要になるが、金属ゴーレムでの馬召喚時に、後日まとめて挑戦する。
◇◆◇
長期間の旅愁を慰めるに音楽が必要だ、俺の趣味は少ないがやはり音楽は良いよ、楽器は是非入手してみたい。
村の雑貨屋でハープのイメージで竪琴リラを売ってないかと聞いたら、村外れの薬師のベルさんが弾けるみたいだとの情報を得た。
薬師か・・・よし、これから夜刀姫を連れてベルさん宅に行ってみよう。
夜刀姫を連れて歩いていると、空間収納庫に2年前に偶然見つけた珍しい球根つきの月下美人花が入れっぱなしになっていたのを思い出した。
夜刀姫を竪琴リラ演奏の弟子入りのお願いに手土産としてこれを使おう。
村外れの薬師のベルさん宅に着いた。
「ベルさんこんにちは! 」
「おや、これは珍しいなアベルじゃないか、貴重な薬草でも入手したのかい? 」
「いいえ、実は雑貨屋のリゼさんからベルさんが竪琴リラの弾き手と聞いたので弟子入りのお願いに来たのです」
ベルさんは店の壁に飾ってあった竪琴を手に取り。
「リゼの口は軽いね、確かに俺は竪琴を弾けるが手ぶらで教えろと言うのかい? 」
大人だ、アベルは空間収納庫から新鮮な球根つきの月下美人花を取り出した途端に。
「アベル、この球根付き月下美人花をくれるのかい?市場でも1株金貨10枚はするよ! 」
「竪琴リラの演奏の弟子入りに、これでお願い出来ないでしょうか? 」
「え~と悪い!リラ演奏は俺の趣味で10曲ぐらいしか弾けないのだよ。弟子などとても取れる腕ではない。
球根付き月下美人花は本当に欲しいから、この金貨5枚した竪琴リラと交換しょうじゃないか、加えて得意の10曲も弾いてあげよう。ダメかいアベル? 」
「その条件でいいですよ、ただ趣味の竪琴を失くして大丈夫ですか? 」
「奥に古いリラがあるからいいよ、今から10曲演奏を聞いてゆくかい? 」
「ええ、お願いします! 」
店の椅子に座り薬師ベルが弦をチューニングした竪琴リラの演奏が50分間程続いた。
どれも1曲5分間ほどの短い曲だった。
演奏終了後、アベルは月下美人花の1株と竪琴リラとを交換して握手してベル宅から出た。
「姫は演奏を覚えたかい? 」
「はい、彼の10曲での左右の手の指使い、拍、リズム、メロディ、弦の調節方法まで全て見取り記憶しました」
「そうかこれで旅の無聊も慰めができたな、旅の途中で出会う吟遊詩人などの楽曲も覚えてくれると嬉しいな」
「はい、旅の途中で聞こえる楽曲は全て記憶します」
その日の夜、娯楽のなかった家族全員の前で椅子に座った夜刀姫のリラ演奏が流れた、大好評だった。
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