#40 ドワーフの恩返し
結局、ダンカは必死で揚陸艇と帆船・魚船動員で救助したが、1820人しか救助できなかった。
隠し砦対策会議の構成員は、ダンカ砦代表、ウラン女性代表、ウイゴ鍛冶代表、ガガズ難民代表の計4人となった。
隠し砦の食堂兼会議室でウルク港から避難した翌日には対策会議が開かれた。
「ドワーフ族の長老達が全員殺されたので今後の対策会議をこのメンバーで開催します。避難民の数が1820人というレベルなので食料や住居そして対エビノ戦略について検討したいです」
「ガガズです、土地勘がないのでナデシュ半島北半分の説明を頼みます」
「ナデシュ半島の北半分には関所と五稜郭要塞と3つの金・銅・鉄鉱山があり、農村のミュム村・サフラン村と魚村のシュル村・リザード村があります。中央にヨド川が流れて五稜郭の堀水にも使われています」
「半島北半分の最重要拠点は何処と見ますか?」
「産業ではサド金鉱山で、精製の過程で他の貴金属も取れます。軍事的には五稜郭の兵糧・軍需物質でしょうか」
「ヨド川沿いの五稜郭が兵站基地で徴税の集積場所か、ここを抑える必要ありだね。ここを当面のドワーフの策源基地としよう」
「ナデシュ半島の北半分を抑えれば帝国とナドウ王国は分断されます」
「そうですね、隠し砦ではダンカさんは火縄銃を製造してたのですか?」
「はい、本来はクマリ王国再興のために火縄銃1000丁と大砲100門を地下工場で生産しました」
「ドワーフ達の怒りはもうじき爆発します、その時に目標は明確な方がいいでしょう」
「ドワーフ族は今回魔王島の方々に1820人も助けられたことは肝に銘じております。」
「感謝しても足りない思いです、ですから我々にできる事はナデシュ半島に巣くっている大公側近のエビノ伯爵軍と傀儡のナドウ王軍を貸してくれるこの火器で叩き潰します。」
「これはドワーフの恩返しです、作戦終了すれば兵器はお返しして、祖先の土地ドワーフ自治領に帆船で時間をかけても帰ります。やはり暮すのは同胞の中がいいですからね」
「有り難うございます。命懸けの決意に打たれました。」
「ドワーフ自治領への帰路は、スーン海峡は渦巻が発生しますので、ソドム魔導国の南のソレン港に上陸して北上すれば西エルフ聖樹国領に出ます。そこからは北東に進めばドワーフ自治領です。是非、全員でご帰国してください」
◇◆◇
ナデシュ半島の北半分にあるエビノ荘園のイセ川沿いの森林の中にダンカの隠し砦はあった。
妻を殺され夫を殺され我が子を殺された怒りのドワーフ族の大集会が砦前の元馬場の草原上で開らかれている。
切り株の上に立ち上がり中年ドワーフ男性が赤く紅潮させた顔面を振りながら拳を突き上げて絶叫する。
「何の罪もない妻が夫が子供が両親が1700人以上大公軍に殺されたのだ、この恨みを一味のエビノ軍にぶつけるぞ」
ウォォォォォォォォォォォォォォォォ~~~~~~~
という地鳴りのような叫びが続く
これは民族の怒りの声だ、怒りのあまり倒れて草原を叩く人もいる。
失った者の名前を各々泣き叫ぶ婦人達、ダンカは茫然と立ち竦む。
止められない、何かが起こる社会が変わるような変化が起こるぞ。
怒り狂う1820人余の群衆が大量の銃や大砲を持っている状況だ。
原因を作ったのは俺だが、さすがにこの流れは息をのむ流れだ。
農夫の男が火縄銃を突き上げて、普通の主婦たちが大砲を地下倉庫から引き出してくる。
全員が怒りに我を失っている、口々に呪いの言葉を叫んでいる。
ワームみたいに怒りの衝動が体を突き動かしているのだ。
ダンカの前を1000丁の火縄銃が100門の大砲の砲弾が火縄銃の弾薬が樽詰めのままで大量に地下工場から運び出されて行く。
これは短期間でナデシュ半島の勢力図が塗り替わってしまうだろう。
そういえば砦の会議室にはナデシュ半島の拡大地図が張り出してあった。
エビノ軍駐屯地や軍需品集積地や食料倉庫所在地が色別表示済だ。
エビノ荘園は主力軍団3000人を爆撃で失い、今はたしか後方支援の兵士は500人もいないと忍びのジェドが喜んでいた。
今はエビノ伯爵でさえエボス城にわずかに1000人の近衛兵が残るだけだ。
黒鉄騎兵隊500騎をスー魔導師に焼かれたナドウ王も同じく爆撃を恐れて残存する近衛兵を連れて村々を転々と移動している。
◇◆◇
広大なエビノ五稜郭の補充兵500人を取り囲む怒れるドワーフ達1820人は、ナポレオン大砲100門と火縄銃1000丁の照準を土塁越しの補給陣地に合わせた。
この五稜郭駐屯地は補給基地で、徴税業務や前線支援業務の補充兵は500人だけであった。
最初にナポレオン大砲10門が鉄球を基地内に打ち込んだ。
“ドドドドガガガァァァァァァァンンンンンン”
補充兵100人は壊れた兵舎に驚いて土塁上に飛び出してきた。
そこに火縄銃300丁が火を噴いた。
“ダダダダダダダダダダ~~~ンンンンンンンンンン”
土塁上の補充兵100人は身体に15㎜鉛弾を複数浴びて吹き飛んだ。
土塁下に落ちた補充兵100人はズタボロで即死状態だった。
これを見た残りの補充兵400人は戦闘意欲をなくしてドワーフ側に投降した。
初回戦でエビノ五稜郭駐屯地は降伏していた。
あとはモア関所とサド金鉱山でナデシュ半島の北半分の戦略拠点は抑えられる。
モア関所は対帝国戦の前線司令部で左右に国境の城壁が広がる戦略拠点だが後ろから攻撃する銃火器をもつ1820人には困難拠点ではない。
サド金鉱山は隠し砦の地層に繋がる金・銀・銅・鉄鉱石の産出するナデシュ半島最大の鉱脈であり是非抑えたい。
モア関所とサド金鉱山を守備するエビノ兵は少数の槍剣弓で武装する兵で、包囲するドワーフ人たちは火縄銃1000丁とゴーレム輓馬牽引の大砲100門の威力の前では抵抗もせずに降伏した。
◇◆◇
五稜郭と国境関所を制圧したドワーフ族はそのままサド金鉱山も下してナデシュ半島の北半分の地域を1820人のドワーフ人の食料補給地域とした。
1820人の日々の食事や日用品を調達して配給するのは結構大変です。
火縄銃と大砲の威力を確認し、残りのナドウ王国とも戦えると判断した。
ガガズがドワーフ族代表になったので話はスムーズに進む。
ドワーフ臨時司令部は五稜郭内の元兵站司令部に置いた。
ウルク大陸ドワーフ自治領への帰還ルートの研究も開始した。
大量の船が必要とされる、やはりナデシュ半島イシ港の魚船を全部徴収してソドム魔導国に渡るしかない、そのためにも移動しているナドウ王軍1000人を捕捉して撃破するしかない。
ドワーフの帰国の船獲得とナドウ軍壊滅は重なった。
事前想定する決戦場所はやはり広大な空間を持つイシ河原だった。
1日も早くドワーフ自治領に帰還したいドワーフ1820人は続々とナデシュ半島南部のナドウ王国に津波みたいに侵攻していった。
ナドウ兵駐屯基地を見つけると大砲を撃ち込み破壊して侵攻していく、やがて想定通りにイシ河原両岸でドワーフ人1642人とナドウ軍800人は決戦の時を迎えた。
さすがにドワーフ人も無傷ではなく、繰り返した掃討戦で178人の戦死者を出している。
ドワーフ人1642人の兵器は1000丁の火縄銃と100門の大砲は健在で隠し砦にある軍需品と武器弾薬の残りを背後に置いた。
対するナドウ軍の士気は低く逃亡兵も出てきており、兵器も旧式の槍剣弓では意気も上がらなかった。
ナドウ王の姿が河原に見えた時点で100門の大砲が対岸ナドウ陣地を砲撃した。
弾着する土煙が派手に上がり、人馬が吹き飛びさらに1000丁の火縄銃から15㎜鉛弾が前面に立つ兵士に繰り返し撃ち込まれていく、3度目の鉛弾が発射された時点でナドウ軍陣地に負傷していない兵士はいなかった。
300発の鉄球と、3000発の鉛弾が撃ち込まれて人馬をなぎ倒していった。
弓矢も長槍も魔法も役に立たない遠距離から銃砲撃され粉砕された。
この勝利でイシ港の魚船群をドワーフ人の故郷帰還のために徴用できる。
硝煙の中、ナドウ王は近習3人に守られて山中に落ち延びて行った。
◇◆◇
朝になってナドウ王は山小屋の毛布の中で眼が覚めた。昨日はドワーフ軍から逃げ延びて、国境の壁を越えて帝国に入国しなければと、近習3人と見つけたこの猟師小屋で眠ったが木床に毛布で固まった体を伸ばして起きた。
ナドウ王は敗戦しても帝都に行けば大公もいるし充分に立て直せると信じていた。
小屋の前に出て近習3人と顔を合わせるとどうもいつもと違う雰囲気だった。
近習3人の顔が謀反人の顔になっている。
ま、ナドウの傍にいること自体が悪事加担だが、それとは異なり獲物を見る眼つきでナドウ王を見ている。
ナドウは思わず身の危険を感じて叫んだ。
「主人に歯向かう犬どもは何処も雇わぬぞ」
「もう落ち目なんだよ、大公もエビノもナドウもな、食わせてくれない飼い主は主人とは言わないんだよ」
「最後の奉仕をしてやる、おとなしくしろや」
「早く木の枝にロープを乗せて垂らせよ、端は幹に結べ」
「やったね漁師結びが出来たね、みてみて縄首輪の結びが芸術的だろう」
樹の枝に掛けた獲物用ロープの先には首輪が巧みに作られていた。
後日、ドワーフ人による残敵掃討の部隊によりナドウ王の遺体は山中で発見された。
ダンカの報告書では戦闘に伴う敵王の死だが、アイラ王女にとっては家族の仇の死という重大事で終日愛の神アフロディに祈りを捧げていた。
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