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#44 元老院でのオストラコン(陶片)投票



元老院はベルブルグの始まりの丘に建っているパルテノン神殿風建物である。


帝国法は初代皇帝ザクセンⅠ世が制定したもので、現在でも訴訟裁定には唯一の法的根拠となる。


ダン侯爵が問責演説を滔々と述べて、証人席に座るオッタル大公の態度は傲然としてはいるが額には脂汗が滲んでいた。

問責演説している元老院議員のダン侯爵以下全員600人が白いローブを着けており、法理の府としての権威を高めていた。


元老院査問会でのオッタル大公の傲岸たる態度には変化は見られなかったが、査問会の空気は重苦しく、大公派の貴族たちの顔色は優れなかった。


帝国臣民権の行使による提訴が帝国元老院に持ち込まれたのだ、元老院議員600人は全員有力貴族であり今回のフェン公国軍のノーム自治領への武力侵攻とドワーフ族虐殺事件は承知していた。


オッタル大公の直轄軍による理由なき帝国臣民にたいする犯罪だと生存ドワーフ族代表から起訴されたものだった。

オッタル大公指揮により虐殺された大人・子供・老人・女性の人数は1780人以上に及んだ。


ドワーフ族も自治領保護民として帝国側に納税しており帝国の5年兵役にも服して帝国臣民権も形式上は取得していたものである。


「このような帝国臣民にたいする非道は許されるものなのか? 一体彼らにどの様な重大な罪状があったというのか疑問だ、是非ともオッタル証人にはドワーフ自治領民殺害の経緯を説明して頂きたい」


「実は本件の背景には革新的な軍事技術の発明があった事をこの場を借りて報告しなければならないのだ」


「それは黒色火薬による銃と呼ばれる発明である、このような時代を変革するような技術発明はまず帝国が保有する必要がある事は賢明なる議員諸侯におかれてはご賛同頂けるものと思う」


「ノーム半島ウルク市からいくつもの発明の状況証拠が探知出来たのだ。実に15㎜の鉛弾が推定100mの距離で30㎝の生木板を貫通する威力のある武器だ。この発明武器の入手を目指して自治領侵攻したものだ」


「そんな”武器”が入手できればノルデア帝国の繁栄には素晴らしい効果をもたらすでしょう、是非とも拝見いたしたいと存じます。院内総務に証拠武器の査問会持ち込みを緊急動議いたします!」


「「「「「「「「「「「「「異議なし、賛成」」」」」」」」」」」」」」」」


「実は銃も火薬も入手できなんだ、ドワーフ共を問いただしたがなにも得られなかった、ドワーフ共は処女の生贄祭りなどを開催していてあまりの愚かさに儂が折檻してやったものだ」


「なんと、オッタル証人は己の欲した武器が入手できない怒りのあまり帝国臣民権のあるドワーフ族大人・子供・老人・女性1780人を裁判もなしに殺害したと言われるのですな」


「そうだ!」


「只今のオッタル証人による証言で、ノーム自治領ドワーフ族殺害事件は確たる物的証拠もなく無裁判による恣意的組織犯罪と確定しました。

帝国臣民権を無視して大量殺害したオッタル大公のオストラキスモス(陶片追放)投票を緊急動議いたします」


「「「「「「「「「「「「「賛成」」」」」」」」」」」」」」」」


「投票のオストラコン(陶片)を全議員600人に配布します!」


(議員投票3時間経過)


「投票結果を発表します、賛成324反対187無記入89の陶片でオッタル大公の公職追放が可決されました」


「「「「「「「「「「ウオ~~~~~~!」」」」」」」」」」」」」


ノルデア帝国法における初のオストラキスモス(陶片追放)による摂政解任が実現した瞬間だった。



◇◆◇



 ノルデア帝国法の相続条文より、ヨハン皇帝の長男アーサー皇太子(19歳)には3月30日に元老院承認を受け伝達された。


翌4月1日朝にベルブルグ島皇居にて神官長司祭の皇帝就任式が挙行され、その後3日間にかけて有力貴族や外国王族が招待されてジェーン皇妃も同席する皇位継承の披露宴が開催された。


皇室披露宴で若いアーサー皇帝は廷臣たちの前で高らかに宣言した。


「ノルデア帝国はナスル大陸全域をほぼ版図に入れた。

これからの帝国は単なる拡大ではなく民の暮らしを豊かに生産力の技術向上に人材と資金と資材を投入してより多くの臣民の生活向上するのが皇帝の目標と余は考えている。

諸侯の力を国造りに産業振興に貸して欲しい」


「「「「「「「仰せのままに」」」」」」」


新皇帝の演説を聞き、ダン侯爵やトリッシュ女伯爵の顔は明るく輝いていた。

周囲の皇帝派貴族たちの雰囲気も新しい風に盛り上がっていた。そうだ、これからは産業革命や臣民たちの生活向上が帝国目標になるのだ。



◇◆◇



 ノルデア帝国法における初のオストラキスモス(陶片追放)による摂政解任が実現して、相続規定により現当主オッタル・フェン・ノルマン大公は引退しカルマ市別邸に5000の兵と隠居した。


長男ネロ・フェン・ノルマンが次のフェン公国の当主として公爵を叙爵し領都ヘル城に10000の兵と居住した。

いまやフェン公国の占領地となったノーム半島には5000の侵略兵がそのまま駐屯兵になり鉄鉱山経営をしている。


フェン公国領都ヘル城での公爵叙爵披露宴でネロ公爵は早速市内の娼婦たちを集めて酒池肉林パーティーを開き、これまでオッタル大公に押さえつけられていた鬱屈を盛大に晴らしていた。


ヘルの城下町に出ても馬車に家臣の娘だろうが御用商人の妻だろうが見目麗しければ引きずり込んで手籠めにしていた。


政務には無関心で、公設娼館や公営賭場を作り葡萄畑を広げて、取り巻き連中と喋り、毎日ただ関心のある美女狩りや吐いては食べる飽食の酒宴を開いたり賭博三昧にと怠惰な日々を過ごしていた。


ネロ公爵の非道を諫言する家臣は左遷するか溶けた鉛などを飲ませた。


「アーサーは従弟か、なら儂が皇帝になってもいいんじゃね」





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


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