#37 剣士ツェペン・フォン・ハーベスト
話しててもだるくなるような、真剣味は微塵もなかった捕り物だった。
花街で剣士ツェペン・フォン・ハーベストが暴れているという一報がアベルのところに飛び込んできたのは小春日和のいい天気の日午後の3時過ぎ頃だったね。
とりあえず夜刀姫とアベルが迷宮都市ゴンゾーの花街というよりは飲食店街に駆け付けたら、いやもう大捕り物の真っ最中だったね。
飲食店が5軒ほど内装がズタズタに切り裂かれてた。
中心でレイピア振っているのが渋い中年騎士のツェペン・フォン・ハーベストの訳、相手は20歳ぐらいの冒険者の剣士たちで20人はいた。
若者ばっかりで先生と生徒みたいな真剣勝負だった。
斬り合いの切っ掛けは、それは先だってのダークエルフ少女誘拐事件から引き続きってやつだね、タマル・ヌリの仲間のクマリ人剣士が花街近くの料理店で指名手配犯のモアボと前ギルマスのツェペンが昼食を取っているのを目撃してしまったんだ。
俺だったらめんどくさいことになるのが解るから見ない振りするけどね、彼は20歳の売り出し中の剣士だよ、すぐに一緒にいた友達に剣士仲間18人とタマル・ヌリを呼びつけたわけよ。
それからはご覧のとうりよ、むろん市側も見過ごせないからこの周囲に立ち入り禁止の警戒線は張ったけどね。
肝心の指名手配犯のモアボなんて風を喰らって影も形もありませんでした。
20人の獲物は右手は篭手クレイモアやエストックそしてレイピアが多かったね、左手はマンゴーシュやら丸盾そして腕盾だね。さすがに街中で両手剣振り回しているのはいなかったよ。
ツェペンなんてレイピアだからすぐに折れるかなと見物していたがね、これが折れないんだ。
理にかなった受け流しをして大部分はマンゴーシュで捌いてしまうからね、見てて応援したくなるのはツェペンの方だった。
体術で足技で蹴り飛ばして綺麗な無理のない剣の軌跡で攻めるんだよね、物語の怪傑〇〇みたいな感じで20人をあしらって遊んでいたね!
流石に周囲の俺を見る目が厳しくなってきたからね夜刀姫に合図して最終決戦に臨んだわけさ。
夜刀姫の獲物は菊一文字の打刀(刃長87.4㎝)脇差(刃長53.4㎝)の試し斬りになってしまった。
夜刀姫は最初から二刀流でね、空気がピリピリとね、彼も嬉しそうだった。
必殺の間合いで擦り足で近づくんだよ油断のない間合いだね、彼女の右足が半歩前に出たときが試合開始だったね。
ツェペンも全力でバックステップからフォールバッシュで攻めたよ、だけども攻めた姿のままでツェペンは倒れたんだ。
夜刀姫はヴェルの知識移転してからは常時スロウ状態なんだね、見てても姿が時々ぶれるんだよ動きが早くて、その上両腕が怪力で1㎏ぐらいの刀は両手で超スピードコントロールしてるね。
夜刀姫が振るとただ光の筋が煌めくだけで刀は元の位置に戻っている感じだ。
だからツェペンも2~3合音がしたら右手首と左脇腹から血が吹き出していたよ。
正確には超スローモーション解像度カメラでしか決め手は見えないだろうね。
腕のいい剣士も悪事に加担すれば、討伐されるわけで残念だよ!
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被害内容は物的には飲食店が5軒ほど内装破損で家具什器多数破損です。
あとは娼館1軒の床板取り換えですか。人的には死者1人軽傷19人です。
場所も移動したね、最後の場所はやはり馴染の娼館に戻っていた、で彼の最後は馴染の相方にバッチリ見られていた。
彼が勝負に負けて倒れて最後の時は相方の腕の中なんて、男として理想像みたいな環境で死んでいきましたよ剣士ツェペン・フォン・ハーベストはね!
一応娼館なんでアベル以下冒険者ギルドに移動した、死体を地下室に移して葬儀の真似事をしました。
それから関係者全員を2階会議室に集めて、時系列の証言や経緯を聞き取りました。
ビックリの証言も飛び出しましたがそれは次の章をお読みください。
彼はもう死に場所を求めていた気がします、興味のある方は昔話しを読んでくだされば亡き男爵も喜ぶと思います。
あと以前の章で後日書きますなんて書き散らしたみたいで、これで責任はよろしいでしょうか。
すべての悲劇の根っ子にあるのはオッタル大公の私利私欲が原因だね!
◇◆◇
娼婦の昔ばなし(証言)
ある所にダークエルフの小さな国がありました。
大きさは国民が280人しかいないこの星いちの小さな国でした。
ダークエルフの小さな国には美しい王女様がいました。
王女様は風の剣の使い手でした。
風の剣にはテンペストという1人相伝の技がありました。
隣の国に剣を志す若い騎士がおりました。
ある時騎士は王女様に試合を申し込み負けました。
それから彼は雨の日も風の日も弟子入りの願いに王女様に通いました。
根負けして王女様は彼を弟子にしました。
風の剣テンペストは騎士に引き継がれました。
やがて若い二人は愛し会う仲になりました。
二人の幸福な姿は本国の大公様の目に止まりました。
美しい王女様の姿に横恋慕した大公様はダークエルフの国の存続を条件に第4夫人で後宮に入れました。もちろん若い騎士は第2騎士団長昇格です。
しかしその時にはすでに王女のお腹には赤ちゃんがいました。
若い騎士は気が付かなかったのです。
出産は難産でしたが母親の命と引き換えに女の赤ちゃんが生まれました。
大公の長男は粗暴で第4夫人に暴行しようとして過去に第2騎士団長に殴られています。
それから第2騎士団長はギルアのギルマスをしていましたが長男が公国相続すれば粛正は確実です。
女の赤ちゃんは里子に出されて今では女冒険者をやっているとのことです。
ダークエルフの第4夫人はそこで話しを聞いているあなたそっくりです。
ちなみに若い騎士だった男の最後の言葉は亡くなった第4夫人の名前でした。
そう馴染の私の腕の中で言った彼の最後の言葉が”イーダ”なんですよ。
17年前にダークエルフの小さな国は第4夫人が亡くなった時に潰されて全員奴隷に売られました。
元奴隷上がりの娼婦のつまらない昔話しを聞かせてごめんなさいね。
「お母さん」
アベルが見た娼婦ジェーンの頬に1筋の涙の跡がありました。
タマルはただ泣いていました。
霧の名所のイーダ湖はフェン公国の領内カルマ市の傍に今もあります。
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