#03 ユニークスキル時空間収納庫
アベルの記憶が戻り最初にやったのはステータス画面に表示されていた時空間収納庫スキルの確認だった。
とりあえず独りの時は時空間収納庫の手順と規模と収納対象物そして温度の変化を調べた。
時空間収納庫の利用手順としては、“ステータスオープン”と念じると視界の隅にステータス画面にユニークスキル欄があり、そこに時空間収納庫のアイコンが表示されている。
アベルが時空間収納庫を意識するとその下の空間に多量なマトリックスの表示がされる。
マトリックスは区分された区画であり、それぞれの収納品が種別ごとに多数表示されている。
アベルが特定の物を意識するとその区画が輝き始めてターゲットポインターが出てくる。
取り出すのはターゲットポインターを任意の場所に合わせてクリックすると物が出現される。
マトリックスは多数なので、特定の物を意識すると自動でスクロールして眼前に動き特定区画が輝き始めるので探す手間はない。
輝く品名をクリックするとさらに詳細項目に分かれて表示される。取り出す区画をクリックして開けば取り出す品物や数量を確認してくる。
次に朝方自分の手に待つ暖かいお茶のカップを“収納”と念じると空間収納庫の中にコップが収納される。
夕方にコップをクリックして細目を出す。暖かいコップをクリックして移転を意識すると移転先ターゲットポインターのアイコンが視界に出る。
つまり時空間収納庫の中においては時間が進行せずに、時間停止状態が続いていた。
数日経過しても移転先に机の上にターゲットポインターを重ねて実行を念じると湯気の立つお茶入りカップが机の上に出現した。
この一連の動作を繰り返し練習して素早く収納と展開を出来るようにしたい。
収納されたお湯の温度に変化はなく取り出しても暖かい状態だった。
これなら出発前に街で調理済の暖かい料理を多数収納しておけば旅先での野営時の食事に大変便利だ。
後は植物と植木鉢は入ったが生きている昆虫は入らなかった。
死んだ昆虫は入った。
砂や水は入れる時と出す時に容積と範囲指定を求められた。
時空間収納庫の容積に規制はなく無限に入った。
種類も制限はなかった。ただ同一の物は同一の枠に入った。鉄鉱石、黄銅鉱石、砂、水等々。
樹木は樹種ごとの区分で収納された。魔物の死体も同種族ごとに数字で表示された。
種族ごとの表示をクリックすると、その種族の詳細な分類が表示される。
収納方法は手で触る状態かアイコンで範囲指定するかで収納された。
展開するときは場所の範囲指定をターゲットポインターで指定すればその位置指定で出現した。
野営時には排水溝を掘ってからテントの設置範囲を指定すれば大型テントが出現した。
容器に温水を入れれば出す時も暖かいままだった。
これは使える、寝る時の湯たんぽや馬車の中の足元に置けば冬場でも暖かく過ごせる。
冬場の氷柱を夏場に冷房で使えるはず。
アベルの少年時代は両親に空間魔法が公認されていたので自宅と狩場との行き返りで、時間の許す限りで様々な物を時空間収納庫に出し入れ訓練を重ねていった。
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他人の目の前で時空間収納庫の出し入れは目を付けられるのでなるべく使いたくない。
派生スキルで習得したのが小物入れの魔法袋作成スキルだった。外見はウェストポ-チ程度の大きさで水袋や小銭袋・薬瓶・身分証明書くらいの小物は入れられる。
大きな背負い子がないのは搬送・戦闘で動きやすい。また町の出入りでは証明書の提示も求められる。
この素材はこの大森林の群生地の空跳びウサギで、家族や仲間の分も大量に作成して保存しておこう!
アベルは雨の日などの室内作業日に、村の雑貨屋で革ベルトを買い込みそこに空間移転で有名な空跳びウサギの毛皮で作成した蓋つき皮袋を付けてみた。
アベルは皮袋の中に手を入れて頭の中で“幅10m・奥行10m・高さ10m”の魔法袋作成をイメージして体の中の魔力を流し込んでみた。
手から魔力が抜け出る感覚がして皮袋が微かに発光した。
改めて皮袋を手に取ってみると、頭の中にこの皮袋の収納できる四角立方体の容積が浮かんだ。
半透明のボードも表示されて、現在この皮袋にはなにも収納されてないことが空欄で示されている。
空間魔法に馴染みやすい空跳びウサギの毛皮で10㎥容積の腰バック魔法袋が96個程完成した!
よし、これからは空跳びウサギを獲れればこの袋を造ろう。
空跳びウサギの毛皮の色は白・茶・黒の3色だけだった。
ベルトは交換できるので女性は独自工夫したベルトで楽しんでほしい。
もちろん空跳びウサギは人が近づくと空間移転で逃げるので、普通の人には捕まえられないが前世の知識のあるアベルには楽な作業であった。
ウサギの好物は牧草や野菜であり、食べさせては危険な物も分かっている。
特定生息域が判れば何十キロという毒混合草の山を前日に撒いて次の日に回収するだけの簡単な狩りだ。
空跳びウサギの毛皮はもともと空間魔法に馴染むが、収納機能は自身の体積程度で大きくない。
手造りの腰バックなので蓋つき小型箱状で裏面にベルト通しがあり、重量無視で10㎥相当の小さなコンテナ並みの荷物を腰バック1個の中に収納できるメリットは大きい。
最初の腰バックの小物入れを猟師の父親エディには保護色の茶色で、母親フラウには女性向けの白色で、長男のカインには力強い黒色でそれぞれにプレゼントしたら猟に料理に便利だと大変喜ばれた。
やはりテントや猟の道具とか水・食料・獲物の肉や皮・牙搬送と考えると重量・体積無視の貴重アイテムなのだろう。
手造りの腰バックを3色合計で96個ほど作成して現在92個残りがあり、現在は時空間収納庫に入れてある。
配布先の予定だが当面アベルの仲間限定でいいと考えている。
帝都で生活費用に困ればオークションにかけてもいいとは思っているが気はすすまない。
神様からアベルに与えられた空間魔法は荷物を持って移動するのには超便利なスキルだ。
しかしスキルの目的外のことに使おうとすると不便な制約が出てくる。
想定外の使用はさせないという神様の意志が感じられるのだ。
アベルはやはり創世神ヤーヌスの意図したフェアな生き方を目指そうと心に誓った。
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