#04 戦闘メイド夜刀姫の召喚
アベルは10歳の時から森に入るのを両親から許されたので、先ずは家と父親の猟師小屋の中程の距離で少し離れた岩山の中に居住者のいない洞窟を見つけてあり、往復の途中に立ち寄り、洞窟の中を徐々に拡張していった。
まず四角形の作業室と資材置き場の二部屋を掘削して広げて、丸型出入口を周辺の岩を削り出して円盤状に成形し転がして塞ぐようにした。
天井には雲母板を嵌め込んだ採光窓を複数設置し、防音も兼ねて侵入防止のために罠も仕掛けてある。
もちろん利用目的は昼間のメイドゴーレム召喚用の練習基地であった。
アベル少年の冒険心にはっ秘密基地は御馳走である。
これで毎日の家から猟師小屋までの往復の動線は三角出張ルートとなった。
動機は純粋でもゴーレムの召喚工程は等身大少女の裸身デッサンもあるし、外見上誤解を与えかねない部分も含むので孤立した作業部屋は必要だった。
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作業室の真ん中には四脚で長方形の鋼鉄製作業台を鋼鉄インゴットから造り出した。
10歳の時からこの作業台上でのモデル人形型のゴーレム召喚をこの台上で繰り返していた。
“召喚”と“解体”を繰り返して徐々に大型化と精密化を極めていった場所だった。
過去で核心魔石もなくイメージもなく、訓練で大地よりゴーレム召喚をするとモデル人形型の土製ゴーレムは1命令を履行すると崩壊した。
試行錯誤の3年間でゴーレム召喚は明確な完成ゴーレムのイメージがあることや、アベルの場合だと魔晶石や素材で金属インゴットがあればより高品質で長期間の使用に耐えられることが実験上分かってきた。
今回は空間収納庫内から、チタンインゴット・白金インゴット・ミスリル銀インゴット・そして魔鉄鋼インゴットの塊を鋼鉄製作業台の上に取り出した。
さらに地底湖から入手した制御装置の中核となる魔晶石も魔水入りドラム缶と共に収納庫から出した。
魔水湖での魔晶石形成から日常的に魔晶石を魔水で保護したり、魔晶石を軽銀箱で包めば衝撃や魔術に耐久性がでて長期間活動が期待できると結論出来た。
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召喚するゴーレムの外観上はダークエルフ少女だが、中身は魔晶石入りゴーレムで外甲殻にする。
胸部内の魔晶石は、常時胎内の魔水で覆えば頭脳である魔晶石の劣化は避けられるはずだ。
身体部分はチタン合金とミスリル銀・魔晶石・魔鉄鋼・ルビーなどを作業台上に揃えた。
アベルは長方形の白木の薄板に白布を貼り、木炭で等身大の少女裸身像をデッサンした。
前世では図画工作は好きだったな。
中肉中背の銀髪モブカット紅い瞳で笹耳小麦色の肌のダークエルフを1月間で描いてイーゼルに掛けた。
ゴーレム召喚のイメージは眼前の等身大少女の裸身デッサンである。
そのままユニークスキルを信じて“ゴーレム召喚”を唱えた。
瞬間、発光現象と共に作業台上にダークエルフ少女が全裸で横たわっていた。
作業台上のインゴット群は消滅して、ドラム缶内の魔水晶も消えていた。
そこから召喚したゴーレムの長期間作動のためのこれまでの経験則から起動の前に素早く鍛冶で胸部切開を施して、背骨部内に融合してある魔晶石と配線を確認した。
確認後、開いた体腔内の空間を魔水で満たしてさらに魔晶石を軽銀箱で覆い保護した。
施術終了後、胸部切開部を錬金術で融合して閉じた。
アベルも男の子であり、ゴーレムの造形は理想女子の躯体イメージで造形してある。
胸腰の膨らみはある。身長160㎝・バスト82・ウエスト72・ヒップ90と計測した。
アベルは同伴者としては女性形態が良いが、使用目的は護衛として召喚している。
小柄だがけっこう西欧人風の彫りの深い小顔になってしまった。
個人的には日本人少女の顔が好みだったがしかたがない。
ゴーレム召喚は成功した。
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アベルはフラウ母さんにだけはゴーレム召喚のことは打ち明けてある。
なぜならフラウ母さんの冒険者時代の話からバイト時代のメイド服を今も保存してあるのが分かり、メイドゴーレムを召喚すると打ち明けるとメイド服一式を譲ってくれた。
もちろんゴーレム召喚したら一番最初に紹介する約束だ。
ということでゴーレムの衣服はフラウ母さんのエプロン付きメイド服とした。
村の雑貨屋で注文して黒灰服地2種類と糸・針・鋏を購入して見本のメイド服を採寸して型紙を作り生地を裁断・裁縫して完成させる。
購入資金は俺が狩った獣の牙・毛皮・肉の売却代金で賄った。
下から黒の首リボンのついた灰色のサイズMで丈51肩幅32バスト82のボタン留め半袖シャツと、黒色のサイズ88バスト82、ウエスト72のボタン留めワンピースに、灰色のボタン留め式エプロンと後ろに飾りバック・リボンを付ける。
黒生地の端切れが出たのでビキニの黒パンティも1枚作れた。
パンティに少し悩んだが兎さんの刺繍も白糸でした。別に問題ないと判断した。
名前が閃いた、黒系服装からのイメージで“夜刀姫”【ヤトヒメ】でどうか?
森林で出会い頭に魔熊などに会うと、驚いて逃げ出す弱い俺を是非守って欲しい!
よし、次のステップに進もう。
◇◆◇
そういえば未だ夜刀姫の専用武器を製作してなかったな。
何を作ろうか、普段は護衛専門だから投的武器と接近武器で良いだろう。
家にある狩用の武器は弓・山刀・短槍・手斧・短剣・スリングベルトしかない。
後は罠の虎ハサミ似の奴や血抜き用のロープ、獲物移動用の山ソリ、背負子、雪用かんじきが倉庫にある。
とりあえずミスリル鋼・魔鋼インゴット・革素材を取り出し家にある物は全部複製しよう。
投的武器としては3㎝鉛弾を、接近武器としては魔鋼製山刀とトマホーク型手斧を携帯させよう。
手斧は投的も出来る優れ物だ。
見本は家に有るので、投的用手斧は投的専用曲柄で全長80㎝で10本を製造した。
投げてよし、殴ってよしのバランスのよい武器が手斧だ。
金床に置くこともなく、手に素材インゴットを持ったままで金属がムニムニと変形して融合・折り返ししていく。
斧部分は魔鉄鋼製で刃渡り20㎝で、柄部は60㎝の鋼鉄製曲柄で打撃力のある全長80㎝重量2.1㎏の殴打武器に仕上げた。
遠心力重視の二刀流殴打武器だ。なぜなら夜刀姫は怪力持ちなのだ。
トマホークの柄の握り部分はこの子の掌の凹凸に最適化するように形状成形した。
銃のない狩りでは遠距離で3㎝鉛玉で狙撃して、中距離で手斧トマホークを投的して、接近戦用では左右の山刀を二刀流で使用する。
遠中近3種類で戦う、不具合が出たらその都度補正を掛ければいい。
この3種類の武器で当面は俺を守ってくれ。
武器は全て黒色の腰バック(収納袋)があるのでこれらを収納させる。空間10㎥と充分に予備武器と鉛弾は入る。
周辺装置として夜刀姫用のカマボコ型の自己点検装置も製作した。
毎晩1回は水晶蓋を開けて躯体を横たえて金属躯体内の発生滞留した静電気除去や体腔内の魔水晶石・魔水計測や外骨格・手足などの破損状態を測定する体調維持装置だ。
異常が検知されれば水晶蓋が赤色表示される。
戦闘訓練は1年間近くこの洞窟を中心にして、魔獣を相手に戦闘経験を積んでいる。
◇◆◇
既にゴーレム召喚で疑似生命を与えてあるので起動させよう。
アベルは作業台の上の金属ゴーレムに触れて“起動せよ”と命じた。
すると台上の金属躯体が瞼を開けた。
ゆっくりと人造人間は作業台上で半身を起こした。
この瞬間、アベルは感動して心から転生神にスキルを感謝した。
「はい、マスター」
「よろしくね、俺はアベルと呼んでくれ! 」
「はい、アベル様」
「君の名前は夜刀姫とつけたよ」
「ありがとうございます、私はヤトヒメです」
「旅行や冒険の同伴者として俺は君を作ったんだよ」
「分かりました」
「俺が作った目的は戦闘に弱い俺を敵から守って欲しい、あとは独り旅だから同伴者として常に傍にいて欲しい」
「アベル様に仕えるとはどの様なことをすればよろしいでしょうか?」
「そうだね、守ってくれるだけでも十分なのだが、炊事や洗濯・掃除も覚えてもらうよ、あとは休日に竪琴リラの演奏もしてくれると嬉しいかな」
「私はアベル様を全力でお守りします。その外はご命令のままに」
「うん、頼んだよ」
「これから姫は台から降りて、体の動作の不具合を点検して欲しい」
夜刀姫は台から降りて、全身を屈伸して小刻みに動かして不具合を調べていた。
その間にアベルは貰った黒の首リボンと灰色の半袖シャツそして黒色のワンピースに、灰色のエプロンとバック・リボンや黒パンティなどを作業台に並べた。
次に、魔水筒1、黒の腰バック1個、トマホーク10本、山刀2本、3㎝鉛玉100個を出しておいた。
◇◆◇
「動作の不具合はありませんでした」
「分かった。姫への命令権者を言うよ、終生第一命令権者はアベルで俺とする。
第二命令権者以下は暫定の指名で、場所が変われば随時変更するからね。
第二命令権者は母さんのフラウとするよ。
第三命令権者は父さんのエディとする。
第四命令権者はカインとするね、なお暫定の期間はマリ村滞在中だけだよ」
「はい、わかりました」
「それと姫は衣服を着て腰バックを装着して、腰バックの中に台の上の物を入れてね」
「はい、アベル様」
夜刀姫は素早く衣服を着て腰バックを装着して、腰バックの中に台の上の物を入れた。
「この魔法袋は10㎥の腰バックで、予備の武器・防具を入れても余裕だ。戦闘の時には魔法袋から取り出して使うが、街中や家の中では命令以外取り出さないでね」
「はい、わかりました」
「後、夜は定期的に魔水筒から体内で減った分の魔水を補給した方がいいよ」
「はい、わかりました」
アベルは夜刀姫の銀髪に赤い柄のバンダナを結んであげた。赤は銀髪に似合うな。
黒メイド服と灰色エプロンを付けて、さらに手斧類を腰バックに入れて控えている。
夜刀姫の姿は立派な戦闘メイドに見える。あ、靴がない・・・
栗色の馬革が在庫にあったので防具の胸当てとショートブーツ2足をその場で見取り製作した。
ぴったりサイズの胸当てとショートブーツの馬革に硬化ハードニングと汚れ防止コーティングを掛けた。
これで血溜まりや泥水の中で活動しても影響なしだ。
胸当ては腰バックの中に入れてショートブーツは夜刀姫に履かせた。
二人は洞窟の外に出て、戸締りをした瞬間に、アベルは検知器に気がついた。
夜刀姫への魔法攻撃や落雷を感知して中の魔水晶石に警告の魔力を流せる露出型の攻撃波検知装置が必要だった。
急遽、岩場で収納庫から材料を取り出して指輪を造り夜刀姫の左手中指に嵌めさせた。
後日、黒の絹ストッキングと黒のガーターベルトは都会の服屋で注文購入しよう。
これから夜刀姫を家に連れ帰り、フラウ母さんと家族に紹介しよう。
そのためにアベルは彼女の先に立って岩山を降り始めた。
アベルの性格は夜刀姫の存在を家族に隠してはおけなかったのだ。
◇◆◇
エディ父さんの家は猟師の仕事柄、マリ村でも大森林傍にある。
木造2階建てで裏庭の倉庫で獲物の一時保管などはするが、大抵は現場の猟師小屋と傍の清流で血抜きや内臓処分はすんでいる売り払い前の商品だ。
燃料の薪などもこの倉庫に積まれている。
この倉庫から肉は肉屋に皮とか牙・魔石などは村の鍛冶屋や行商人に卸されている。
家の1階が食堂と台所と水浴び場もある。2階が各自の寝室だ。
見た目も古くひっそりと屋敷林に隠れるように建つ地味な民家だ。
「ただいま戻りました」
夜刀姫を伴い我が家の玄関に入ると、丁度父さんと兄さんは居間兼食堂で椅子に座り、フラウ母さんは玄関ドアの上に付けている呼び鈴の音で台所から居間に出てきた。
入ってきたアベルと夜刀姫の姿を見てフラウ母さんの眼と口ががまん丸に開いた。
「アベル!誰なのその子は? 」
「この子は俺が召喚したゴーレムの“夜刀姫”だよ」
するとフラウ母さんは遠慮もなく近ずいて夜刀姫の体をペタペタ触りだした。
「本当だわ、金属ね、驚いた! 私があげた服だし」
「ヒメ、母さんに挨拶して」
「はい、私はヤトヒメといいます。よろしくお願いいたします」
「あらいやだ、私はアベルの母のフラウよ、よろしくね」
「でもすごいわアベル、この子は昔一度だけ出会ったダークエルフにそっくりよ! 」
鋭い母親の視線は夜刀姫の左手中指に嵌めている黒水晶の指輪に止まった。
「あら、この子はすてきな指輪しているわ、アベル! 」
フラウ母さんの熱い視線が俺の顔をジ~ッとみている。
フラウ母さんも女性だから指輪が欲しいのか、苦労しても指輪1つもしてない。
でも、収納庫にはもう黒水晶はないし・・・
困って指で空間収納庫のマトリクスをスクロールしていると、
以前、帰り道で採掘した中粒の紫水晶が1個あったよ!
紫水晶をミスリル銀のチップと一緒に取り出して、目測で母の左手の薬指のサイズを測り手に取り家族の眼の前で紫水晶をカットしてミスリル銀爪に嵌め込んだ指輪を作った。
アベルはフラウ母さんの隣でやはり茫然と座っているエディ父さんに指輪を渡して言った。
「父さんから母さんの指にはめて上げなよ」
「おっ、おぉぉぉ・・・ありがとなアベル」
エディ父さんがフラウ母さんの手を取りまごついていると・・・
フラウ母さんは左手の薬指を父さんに突き出した。
「アベルありがとう、エディこの指よ」
フラウ母さんはうれしそうだった、よかった。
顔を赤らめたカイン兄さんの視線は、会った時から夜刀姫の横顔に張り付いたままだった。
我が家はフラウ母さん以外に女っ気ないからな。
俺は来年の成人式が終わったらこの村から夜刀姫と伴に冒険の旅に出るのだ。
「母さんこれから夜刀姫に炊事とか教えてあげて、俺の旅で役立つから」
「そうだね。アベルのお嫁さんだと思って教え込むよ」
「どうぞよろしくお願いいたします」
「まあ、賢い娘さんだね」
夜刀姫は無事に我が家に溶け込めたようだ。
これからの1年間でアベルは夜刀姫と伴に狩りをしながら、駆ける、跳ぶ、避ける、打つ、見切る、間合い、優先順位、フェントなどのバランス感覚や相手認識等の体験を教えていく予定だ。
次は村の馬車の操縦方法や馬の世話を教えていく予定だし、出来れば潤いになる音楽演奏も学ばせたい。
その次の目標はフラウ母さんが夜刀姫に炊事・洗濯・裁縫の家事内容も教えてくれる事を期待する。
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