#38 アイラ王女の孤軍奮闘記(3)
アイラは執務室でハーブ茶を飲みながらこの島に来てからの変化を考えていた。
やはり島内循環道路や鉄道路線の存在は大きな変化を引き起こしていた。
道路や鉄道はいろいろな効果が生まれてきた、やはり人々の生活圏が拡大した。小さな集落だけでなく島の反対側にもその日のうちに移動出来て仕事が出来て帰ってくることが出来るのだ。
魔導脳“M“も実態経済の拡大効果を数値として把握した。
さらに島経済を活性化する手段をアイラ王女は求められている。
アイラ王女は魔導脳“M“に基本的なことから質問しました。
「島の資源を使用した成果物は島外に持ち出せないのよね?」
「そうだ、ただしアベルとの契約した物は契約期間後は島内にもどる予定だ」
「魔王城の資源には貨幣も含まれるの?」
「そうだ、だから地下7階の分類保管庫には魔王島通貨用に金銀銅塊が500年後の使用のために保管されている」
「その貨幣のデザインには魔王様の横顔でも刻まれているの?」
「そのとうりだ、だから交易で帝国の人間どもに神聖な魔王様の像が刻まれた硬貨などは渡せないのだ」
「帝国硬貨も聖樹国硬貨も等価で為替しているのでしょう、聖樹国硬貨を貿易通貨として魔王島で帝国との決済には使用すればすむ話だわ?」
「それはそうだ、だがそれでは魔王島経済が聖樹国経済圏に入るということではないのか、とても許せないことだ」
「500年後には魔王島に入れ替えで住むのは魔族の皆さんでしょうから、交代時期に魔族全員に魔王島通貨を渡して島内ではこの通貨限定と通告すればいいのでは?」
「そうか500年後には魔王島を出ていくクマリ人とかアムル人は帝国通貨や聖樹国通貨でいいか、500年後には通貨切り替えをすると事前告知しておけば済む話か」
「そうです、だから私やアベル達が持ち込む帝国通貨や聖樹国通貨の500年間暫定流通を黙認してもいいのではないでしょうか?」
「そうか、なら両通貨の500年間の暫定流通を黙認しよう」
「それでは、私は島内事業の従業員の方々に毎月帝国通貨で対価を支払いますね、それで実体経済は発展して規模拡大が継続できます」
「いいだろう」
「魔王島鉄道は1回乗車で1銅貨(100円)の運賃にしますね」
「もっと高額にしたらどうか?」
「それに鉄道郵便も始めたらいいわ、宛名を書いた封筒に入れて他の駅の私書箱に手紙を届けてもらうのも1回1銅貨料金にしますね、各駅構内に駅周囲の住民の集合私書箱を置けば済む話です」
「個人的な手紙を配る必要があるのか、なにか経済効果があるのか?」
「ありますわ、公共料金は廉価設定が規模拡大に効果が出るのです、入浴料金もそうよ、そうだ温泉保養所の現場確認の時間だわ、私行かなくってはそれでは行きますね」
「やれやれ、忙しいお方だ!だが改札や郵便で1駅に1人の駅員を置く必要が出てきたな、構内売店もやらせるかこれも経済効果か?」
アイラ王女のスキルは領内統治でしたね。
◇◆◇
アイラが建設依頼していた、島民の健康管理に必要な保養所はどうなったのかを確認に温泉駅の技術工ゴーレムDの所に行くつもり、いったん商館に戻った。
「今から温泉保養所に行くわ、一緒に行きますか?」
「はい、ご一緒します。」
「アイラ様、連れていってくださいませ!」
「勿論、ご一緒します。」
「では行きますか、水着とタオルも各自持つことです」
「「「は~い!」」」
アイラ一行の4人は子供村駅に到着した、駅舎と小さなコンクリート製ホームでおもちゃみたいな小規模だけど充分です。駅員が居ないので現在は運転している乗務員に乗車時に運賃を手渡ししています。
やがて黒い姿の機関車と貨車と最後尾に小さな客車が到着しました。
「今から温泉村に4人で行きます、これ運賃です」
「はい、確かに受け取りました、では乗車してお待ちください」
乗務員は発車時間までに列車の点検と駅の私書箱に人に頼まれた手紙を投函していた。箱の鍵は村人本人しか持たない。
やがて発車時間が来て列車は動きだした。
「アイラ様、温泉村診療所はどの様な所ですか?」
「温泉村診療所は温泉施設も併設してあり、ナタリアが大きくなったら働く場所ですよ」
「今からそこを見学するのですね、楽しみです」
「診療所も温泉施設もどちらも捨てがたい」
「テラはナタリアと一緒に診療所で診察して温泉効果で治療する主治医さんですから、両方とも貴方たちの仕事場ですよ」
オォォ~~
「私は?」
「ジェンは私の護衛官だからこのままです」
「ガッカリ」
「なにか言いましたか?」
「いいえ、なにも言ってません」
「よろしい!」
アイラ一行の乗車した列車は子供村から水田村や畑村・石材村・飛行場を経由して温泉村駅に到着した。
アイラ一行4人は温泉村駅に下車すると技術工Dが駅に勝ち受けていた。
「いらっしゃいませ、お待ちしておりました。ご案内いたします」
技術工Dはゴーレム輓馬と箱馬車を用意して待っていてくれた。
おお、気がきくね商館にも欲しい!
ああ、そういえばクマリからの馬と馬車を帝都に置いたままだったわ!あの箱馬車の床二重底に金の板を入れぱなしだ!
ダン侯爵にたのんで金の板は売却して帝国銅貨を入手しましょう!
「なにか言いましたか?」
「テラも私と同じポンコツ仲間よね」
「そんな、ひどいですわ!」
「だって帝都に馬車を置きっぱなしであの金の板もそのままです」
「おお!そういえばすっかり、忘れてました」
やがて馬車は温泉施設に到着した。
すべて平屋建てのコンクリート建築でした。
建物の裏手にこんもりした森がありました。温泉施設の中の森なのかな?
なんか気になるな。
◇◆◇
「ここが温泉保養所です、敷地は40000㎡ございます。脱衣所は入り口に男女別にあります。トイレ洗面所もあります」
「源泉の流量が多いので庭園の中に流れる湯の小川を作り川底には丸石を並べて足裏をマッサージしております。川中を歩けば足湯になります」
「左手に見えるのは肩打たせマッサージの温泉滝です、左手の森林の小路を歩きますと森林浴になります」
「右手に見えますは休憩所の東屋です、傍の大石群の横の温泉が露天風呂です。終点の大浴場がローマ風呂になります。風呂の周囲には木製長椅子が置いてあり加熱した体をクールダウン出来ます」
「温泉はかけ流しで左岸の海に流出してます。園内の樹木や薬草には開花時期が異なる品種を選定してますので、通年で花を楽しめます。
本日は体験入浴をいかがでしょうか?」
「説明が単調だな、入り口横の建物は管理棟ですか?」
「いいえ、あの建物が温泉リバビリの診断をする診療所です」
「温泉薬効は単純泉で切り傷腰痛などに効果あります」
「治癒師の指導の下で温泉飲用で治癒などに期待出来ます」
「温泉リハビリ施設として本温泉施設は作りました」
「わあ、私の働く建物だ、中を見ていいですか?」
「はい、どうぞ診療所の中を見てください」
「私もナタリアと一緒に診療所の中を見させて頂きます」
「はい、テラ様、お伴いたします」
「温泉村診療所は大きな看板を出しておくといいよ、私は今からお勧めコースを順路通りに歩こう、ジェンも一緒においで!」
「はい、ご一緒します。」
ジェンはふさふさした九尾を振りながらアイラの後を追った。
脱衣所で水着に着替えながら、入浴料をいくらにしたらよいのか、いやそもそもここは温泉医療の必要な者が治療する施設なのだからと思考する。
水着を持ってきて本当によかったよ、水着とタオルも入口で貸し出そう、しかし四万平方メートルなんて巨大テーマパークのつもりですか?
入口から見えた気になる森林があるからこの小路をジェンと歩いてみましょう。
森林浴効果があるという小道をジェンと手をつないで歩いてみたが何故か、背中に羽根の生えた10㎝位の妖精たちが木立の中を飛び回っているんだよね?
でもこの温泉施設は~え~と背後に殺気がするんですけど!!!
“チェスト~~~~~”
うあ、危ないなーいきなり後ろから跳び蹴りしてきた若い個体がいたよ、本当にかんべんしてよね!
「ジェン、私の周りにブロックを何枚か出しておいて!」
「はい、アイラ様9層重ねで貼りましたからもう大丈夫です」
「なんだよ、冗談なのに、マジで9枚空中ブロックなんて初めて見たぞ」
「め!危ないからだめですよ、いきなり跳び蹴りは悪い子です!」
「ほらやっぱり怒られたでしょう、謝りなさいよピピ」
「チェッ、おばさんは冗談わかんねえし、つまんないな」
「なんですって、誰がおばさんよ、おしおきが必要みたいね」
「ルル、逃げろ~~~~!」
銀粉を撒き散らかしていたずら妖精たちが樹木の中に飛び込んでいった。
まあ、めったに出会えない鶺鴒みたいな姿を見られたからいいとするか。
でもこのままでは[妖精と流れるスパ]のテーマパークになるぞ。
アイラはテラとナタリアに合流できたので妖精を見たことを自慢したら、二人とも妖精を見たかったって残念がっていた。
"妖精と流れるスパ"って、筆者も是非とも入浴希望します!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇