#16 ダンカの火縄銃
"ズガァ~ン"
マッチロック式の火縄銃の発射音が森の中に響く。
15歳のドワーフ族のダンカは自治都市ウルク郊外の荒野に広がる森林のなかで、幼馴染のウランと自分が製造した火縄銃の性能確認のために来ている。
(やはり50mの距離で撃つとオークでも一撃だな、頭にヒットするのが一番いいが裸だし胸でも充分に効果はあるはずだ)
森の中の開けた草原の中で3mほどのはぐれオークが頭から血を流して倒れていた。
すぐにダンカは次の弾込め作業に入った。
ウランは怖そうに火縄銃を眺めている。
「ねえ、この火を吹く鉄の棒は誰でも扱えるの? 」
「ああ、女子供でも決められた手順で操作して撃てばフルプレートの騎士でも倒せるんだ! 」
ウランは尊敬の眼差しでダンカを見つめた。
「これからは戦いのやり方が変わるわね」
「だけどさ、あのコソボ代表には献上できないな。俺の両親を殺したのはあいつなんだ」
ウランは困った表情でダンカを見た。
「でも私は親を捨ててこの国から出ていけないよ」
ウランはダンカの鍛冶親方ウイゴの一人娘だった。
孤児になったダンカを引き取り一から鍛冶を教えてくれたのはウランの父親だった。
青白く肥満したオークの頭に15㎜の弾痕が赤黒く開いているのを確認した。
(剣と魔法の世界に俺は銃器をもたらした。 カルト宗教に狂っているコソボ代表に献上したら、この銃は侵略兵器にされてしまう。早く自治領を脱出して防衛戦で苦しむ人々の所に逃げ込もう! )
倒れて血を流しているオークの死骸は餌としては充分だな。
次に草原に出てきたのは血の匂いで餌を探している熊だった。
(次は30mの距離で撃とう、風下だし木陰から撃とう)
木の幹と草叢に身を隠して床尾を胸につけて照門上に熊を狙う、風向きが変わると火縄の匂いにきずかれる。
熊が立ち上がり周囲を見ている。匂いに気づいたか。熊が両手を広げてこちらを威嚇している。胸中央部に狙い引き金を引く。
“ズガーン”
30mの距離で15㎜鉛弾はたしかに左胸中央寄りに着弾したのが目視できた。
“ガァー”
着弾と同時に熊は仰向けに倒れた。威力確認はここまでにしよう。
ダンカの今後の目標は短銃を作り、大盾の後ろに二丁備えたい。
背中にはスリングでこの長銃だ。大盾の上部にも銃狭間を作ろう。
それとこの銃を大口径化して大型車輪を付ければ野戦用の大砲が出来る。
瞼を閉じれば、城塞・人馬を粉砕する車輪付きの大砲の砲列が白煙を上げるのが見える。
これはやはり1日も早く脱出しなければいけない、俺は危険人物だ。
ウランを急がせ、ダンカは5㎏もある銃を太い腕でつかみ上げると見られてないか周囲を確認して歩き始めた。
魔石と牙だけ持ち帰るか、ウランは熊の毛皮が欲しそうだった。決めた、熊だけ血抜きして持ち帰り、親方に恩返しをしよう。熊の肝は高く売れると聞いたことがある。熊は木そりを作ってウランのために引いていこう。
縄で吊るして血抜きしながらウランがささやいた。
「頼まれた荷物はあそこの山小屋には運んどいたわ! 」
「やはり、ついて来ないんか? 」
「無理よ、お母さんを看病するのは私しかいないし」
義理のある親方夫妻に迷惑はかけられない。
「そうか・・・」
幼馴染のダンカにしては珍しく歯切れが悪く寂しそうだった。
コソボ代表にはこの火縄銃は渡してはならない。ダンカの今後の予定は決まった!
◇◆◇
ノーム自治領の実質首都はウルク市であり、ウルク市の中央広場にサイクロプスの巨大像がある。
ノーム自治領の旗は赤地に中央に鉄床と黒ハンマーが染め出されている。
コソボ代表自体が鍛冶師であり国内の発明は全て自分の物である。
コソボ代表がいま目を付けているのはダンカが発明した火縄銃だった。
銃砲を量産してコソボ代表が大陸を統一し絶体権力を握る夢が生まれた。
過去にコソボ代表はダンカの母親の初夜権を行使して、抗議した父親を奴隷身分に落として鉱山落盤で殺している。
ダンカの母親も過労で早死にしている。
転生者のダンカは、社会的矛盾や非合理的な宗教に納得はしない。
ダンカはいつか国外に出て、銃を自由に研究したいと考えている。
権力の及ばない自由な環境で様々な銃砲を製作研究したい。
呼ばれているコソボ代表との会見が終わったら、自分は道具と銃を持って国境を越えよう!
唯一心残りの恋人ウランには森の帰りで別れは言ってある。
◇◆◇
「代表閣下、こちらが火縄銃を発明したダンカです」
ダンカは自治都市ウルクにあるノーム自治領代表館の謁見の間で、コソボ代表に奏上者から紹介をされた。
周囲にはノーム自治領の重臣達が立ち好奇の目を光らせていた。
なにしろ火縄銃などと誰も想像もしない新発明をした天才である。
「そちが火縄銃を発明した変り者ダンカなのか? 」
コソボ代表の目はなにかを猜疑する眼であった。
ダンカは正直に答える気もなくなり短く答えた。
「今だ完成しておりません、研究途上にあります」
「嘘を突くな、森中で轟音がすると苦情が届いておる」
「未だ研究中で、いじると爆発いたします」
「まあ、研究中でもよい、試作品を献上せよ、きつく申し渡すぞ、生意気な小僧だ! 」
「誰か一緒についていき全ての品を押収せよ」
「陛下、銃発明の報償金はいかがいたしましょうか」
「うむ、我が国は財政も厳しいので召し上げで良かろう」
やはりそう来るだろうとダンカはすでに国境の山中の小屋にウランに頼んで全ての銃器と資材・図面は移動させていた。
「ならば、このお話はなかった事として失礼いたします」
「ならん、兵士がこの小僧の工房に一緒に行き押収せよ!」
最悪の結果でコソボ代表との謁見は終わった。
館の謁見の間から工房へとダンカは移動させられた。
「これが全ての銃器と資材・図面なのか?」
「はい、そうですが?」
実はこれらの図面と資材は銃とは無関係の配管の絵であった。
銃器もただの鉛管に取手を付けた偽物だった。
「ちょっと便所に行っていいですか?」
「ドアの前で見張っているからな」
便所の窓から外部に出られるように細工は事前にしてあった。
(急いで山中に逃げ込まないとな。)
ダンカはウランに頼んで、国境の山中の小屋に背負子に火縄銃と鍛冶道具・図面は乗せてある。
後は身一つ行けば出国できる。
その日、自治都市ウルクから鍛冶師ダンカの姿は消えた。
◇◆◇
朝になってダンカは山小屋の毛布の中で眼が覚めた。今日はドワーフ王国から帝国に峠を越えて入国しなければと、固まった体を伸ばして起きた。
ノルマン帝国関所の入国審査はドワーフ技術者に関しては厳しくない。
ドワーフ鍛冶屋は手に武器・防具の製造技術を持つのでむしろ歓迎している。
ダンカは空いた毛布で大きな荷物を梱包してから、上着とズボンを着て、革のブーツを履き、上着にチェンメイルを被り、革の帽子を被る。
毛布で梱包された荷物を背負子に紐でしっかりと結わえて背中に担ぐ。
最後に、右手に樫の木で出来た長い杖を握る。
荷物は水筒・干し肉と火縄銃・火薬・金床・金槌等鍛冶道具だった。
逃亡中なので金物修理の仕事で日銭を稼ぎながら帝都に行くつもりだった。
固有スキルに鍛冶と鉱石鑑定・採取もあり、途中で鉱石・鉱脈を発見したら入手するつもりだ。
夜になり宿が無ければ、山中だろうがスキルの土魔法で堀と土塀で5㎡ほど宅地化して、換気孔付寝台付の四角い土壁部屋ぐらい造ることは出来る。
食料は火縄銃で野鳥や小動物を射止めれば何とか食つなぐことは出来そうだ。
延々と続く山道に咲く曼珠沙華を見つめて、ダンカは足を帝都に力強く踏み出した。
〈いつか必ずウランを嫁に迎えに来たい! 〉
◇◆◇
鍛冶師ダンカ の前世は男子高校生立石保司です。ノーム自治領のコソボ代表に鉄砲を召し上げられそうになり帝都に逃亡してきました。
名前 ダンカ
年齢・性別 15歳・男性
種族 ドワーフ族
職業・クラス 鍛冶師(C級)
【鑑定石ではここまで表示される】
固有スキル:錬金術(材質解析、武器製造、防具製造)
・ 鉱物鑑定
ノーマルスキル:上級魔法 土属性Lv5(堀創造・土壁
・槌・高炉創造)
生活魔法(火属性・水属性・風属性・土属性)
派生スキル:短銃・鉄砲・大砲製造
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