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#35 オッタル大公のノーム侵攻



異世界の世界が大きく変化しようとしている、火薬による火縄銃が発明されたのだ。


「なに!それは本当か、弾痕を確認したのじゃな。それが真ならこの世界は大きく変化するぞ!」


「ウルク市郊外の森の中から大きな破裂音と人影の去った後の空き地の木立の幹に射入痕があり、情報員がナイフで抉った所この鉛玉を入手いたしました」


「なに!この鉛玉がめり込んでいたとな、これはどのくらいの深さに有ったのじゃ?」


「情報員の証言では1mの幹に40㎝程めり込んでいたとの事です。樹木の種類は不明です。弾痕は焦げた匂いがして黒い粉末も付着していたとの事でした」


「領内ならば樹木を輪切りにして詳細に調べたものを、残念じゃ」


「鉛弾は径15㎜重さ22g程度であろうか、威力は30㎝程度の生木板は貫通すると見た、発射距離はどのくらいなのか知りたいものじゃ、残念じゃ!」


「直径15㎜の鉛弾が30㎝程度の板は貫通する速度で発射されたと仮定すると、距離はどのくらいであったのか、発射する時間はどの程度かかるのか


知りたいものじゃ!数を100とか1000とか揃えて射撃したら、密集する装甲歩兵にどの程度の打撃を与えられるのか是非知りたい事です」


「樹木が焦げたとの事ですが、何らかの薬品で鉛弾に射速を与えたと推測できます、その薬品の成分も知りたいものです。発射体はどんな形状をしていたのか、我が国の技術で再現できるのか疑問は山程わきますぞ」


「情報員がナイフで抉った所この鉛玉を入手したのだな、ならば削った木屑はいかがしたのじゃ?」


「樹木の木屑は全て袋に入れて持ち帰ったとのことです」


「よくやった、その情報員には恩賞を与えよ、その黒い粉末を我が国の科学者達を集めて成分分析させよ」


「は、直ちに手配いたします」


「万一、分析失敗しても悩むことはないぞ、我が軍勢でノーム自治領を占拠してしまえばよいのじゃ」(笑)


「しかし、ウルク大陸での派遣軍は壊滅しており、エビノ軍主力も壊滅しており動員可能兵力はダンジョンエデン監視の5000の部隊しかおりません」


「ウルク大陸に面しておる我国では警備兵は必要じゃ、5000のエデン部隊を呼び戻して、海峡警備にあてて、ノーム自治領侵攻は儂が15000の直轄軍を率いて行うとしよう」


「オッタル大公様直々のご出動とあれば、誰も何も言いますまい」


「宮廷で腰抜け共が査問会を開催する頃には、製造した数百の新式武器を試射して奴らを黙らせて見せようぞ」(笑)



◇◆◇



ダンジョンエデン監視のためにノルデア帝国北部ルツ市に駐屯していたオッタル大公軍5000人のフェン公国帰還の行進が開始された。


迷宮都市ルツ市の城門が大きく開かれて、次々と銀色のフルプレート騎士達の軍馬と装甲歩兵の隊列が延々と行進する。

門脇の軍楽隊が進撃のドラムを打つ!


ドン・ドン・ドン・ドン・ドン・ドン・ドン・ドン・ドン・ドン・ドン・ドン・ドン


40年間以上もダンジョンエデンを監視して魔石や牙・獣革の独占権益を支えていた大公の権力基盤だった軍隊だ。


これからはエデン族アムル人が毒薬たれ流しの魔石採掘の運営に横やりを入れても止める者は誰もいない。

エデン族アムル人自体が魔の森からルツ市に入り込んでも摘発は出来ない。

もう奴隷商人と結託して冒険者を拉致して奴隷にする事が困難になる。

時代は変わろうとしている。


オッタル大公は戦略的一時撤退を選択したのだ。

捲土重来を期して守備範囲を縮小して、時代の転換点となる技術の奪取を目指したのだ。

革新的な軍事技術が手に入れば皇太子派の貴族達の軍勢を一瞬でなぎ倒して見せよう、それまでの辛抱だ!



◇◆◇



フェン公立技術院のアントニー研究員は困惑していた、黒い粉末の成分は2つまでは突き止めた、匂いで硫黄成分と燃焼残留物から木炭微粒子までは突き止めたが主成分が不明だった。


なにか物質を急激に燃焼させる成分だろうことは分かるがなんだろう?

酸系成分かな、また今夜も徹夜で妻のリズはますます不機嫌だぞ!

もう今まで多くの科学物質で試してみたがいまいち不発だった!


同僚たちは帰宅して他の部屋は暗いし、裏口の鍵は誰がするんだよ!


今日は結婚記念日なので日付けが変わる前に帰るぞ。

もう、これで何回目の組み合わせかな?


妻のリズに一言感謝の言葉を掛けたいんだ。

“いつも愛しているよ、心から感謝しているよ”て言いたいのに・・・


硝酸系かな、硝酸ナトリウムか?でも配分比率はどうするのかな?

酸化物で間違いはないんだ。

帰るまえに最後に硝石の粉末を入れて燃焼させてみよう。


アントニー研究員はとりあえず試料の中から木炭粉末と硫黄粉末と硝石の粉末を入れてガラス棒で撹拌して金属板の上に置いた。

置いた粉末に着火した細い木片を近づけてみた。


“シューッ”


やはり、爆発的に白煙を上げて激しく燃焼した、これだ。

硝酸系化学物質が主成分の酸化剤だった。ついに突き止めたぞ!



◇◆◇



オッタル大公はフェン公立技術院のアントニー研究員からの分析レポートを読んでいた。

分析内容に半分満足で半分不満だった。


半分満足部分は直径15㎜重さ22gの鉛弾を生木の幹に40㎝めり込ませた程の貫通力を与えた物質成分は木炭と硫黄と硝石から出来ていると判明したことだ、これを突き止めたこの研究員は失うわけにはいかない24時間防諜員を付ける。

論文発表や国外出張は禁止だ、こんな明晰な頭脳は誰にも渡さん!


不満の一端は木炭と硫黄と硝石との最適比率が確立していないことだ、だがこの部分は人手を増員して試行すれば判明する話だ。それと飛翔体の重量別の最適使用量をリスト化することだ。この部分も解決は出来る。


本当の不満部分とは、発射体はどんな形状をしていたのか、我が国の技術で再現できるのかの点だった。

イメージとしてはクロスボウが浮かぶが一目その火縄銃を見てみたいものじゃ。

やはりノーム自治領に侵攻しよう。


やはり手がかりはノーム自治領のウルク市にしかないか、どの線から追いかけてもウルク市にたどり着く。

アケニア派遣軍が壊滅したことで我が派閥も陰りだしたらしい、帝国での起死回生の一手は火縄銃にありだ。


ノーム自治領のドワーフはたかだか数千人に過ぎない、一人一人拷問にかけてでも鉄砲鍛冶ドワーフを我が前に引きずり出してやろう。


「エリッイン副官はいるか?」

「は!なにか御用でしょうか?」


「エデンから駐屯兵5000人をカルマまで戻して、直轄軍15000人をノーム自治領侵攻までの事前準備にどれだけの時間が掛かるのか?」


「エデンから駐屯兵5000人をカルマまで2500㎞戻すのに70日間掛かります。直轄軍15000人をノーム自治領侵攻までの事前準備に30日間掛かります」


「そうか、直轄軍15000人の事前準備は直ちに開始せよ。ノーム自治領侵攻の作戦発動時期はエデン駐屯兵5000人の領内カルマ市帰還を確認したら直ちに発動せよ!」


「は! エデン駐屯軍は既に帰還途上にあり、あと40日間程でカルマ市に到着予定です。現地で確認次第、ノーム侵攻作戦を発動いたします」



◇◆◇



(40日経過後)


ノーム自治領侵攻軍のオッタル大公直轄軍15000人の軍団編成はフェン騎兵団2000騎と緑色の長弓団2000人、重装歩兵師団8000人、近衛旅団3000人の完全編成の人馬の行列が各種の軍旗と共に延々と何㎞も続いた。


直轄軍の後方からは軍属の荷駄部隊がやはり何㎞も続く。またその後ろからも旅芸人一団や春をひさぐ女性たちが延々と続く。


ノーム自治領に黙々と夜間に越境する15000のオッタル大公直轄軍。自治都市ウルク目指して隣国との国境線のムール川を渡河して、くねくねと曲がる山間の細道を松明を持って縦列行軍する大軍。


いち早く変化の匂いを嗅ぎつけたオッタル大公が軍事技術を独占しようとノーム自治領侵攻を実行した。


山間に行軍する軍馬に騎乗するオッタル大公は不退転の決意をしている。

火縄銃生産の噂を聞き、オッタル大公の政治判断で軍事侵攻を開始した。あの市内に存在する火縄銃は全部俺のものだ。


“賽は投げられた”


軍事侵攻の大義名分は何もないが、帝国での主導権奪還はノーム自治領の火縄銃に掛かっていた。


ザクザクと行軍する黒々とした軍勢がウルク市に近づいて行く。

隣国への武力行使の非難も火縄銃の威力の前に沈黙するだろう!

15㎜鉛弾という物的証拠もある、無いなどという言い訳は聞きたくない。

もし、火縄銃を差し出さなかったら半島のドワーフ達は皆殺しだ!


やがて自治都市ウルク市の灯りがはるか遠くに見えてきた。

この夜の三連星は青白く不吉な光で地上を照らしている。

大虐殺が始まるのか?


ダンカの恋人ウラン(15歳)はまだウルク市内にいるのに。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


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