#21 魔王島の都市計画!
ナデシュ半島のイシ港に多くのクマリ住民と子供たちが避難しているらしい。
今回、ダン侯爵から委任された海賊商館の敷地は高台全域に及び学校敷地程度はある。
建物自体は地下1階地上2階の商館は40部屋もあり、今後、アイラ王女様の居室や、会議室、 従者居室、大食堂、洗面所、トイレ、大風呂、脱衣所、クローゼット、調理場、食材倉庫、薪倉庫、食料倉庫と現在の設備を一新するほどの大改造工事が必要だ。
しかも海賊商館の改造だけでは難民の受け入れは足りませんから、ヘテ村長のアリスさんとの相談は帆船の運用も含めて必要です。
水路跡も含めて島中央部の丘陵地帯で開拓できそうな平原も何ケ所か見かけます。
元の魔族の人たちが住んでいた場所かもしれません。
孤児院も新規開拓もとなると増々白兎“M”さんと、労働力が必要になりヘテ村長アリスさんや難民輸送でドレーク船長の主ダン侯爵にも相談が必要になります。
火事場みたいな今の急場に間に合うのはやはり白兎“M”さんか?
やはり魔王城の白兎“M”さんに技術者ゴーレムや多数の作業用ゴーレムの貸与のお願いに行く必要があります。
アベルは岩山の魔王城地下3階の教室と呼ばれる“鏡の間”に向かった。
白兎の管理人“M”氏はいつものいで立ちで鏡に現れた。
「やあ、偽王様お早いお出でですな、もうそろそろ来るかと待ってました」
「“M”さんは見越していたと?」
「はい、アベルさんの現状ではここ以外の選択肢はないからです」
「何故そう考えるの?」
「まずアイラ姫や島の魚民は力がないし、ダン侯爵は将来帝国の好敵手に廻りかねないアベルさんを大公に逆らって公的に援助しにくい、難民の状況は急ぐ必要があることを考察すると簡単に出ます」
「なるほど、なら率直に言います。俺の考えた難民用のドームハウス250棟をこの島に造るために技術ゴーレムと作業ゴーレムとを2年間貸与願いたい」
「もっと詳しく説明してください」
「この島の資源を使用する以上500年後の魔王様復活の時に役立つインフラ造りをします」
「具体的には?」
「都市計画に基づいた生活基盤の構築、交通機関インフラの建設、生産拠点の開発などが出来ます」
「400年前まで魔族の人々はこの島で生活していた訳ですし、当時の古地図を参考にさせて頂ければ高低差で効率的に建設できます」
「せっかく構築したものを500年後に放棄出来ますか?」
「ここで到達した文明レベルを半島で再現すればいいだけです」
「この島の資源を使用してこの島に構築する、インフラは誰が活用しても同じ機能を発揮します」
「なるほど、500年後にこの島の全インフラを引き渡すという契約書に署名願えれば技術ゴーレム10体と作業ゴーレム100体とを2年間貸与しましょう」
「半島でも工場建築にゴーレムを使用してもいいですか?」
「半島の資源を使用するのであれば許可します」
「この島で1年間、半島で1年間働いて頂き2年後にこの場所に返還いたします」
「今の条件で賃貸契約書を2部作成して署名したら、即貸与します」
「再確認ですがこの島の資源で作られた機械・設備等は500年後に全て魔王様の所有物になるということですね」
「そのとうりです」
「再確認ですが半島の資源で作られた機械・設備等は、製作者が貸与されたゴーレムでも成果品の所有権は半島側に帰属するということですね」
「そのとうりです」
「その契約内容ならば署名します」
すぐに2枚の羊皮紙の契約書が出されたので、内容確認のうえアベルは乙欄に2枚署名した。
◇◆◇
魔王島の管理人たる白兎の“M”の署名は甲欄にサインされていた。
互いに1枚の契約書を受け取り、そのままアベルは地下10階の“保管処“に音声誘導された。
ここ地下10階の“保管処“には人間サイズの技術工ゴーレム10体と大型重機の建設工ゴーレム100体が起動前の睡眠状態で保管されていた。
アベルが地下10階の“保管処“に降りると、天井の照明ボードが輝きだして全ての休眠していたゴーレムたちが目を開けて起動した。
夜刀姫に造った保守点検用の寝台の立型バージョンから透明ドームを開けて全ゴーレムたちが出てアベルの前に整列した。
アベルと魔王側の貸与契約内容は魔導脳から魔力線を経由して伝達済みたいで、アベルの指示待ちの体勢を取っていた。
「崩落事故などで建設工ゴーレムが破損した場合の対応は」
「建設工ゴーレムが破損した場合は下の階に整備工がいます」
「なるほど」
「400年前のこの島の古地図を閲覧したいのですが」
するとアベルの前の作業台の上に地図が投影された。
等高線も書かれており街・集落も居住人数も表示されてある。
運河や用水路そして道路と港湾施設も色付き表示だった。
もちろん地下資源の位置や海底資源の範囲も記入されてある。
これは超一級の貴重な資料だ。
持ち出し不可だろう。
詳細に眺めてアベルは5個所を住宅設置場所として選んだ。
1つ目は、商館に近い湧き水もあり開拓しやすい子供村の場所だ。
理由は400年前の地図にも農業用水路が記されている。
2つ目は、北高地から流れ出る湧水を利用して畑や水田の農村を草原地帯で開墾したい。人には日々の食料が必要だ、1000人の穀物生産場所が必要で大規模灌漑用水網の建設予定地だ。
3つ目は、湾に面した魚村と反対側の造船所にいい場所だ。
南の森林地帯に近かく同一湾内で船の修理も出来る、よい位置だ。
4つ目は、南の林業に適した森林地帯のいい場所だ。
家具に適したマホガニー材チーク材があり将来性がある。
5つ目は、北の石灰の山に近いコンクリート生産にいい場所だ。
石灰の山に近くコンクリートが生産しやすく将来性がある。
最後に余剰のドームハウスが出たら、南左岸で温泉の湧く場所だ、保養地に最適場所だ。
人間は癒しの場所が必要で温泉サナトリウム病院の予定地だ。
それぞれの場所に必要とするドームハウスと関連施設を建設して欲しい、むろん住宅群と魚村の間には環状コンクリ道路と鉄道とで物流の流れは確保する。
1000人のクマリ人移民が入植すれば10年後に技術者集団となる。
島内で大量生産するドームハウスの概念を説明したい。
技術工がいるので簡単な基本設計図でいいみたいだ。
大量難民向けなのでシンプルな構造の住宅で簡単に生産できるのがいいだろう。
魔族の技術で作れる鉄とコンクリートによるドームハウスというコンセプト案で進めたい。
【基本形は総床面積36.3㎡のドームハウス組み立て工法】
1.事前に8枚のコンクリートパネルを木製型枠で前もって製品化しておく。
2.基礎は鋼鉄製中空ドーナッツ型オンドルとする。
3.窓部2枚・ドア部1枚は8枚のパネルの中に組み込まれる
4.360゜の基礎ドーナッツの上部凹凸の上に8枚の45゜パネルを組み込む
5.天頂部の円径に空気換気口兼明かり取り窓部分を載せる
6.壁パネル相互も凹凸刻みにより密着する。
(組み立て完成)
※冬場はオンドル中央部で石炭ストーブを炊き煙突で天頂部から排出する。
※1.の板型枠は3様式あり、川原砂場の地中で簡単に事前パネル生産は可能
条件《石灰石と火山灰(シラス台地)砂・火山礫・砂利と水が豊富な環境》
付帯設備は風呂小屋・トイレ小屋・炊事小屋・厩舎車庫・食堂・渡り廊下など共同でも作れる物だった。
建築資材はH型鋼・波形鉄板・雨樋・基礎コン付きでオープンハウス形式 但し、各施設は腰板や目隠し板有り。
下水や生活用水の排水は基礎工事時に周辺生活道路と一括で共同排水溝網・大規模下水処理槽群を掘削してコンクリート設置する。
農業用の地下ダムや貯水池や用水路、水田灌漑施設、ガラス温室等だ。
機械類としては、機関車、飛行船、グライダー、帆船、揚陸艇を性能要求書と立面図・断面図・平面図を提示した。
島内基幹道路は鉄道併設線として両側0.5mグレーチング共同溝付き9m道路幅とする。
道路構造は堀削後コンクリート床板でモルタル層保護砂層の上に中央から左右傾斜付きアスファルト道路5mだ。雨水は左右傾斜で溝に自然排水になる構造だ。
鉄道路はコンクリート3m幅単線で2.1m枕木に軌間1067㎜幅の広軌道だ。
研究課題としては水中用・陸上用・空中用の各種魔導エンジンの開発を継続研究して欲しい。
北の岩山下に洞窟格納庫を掘削して欲しい。
廃城跡から山裾にかけてスロープ角度が最適でグライダー滑走路になる。
上下にロープの巻き取り機を設置したい。
格納庫前には飛行船の発着場所を作りたい。
発着場所傍には管制所兼気象観測所も設置したい。
とりあえずは、商館の改造もお願いしたい。
アベルは魔王島の将来構想を全て技術工ゴーレム10体にぶっけた!
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