#19 魔王城のある島
船首甲板で揺れるロープを握って前方を見ていたドレーク船長が振り返り叫んだ。
「魔王島に着いたぞ~野郎ども~~」
“ヘ~ィ” と水兵たちの野太い返事が響き、男たちがキビキビと動き出した。海は凪いでいる。
大きな島に着いた、左手に遺跡の見える岩山と森と砂浜が見える。
やがてアベルとミーナそして夜刀姫がボートに乗り込み砂浜に向けて漕ぎだした。
この島は二つの大陸から離れた大海原に浮かぶ面積60㎢程度の大きさの島である。
海抜600m程度の低い山がそれぞれ南北にあり、中間の丘陵部の湾に漁村が一つある。
北側の岩山の中腹に崩れた遺跡が見え、南側の山は休火山らしく密林に覆われてかすかに噴出口と火山湖も見える。
この孤島はひょうたん形の島で南の休火山森林と北の岩山高原と中間にある丘陵地帯には良港の湾と魚村があった。
中間にある丘陵地帯は草原と林に覆われており開けた草原を一人の少年とメイドゴーレムと白猫人が足早に歩くのが見える。
アベルが左手高地を見上げれば青い空を背景に山の頂上に白い石で積みあがった廃城が見える。
進行方向の右岸には碧い海の色と白い砂浜がに広がって見える。
アベルたちの上陸した砂浜は海賊商館のある湾とは反対の左岸であった。
洋上には305t程度の3本柱の帆船が1隻浮かんでいる。
アベルたちを運んできたドレーク船長の軍艦でPennyLane号の甲板では10人ぐらいの水兵がボート引き上げ作業をしているのが見える。
魔王城跡の調査は、明日までの海賊商館制圧の後で充分にできる。
午後までに丘陵地帯の林を横断して右岸に出る。樹木の根元を見ると、紅い茸や白い茸、黄色の茸に紫の茸など幹や腐葉土から生えており、火炎茸など日頃は避けている原色の茸を狙って3人は腰バックに採取していった。
食べると旨味成分があり美味しいらしいがその後に猛烈に下痢嘔吐幻覚が始まるみたいだ。
林の中で茸狩りをしながら歩いていると大きな空地を見つけたので整地化して溝を掘りコンテナユニットを収納庫より出して展開した。
今夜はここで待機して明朝暁ごろに海賊商館を襲撃する手はずだ。
午後には海賊商館裏手に着いたので、これからミーナは厨房に忍び込んでスープ大鍋や野菜類とかによく刻んだ茸を混入してもらう。
林の間から新イシ湾の風景が見える、湾の中央に木造大型3本マストの海賊船が1隻停泊中が見える。
海賊商館が面している新イシ湾が一望のもとに見える。
白い海鳥が1羽ほど商館敷地にある旗の掲揚台周りをゆっくりと飛んでいる。
海賊船からボート1隻が忙しそうに母船と砂浜を行ったり来たりしている。
商館裏手の林の中で3人の採取した毒茸を集めると5㎏ほどになり、ミーナは自分の腰バックに全部入れた。
丘の上から見下ろすと商館の裏手に植え込みと井戸と木製ドアの勝手口が見える。
ミーナを振り返るともう消えている、植え込みの陰にチラッと動く姿が見えた。
夕食の具材や夜食の中にもよく混ぜ込んで練り込んで欲しい。
夕方の調理時間から考えると丁度良い午後の時間帯だ。
毒茸は採れ立てで新鮮で油が乗っていて美味しいはずだ。
食べたくはないが・・・
この作戦の概略は、ミーナの全毒耐性を使い海賊の料理に毒茸を混入する。
夕食を食べた海賊たちは半日は無力化する。
待機時間を利用して、ミーナは帝都アジトとここと空間移転を繰り返してアイラたち一同をコンテナユニットに収容する。
明日暁の時間帯にソフィー以外の全員で海賊商館を襲撃する。
抵抗する海賊は少数のはずだ。
周囲の異常を感じて食べない奴も出るはずだが、その時に戦いになる。
今夜は商館から1㎞ほど離れた林の中のコンテナユニットで待機する。
アイラたちにはアベルのコンテナユニットは初体験で驚くだろうな。
ミーナは午後の厨房で夕食料理に大量の毒茸を混入できた。
肉料理とスープだったそうで微塵切りした毒茸を丁寧に混ぜ込んで
一段と香りが匂い立ったそうだ。
「美味そうだったにゃ」
「疲れているところで悪いけど、アイラたちの移動をお願いするよ!」
「分かっているにゃ」
それからほどなくしてアベルたち3人とアイラたち6人は合流できた。
攻撃班は夜刀姫、ミーナ、アベル、ダンカ、スー、テラの6名で本部員はアイラ、ソフィー、ナタリアの3名で編成完結です。
前に時空間収納庫に入れた料理店の温かい肉料理とパンとスープで夜食を取る。
2つの風呂も沸かして床暖房も入れる、皆の体を冷やしてはならない!
アベルのコンテナユニットは皆に大好評だった。
攻撃班の武装は夜刀姫は鉛弾と両手斧で、アベルはクロスボウ、ダンカは盾に槌、スーは霊樹の杖、テラは丸盾とメイスで深夜3時にコンテナ出発で作戦開始となる。
◇◆◇
この林は獣も出ずに、昨夜は雨も降らずに快晴だった。
女性6名にベッドを譲り、男性2名は床暖房の上の大型テント2張と寝具一式で寒さは気にならなかった。
不審番の夜刀姫がいるので安心だ。
アベルは1時半には目が覚めて着替えてトイレに行き準備完了した。
他の攻撃班の人たちも用意を終えてボチボチ集まりだした。
時空間収納庫にテント寝具類を収納して、白い円形丸テーブルを庭園中央に配置した、むろん椅子も8脚セットした。
腹が減っては戦ができないので、保存している温かいスープとパンとハーブティーを出した。
食事が終わると3時前になりそのまま攻撃班は玄関口の鉄製扉から出撃となった。
攻撃班は夜刀姫、ミーナ、アベル、ダンカ、スー、テラの6名で並びもこのままで行進する。
ライトはスーが後ろに1つだけ浮かべた。1㎞なので5時前には海賊商館裏手に到達しそうだ。
5時前には海賊商館裏手に到達した。黒々とした館の陰が見えてきた。
空も薄明かりに染まってきた、夜と朝の間の時間帯だね。
ミーナは皆に合図して単独偵察で館に潜入した。夜刀姫とアベルは2名一緒に動く、ダンカとスーとテラも3名一緒に動く、ミーナが帰るまでこのまま裏口で待機だ。
裏口が開き、ミーナが出てきた。低めの声で
「建物内には30人ほどいて、20人ほどが失神状態で転倒してて、残りの10人ほどが交代で起きて周囲を警戒してるにゃ!」
「正常な10人はどこにいるの?」
「建物内の1階正面玄関ホールにいるにゃ」
「転倒している20人はどこにいるの?」
「1階食堂のなかや廊下とかトイレとかに倒れてるにゃ」
「私がかたずけましょう」
「鉛弾で手足の骨折だけに留めて欲しい」
「了解しました」
夜刀姫は立ち上がり、裏口から中に歩いて入って行った。
しばらくすると玄関の方から、“グエ”“ガッ”“ギャ”などと男たちの悲鳴が聞こえてきたが、すぐに夜刀姫が裏口を開けて出てきた。
「終了しました」
「俺たち何のために来たんだ?」
「それでいいのよ、怪我しなくて良かったでしょう」
「テラさん、中毒者と骨折者との手当てをしましょう」
「アベル、健常なほうの手足を鉄輪で拘束してくれない」
「そうですね、手足間の鎖は長めにします」
「ご自由にどうぞ」
約束のとうりに午前中に新イシ湾にダン侯爵の旗をマストに上げた3本マストの木造ガレオン軍艦が1隻入ってきた。
ドレーク船長も律儀な方だ。停泊した305tのPennyLane号の甲板上では10人ぐらいの水兵がボートを海面に降ろす作業をしているのが見える。
やがて降ろされたボートには槍や片手剣を煌めかせた水兵達が乗っており、やがて海賊商館に雪崩込んできた。
《コホン、早朝に制圧は終わってるのですが・・・》
「では海賊の引き渡しをします、10人は骨折者で20人は茸中毒者となります。館内はご自由に調べてください。もちろん盗品は引き渡します」
「アベルよ、協力に感謝するぜ、全員生きて捕まえたんだね!」
「はい、死人など出ずに捕虜に出来てほっとしています」
「俺たちもこれだけ協力されれば侯爵様の指示どうりにこの商館はアベルに任せるぜ」
「あと、海賊船も任せろと侯爵様の指示にあったけども、捕虜30人の人数と盗品を運ぶとなると海賊船を一時輸送用として貸してくれねえかな?」
「お使いください、海賊船を輸送用にお貸しします」
「ありがとよ、メラリ港に搬送したら甲板を掃除して返すよ!」
「甲板掃除?」
「海賊たち20人ほどが下痢しててすごいのさ、洗って返すよ」
《アベルは了承した》
◇◆◇
ドレーク船長の305tのPennyLane号と拿捕された海賊船との2隻が水平線で見えなくなった。
アベルは湾の桟橋からそのままアムル人の魚民の集落に入っていった。
高台の商館に居住する以上は隣人に挨拶するのは当然のことだ。
魚民の集落に近づくとなかから30歳ぐらいの婦人が出てきた。
「初めまして、アベルといいます今日から商館の住人となりますので、なにか守る決りとか要望があれば教えてください。」
「私は村長をやっていますアリスといいます。よろしくお願いします。海賊たちを退治なさったんですね、ありがとうございます。今までは無理やり炊事や洗濯を村人が交代でやらされていたのでそれがないだけで大喜びです。」
「女性で村長をなさってるんですね、大したものです」
「村の男たちは漁に出るもので、家に残れるのは女性だけなんです」
「これからは炊事洗濯は自分たちでやりますから安心してください」
「ありがとうございます」
「余った魚があればこちらから金銭を出して買わせて頂きます」
「まあ、大漁のときは余って困りますから助かります」
「ところであなた方はアムル人なのにどうして魚民をなさってるんですか?」
「え、どういう意味でしょうか?」
《一転してアリスの表情は暗い陰りを帯びた》
「実は俺もエデンのアムル人なんです、アムル人はどちらかといえば森の人に近いとおしえられてきたものですから、余計な事を言ったのなら謝ります」
《アリスはアベルの手の迷宮の指輪を見つけて》
「そうですかアベルさんが・・話しましょう、私たちカルマのアムル人はやはりダンジョン管理人をしていたのですが、オッタル大公の財源化政策でこの島に追放されたのです」
「父親の代で流刑みたいなもので、漁業など分からずにえらい苦労をしたそうですが、技術も習得して現在の生活が成り立つようにしたそうです」
「そうですか今の話はここだけの話にします、ありがとうございました。オッタル大公にはいずれ思い知らせてやります」
「あそうだ、高台の商館の裏手の林を開墾して畑にしてよろしいですか?」
「野菜を作るんですね、かまいませんよ、この村も女子たちが野菜栽培をしてますので互いに知恵を出し合いましょう」
「将来は収穫祭など共同で開催できたらいいですね」
二人は顔を見合わせて笑った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇