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#27 兎少女ミミィの涙



 《時は遡り、まだ隠し砦に子供たちが身を寄せていた時の話です》


 ここは元クマリ王国北部のシラノ山脈の裾野に広がるナバリの大森林のなかだ。


 朝になってジェドはベットから起きた。ナバリの大森林は薄明りに染まっている。

 今から遠出で恒例のエビノ派遣軍野営地を巡回偵察する。


 ジェドは素早く黒のインナーの上に胸の軽鎧を付けた。ミーナとお揃いだ。

 柔らかい皮の靴を履いて、腰に剣帯を締め、左手甲兼用の丸盾を付ける。


 左腰の黒ダガーを触り、右腰の錐刀を確認する。腰バックを付ける。

 最近ミーナから渡された優れものだ10㎥も入る魔法袋だ。

 腰バックの中で、今保管中は半弓矢と棒手裏剣と目潰しだ。

 最後に硬革の帽子を被り、柔皮の手袋をする。準備完了だ。


 意識は野営の見張りを考えながら、手は一連の確認動作で無意識に動く。

 固有スキルでは広範囲の索敵感知と毒性耐性スキルがある。


 夜目は見える。普通のスキルでは気配遮断・同化迷彩・忍び足がある。


 防毒のバンダナを首に巻いてからジェドは砦の扉を開けて足を踏み出した。


 ジェドが草原で無心に草花を摘む最近入ってきたミミィーを見ていると、心が休まる思いがする。

 年下の幼児にも気配りの出来る優しいい良い子だよ。

 ジェドを見て満面の笑顔を見せてくれるミミィーに微笑む。


 こんな裏稼業の俺だが、この子達の生活に役立つ事が嬉しい。

 常時、見守ることはできないから巡回して安全を高めるんだ!


 でも何時までこの戦いは続くのか・・・

 ジェドの黒い影が樹木の間にスーと消えると、


 入れ替わりに草原に麦わら帽子を被ったエルフの少女が草原に入ってきた、マントを着て手に移植こてを持ち籠を持った少女が何かを探している。


 他所から来てまだこの周辺の危険性を体験してない子供だ。


 気になる箇所を手に持つ移植こてで地面を掘り返している。



 ◇◆◇



足元の野菊を踏みつけて足でねじりニャリと薄笑いして、無頼な軍兵は気に入った兎少女に近づいた。

突然のことで少女は恐怖で怯えていて動けない、野獣は己の欲望に身を任せて手を伸ばして兎少女の肩を捕まえた!


 昼近くにミミィが連れ込まれた草原の小屋からやや遠い林の中でスフィが山椒の幼木を見つけて慎重に移植こてを使っていた。


 すると遠くから幼い女の子の悲鳴が聞こえてきた。

 麦わら帽子のスフィは山椒の低木群からひょこと覗いた。


 膝が震えて怖いです~けれども泣いている女の子がいるの。


 痛いって!・・ 山椒さん棘で服を引っ張ってはダメよ!


 私助けに行かなくっちゃ・・でも大人の人だったら怖いです。

 スフィには何の力もないけど人に知らせることはできる!

 そう決心するとスフィは腰を屈めて小屋に忍び寄って行った。


 泣いている子は見捨てないわ・・・


 小屋の閉じた窓の隙間から覗くと、エビノ軍の赤い鎧を着た髭面の兵隊2人が笑いながら白兎少女ミミィを抱きしめて腰を動かしている。

 ミミィちゃんの泣き叫ぶ声が掠れてきてグッタリしている。

 本当にやめてあげて・・・


 周囲に佇む若い男達もニヤニヤ笑うだけで止めようとしない。

 ジェドさんに止めてもらおう、今すぐに知らせに行かなくちゃ。


 すると「お前も可愛がってやから、来い!」


 振り返ると同じ赤い鎧を着た若い男が手を伸ばしてきた。


「キャーッ!」と思わず叫んで、


 スフィは相手の股の間を潜り抜けて砦の方角に駆け出した。

 その時に大好きな麦わら帽子が空に跳んでいった。

 争う力のない自分が悔しくて涙が溢れてくる。

 草原の中をぴょんぴょんと緑の髪が飛び跳ねながら、駆ける。


 途中の草原に顔出したジェドさんを見つけて懸命に駆けた。

 小柄なエルフ少女がジェドに飛び着いた。


 「スフィちゃんどうしたの?」

 「ミミィーちゃんが大変なの!助けて欲しいの」


 「赤い鎧来た大人の人がミミィーちゃんに乱暴しているの!助けて欲しいの」


 「くそ、場所はどこだ?」


 「一緒に来て欲しいの!こっちの小屋なの」


 (エビノ軍兵たちが兎少女ミミィーに乱暴してるのか)


 ジェドの頭で怒りが煮えたぎった。


(なに考えてやがる、下種野郎たちが)


 とにかく急ごう、まともに戦える男は俺しかいないのだ!

 ジェドはスフィに導かれて森の中に木こりたちの小屋を見つけた。


 「スフィはここにいて、ミミィーが逃げてきたら守ってね」


 「分かった」


(昼間に軍兵とやり合うのは不利だな、数を削がないと)


(たいていこんなことするクズたちは群れて動くんだ)


 ジェドは気配遮断で草叢を伝い忍び足で小屋から20mに接近した、やはり見張りの若い兵が立哨していた。


 ジェドは草叢に伏せてバックから半弓を取り出して矢をつがえた。

 

怒りは胸に、だが頭は冷静にと自分に言い聞かせた。

 深呼吸してから男の左胸に矢を放った。


 “ヒューッ”


 男は糸の切れた人形みたいに声も立てずに崩れ落ちた。

(まず1人か、全体で何人いるのかな)


 小屋の後ろ側からまた一人若い軍兵が歩いて来た。

 この男は胴に鎧を着けていた。

 ジェドは男の喉に矢を放った。


 “ヒューッ”


 “ゲェッ!”


 まずいな少し悲鳴が出たか。

 これで2人か日中は動きにくいな。


(接近しよう)


 近づくと小屋の裏側に出入口があり、さらに1人の見張りがいた。

 角からだと7mか充分だ、半弓と棒手裏剣3本と交換した。

 目は相手から離さずに。


 左手に2本右手に1本を持ち半身で小屋の角で右手を上段に構えた。

 狙ってから半歩前に出て、そのまま相手の左胸に打ち込む。


 “ドスッ”


 “ウッ!”


 3人目が地面に崩れた。

 小屋の外部にはもう敵兵の気配はいない、木壁に耳を付ける。


 物音から中にいるのはあと2人だと判明した。

 曳き戸だ、下の溝に水筒から水を注ぐ、戸を浮かし気味に引く。


 戸を30㎝ほど音もなく開ける、左右の手に1本ずつ棒手裏剣を握る。

 蛇の様にするりと中に入る、首を持ちあげると中は静かだ。

 伏せる少女のすすり泣きだけがかぼそく途切れずに続く。


 お前ら分かっているな、今から行くところは冥土だぞ!

 この世界はどんな神様がいるか知らんがな。

 薄笑いしてこちら向いたエビノ軍兵の右眼に棒手裏剣を撃ち込んだ。


 “ギャ~ッ”


 驚き振り向いた男が大きく開けた口の奥にそのまま打ち込んだ!


 “ゲェッ”


 項から棒手裏剣の先端をはやして白目で仰向けに倒れた。

 5人か、小悪党がつるむ数なら手頃だな。


 ジェドは腰バックに手を入れて体を覆う雨衣ポンチョを出してミミィーに近づいた。


 ミミィーは雨衣ポンチョを手に持つジェドにも顔を強ばらせて後退りした。


 こんな経験しては無理ないよな!

 スフィに合図しよう。

 男たちの痙攣している死体は隅に寄せた。

 ジェドは小屋の外に出て、手を大きく振り叫んだ。


 「スフィ、中は片ずけたから手伝いにきて!」


 そのまま小屋の周囲を廻り3人の死体をくぼ地に引きずり込んだ。


(少女の心に心的外傷なんか植え付けやがって、くっそが!)


 無論、隠し砦の子供達全員のエビノ軍兵への印象は最悪になった。


 ジェドの決意が固まった、ここを撤退しよう。

 ここの場所では、子供たちの健全な育成は不可能だ。


 1人で常に警戒しても、子供たち全員を守り切れない。

 でもジェドはミミィーを含めて最後まで守る決意は揺るがない。

 スフィは今回の事件で麦わら帽子を失くしたとションボリしてます。



 ◇◆◇



 今回の事件の被害者兎人ミミィー の生い立ちとステータス紹介です。


 ミミィー・モーリィ はアン・モーリィ の妹です。


 侍女アンはアイラ王女脱出を手伝い処刑されています。

 侍女アンについて行った時、ミミィーは王宮でアイラ王女とお話をして仲良しの仲になりました。


 ジェドの怒りの反撃がエビノ軍兵に炸裂して、今回の魔王島への子供の村移転に至ったのです。

 未来の話ですが、魔王島ヘテ村にミミィー・モーリィという名の兎の村長がいて特に子供達に優しい村の運営をしたそうです。


【ミミィー・モーリィの紹介】


 名前    ミミィー・モーリィ

 年齢・性別    8歳・女性

 種族   兎人族(白兎)

 職業 ・ランク 村人・(F級)

【鑑定石ではここまで表示される】


 固有スキル: 嗅覚・癒し

 スキル:   生活魔法1(火属性・水属性・風属性・土属性)

 派生スキル: 心の癒し





 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


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