#02 魔の森と地底湖探検
次郎は前世の科学知識を残したまま転生した先は、異世界のナスル大陸ノルマン帝国北部の大森林「魔の森」そばのアムル人部落マリ村で猟師エディの次男として生まれた。
なぜかぼやけた視界で俺の知覚領域では笑って見つめる両親の顔がハッキリと写る。
顔の傍には兄らしい男の子供が俺の頭を撫でていた。
ナスル大陸のアムル人エデン族は祖父の地ダンジョンエデンで管理人であったが、突然帝国から指定された1000km離れた居留地魔の森に移住させられた。
居留地での職業も森林域限定で狩猟、林業、農業などの3職業に従事させられている。
ダンジョンエデン監視のためにノルデア帝国北部ルツ市に駐屯しているオッタル大公軍幹部は毎年1回魔の森のアムル人居住区に視察にくる。
最近は軍幹部の子弟たち同伴のサマーキャンプみたいな祭りになった。
宿舎は村長宅他10軒に及び大人も子供も大威張りで食べ散らかして帰って行く、村の子供たちも殴られても我慢のシーズンになる。
生活の場を奪われた村人全員にオッタル憎しの感情は育っている。
ノルマン帝国は白人種が支配階級であり、有色人種アムル人は本来狩猟が得意で精悍ではあるが魔の森以外の帝国内で就ける職業は荷物搬送人や雑役夫など初級職に限定されている。
両親は誕生した次男の名前をアベルと付けた。エディの家族はこれで4人となった。
大柄な猟師の父親エディと、小柄な元荷物搬送人の母親フラウの次男である。
年の離れた長男のカインは猟師の跡継ぎで父親似の大柄で無口な男である。
アベルの8歳の時にマリ村の傍の森に子供の好奇心から入ってみた。
なぜ大人達が森の中には子供は入るなと口やかましく言うのか実感した。
森の中は木自体にトレントが紛れて潜み、木立の間にはコブリンやらオークが獲物を求めて空腹で彷徨っていた。
好奇心で侵入したアベルは戦う力もない自分が“鴨ネギ”状態であることを理解した。
迷い込んだ300mが1㎞にも感じられた。草叢から草叢へ潜み時間を掛けて抜け出て来た。
アベルが魔物より逃げることができたのは危機感知力と逃げ足の速さだけだった!
それからアベルは両親から許可が出た10歳までひたすらフラウ母さんから弓術を教えてもらった。
身体は丈夫に生まれたので自宅から漁師小屋までの走り込みは必死でがんばった。
やがてアベルは背も伸びて村の中でも走ることは常に首位グループに入った。
とにかくアベルは走るのが早やかったので、魔物を発見したらひたすら逃げた。
そんなアベルの夢は15歳の成人式が終われば、冒険者ギルドに搬送人区分で登録して、自由に2大陸で冒険旅行をすることだった。
いろんな街や村々を見て回りたい。そして美味しいものを食べたい!
ひょっとしたら他の転生人に出会えるかもしれない!夢は広がります。
冒険者ギルドでは15歳から正規にメンバー登録するが、実情は各ダンジョン入り口前では潜る冒険者たちに搬送人として雇って欲しくて多くの子供達が群がっている。
これは政策として貧しい家庭の子供が10歳を超えれば搬送人や雑役夫に就けるという黙認がある。
その結果死亡しても人の命はゴミより軽い世界なのだ。
アベルは14歳になっており、フラウ母さんもギルドの早目の搬送人登録を勧めている。
搬送人区分の冒険者登録カードさえあれば多くの街の入口審査を通過できる。
アベルが旅立つのは15歳の成人式後に決めている、街での搬送人登録は機会次第にする。
非戦闘職の搬送人としての訓練は元搬送人の母親フラウからパーテーの人数別必要食材や売れる薬草採取や野営の仕方、気配の探知・消し方や獲物の解体方法、魔石の取り方、罠の見破り方や請負契約での注意点など必要知識や注意点を徹底して教えてもらえた。
さらアベルは母親フラウから護身用の弓術や野営に便利な初級生活魔法を教えられた。
野営に必要な火のつけ方消し方、溝と土壁の構築や飲み水の出し方、武器や獣の血液の汚れ落としや濡れた衣服の乾燥魔法などが出来る様になり快適な旅ができるようになった。
「アベル、私たちアムル人はノルン人達から“森の人”と呼ばれているわ、それは森を汚さないことが世界を守ることだと聖樹様から伝えられているからよ」
「森と水を守り快適な環境にすれば人も獣も魔獣化や魔人化はしないわ。河や海や地下迷宮や地底湖の水質を汚さずに、森林の乱開発をさせないで大火も出さなければこの星に住む全員が幸福になれるわ」
「アベルはどう考えるの? 」
「母さんわかった。森や水の環境を守り快適に人々が暮らせるように考えてみるよ」
「アベルなら出来るわよ。でもアベルの命を守るのは前提条件ね」
さあ今日もアベルは素材集めも兼ねた猟師小屋に出かける用意をする。
インナーは黒の上下の肌着で、その上に茶色のシャツと緑色のズボンを着た。
この村は寒いので厚手の靴下も履く。足は硬皮の靴を履き膝から下をレギンスで覆う。
この皮製レギンスは靴の土踏まずにかかっており雪も砂も靴に入らずに足は動きやすい。
さらに上から緑色の袖なしのチョッキを被り厚革の剣帯を締める。
剣帯には右に剣の止具がある。剣帯の右止具に山刀のマチェットを差した。
この山刀は母親から譲り受けたもので、炭素鋼で鍛造されており薄刃で、凄まじく切れ味が凄い。
そして緑のベレー帽子を被り黒の指無しの皮手袋をして、剣帯後ろに小物入れの茶色の腰バックを付けた。
この腰バックは人前での物の出し入れ用としてアベルが作成した10㎥の魔法袋だ。
最後に父と兄の昼の弁当を腰バックに入れれば準備完了だ!
今日も猟師小屋に父と兄に昼の弁当を届けて、倉庫にある処理済みの獲物の肉や牙などを自宅の倉庫に持ち帰るのが仕事で、帰路途中の岩山で秘密基地造りをするのだ。
◇◆◇
アベル14歳は魔の森での地底湖探検に挑んでいた。
今から潜水する湖が深くて怖い、暗い地底湖の底に魔晶石の7色の煌めきが見える。
松明の灯が唯一の光源でも人影の見えない静かで暗い地底湖が不気味だった。
来年はアベルの15歳の旅立ちの年だ。
ここの魔晶石は召喚で欲しいが怖いものは怖いのだ。
むしろオークの様に正面から襲ってくれた方がアベルとしてはやり易かった。
大きな魔晶石なんて買えば何億ギルもするのが相場と雑貨屋の爺さんから話を聞いた。
魔晶石の用途はアべルがこれから作ろうとしているゴーレムの中核素材だった。
すべての自律行動の頭脳としての知識集積の中核になる。
日常の歩行行動そして武技や家事などの多くの判断をする司令塔となる。
あれだけ大きければ無数の知識転写に耐えて、専門家の知識を転写できるはずだ。
“虎穴に入らずんば虎子を得ず”だ。
度胸を決めて飛び込もう。
思い切り息を吸い込んでから、足から静かに水に入り静かに潜水した。
30m程度の深さに魔晶石のかすかな7色の輝きが見える。
この地底湖の水は海水みたいに体に纏いつき浮力が強いな。もしかしたら魔水かな?
やっと湖底の7色の煌めく魔晶石に手が届きナイフで岩から石を引き剥がした。
その時、湖水の暗黒の闇から二つの青白く光る眼を持つ大蛇が急接近してきた!
アベルは魔晶石を空間収納庫に入れて、代わりに迫る大蛇の前に収納してた大岩を出現させた。
“ゴツ~”
10tもある巨岩に頭部を激突した大蛇は体が弾かれてのたうちまわってる。
アベルは魔晶石採取も目的を達成して、すばやく足を連続でけり水面に無事浮上した。
近くの岸に上がり収納庫から出した大きな魔晶石を観察した。
岸からの松明の明かりで七色の輝きが強くなった。
地底湖は魔鉄鉱石層の陥没断層に水がたまり数万年かかり魔水湖となったものである。
アベルは入手した魔晶石を岸の上に置き、岸に上がり、体を“乾燥”させて狩人服を着た。
続いて露出している魔鉄鉱石の岸辺に両手を置き、蓋なしの200Lドラム缶のイメージで魔水入りの円筒形魔鉄鋼製缶を波打ち際に“製造”した。
魔水は9割程度缶に入っておりとても重くこのままでは持ち上げられないので、缶の中に入手した7色魔晶石を沈めて共に空間収納庫の中に“収納”した。
魔水は貴重でありそのまま200Lドラム缶で50本程魔水入り缶を製造して収納した。
そのまま新しい松明を燃やしたアベルは少し離れた湖畔に露出した魔鉄鉱石層から100%魔鉄鋼の10㎏インゴットを100本程“製造”して空間収納庫の中に“収納”した。
この魔鉄鋼は白銀色で軽くて魔力によるイメージ変形が容易であり、鉄鋼の10倍の張力がある素材である。武器防具乗り物フレーム等利用分野は広い。
創世神ヤーヌス様から与えられたユニークスキル金属錬金術の金属合成と金属変形の能力は素晴らしいものだった!
この星の環境保全に最適のスキルだ。圧延装置もいらない、溶鉱炉の排煙公害はない、土壌の水質汚染が出ない、スラグも出ずに廃棄物も出ない理想の製鉄魔法だった。
躯体素材を入手したので地底湖作業は終了して地上に続く上りの洞窟を歩き始めた。
アベルの空間収納庫内にはすでに人工知能の魔晶石や各種金属インゴットを多量に保有している。
魔水もここで入手出来るしあとはゴーレム召喚を実行する段階になった。
あと肝心の魔晶石への武技等の知識転写は狩りをしながら覚えてもらおう。
アベルと伴に狩りをして罠や倒すまでの駆け引きやフェントも教え込んでいこう。
帰り路の途中で洞窟壁面に結晶が見えたので鑑定したら紫水晶だったので発掘した。
輓馬ゴーレムの魔石に成ってもらおう。
授かった空間収納庫の容積の限界は確認していないが、同類区分された多数の収納ファイルが既に存在している。
トン単位の鉱石類、宝石類、木材、木炭、薪、石灰石、硫黄、魔物、毛皮、岩塩、羽根、薬草、穀物・野菜、岩石、飼葉、牛乳・卵、麻縄、魔水、水などが収納時の状態で収納してある。
ゴーレムの構成資材は整いつつあるが、周囲に武技の専門知識を持つ人物に出会えていないので悩む少年アベルであった。
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