#48 ジェド・バーデンの冒険(2)
「出発~~」
やがて商隊の10台24人の商隊の準備は整い動きだした。
ビシ・ビシ・・ヒヒィ~~~ン・ドウ・ドウ・ドウ・ドウ・ギ・ギ・ギ・ガラガラガラガラガラガラ
ジェドは箱馬車の御者助手席に座り無意識に腰バックを触った。
アルナカの街道と森林は朝日の薄明りに染まり始めている。
この商隊には見張りが張り付いているはずで逃げられない、昼前には峠の盗賊たちとの戦いが始まるだろう!
襲撃人数はフェン公国依頼の盗賊団不明数と商隊内部の裏切パーティー緑風5人が予想される。
会敵場所はこれから登坂するアルナカ峠中腹か、街道脇の木立を倒すのが合図で襲撃を開始する。
襲撃の目的はダン侯爵との取引材料になるマリン・ゴールデン商会長だ。
ついでに入手できる10台の馬車や塩も御者共々ついでに強奪予定である。
従女や執事そして護衛するジェドや紅光の処分については緑風メンバーに一任されている。
朝食のスープに入れた毒茸と毒草により緑風5人についてはもうすぐ無力化する頃合いだ。
腹痛で弱った相手ならば制圧を紅光に任せてもいいだろう。
問題は途中で待ち伏せしている盗賊たちの人数と位置だった。
昼間の条件で森林に隠れる武装した多数の盗賊を狩る方法か、しかも動けるのはジェド1人対盗賊多数で、地面は傾斜のある山道か、こちらが相手の弓矢の距離に入る前に攻撃力を無力化しなければ鴨葱状態になる。
昨夜の話だと、攻撃の合図は路上への倒木か、倒木を見てから対応したら既に囲まれた状態ということだ。
相手の心理で考えると、仕掛けるのに都合のいいのはやはりカーブしている箇所だ。
アルナカ峠の上りの地形は街道の右側が草叢で、左側は森林が延々と続き街道は曲がりながら続いている。
賊が潜むとすれば左側密林の中でしかも見えてきた大曲りの箇所が怪しい。
先に仕掛けよう、今から前衛の幌馬車を制圧して縄で縛り猿轡を噛ます、それから大曲の手前1㎞で商隊を止める。
峠の手前で登りに備えて小休止した時にジェドは草をちぎり撒いてみたら右から左に流されていった。
先頭の前衛の幌馬車からは右手の草叢に5人の男たちが駆け込んでいった。
ジェドは後衛の馬車に行きヒカルたちに昨夜の詳細を話した。
一緒に聞いていた紅光のメンバーは怒りに満ちた顔色になった。
「今彼らは草叢でトイレしてますから帰ってきた所を押さえましょう」
「それからの腹案はあるのかい?」
「このまま風が右から左に吹き続いていれば右手の草叢に火をつけて野火を起こして煙を左側の森林に流して煙幕にする」
「煙幕を張れたら俺は右手の草叢伝いに上から森林に潜入して上から下に駆け降りつつ声を出して騒ぐ盗賊を毒矢で掃射していく」
「あたしらの見せ場もあるんだろうね」
「討ち漏らしは出ます、箱馬車狙いで残りの手勢で攻めてきます」
「リーダーやろうよ、それにグリーンをボコってやりたい」
「よし、皆ロープと獲物を担ぐ木の棒を持って草叢に行くよ」
「「「「は~~~い!」」」」
ヒカルたちはグリーンたちの駆け込んだ草叢にそっと入って行った。
しばらくして
“ギャ””ゲェ”イテ”グワ”ン~ン”
やがて5人の男たちが縛られて女たちに襟首を掴まれて引きずられて草叢から引張り出されてきた。
5人全員足首にズボンが絡まっていて股間がむき出しで頭から血が流れていた。
「私たちが前衛になるよ、男たちは後ろ手で縛り両足も縛りこの馬車にいれて最後尾に廻しとくれ」
「あとはジェドさん頼んだよ」
「それじゃ行ってくるよ」
「馬車交代したら、防戦用意だよ」
◇◆◇
ジェドは腰バックから半弓を出して弦を張り、5本入り矢筒を出して右肩に矢羽根が出る様に背負った。
ジェドは森林ではなく街道を挟む右側の窪地の草叢をつたって走った。
草原には枯れているケシの草が多く、人の背丈ほど高く茂っている。
左手の森林からは街道の右側が法面になり草原を走るジェドの姿は見えない。
ジェドからは街道を挟んで高台になる森林が見える、樹木の幹に隠れているつもりの盗賊も見える。
かなりな人数だった、敵意を持つ者がジェドの広域索敵スキルで全体で50ほど光点として感知できる。
街道の右側法面に2人がへばり付いている。
街道左側の森林に分散している43人の賊は木立の後ろに隠れている。
5つの光点は樹木の枝に跨っている。
取りあえず右側法面に伏せの姿勢でいる革鎧の2人を20m後方から半弓で狙い、剥き出しで見える太腿部分に毒矢を打ち込んだ。
“ウッ””ゲツ”
ヒットしたみたいでじきに動きを止めた。
ジェドは周囲の枯れ草を集めて小山にして腰バックから出した毒草と唐辛子を混ぜてから生活魔法で着火した。
ジェドは暗部担当で毒耐性を持つが、一応防毒バンダナで鼻と口を覆った。
今の風向きなら問題ない、そのまま草叢伝いに後3ケ所枯れ草の山を作り着火しながら峠の大曲がりの街道付近まで走り上がった。
街道が曲がり切った所に数本の樹木が右側にも生えており根元に潜むジェドの姿を森林から完全に隠している。
索敵スキルの感知でも、近い敵で100mは下方にいる。
手前に3人程固まっており、時折伝令らしき光点が近づいては離れていく。
指揮官クラスの3人と判断できた。
ジェドが眺めていると、草原から炎と白煙が立ち上り始めて風で森林に流されていく!
「野火だ、もったいね!」
という叫びで森側の注意が草原に集まる隙に街道を走り抜けて森林に入った。
(もったいね、何を言っているのだこいつらは?)
ジェドは弓矢を構えて気配遮断しつつ下りで樹木をつたいながら接近した。
その時点で白煙は風に乗り森林に異臭と共に立ち込めていた。
「ゴホゴホ、喉と眼が痛いぞ!」
木立の隙間から20m先の人影が見えたので背中の真ん中に射ったら盆の窪にヒットしたみたいで何も叫ばずに倒れてくれた、二の矢もすぐに構えた。
「将軍~誰か~」
「誰だ!」
と叫びながら白煙の中でこちらに走ってきた人影の顔付近に毒矢を射た。
「ギャ!」
顔のどこかに突き刺さったみたいだ。
三の矢もすぐに構えたが残りの3人目の光点が逆に下方に動き始めた。
動き方がゆっくりでまるで矢を避けて這っているみたいに遅い動きだ。
右上から気配遮断で近づいていくと地面に這っている人影が見えたので鎧のない尻に矢をそのまま打ち込んだ。
「ギャ~」
直ぐにジェドは20m程離れた樹木の幹に隠れた。
白煙が漂い視界は10m程で離れるとボンヤリとしか見えなくなる。
下から5人の駆け足の音が聞こえてくる。
20mぐらいに近づいた時に足音の方向に毒矢を5本射かけた。
“グッ””ガッ””ギャ”
腕か何かに刺さったみたいだ3人の籠った悲鳴が聞こえた、それもすぐに嘔吐の音になった。
2本の短矢がそれたみたいだ。
しかたがない気配遮断で近づいて、腹ばいになって伏せている2つの人影の太腿に打ち込む。
”ギャ” “グァ”
ジェドは樹上の光点にも下から打ち上げていく、垂れさがる足に当たったか5人の地面に落下する音が響いた。
下り勾配の森なので足元の木の根っこに気を付けながら幹から幹に移動しつつ気配遮断で近づいて、木立に隠れて街道を見張っているつもりの8人の盗賊の尻や太腿に次々と毒矢を後ろから打ち込んでいく作業だった。
白煙はまだ樹木の間に濃く立ち込めている森林の更に左手の空き地で5つの木箱から出した10個の鍋と黒パンを空き箱の上に並べて昼飯を準備していた5人の男たちがいた。
裏方5人は鎧を着けてなかったので幹の後ろから胸を狙い瞬殺した。
再び下り勾配の森の中に戻り足元の木の根っこに気を付けながら幹から幹に移動しつつ気配遮断で近づいて、街道側の幹に隠れている10人の盗賊が突き出す尻や太腿に次々と後ろから毒矢を打ち込んでいく反復作業だった。
身体に刺されば鏃の毒で死ぬ、白煙に紛れて森林の中で至近距離から7人の賊に撃ち込みながら麓の方向にゆっくりと移動していく。
「なんか上から悲鳴が聞こえるし、やばくね、逃げるか?」
「どうせ逃げるならあそこに見える女護衛の隊商をやらないか?」
「女護衛の隊商ならちょろいよね」
「俺の好みは左の女魔法使いだかんな」
「じゃ、じゃ、俺は最後の癒し系の神官でいいや」
最後の5人は森の中から悲鳴や呻き声が聞こえて怯えて逃げるか相談していたら、街道に女性パーティーが警護する商隊がやってきたので色気を出して5人でマチェット振りかざして商隊の先頭幌馬車に襲いかかった。
紅光の面々は見せ場が来たので喜んで矢を放ち炎弾を飛ばして迎撃した。
商隊の本格的な攻撃に2人が倒されて山賊の腰が引けたところに森の中からジェドが出てきたので挟み討ちになり、やはり女性が組し易いと向かっていったがアグネスの盾と槍に1人刺された上にヒカルの双剣に2人が斬られ全滅した。
途中から風向きは西から北に変わり、枯草も燃え尽きて鎮火した。
ジェドが商隊に戻ってくると道の上に5人の盗賊が死んでおり、近づくジェドに手を振るヒカルやアグネスそしてネネ、ツバキ、サクラの満面の笑顔が見えた。
ジェドは広域索敵スキルで森林を再度探知しても感知する賊はなかった。
商隊に合流した煤けたジェドをサクラが水魔法”クリーン”で洗浄してくれた。
「どのくらいの盗賊が待ち伏せしていたんだい?」
「上の方で指揮官クラスを3人倒してから45人目までは森の中で毒矢で倒したよ!」
「ジェドの分とこいつらを合わせると50人の盗賊団だったんだね」
御者たちが備品の鍬で草原の焼け跡に穴を掘り、ヒカルたちが賊の死体から武器・防具・金品を剥がし集めて盗賊50人の死体は埋めた。
賊の所持品や道具類から身元が判明することはないだろう。
アルナカ峠の頂上に立つと裏側の林の中に隠れる盗賊村を発見して、村の中で輓馬10頭と馬車5台を見つけた。
盗賊村の家々を捜索したら隠してある壺から貯め込んだ金銀銅貨が多数押収出来た。
床下や天井裏から粘土状の煉瓦みたいな物や藥研とか煙草の水パイプとか出てきた。
結局、村の家探しに手間取りその日の宿泊は盗賊村でした。
翌日は村の銭壺や武器・防具と道具類を馬車5台に搭載して途中のルビー鉱山の街にあるダン侯爵の代官所まで輸送することとなった。
もちろん輸送馬車5台の御者は、盗賊村で見つけた鉄輪と鎖で両足を拘束された緑風メンバーの5人達だ。
今は人手不足で、犯罪奴隷落ちなら数十年間は地底で鉱夫暮らしだな。
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