#33 迷宮都市ゴンゾーの乱闘事件
迷宮都市ゴンゾーは大混乱に陥っていた。帝国貴族ギルマスや元市長のモアボなどが法的根拠は失ったが退去を拒否して不法滞在しているのだ。
前市長のモアボがダンジョンギルアに潜伏するのもタマル・ヌリという少女を通して別の何かに執着しているからだ。
前ギルマスのツェペンが娼館に長残留するのもタマル・ヌリという少女自身にこだわる何かがあるからだが。
前市長のモアボも前ギルマスのツェペンにしても曲者ぞろいですね、彼らにとってもシバが潰れた今おめおめフェン公国にも戻れずに何かに引かれてゴンゾー市にいる所です!
そんな時、迷宮都市ゴンゾーの大通りで奴隷輸送用馬車が転倒して割れた箱の中からダークエルフのタマル・ヌリという少女が助け出された。
先月まで冒険者として弓が得意で気配探知や隠密行動もできるBクラスの仲間だった。
銀色の髪に金色の瞳を持つ尖った耳の小麦色の小柄なダークエルフ美少女でダンジョンギルアで偵察行に行き行方不明になった。
助けた冒険者仲間が言うには、ダンジョンギルアに籠ったモアボ市長一味が冒険中の彼女を拉致監禁して奴隷商人に売り売春宿に輸送中に追跡中の獣人仲間に襲われて助け出したみたいだ。
だから正規の買い取りをした本人も納得の奴隷じゃなく無理やり手錠に付けられた呪文で反抗を封印されて売られる途中だったみたいだ。
このタマル・ヌリという少女も冒険者になり活躍することを夢見ていたはずだ。
はぼ下着姿のダークエルフの美少女が壊れた檻の中に蹲っていた。
首輪から鎖が出で手首足首の穴に通されており、衣服は前開きで袖なしの短い胴衣と白い短いスカートと小麦色の裸足だった。
薬物を飲まされているみたく眼の焦点は合ってなかった。
アベルは思わず天を仰いだ。元市長がこんな非道をしていいのか、いくら追い詰められたからと言って、許されないでしょう。
ダンジョンギルアは異世界でも最大の規模の地下迷路を持っていて、大迷宮スーンに逃げ込めたらナスル大陸にまで規模は及んでおり拘束は不可能だった。
乱闘事件というのは、ゴンゾーの大通りで転倒した奴隷輸送用馬車を挟んで冒険者仲間と市を制圧したばかりのエルフ・ドワーフ側と怒る奴隷商人と雇われたならず者護衛たちが睨み合い大乱闘に発展した事件だ。
アベルはヴェル市長をヤーセン市に届けた後、再度スフィ巫女に宣託があり、今度はドワーフ自治領迷宮都市ゴンゾーまで派遣されてきた次第です。
盗賊化した誘拐犯の元市長モアボは正式に犯罪者として国内手配中だが、元ギルマスのノルン貴族は現在も馴染嬢の部屋での長逗留が続いている。
でも割り切って考えればエルフ・ドワーフ市政新体制に干渉してこない限り、単に1人の外人滞在客として扱えばいいか!
こうしてエルフギルマスとドワーフ市長の新体制はスタートしたが、風俗街に元ギルマスが居座る妙な膠着状況は延々と1年に及んでいる。
◇◆◇
《時は遡り》
巫女に先導されてアベルと仲間が政所から再び控えの間に戻ると、二人の長老が紫の袱紗に包まれた物を重そうに待ってきた。
“緋緋色金”二塊の恩賜の品らしい。
ギルアのエルフ・ドワーフ共同管理案に女王も喜ばれたらしい。
これは秘蔵の希少金属の超レア物だ、国宝級だろう。
伝統の刀鍛冶に、太刀と脇差に打ってもらおう!
聞いたら菊一文字という刀匠がいるそうなのでそのまま依頼した。
袱紗を捲り一目見たが塊は赤く輝き冷たく塊が揺らいで見える。
夜刀姫の二刀流で近接戦用に使用して貰おう!
まだまだギルア戦でも夜刀姫の出番は有りそうだ。
1年後に刀匠から太刀と脇差が無事納品された。
◇◆◇
ここはドワーフ自治領迷宮都市ゴンゾーの料理店“止まり木”であった。
風俗街にある隣の居酒屋からも談笑の声が聞こえる。
ダンジョンギルアから帰った冒険者たちの酒盛りも数多くあるのだ。
予約で取った角のコーナーのテーブルでアベルたちは始めた!
今日の宴会は夜刀姫が菊一文字の太刀と脇差を入手した祝いの宴とミーナの日頃の貢献にも感謝していたので、重ねての酒席を設けた。
煮魚も美味しいと評判の料理店にミーナを招待した訳だ。
夜刀姫は飲めなくとも傍にいてくれるだけで安心できる。ミーナには帝都や島や隠し砦との連絡を頼ってばかりだ、でも今夜は純粋に楽しんで欲しい。
さらに獣人自治区の猫人族代表もミーナに頼んでしまったのでなおさら頭が上がらないよ。
今日の宴会は俺の驕りと言うことでミーナを参加させた。
隣の席のドワーフやエルフたちの宴会続いている!
ダンジョンギルアの地下から取れる黒猪肉、ゴンゾー市前の海から水揚げされる魚貝類そして聖樹国産の果物や濃厚ワインや葡萄などもテーブル上に盛り切れない程ある。
夜刀姫は魔水しか飲まないけれどミーナは酒も魚や肉も食べてくれる。
やはり新鮮な大黒魚の刺身に彼女は興奮していた。
ここは心地よく食べて貰い、空間移転者との提携強化の場面だ。
店長に彼女の注文料理をどんどん注文した。
「にやにやにや~お魚さんだにゃ、本気で食べるにゃ!」
ミーナの言葉にアベルは笑う。
「料理ぐらいでチームワークが強くなるなら安いもんさ!」
心のつながりほど大切なものはない!
鳥肉やソースの旨味を含んだ厚切り肉、海の幸貝柱、貴腐ワイン。
香草の添えられた茹で上がった麺料理、ミーナはよく飲み、よく食べた。
楽しい酒は、適量を覚えるまでには時間がかかる!
“あぅ・・”
ミーナは完璧に酔って潰れている。
でも夜刀姫が傍にいるので安心だよ。
反対側の席にいた中年男が
「少しお話し、いいですか?」
と突然声をかけてきた。
アベルと夜刀姫は、男に敵意が微塵もない事を"気"で感知した。
アベルはこの中年男はどこかで見たなと思った。
「私はツェペン・フォン・ハーベストといいます」
色男の前ギルマスじゃねえか!
「前のギルドマスターですね」
「そうです、アベル・エデン様ですね」
「よくご存じで、情報網が凄いですね」
「いえいえ、アベル様はどのような理由で大公様と争うのですか?」
「他人の国で他人の財を横取りしてそれを言いますかね」
「ですよね、私利私欲はいかんですよ」
「分かってやっていたのなら罪も一層重いかと思いますが」
「宮仕えしていると、手を汚す立場になるんですよ」
「貴方は悪事に加担する人間には見えませんね」
「恩義のある人に頼まれれば、貴方を斬る事もしますよ」
夜刀姫がそっと腰バックに手を入れたのが気配で分かった。
「急がないで、今ではなくいずれその場面になります」
「フェン公国にお帰りにならないんですか?」
「嫌いな奴が跡取りにいましてね、帰れないのです」
「なるほどね、でも次回は俺も容赦しませんよ」
「無論の事です、互いに勝負は全力でやりましょう」
「誰かいるにゃ?」
ミーナが寝ぼけて顔を上げた。
アベルが視線を戻すとツェペンの姿は消えていた・・・
◇◆◇
正統派剣士のレイピアとマンゴーシュ使いで大公家騎士出身の男で名前はツェペン・フォン・ハーベスト(37歳)と名乗った。
この男は夜刀姫が太刀と脇差の二刀流で最初に倒した妙に義理がたい古風な男でした!
前ギルドマスターと名乗っていました風使い男爵の話です。
剣筋が美しくて見惚れたよ、そして残念だった、だが凄腕の剣士で手強くて得意技は“テンペスト”で風纏いの剣技だったよ。
剣のナスル大陸の貴族に相応しい快男児だった!
実は彼には2度しか会ってないんだよね、1度目は宴席で。
最後の出会いは風俗街でのアマル・ヌリ絡みの大立ち回りの
命のやり取りでね。(別編で書きます)
ダニエル・〇レイグみたいに寡黙ないい中年男だった、でも
最後は馴染の相方ジェーンの腕の中で息を引き取った男だよ。
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