#43 シバ族山城がアベルの城に
《2ケ月程前に遡り》
シバ族長ゼノンに会いにアベル、夜刀姫、ミーナと手を握り聖都アースから[西エルフ聖樹国7ケ条回答文]を携えてミーナと伴にシバ族山城本丸館に移転した。
このことは西エルフ聖樹国側からの依頼であった。
一同は移転なので直接本丸広場に到着した。
そこにいた侍女の一人にシバ族長ゼノンに面会を求めた。
しばらくすると奥女中が出てきて本丸館に案内された。
本丸館に入り、応接間に全員が座りゼノン族長が入ってきて挨拶を交わした。
「この度はアベル殿にえらいお世話になったな、では書状を拝見いたす」
アベルが[西エルフ聖樹国7ケ条回答文]をゼノン族長に手渡すとしばらく書面に食い入るように読んでいたゼノン族長は満面の笑みを浮かべてアベルを見て、
「これで我らシバ族は父祖の地に帰れてダンジョンシバの管理人に復帰すること感謝に耐えない思いだ」
傍にいた小姓に。
「年寄りたちを呼んでこい」
やがて主だった年寄りたちが入ってきてゼノンから手渡された書面を歓声上げながら回し読んでいる。
「空からですが領都キュルンは土砂の下に埋まり生存者は見受けられませんでした、ダンジョンシバ処分についても前回の族長提案も書面で採用されています」
「うむ、すべて確認した花押も本物じゃ、我らシバ族は急いでヤーセン市に行かねばならぬ、そうだこの山城はアベル殿に差し上げよう」
「それでは魔導国への抑えはいかがいたしますか?」
「偽王アベル殿ならば魔導国への抑えに相応しいのだ」
「なるほど、これは手前も賛同いたします」
「有難くお受けいたします」
「うむ、山城の本丸館と二の丸及び三の丸と大手門領域の土地建物権利証書譲渡の時期はシバ族全員の退去日といたす、皆の者よいな」
「はは~~~~~~~~」
平伏するシバ族の中でただ一人だけ立ちあがり反対を叫んだ老婆がいた。
「反対じゃ、ヤーセン城主を夢見たイカロスが可哀そうじゃ」
「御婆よ、シバ族の将来と孫可愛さを取り違えてはならぬぞ」
「最後までイカロス一族は断固反対でお手向かいいたす」
「御婆よ、シバ族を管理人の立場に戻してくれたアベル殿に山城しか差し上げる物を持っていないのだ」
「では、城主を夢見たイカロスはいかがいたすのじゃ?」
「俺は山城所有だけで満足です、前の出城をイカロス殿に差し上げます、それに加えて城主分狩猟権も漁業権もお付けいたします」
「なんと城主分狩猟権・漁業権も呉れるのか」
「御婆よ、イカロス一族をこの条件で説得してくれるか?」
「俺は飛行船発着場の山城領域が頂ければ後は何もいりません」
「すると盆地でシバ族の耕作している畑は、ヤーセンの不在地主になる我らの所有権もそのまま残る道理じゃ、田畑からの収入も得られるとなんと寛大な措置じゃ有難い」
「「「有り難うございます」」」
「御婆よ、残留希望のイカロス一族を同族田畑と出城及び城主持分狩猟権と漁業権の永世相続で一族の総意をまとめるのじゃ」
「すると城主持分の周辺狩猟権・漁業権もイカロス一族が継承できるのじゃな?」
「そうだ嬉しかろう、御婆よ、シバ族全体に反乱を起こしてもイカロス一族の28人だけでは皆殺しになるぞ、それよりも生き残れ、一族の子供たちの未来を確かなものにするのじゃ」
「うん、わかったゼノン爺の話に乗るわい、これで儂は退去する、既に屋敷で戦の支度をしているイカロス一族を説得せねばならんからの」
「アベル殿がお持ちの[西エルフ聖樹国7ケ条回答文]に儂の添え状を書こう、これでシバ族の意向も魔導国に伝わるだろう」
「重ね重ね有り難うございます」
余談ですが、後日山城本丸館にアベルが雇用したダークエルフのララという女性が"女城代"として住み着いた。
山城で樹木も多く、馬場広場を畑に土壌変更して各種作物を育成スキルで育て上げて逞しく農家をしているそうだ。
なお前の出城に住むイカロス青年がララに惚れて入れ込んでいるとの噂も聞こえてくる。
◇◆◇
アベルは夜刀姫と飛行船でソドム魔導国への旅行中である。
シバ族山城からソドム魔導国の王都ゲヘナまでは約850㎞程であった。
飛行船の速度であれば7時間程度で到着する距離だ。
アベルが聖都アースから使いとして[西エルフ聖樹国7ケ条回答文]を携え隣地ゼノン族長の添え状とスーギルドマスターの国王宛手紙も持参しているので魔導国としても安心できる担保材料だろう。
帝国のオッタル大公にダンジョンシバでは煮え湯を飲まされた魔族としては歓迎する情勢の変化のはずだ。
下界の黒い森を見ながら近づいてくるサターン宮殿のシルエットをアベルは見つめていた。
窓の外ではワイバーン騎士が飛行して進路変更の指示を出していた。
もうじき王城上空になり接近拒否領域になるからの着陸指示だろう。
ここは森のある宮殿と広大な噴水庭園のヴェルサイユ宮殿に似ている。
王都ゲヘナも碁盤の目の様に区画整理された近代都市だった。
上空から王都の全景が流れて行き、港の広大な荷揚げ広場に誘導された。
飛行船の牽引ロープも前後2本しっかりと地上アンカーに固定された。
さて、国王ルシファーは”回答文”にどの様な反応をするのか気になる。
ソレン港の広大な荷揚げ広場横には煉瓦の倉庫群があり、既に国王紋の描かれた迎えの箱馬車が従者と共に到着を待っていた。
アベルと夜刀姫とはスムーズに箱馬車に乗せられてサターン宮殿に到着した。
アベルは入り口受付騎士に[西エルフ聖樹国7ケ条回答文]とゼノン族長の添え状とスーギルドマスターの国王宛手紙は提出して国王との面会を求めた。
しばらく控え室で待ってから天井の高い鏡の間らしき謁見の間に通された。
奥行100mはありそうな長方形の部屋で奥に王座が階段の上に有った。
頭上にシャンデリア群で何処の国の王宮の謁見の間は構造が同じだ。
ここは左右の壁面が総鏡貼りで魔導科学力を誇示しているのだろうな。
魔王ルシファーは既に王座に座っていた。横には宰相らしき年寄りの魔族が立っていた。
魔王ルシファーの横の傍机には回答文と添え状と手紙が置いてあった。
アベルは階段手前の絨毯の色変わりの箇所まで歩き止まり深々と国王にお辞儀をした。
「ご多忙のところ拝謁を賜り有り難うございます。私はアベルともうします。この度、隣国シバ族との縁を買われて西エルフ聖樹国の使いで参りました。[西エルフ聖樹国7ケ条回答文]については如何なるご判断でしょうか?」
「アベル殿については魔王島から色々と聞いておる、アケニア騎士団領壊滅にも多大な功績があるのは承知している。今回処分の書簡等を読んだが概ね満足している」
「概ねというとことは、ダンジョンシバの共同経営やヤーセン市営住宅への魔族入居については満足されているということでしょうか?」
「分かっておるようだのう、あと確認したい点は魔導国境からさほど離れていないシバ族山城についてはどの様にするのかな?」
「そのシバ族山城については、私アベルの飛行船の発着基地としてシバ族から貰い受けました」
「なるほど、偽王のアベル殿が国境近くに基地を設け国境監視すると云うことですな」
「シバ族山城は魔王島からも近く飛行船基地には絶好の場所です、私には領土的な野心はまったくありません」
「ゼノン族長も食えない人間ですな、実質的な相互不可侵条約ということだな」
◇◆◇
アベルにとっても王都ゲヘナは初見の場所なので市内見物をしていたが、やたらとドワーフ族の買い物集団に出会った。
特に市場での食料買い込みによく出会った。
なんだろう民族大移動なのかな、そう云えばダンカの話によくドワーフのガガズという人の名前がよく出ていたな。
近くにいたドワーフ族の女性に話しを聞いてみた。
「あのうドワーフの方ですよね、ガガズさんて方を知りませんか?」
「え、リーダーのガガズさんの知り合いの方ですか、今呼びますから」
話しかけたドワーフ族の女性はすぐに呼びに行ってしまった。反応早すぎ。
「俺を呼んだのはあんたかい、あんた俺の知り合いなのか?」
「いや、ドワーフのダンカの知り合いです、なにかお困りの事はありませんか?」
「ダンカの知り合いか、有難い何もかも不足してて困っているんだよ」
「具体的に不足している品目はなんですか?」
「1689人のドワーフ族移動に使う荷馬車と水食料とテントかな」
「魔導国は何を提供してくれるのですか?」
「魔導国は水と食料と毛布衣類は出してくれそうだ、後は薪類かな」
「一番困っているのはなんですか?」
「ドワーフの中には足弱の女子供がいてね、これから3000㎞も歩かないといけないのが悩みだよ」
「魔石と鉄鉱石さえあれば、ゴーレム輓馬と荷馬車あとは取り付けパイプ屋根を作りましょう」
「有難い、でも魔石と鉄鉱石はどこで手に入れるのだい?」
「魔導国に魔石と鉄鉱石は出して貰いましょう」
アベルとガガズはその足でサターン宮殿の魔王ルシファーに面会を求めた。
今回はさすがに国王と宰相は苦い顔をしていた。
「なぜ我が国がドワーフ族に貴重な魔石200個や鉄鉱塊400tを供出しなければならないのかよく分からんぞ」
「無料とは申しておりません、ドワーフ自治領に戻れば色を付けてお返しいたします、それに製造過程も希望者の方々に見学させましょう」
「必ずや帰国いたしたら魔石300個と鉄鉱塊600tを返却いたします、武器農具も優先的に販売いたします、なにとぞご援助の程よろしくお願いいたします」
「契約書にすれば貸そう、返却する魔石・鉄鉱石も1.5倍に明記しろ、それに製造過程も希望者に自由に見学させるように」
「魔導国への武器農具の優先的販売条項も契約書に入れなさい」
「「承知いたしました。」」
◇◆◇
アベルは荷揚げ広場で30日間かかり輓馬ゴーレム200頭を召喚して、鉄荷馬車200台を製造しガガズに渡した。
ダンカから聞いたドワーフ義勇軍の犠牲に少しは報いられたのかな。
アベルの空間収納庫に保管してある輓馬ゴーレムを出した、色は栗毛で足首の白いウインドそっくりな輓馬だよ。
この馬ゴーレムを見本に魔石と鉄鉱塊200個で、200頭召喚した。
荷馬車製造は楽しい、まず、箱を載せる鉄製梯子フレーム枠を作った。
この枠下に前後の車軸を2本を置き、板バネ4組・スプリング8組・サスペンション4組も取り付けて基本形を完成させた。
2本車軸の両端に真球ボールベアリング軸受けをセットして鋼鉄製の後輪大型2個の車輪ホイールと鉄輪と前輪中型2個の車輪ホイールと鉄輪とを車軸に繋げた。
これで立ち上がったフレーム枠上に鉄パイプ箱フレームで荷馬車部分を接合して躯体部分と後ろ出入り口用に鉄梯子を接合した。
結構荷馬車らしくなってきた、そのあと内部座席フレームを設置した。
座席フレームに等間隔で逆U字型支柱を立てた。
頂上部に大帆布を張る。雨が降れば左右に幌を下せばいいし、夜間はテント代わりに使う。
アベルの時空間収納庫に入れてある魔物の革と鉄とで牽引部(轅・輓索・頸環等)や後部に樽や箱などの荷物箱を取り付けて、御者台の足ブレーキ・ステップ板からブレークワイヤーを車体下部に配線して軸受けブレーキに接続した。
この馬車は真球ボールベアリング軸受けをセットしてあり、さらに鋼製中空パイプモノコックボディなので1頭立てゴーレムで充分に牽引できる。
この馬車は機能に特化して厚革クッションも無く、軍事用のトラックみたいに武骨だった。
アベルは猛烈な速さで金属合成の錬金術と金属変形の鍛冶能力を使用して製作しているので傍で見学していても何が行われているのか理解できる鍛冶屋も錬金術師も魔導師もいなかった。
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