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#23 コブリン殲滅作戦



 ここは元クマリ王国北部のシラノ山脈の裾野に広がるナバリの大森林のなかだ。

 今はエビノ伯爵に譲渡された地域になるナバリの大森林のなかで、14歳のジェドは200匹のコブリンの群れに追われて罠を設置してある窪地に向けて走っている。


(いきなりオトリ役ですか?ミーナはきびしいな・・・惚れた弱みか)


(ミーナは時々空間移転で不意に帰ってきてジェドにとんでもない仕事を頼む。俺も魔王島に行ってみたいな!)


 やがて大森林の窪地にミーナが仕掛けた白い霧が湧き出し始めている様子が見えた。

 白い霧は地面を這うように漂いだしている。その霧に隠れて窪地に片足だけ入る土罠の穴が無数に開いている。


 コブリンの群れが突入して転倒したら叫ぶその口から麻痺毒の霧を吸い込む惨劇の開始だ。

 ジェドは湿った布で口を覆ってから、白札の立ち並ぶ曲がり路に沿って白い霧がまだ膝下ぐらいの中を斜めに曲がりながら草原を突っ切った。


 霧を出て離れた所に白い布で口を覆う白猫ミーナの影がにじみ出した。


 「雑魚たちの後ろからロードが来るから伏せて吹矢を頼む」


 「了解」


 そのままミーナは離れた草叢の中に身を潜らせ、草の茎の中に細長い木の端が少し出た。


 ズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシン

「「「「「「「「「「ウギャ~~~~・・・ゲェ~ゲェ~ゲェ~~~~」」」」」」」」」」」」」」


 直ぐにコブリンの群れの転倒音が響き、多くの悲鳴と吸い込んだ毒霧が効き嘔吐と胸をかきむしる唸り声が聞こえた。

 やがて白い霧の中から大柄なコブリンロードが顔を赤黒く怒りに染めて出てきた。

 大柄で毒霧を吸わなかったのか。両手で厚手のブロードソードを下段に持ち、全身は黒マントと革鎧で固めている。


 2m級大柄コブリンロードと黒猫ジェドの間の距離は50mに縮んだ。

 ジェドは右手にダマスカス鋼の黒ダガーを持ち、左手に鉄の円盾を相手に向けて掲げた。


「ほう、黒のダガーとはめずらしい!貴様を殺したら頂こう」


 赤黒く怒りのオーラを身にまとったコブリンロードが摺足で近ずいて来た。

 間合いに入りコブリンロードが両手でブロードソードを上段に振りかぶった瞬間、“シュ”とかすかな空気の擦過音がしてコブリンロードの左籠手から外れた二の腕の素肌に小さな黒い吹矢が突き刺さっていた。


「チッ!チッ!・・・」


 コブリンロードの苛立つ舌打ち連打音が聞こえた。

 そのままコブリンロードの姿勢は固まっており、やがて上半身がふらつき膝が崩れて転倒した。

 コブリンロードは嘔吐を始めて、やがて全身の筋肉が弛緩し身体が伸びた。


(これで買い取り値が金貨1枚10万ギルか、では証拠部位を取ろう。)


 コブリンロードの死体から使える装備と武器を取り上げて、胸の魔石を抉り取り両耳を切り取った。

いくら耐性があるといっても毒霧は吸わないほうが良い。

 二人は風魔法で毒霧を飛ばしてから、窪地でまだ倒れてもがいているコブリン達の胸を剣先でサクリサクリと抉り小さな魔石を多量に得た。


 やがて遠くに山犬の群れの気配が感知されたので、隠し砦目指して二人は袋を担いで駆け出した。

 目指す隠し砦は、亡クマリ王室が万一の避難先として密やかに暗部が中心となり整備を進めていた施設だったが、今回の謀反では使われることはなかった。


 ジェドやミーナが王都クマリ市に放置されている旧遺臣の遺児たちを手の届く限り集めてここまで引率してきたところだ。


 今も隠し砦周辺に群がる残りのコブリン達を始末すれば二人が計画した旧クマリ王国の遺臣の孤児達を集めた子供村が実現する。


 この廃砦はいまはエビノ伯爵が武力侵攻している北部クマリ王国領に所在するが、元々クマリ王族の一時避難場所として整備を進めて来たものであり、街道から廃砦の石壁は屋敷林の様な樹木群に覆われて 見えなくなっている。


 元々避暑地として堀付の離宮として昔に建てられた小規模の建物で、今は放棄されて全体が樹木に覆われている。

 再整備の過程で周辺の森林伐採の話も出ていたが工事の前に王家自体が謀反人の前に滅んだというわけだ。


 現在も建てられた砦の建物は崩れていないし、中庭に井戸も小屋も整備してあるし、窓と扉を整備すれば居住可能だ、また広い中庭も野菜畑に開墾できるはずだった。


 今はなぜか中庭は向日葵の群生地になっている。

 周辺のコブリン村殲滅作戦で安全を確保すれば、子供村として充分に活用できるはずだ。


「ギャァ-~~~」小さなコブリン達の悲鳴が続く。


 ミーナは耳を塞いだ、子供好きなミーナには辛い声だ。

 コブリンの巣は赤ん坊まで皆殺しにしないと繁殖力が強く、人の女子たちが被害にあうからだ。

 ゾンビ化防止でコブリン達の死骸は丘のふもとの草原に穴を掘り埋められた。


 ここの隠し砦の環境整備をすれば反乱でクマル城下町の孤児になった子供達と転生者2人を合わせた子供村が完成する。


 子供村を軌道に乗せたら、自分が連絡役で帝都に出発しょうと決めた。

 その前に、クマリ城下街の廃孤児院に隠れている子供たちを回収してこなければ、ジェドとミーナの二人は目を合わせてうなずいた。



 ◇◆◇



 「まだこんな所に隠れていやがるのか、ガキたちは油虫みたいにあちらこちらと逃げ回るな、この建物からも出ていけよ」


 ナドウ軍兵士達の怒声がスラム街の周囲に響きわたる。

 革命で殺されたクマリ側要人の5名の遺児たちは元の住居から追い立てられて、隠れてたスラムの廃屋からも追い出されようとしていた。


 「みんなこちらにおいで」


 ミランダ・オハラ(10歳)、キティ・ホークス(13歳)、ロゼ・マルレーン(9歳)、ハイジ・グリム(4歳)の4人が汚れた衣服に痩せて空腹な体でマルシュ・ドランケン(13歳)のそばに集まった。


 兵隊に抵抗する気力もない、このまま引きずり出されて奴隷商人に売られるのかな?

 女の子たちの不安な視線が男子のマルシュに向けられる。

 マルシュの視線は部屋の天井の穴から音もなく降りてきた黒い男に向けられていた。


 「5人で全員かな?」

 

 「うん、そうだよ」


 「他にもパール・ザクセン(13歳)、ピオ・ゲーブル(12歳)、カディス・ボガート(11歳)、マリー・ユバーン(7歳)の4人の子供達がすでに子供の村で生活しているよ、一緒に行こうか?」


 「そこは遠いの?」


 「あ~遠い、ナバリの大森林のなかにあるから近くの廃孤児院の屋根裏にいったん隠れて体力を付けてから出発しようね」


 「廃孤児院は知っているよ、裏口から出て細い路地で行けるよ」


 「よし、行こう!音を立てないようにね」


 やがて子供たちの姿は暗がりのなかに消えるように見えなくなった。

 斜めにかしいだドアが兵士に蹴破られたが、明るくなった部屋の中に子供たちの姿はなかった。


 「くっそ~、ガキ達にまたも逃げられたぞ」



 ◇◆◇



 孤児ジェンが才能ゆえにナドウ王に臣従を強制されて地下牢に拘束されて長い。

 ジェン・フォックス12歳が旧クマリ王の従女であった母親を殺害されて、張本人のナドウ新王に仕えるのを拒否しているとの情報がクマリ遺臣ネットワークで流れてきた。


 空間ブロック能力なんて希少スキル持ちは誰でも配下に入れたいだろう。

 飛んでくる矢や魔法を空中に見えない壁を幾重にも張り、簡単に防ぐ能力のある人材は護衛役で貴重だ。


 ミーナは今日もナドウ王宮殿への侵入手段を探していた。

 ナドウ王宮殿自体が元の宰相宅を拡張して増築したものだから、焼失したクマリ城はいまだに瓦礫の廃墟のままだった。


 桜の大木だけがクマリ城跡の広大な敷地の端に残されている。


 何故かナドウ王は桜の大木を反乱の後も斬り倒さずに残した。


 ミーナ・ナバリは元クマリ王国暗部を掌る家系だったがクマリ王の方針で平和国是に反するからと王宮の庭園管理者にさせられていた。


 だからミーナが明るいのは元クマリ王家家臣団の人間関係ぐらいだ。

 ジェンの才能が露見したのは、王妃拘束をかばいナドウを殴った侍女の

母親ウランの処刑場所で救助に失敗して、その場で捕えられて、魔法具で拘束されて地下牢に入れられた。


 いくらなんでも牢に拘束された少女を世話するのに侍女を使うだろう、その線から彼女と接触できないだろうか。

 旧クマリ城は王城で防衛機能は完備していたし脱出経路も完備だが、

ナドウ王宮は宰相宅を拡張したモノだけに普通の下水道で行ける。


 途中の鉄格子など猛毒使いのミーナには障害ではない。撤退時の追跡隊も毒霧で無力化できる。情けは無用だ。



 ただ地下牢の場所だけが不明だ。これ以上躊躇する時間はない、地下牢に拘束されて長いのならば、拷問も選択肢にあがるだろう。

 こうなれば直接忍び込み嗅覚を利かして、地下を探索するしかない。


 決行日、ミーナは深夜になるまでに道具の点検をすましてあとは仮眠をとった。

深夜になってミーナはベットから起きた。クマルの街は暗く寝静まっている。


 ジェンを救出に行くために、素早く黒のインナーの上に胸の軽鎧を付けた。

 柔らかい皮の靴を履いて、腰に革剣帯を締め、皮の肘当てを締める。

毛皮の帽子を被り、剣帯のダマスカス鋼のダガーを触り、毒壺の吹矢の数を確認する。


 スリングで長い吹矢の筒を右肩に斜めに背負い、黒革の手袋をして、腰バックを付ける。

皮のバックの中に入ってるのは水筒と揮発性の毒薬だ。


 思考は邸内の兵配置を考えながら、手は一連の確認動作で無意識に動く。

固有スキルでは索敵・罠感知と毒耐性スキルがある。


 夜目は見える。普通のスキルでは気配遮断・同化迷彩・忍び足がある。

 防毒のバンダナを首元に巻き、ミーナは部屋の窓から下を確認して飛んだ。

 ミーナは寝静まつた街の暗闇を縫い下水の点検口から地下道に侵入した。


 警備兵もなく、途中の鉄格子も事前に腐食毒で数本腐らせてあった。

 無事にナドウ王宮の調理室の水回り箇所下までたどりついた。 


 スリルと地下の排水口の格子蓋に付いた鍵を溶かして侵入した。

 巡視と立哨の兵士の警戒網を縫って地下室まできた。

 地下は倉庫と多くの牢に区分されていた。灯りはついている。


 看守は3人ほどいた。椅子に座って寝ている看守が1人、牢の前を巡回している看守が1人いた。仮眠室で寝ている、看守が1人いて鼾が聞こえる。

3交代制みたいだった。


 嗅覚で牢に入っている囚人は大部屋も入れると15名を数えた。男7人女8人で人族5名獣人8名エルフ2名だ。

 これなら工作して逃げれば助かると勘がそう告げていた。仕掛けて騒ぎを大きくする。


 全員同時に脱牢逃亡させた方がナドウ側の追手も混乱するしね!

 どうせ捕まれば打ち首だ。全員同時に脱牢させて大きく騒ぎ目をそらす。

 その隙にジェンを連れて逃走すればいいにゃ。


 “フッ”


 まず、階段の影から巡回中看守の首に毒の吹矢を一発お見舞いした。


 次は角から椅子に座って寝ている看守の首に一吹きした。


 ドサッ、ドサッ


 二人とも泡吹いて倒れて身体が痙攣している。

 仮眠室で寝ていた看守は異音で布団から半身を起していたが喉元に一吹。


 “フッ” 


寝ボケたまま逝け~!

 椅子横の壁に吊るしてある鍵束をとり、すべての牢屋の鍵を開けて回った。

 大部屋の連中には騒ぐなと警告してから解錠した。


 囚人の男達は看守らの片手剣・槍・棒など武器10本と皮鎧・木盾を奪っていた。

 ミーナの鼻を頼りに狐人族ジェンの牢を探り当てた。牢の格子を開けた。


 ジェンは目隠しをされ魔道具手錠を掛けられて寝台に寝ていた。

 付き添いの少女二人はエルフで傍に座って起きていた。

 ジェン・フォックスは狐人少女で金色の耳と目そして太いしっぽが特徴だった、

長期間監禁されて体が痩せており駆け足などは無理みたいだ。


「クマリ王国の関係者だ、ジェン・フォックスを助けに来たにゃ」


 ジェンの目隠しを外し魔法阻害手錠の鍵も束にあったので外した。

 長期の拘束でジェンの体力は衰弱していた。

 これはアンとベスと名乗った介護の少女2人に肩を貸して貰おう。


 外への脱出の意思を聞いたら、ジェン・フォックス(12歳)と共にベス・メープル(11歳)アン・セントーレア(12歳)の二人共一緒に来たいそうだ。



 仮の目的地としてスラム街の旧孤児院の屋根裏部屋を目指そう。

 上の1階で兵士と脱牢囚人との間で斬り合いが始まつた。


 地下室には時間稼ぎで毒霧を立ち籠めさせておこう。

 さあ、調理室の排水口を目指して大脱走の開始だにゃ~。

 孤独な少女をミーナは見捨てないよ!



 ◇◆◇



 黒猫のジェドは考える、忍術なんて偸盗術と昔から言われている。


 エビノ補給部隊から必要物資を調達するのは容易い。

 ナドウの謀反こそ孤児の原因であれば、これから冬の時期に入るから暖かい住居環境は子供達に緊急調達すべきだ。


 エビノ伯爵のクマリ駐屯部隊向け補給部隊が今夜街道通過の情報がある。

 ミーナと組んで仕掛けして最後尾の補給部隊を眠らせよう。


 時は深夜で、場所は大森林の中での野営中がいい。

 眠りの霧で兵士を眠らせて、霧を散らせて物資を頂く。

 いったん選んだ窪みに隠しておき後から時間をかけて隠し砦に輸送する。

 樹木間に高低差のあるロープを張り、そこに滑車で吊るし、ロープで木から木へ重量物も一定距離は移動できる。


 樹木の高枝の傷跡までは普通の兵士は調べない。複数の樹木間にロープを張れば、遠距離も可能だ。

 1小隊の装備でも、40名はあるから多量になる。どれだけ孤児が増えるか不明だから全部頂く。


 荷馬車の上にあれば武器・防具でも頂こう。軍用テントに炊事道具、そして食料品・毛布類が狙いだ。

 荷馬車は轍跡が残るから強奪できない。今夜は部隊編成の偵察だ。

 明日の白猫のミーナを誘って襲撃本番前の下調べだ。


 深夜になってジェドはベットから起きた。ナバリの大森林は暗く静まっている。

 今からエビノ荷馬車隊の野営地を偵察する。


 ジェドは素早く黒のインナーの上に胸の軽鎧を付けた。ミーナとお揃いだ。

 柔らかい皮の靴を履いて、腰に剣帯を締め、左手甲兼用の丸盾を付ける。


 左腰のダガーを触り、右腰の錐刀を確認する。腰バックを付ける。

バックの中に入ってるのは水筒と鈎付きロープだ。最後に毛皮の帽子を被り、黒革の手袋をする。

準備完了だ。


 意識は野営の見張りを考えながら、手は一連の確認動作で無意識に動く。

固有スキルでは広範囲の索敵感知と毒性鑑定スキルがある。

 夜目は見える。普通のスキルでは気配遮断・同化迷彩・忍び足がある。

防毒のバンダナを首に巻いてからジェドは砦の扉を開けて足を踏み出した。



 ◇◆◇



 子供の村建設した時点のジェドのステータスと紹介です。

 このジェド・バーデンはクマリ王国の争乱で遺臣孤児の村をミーナと協力して建設中です。


 ノルデア帝国ベルブルグ冒険者ギルド 組合員原簿


 名前 ジェド・バーデン

 年齢・性別 14歳・男性 

 種族 猫人族(黒猫)

 職業 ・ランク 探索者(D級)

【鑑定石ではここまで表示される】


 ユニークスキル: 忍術(気配遮断・同化迷彩・忍び足)

 ノーマルスキル: 索敵・罠設置(狭域透視・解除)・小太刀・夜目

 生活スキル: 着火魔法・飲み水魔法・乾燥風魔法・堀削土魔法・地図

 派生スキル: 魔物・動物・植物毒属性(初級)・火薬遁術





 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 


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