#41 迷宮都市の子供たち
ミーナがアベルと夜刀姫をオアシスコロンバに送り、迷宮都市ゴンゾー市に戻り下町をのんびり歩いていると、大通りで人だかりがある。
「何かにゃ?」
ミーナが覗くと白い子猫を高利貸しモアブ一家の手下たちが足蹴にしていた。
白猫人ミーナの眼の前でそんなことをするなんていい度胸だにぁ!
ミーナの体が人々の脚の隙間を縫って前に飛び出して手下3人の身体を傍の空き地に投げ飛ばした。
“グッエ~~~”
子猫のサクラはミーナの上着の裾を小さい手でしっかりと掴んだ。
すると人だかりの中からドワーフが鼻歌しながら出てきて薄笑いしながら胸を張りながら言った。
「市職員のドンガだ、この猫の飼い主が高利貸しモアブ様の金を借りて返済できねえというから身売りでもしろと子猫に教えていた所だ」
え!世の中本当に悪事を楽しみながらする奴っているんだ。
「市の職員が高利貸しの仕事をしているのかにゃ?」
「トップの交代で市から給料が出ないのさ、副業しないと家族養えないだろう?」
だんだんと本気の怒りが湧いてきた。
「だからといって女衒の真似していいにゃ?」
「五月蠅いことを言うんじゃね、お前らこいつを黙らせろ!」
“ヘイ~~”
周囲にいた残りのモアブ一家の若い衆13人がミーナに殴りかかってきた。
こいつら絶対許さないにゃ!
するとミーナの姿が透明になり消えて、そこには黄色の煙が立ち込めていた。
吸った若い衆13人の顔色が瞬間にドス黒く変色して道路に倒れて嘔吐をして手足が変な方向に捻じれて痙攣している。
もちろんミーナと子猫の姿は道路から消えていた。
「大変だ!市内に毒を撒いた白猫人がいるぞ~~!」
どこからともなく
”3日間ほど寝てれば消える麻痺薬だにぁ”
との声が響いた。
それから市職員やギルド職員も駆けつけて大騒ぎになった。
(一方、大通りから逃げた子猫とミーナは)
ミーナは白い子猫サクラの住んでいるところまで送り届けた。
住んでいるところはスラムの端にある市の共同墓地の小さな石の家で、中に入るとカタコンベ(地下室) の入口があった。
サクラは保護者に捨てられた他の子猫たちと一緒に住んでいた。
食べ物はどうしているのか聞くと、スラムの中に住む猫好きな娘さんが餌をくれるそうだ。
ミーナはサクラと共に地下室に入っていった。ここは地下1階だけが納骨堂で地下2階から下は数十の蟻の巣みたいに枝分かれをしていきゴンゾー市の至る所に繋がっていた。
最下層の地下室からは地下水路につながり遠く砂漠のオアシスコロンバにまで小船で行けるみたいだ。
地下室の換気も所々に空気抗が開いておりカッパドキアみたいにノルン人に迫害されたアムル人家族や親に捨てられた孤児たち獣人たちが中に住み着いていた。
ミーナが助けたサクラの住んでいる部屋には仲間の子猫のくろ、はな、もも、そら、たま、ちび、しろ、ミー、まる、みけたち10匹に紹介された。
ミーナが部屋に座ると、幼い子猫のくろ、はな、ももがミーナの膝に這い上り丸まり居眠りを始めた。
撫でるよりは撫でられる方が好きなのだがにゃ~と考えながら、子猫のくろ、はな、ももを撫でているとミーナも眠くなり何時の間にか横になり寝ていた。
はっと気が付くとミーナの身体の上や横に残りの子猫たちが集まり寝ていた。
室温も適温でついついミーナも気分が良くなり喉が鳴っていた。
12匹がごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろ
地下室の猫全匹で喉声大合唱をしてしまった。
しばらく寝てからミーナは起きて腰のバックにある乾燥小魚を子猫全匹に与えた。
ミーナの腰のバックにある乾燥小魚は携帯食料で大量に収納してある。
ダンジョンギルアのある迷宮都市ゴンゾーは北海に面しており魚の水揚げは多いのだ。
"ニアニアウ~~~~~ウニアニアウ~~~~~ニアニアウ~~~~~ウニアニアウ~~~~~"
子猫たちはお腹が空いていたらしくて、唸りながら夢中で食べていた。
それから毛ずくろいを始めたサクラや他の子猫の話しを
しっかりと聞いて上げた。
いまだにゴンゾー市の地下に掘られた地下室で暮す貧民たちや孤児たちの話、市長が交代しても旧来と変わらずに高利貸しと組んで住民を追い出す市の一部職員たちの話だ。
今回の騒ぎはスラム街を壊して娼館や賭場を建てたい高利貸しモアブが市職員と結託して追い立てをしていたと状況の話から判断できた。
やがて子猫のくろ、はな、ももをミーナの膝からどいて貰おうと立ち上がったら奥のミー、まる、みけたちが威嚇の声を上げ始めた。
“フゥ~~!”
何事かと振り返り見たらそこには1mはある巨大な兵隊蟻の群れが下の地下室から顎をガチガチガチガチ鳴らしながら侵入して来ていた。
本当にアリの巣だった、子供たちはこんな危険なところに住んでいるのか!
威力のある棒手裏剣は腰バックに今日は入れてない。
乱戦に吹き矢は使えない、毒霧使えば子供達も影響する。
頼るのは鋭い切れ味の間合いは短いが魔鋼鉄製の黒ダガーしかない、
ミーナは腰のダガーを抜いて構えてミー、まる、みけたちの前に出た、右手で短剣を構えて、左手で後ろの子猫たちに逃げる様に手信号で合図を送る。
サクラがまだミーナの後ろにいるのが分かるが、早く逃げて欲しいにゃ!
大蟻たちの動きから目を離せない、この大部屋には地下から湧いた大蟻5匹と出口の階段にサクラがいるのは気配でわかる!
このところ戦いはジェドばかりに遣らせていたのが自分の勘を鈍らせている。
最左手の大蟻が大顎で喰いついてきたので右手の大蟻の前脚を斬り落としてから後ろにバックステップした。
すると左手の蟻が後ろに廻り逃げ道を防いだ。
大部屋の中でミーナ1人に大蟻が5匹周囲を取り囲まれてしまった。
顎をガチガチガチガチ鳴らしながら威嚇している。
それからは大蟻の間を跳び廻り斬りまくった記憶しかない。
5匹全部、大蟻の暴れる蟻の後頭部と前胸板間を切断した。
しかしミーナ自身何度も顎で噛まれて針で刺され毒液を浴びた。
いくら毒耐性があるミーナでもHP10%以下になってしまい人型が維持出来なくなり、三人パーティーの時いらいの久しぶりに大白猫に戻ってしまった。
でもミーナの身体は体力が回復すれば元に戻る、子猫たちが助かって本当に良かったにゃ!
◇◆◇
あれから2日経ち迷宮都市ゴンゾーの冒険者ギルドにある二階会議室で5人が苦い表情をしていた。
そのメンバーは、ガツンドワーフ市長、マルシェエルフギルドマスター、ミーナ猫人代表、ドンガ市職員代表、司会のギルドサブマスターマチルダの顔ぶれであった。
秘密会議の司会者としてサブマスのマチルダが事件の経過説明をした。
「市職員のドンガの申し立てだと、子猫たちの飼い主に高利貸しモアブが低利の金を借してあげて返済しなくてもいいよという慈善の相談に乗つていた所いきなり通行人の白猫人から暴行を受けたと主張しています」
「うん~と、だいぶ実際と違う主張をしているにゃ、ドンガはこの子猫の飼い主に高利貸しモアブ様の金を借りて返済できねえなら身売りでもしろと言ってたにゃ」
「ドンガが正しい、ドワーフがそんなこと言う訳がない、猫人は嘘つきだ」
「マルシェギルドマスターも今の市長発言を支持しますにゃ」
「発言の真偽ならば、盟神探湯を勧めますが受けますか?」
「ミーは盟神探湯を受けますにゃ」
「俺は盟神探湯を拒否する」
「盟神探湯はドンガとミーナだけでやるべきだ」
「無責任ですね、盟神探湯判定でドンガが火傷したら支持したガツン市長は解任です」
「そんな馬鹿な、儂は断じてドンガとは関係ないぞ」
「では、高利貸しモアブと市職員の癒着について行政監察を受け入れますか?」
「理由なき不当な市職員への行政監察を断固反対する」
「高利貸しモアブへの不当な社会的偏見を非難するぞ」
「盟神探湯判定も行政監察も反対ですか、聖樹様に報告します」
後日、半島引き揚げ者のガガズがゴンゾー市長に聖樹様より指名された。
[ガガズがゴンゾー市まで未到着の間は、マルシェギルドマスターが市長代行との宣旨が下された。]
ミーナは魔王島に帰島前に再度マルシェギルドマスターに面会を求めた。
スラムに暮す住民や子供たちの窮状を訴えて、元ノルン人住宅5000棟の利用方法として、引き揚げドワーフ1689人とスラム住宅897世帯と子猫人たちの空き家への優先入居政策を求めた。
あとは市職員の綱紀粛正と零細露店業者への無金利貸付制度の制定を求めてついでに法定金利の引き下げもお願いした。
◇◆◇
ミーナは同じ市政移行期にある迷宮都市ヤーセンについても不安を感じた。
直ぐに移転でヤーセン市に飛び、スラム街を確認して裏通りや路地裏などで残飯を漁ってその日暮しをしている路上生活者の子犬のココ、モモ、マロン、ソラ、チョコ、ハナ、レオ、モカ、モコ、マルたちに焼き肉串を上げて、モモに肉串と間違えられて足を噛まれながらも無事に話し合いが出来た。
ダンジョンシバのある迷宮都市ヤーセンにまで高利貸しモアボは喰い込んではないが、最近は大公軍駐屯地跡でゾンビ兵士が目撃されている噂がある。
すぐにヴェル市長とスーギルマスに面談した。
「西エルフ聖樹国7ケ条回答文の §6.ウルク大陸上にノルン人居住は認めないによりノルン人住居3000棟がこのヤーセン市では空き家が出るはずです。」
「スラム住宅348世帯と孤児で追い回される子犬たちの空き家への優先入居政策とやはり零細露店業者への無金利貸付制度の制定と法定金利の引き下げをお願いしたいにゃ」
「無金利貸付制度については財源確保してからだね、法定金利の引き下げ法は急いで整備していく、空き家入居についてはスラム街整備とシバ族1380人の引っ越し作業を同時並行してやっているよ」
「魔導国から再び戻る魔族の入居分として以前と同じ180棟の確保もヴェル市長に要望したいわ」
「了解しました、これでもう2000棟は入居者が埋まったね」
◇◆◇
以前、ナドウ宰相の謀反でエビノ伯爵との連合軍により、旧クマリ王近衛兵の"白薔薇兵団"は惨敗して280人の戦死を出して、兵士たちは親類縁者を頼り各地に散った。
今回、ナデシュ半島各地で商人や農民になりクマリ王国再興を念願していた遺臣たちや地元住民は、ドワーフ義勇軍によりナドウ王軍が壊滅したのを見て有志600人程の自警団を結成した。
自警団は若い世代が中心で女性参加者も多く、武器は自前の家伝来の剣や槍が多く、鎧もバラバラであった。ナドウ軍がイシ河原で遺棄された槍や刀で武装している者もいた。
どんなときにも治安維持は必要なので、1日も早いアイラ王女のクマル城帰還を念願しつつ旧クマリ王国領内の盗賊対策などを励んでいる。
徴税は旧クマリ王国と同じ税率で住民たちが自主的に供出して自警団を支えてくれている。
ダンカの判断なのか返還されたドワーフ軍の火器重砲と弾薬は隠し砦から魔王島に揚陸艇で輸送されていった。
隠し砦の地下工場にある建築工ゴーレム7体は24時間体制でナデシュ半島内の道路や橋堤防の崩落個所を補修工事しながら、クマル城別名白鳥城の復元工事を半島内資源で施工している。
ほぼ完成したクマル城別名白鳥城は構造やデザインと内部意匠が完全に再現されており、建築資材は鉄筋コンクリート製に変わったが、デザインを起こした者は元の王国関係者の可能性が高い。
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