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#25 空飛ぶクジラでおもてなし



 遺跡の見える北高地の山裾に奥行200mで横幅50m縦50mの洞窟格納庫がある。

 現在、アベルは格納庫の中で完了検査をしている。


 青白い照明に照らし出された硬式飛行船は立面図・平面図・にそっくりな完成した姿で係留されている。


 銀色の船体には黒ルーン文字で“空飛ぶクジラ”と表記してある。


 あとは要求諸元の性能が公試で同乗して確認出来れば第一回公開試験は終了になる。


(要求諸元)

 全長75.1m、全幅19.7m、全高17.5m、ゴンドラ長10.7m

 幅5.0m、定数12席(操縦手2名・同乗10名)

容積8425㎥ヘリウムガス、魔導可変エンジン3基、最大

高度2250m,巡航高度300~600m、最大航続距離10000㎞、

最大飛行速度125㎞/h、搭載荷量1900㎏、

重量1000㎏船体三角トラスモノコック構造、3層皮アル

クラッド材、ジョイスティック操縦


 フライバイワイヤー線材、船体気嚢分離硬式、ヘリウム

ガス封入、アベルも公試で同乗して完了確認をすること

になった。


 第一回公試は魔王島一周飛行とする。

 操縦者としてジュラルミン製の操縦ゴーレムが製造されていた。


 専従操縦者として飛行時間を稼げば何千時間のベテランに直ぐにもなれそうだ。


 アベルからは5個所の地域開発場所と魔王城に離着陸訓練を兼ねて飛行して欲しいと注文した。


 同乗者には最初に夜刀姫が乗り込んだ。

 あとはミーナが訳知り顔で乗り込んだ。

 最後に技術工が1体同乗した。

 以上5名が確認者となった。


 最初に子供村の建設現場に飛んだ、空から降りてきた飛行船に子供達は大喜びして乗せて乗せての大合唱になったが後日必ず乗せる約束で騒ぎはおさまった。


 子供村の責任者になったミーナに聞くと、やはり放置していた畑の開墾で岩石が多量に出たので隅に寄せてあるそうだ。


 見せて貰ったら、たしかに高地からの渓流岸に寄せられていた大岩は24個あったので時空間収納庫に収納しておいた。


 二番目に行ったのは子供村に近い魔王城入り口であった。


 アベルは地下3階の鏡の間に入り鏡に向かい合った。

 すぐに白い兎人“M“が鏡に映った。


 「おや、偽王さん何か急用ですか?」


 「飛行船自体は順調で感謝いたします。本日は技術工1体と建築工2体のナデシュ半島への派遣についてのお願いにきました」


 「力の分散は好ましくありませんが、事情を話して下さい」

 「飛行船が完成すれば、イシ港難民の救出に帆船と飛行船が使用されますので行きの空船に技術工1体と建築工2体を積載してよいかと打診に来ました」


 「行きの空船利用の話ですか、力の分散は全体の工事の遅れを招き好ましくありませんが、半島と島の開発話はあった事ですね」


 「行きの帆船利用よりも、機能の問題で専用の揚陸艇の建造を考えていたのですが時期を早めましょう」


 「ビーチング接岸方式の揚陸艇ですね、前部の接岸部と開放式本体と後部の機関部ですか、構造が簡単だから量産が可能ですね。イシ港難民の救出にも使用できますね」


 「ビーチング接岸方式の揚陸艇の立面図と平面図なら明日にもここに図面をお持ちしましょう」


 「いや、既に造船所の技術工は現地に居りますので、直接図面は渡してください」


 「分かりました、図面は直接造船所に持ち込みます。技術工1体と建築工2体派遣は揚陸艇完成後に同艇で輸送するべきとの見解ですね」


 「そうです、極秘扱いのゴーレムをあまり一般人の目に触れさせたくないので」

 「了解しました!では私は公試に行ってきます」


 三番目に行ったのは北の石灰山だが掘り出された大岩はなかった。


 四番目に行ったのは南左岸の温泉地で大岩自体が奇岩として風景になっていたので放置した。


 五番目の南の製材工場の村では大岩は街造りで48個も掘り出されていたこれは即収納したら場所が広がったと喜ばれた。


 六番目の造船所の工廠造りの開発では乾ドック掘りで27個もの大岩が出ていたのでやはり収納させて頂いた。


 造船所の技術工にも急ぎの揚陸艇依頼の話をしたら仕事が出来たと期待している雰囲気だった。


 岩石の収集では24+48+27=99個の10t級大岩が収納出来きた。


 「そんなに大岩ばかり集めて堤防でも作るにゃ?」


 「今度、ナドウさんにプレゼントしようかと考えてね」


 「降りて手渡すにゃ?」


 「いや、城の上空2000mから自然落下です」


 「ナドウの暗殺計画かにゃ?」

 「いや、おもてなしの精神で贈り物をするだけですから」


 「ブッ、アベルの腹も相当にブラックやね」

 「いや、アイラ様なら自分がやりたいと泣くと思う」


 ま、とにかく第一回公試自体は無事完了した。



 ◇◆◇



 初号機が実際に要求性能を満たしているのが確認できたので400t帆船と時間を合わせてイシ港難民の収容に出発することになった。


 相手に気づかれる前に収容して帰り際に贈り物をしてあげる。


 救出作戦を妨害するならエビノ駐屯地爆撃をする、妨害がないならナドウ新王城に岩石全部プレゼントだ。

 操縦ゴーレムに帰路にナドウ城上空停止を指示した。


 イシ港到着時間は早朝がいいか、複数回決行しないと全員救助は困難と思われる。

 今回は帆船のイシ港到着に合わせる様に飛行船は離陸しよう。


 水平飛行しながらの投下位置表示照準器も欲しい。

 すぐにヘテ村長のアリスさんとも村で相談した。

 応諾して今夜中に出航するそうだ。


 アベルは時空間収納庫に備蓄している水樽、非常食も提供した。


 飛行船は5日後に離陸すれば同時イシ港到着になる。

 これで難民への避難説明もアベル側ができる。


 アベルは飛行船公試の夜に自室で上陸揚陸艇全長15m、全幅4.3m、吃水1.0mの52t型で要求性能は物質30t兵員60名輸送力と速力8㏏と船首渡し板とオープンデッキの平船底型を立面図・平面図に落とし込み書き上げて、翌早朝に造船所技術工ゴーレムに手渡した。


 その日、商館の会議室で今回の救出作戦が議題となった。


 「すでにヘテ村の帆船はクマリ難民救出作戦を開始しております。我らの飛行船も完成しており、出動するべきと考えます」


 「いや遅い、遅すぎるのだ、アベルよ本気で半島侵攻を考えているのか存念を聞きたい」


 「エビノ荘園内隠し砦ではダンカ殿が小銃と大砲の増産体勢に入っています。さらに揚陸艇も生産に入りましたので、完成したらゴーレムも輸送できるので地下工場も着工できる体制になります。地下工場対策は確かに遅すぎました、ごめんなさい」


 「ウルク大陸にはいかなる手を打っていますか?」


 「残念ながら飛行船は昨日完成したもので、まずはナデシュ半島を掌握の後に移転石利用でダンジョンシバとダンジョンギルアに侵入工作しようと考えていました」


 「それでは遅すぎます、私をダンジョンシバに行かせてくれれば、魔族の敵アケニア騎士団を城ごと焼き払って見せます」


 「スーよ、ダンジョンシバに行く決意は本気ですか?」


 「はい、私の家は代々ダンジョンシバでアムル人と共同管理人をしていました。オッタルJ団長には積年の恨みがあります。王女様には短い間でしたが良くしてもらい感謝しかありませんが行かせて欲しい」


(戦力ダウンになるが、家代々の恨みでは俺の事情と同じだ)


 「遅いですか、それならクマリ難民救出作戦の時期を早めて本日は往復の料理確保後、明朝飛行船でエビノ駐屯地爆撃に50、ナドウ新王城に49の岩石爆撃に出発いたしましょう」


 アイラ様以下クマリ爆撃に全員大賛成で、むしろアベルの弱腰と反攻作戦の遅れを問題視した。


 「飛行船の中からアイラ様が魔導拡声器を使用してのクマリ王国の臣民への励ましをお願いしたいのですが」


 「承知した。飛行船で共に行こうぞ、アベルよ皆は本心からナドウの暴虐に怒り口調が強くなっているのじゃ」


 「分かっております、ナドウの逆心とそれを利用したオッタル大公の強欲がこの悲劇の原因ということは」



 ◇◆◇



 新造の飛行船は3000㎞程度の距離ならば風が順調ならば24時間でイシ港に到達する。

 アベルは翌早朝にアイラ様と側近2名と夜刀姫を乗せて飛行船でイシ港目指して離陸した。


 飛行船操縦者には前回指示の訂正を話した。

 復路でエビノ駐屯地とナドウ新城の上空滞空を指示した。


 アイラ様と側近2名には往復2日間の長丁場になるので体を休めるように話したが、上空からの風景に興奮して話しを聞いて貰えなかった。


 アベルは飛行船の座席で昨夜の疲れもあり仮眠を取った。

 寝ていたか、体をゆすられて


 「アベルさん夕食はいかがでしょうか?」

 「ありがとう頂きます、スーさんはダンジョンシバに行きたいのですか?」


 「はい、この難民引き取りが終われば行きたいと考えています」


 「そうですか、アイラ様のご許可さえ出ればダンジョンシバまで手荷物と共に飛行船で送れるはずです」


 「ありがとう、期待して待っています」


 「あのう、おトイレはどこでしょうか?」

 「最後尾に個室があり鍵も掛かるようになってます」


 「ありがとう」


 「いや、説明もせずに寝てしまい申し訳ありません」


 「トイレや手洗い水の排水は空中拡散です」


新造とはいえ、まだまだ生活用品がたりてない参考になった。


女性向けの化粧コーナーも必要だな、冷蔵庫もいいかも。

やがて朝日で水平線上の雲が輝きだした頃に陸地が見えて来た。


 「ナデシュ半島です」


 陸地が半島の先端部分とわかりだんだんと岬と入り江が見えてきた。


 「イシ港です。左に広がるのがイシ河口です」


 「避難民は大部分がイシ河口に小屋を造り生活しているわ」

 「降りていきましょう、河口だから空地を選べるわ」


 早朝だがアベルは操縦者Aに着陸指示を出した。

 着陸場所は砂地ではなくしっかりとした地面で広場風の場所だった。


 操縦者Aがキャビンの楕円形ドアを開けて梯子を地面に降ろした。

 操縦席に操縦者Aが残り、アイラ様とスー、テラ、アベル、夜刀姫が地面に降りた。


 避難民たちは巨大な銀色に輝き風に揺れる物体をただ遠巻きにして無言で見ていた。


 「誰か責任者の方はいませんか?私はクマリ王家のアイラ王女です」


 すると人達の前にいた老人が話した。


 「おお、たしかに以前見たアイラ王女様に違いないです。これはまたなんのご用事でしょうか?」


 「私たちはナドウの魔の手から逃げてある島を開拓しました、皆さんも私たちと共に島の開拓をしませんか?」


人垣の中から青年が出てきた。


 「たしかにアイラ王女様ですか、しかし今日明日の食事に困る大勢の私たちを全員引き取れるのですか?」


 「あと3日もすれば迎えの帆船がここに来るのです、待てませんか共に島を開拓しましょう」


 「だからどうやってこんな大勢の人達を3日間も食わせていくんだい、まったく貴族の連中は脳天気だよ」


 「テラ、スー」


(いかんスーの掌に魔力が集まりだしたぞ、死にたいのかあの男は!)


 「あ、俺の収納庫に未整理の獲物があるのをすっかり忘れてたので皆さんで処分してください」


 アベルが取り出した魔物はオーガ15,オーク30、サーベルタイガー17、ブラックピューマ8、ビッグボア23、サラマンダードック5、ビッククラブ13、ブルーマンテス6、レッドウルフ53、ブラックボア18、トロール3等が広場の地面に並べられた。


 魔物はいずれも時間経過してなく今倒した状態であった。

 少し夜刀姫が嬉しそうだった。

 続いてアベルが取り出した物は大量の伐採された樹木であった。


 「この中に両親を亡くした身寄りのない子供たちはいませんか私たちが子供の村造りをしてますので一緒にいきましょうね。あと3日もすれば迎えの帆船が来るので大人の方たちは、船で来てください」


 すると大人たちに付き添われた幼児や子供たちが10人ほど前に押し出されてきた。


 ここは神官テラの出番ですね、幼児を抱き上げてほほ笑んだ。

 テラのスキルで一瞬慈母のオーラが、癒しの空間が周囲に広がる。


 テラに手をつながれた女の子が安心してゴンドラのステップを登りキャビンに消えた。

その他の子供たちも客室に入った。

 クマリ難民の大人たちは口をあけたままぼんやりとしている。


 さあ、復路の開始だ、ナドウ新王にすてきなプレゼントがあるのだ。


 再び“空飛ぶクジラ号”は大空に舞い上がった。

希望を胸に抱いて復讐の怒りを手に持って上空から訪れる。

 飛行船の高度が1000mまで上がった、


 「この中でエビノ軍の駐屯地の分かる子供はいませんか?」


 「あの黄色の畑の中の四角い茶色の地面がそうだよ」


(四角い茶色の地面の中に兵舎がたくさん見えますね。)

 「ありがとね」


 アベルが操縦者Aを見ると今の位置が目標上空だと肯いた。

 アベルは収納された大岩の位置指定をした。

 相対位置指定[(-10m・+10m),(“岩石”,“50”)]=「設定」,連続実行


 アベルは“実行”を念じた。

 空中に突然現れた大岩が点々と連担して落ちていく、気流で船が流れて揺れる。


 しばらくすると地表から100mほどの土煙が立ち上がってくる。

 遅れて“ヅ~ン”と腹に響く音がする。反響する轟音だ。


 ヅ~ン・ヅ~ン・ヅ~ン・ヅ~ン・ヅ~ン・ヅ~ン・ヅ~ン・ヅ~ン

 ヅ~ン・ヅ~ン・ヅ~ン・ヅ~ン・ヅ~ン・ヅ~ン・ヅ~ン・ヅ~ン

 ヅ~ン・ヅ~ン・ヅ~ン・ヅ~ン・ヅ~ン・ヅ~ン・ヅ~ン・ヅ~ン

 ヅ~ン・ヅ~ン・ヅ~ン・ヅ~ン・ヅ~ン・ヅ~ン・ヅ~ン・ヅ~ン

 ヅ~ン・ヅ~ン・ヅ~ン・ヅ~ン・ヅ~ン・ヅ~ン・ヅ~ン・ヅ~ン


 風で土煙が流されると地表は巨大クレーターで覆われていた。

 兵舎なんてどこにも見えない・・・

 パンドラの蓋を開けてしまった!


 ナドウ新王城では2000m上空から投下にして音は聞きたくない。


 兵舎にいたエビノ軍兵は土煙とともにこの世から消えたんだ。


 アベルは操縦者Aに手信号で2000m上空にと送った。

 やがて飛行船は上昇を始めたが、客室の中では誰も無言だった。


 神官テラはただ慈愛の祈りを続けている。


 やがて飛行船の下には小さく城郭と館群が見えてきた。

 アベルは操縦者Aを見ていたらアベルを見て肯いた。

 アベルはアイラ様を振り返って目を見て判断を仰いだ。


 アイラ様の顔は蒼白だったが、しっかりとアベルを睨んで肯いた。


 アベルは収納された大岩の位置指定をした。

 相対位置指定[(-10m・+10m),(“岩石”,“49”)]=「設定」連続実行

 

 アベルは再び“実行”を念じた。

 再び、大岩が現れて点々と連担して落ちていく、既視感がある。

 しばらくすると下から灰色の煙が立ち登ってきた。

 遅れて“ズ~ン”と腹に響く音がする。反響する轟音だ。


 ズ~ン・ズ~ン・ズ~ン・ズ~ン・ズ~ン・ズ~ン・ズ~ン・ズ~ン

 ズ~ン・ズ~ン・ズ~ン・ズ~ン・ズ~ン・ズ~ン・ズ~ン・ズ~ン

 ズ~ン・ズ~ン・ズ~ン・ズ~ン・ズ~ン・ズ~ン・ズ~ン・ズ~ン

 ズ~ン・ズ~ン・ズ~ン・ズ~ン・ズ~ン・ズ~ン・ズ~ン・ズ~ン

 ズ~ン・ズ~ン・ズ~ン・ズ~ン・ズ~ン・ズ~ン・ズ~ン


 風で砂埃が流されると地表は瓦礫の山で覆われていた。

 城郭や館群も大半が外壁だけになっていた。

 アベルは飛行船を使うことで時代を変えてしまった自覚はある。


 テラやスーが幼児や子供たちになにか話して注意を逸らしている。


 死の影は後方だろうが忍び寄り突然の死に誘う。


 安全な場所はもうどこにもありません、むしろ力のない後方の人から死にます。

 民間人だから死なないことはない、テロの時代に入ってしまった。


 アベルは操縦者Aに手信号で魔王島に戻るようにと送った。


 この飛行船での戦いで感じたこと、まだ漠然としてるが何かの時代が終わった。





 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


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