#15 インフェルノ魔法で関所破り
グォ~~~~~~~~~~~~パチパチ!
白い優美な白鳥のように美しいクマル城が黒煙と赤い炎を上げて燃えている
アイラ姫は王城からの離れた山中の脱出路のなかで、親友である家臣のスー神官とテラ魔導師と抱き合って眺めては泣いた。
「父上~! 母上~! 兄上~! この仇はかならず、妾はナドウを討つ! 」
「「アイラ姫! 」」
城の敷地の端にある桜の大木だけは災害からは逃れて見えた。
父親のベル国王、母親のソフィア王妃、兄のエドワード王子の三人は、宰相ナドウにより中央広場で昨日公開斬首されて、今朝ほどから三人の首を城門の前で晒されている。
野心家ナドウ宰相の下剋上により280年間続いた名門の半島国家クマリ王国は滅んだ。
帝国のオッタル大公配下エビノ伯爵の3,000人の援軍を得て、ナドウ家臣団1,500人との連合した重武装兵4,500人による武力革命が成功したのだ。
軍事部門の責任者であったナドウ宰相の黒鉄騎兵500騎と重装歩兵1,000人とエビノ伯爵手勢3,000人の連合軍により、毎日儀仗兵訓練のみの旧クマリ王近衛兵1,000人の白薔薇隊は蹴散らされて霧散した。
帝国隣地エビノ伯爵とナドウ宰相との売国密約で、クマリ北部領土譲渡条件によりエビノ伯爵軍3000人を国内に引き入れてナドウの武力革命は成功した。
エビノ伯爵は正式な国家間条約によらず、貴族間密約によりクマリ王国の北半分を手にいれ私的エビノ荘園として不法占拠している。貴族の私的荘園ならば帝国に納税義務はない。
すでにエビノ伯爵は南ナドウ王国自体も自分の保護地扱いにしている。
ナドウの世論誘導工作により宗教界を含めて非武装中立絶対平和主義がクマリ国の不滅の国是になつていた。
逆臣ナドウにより人民裁判の中で根拠のない冤罪である“悪逆非道華美虚飾の罪”で公開斬首された父親ベル国王は平和主義者の薔薇の好きな善人だった。
帝室傍流から嫁いだ母親のソフィア王妃は高貴さと優しさだけの生粋の貴族だった。
兄のエドワード王子も平和信奉者で宰相ナドウに何も言えない小心者だった。
現実の世界では相応の軍事力を背景にして、初めて国家間の正義を通すことが出来る。
宮廷工作頼みや全方位燐善外交だけでは早晩、亡国の道を辿るほかはない。
山中で金髪ロールを乱して号泣するアイラをスーとテラは抱えて、街道に止めてある箱馬車に乗せて、スーが御者台に座り国境のアモン関所目指して再び出発した。
◇◆◇
アイラ姫一行は山中の脱出行のあとで、追跡中のナドウ革命軍精鋭の黒鉄騎兵500騎に、帝国と王国の関所が見える坂道で三人は追いつかれてしまった。
ナドウ側としても王族は王女以外は全員公開処刑をしたのだから“王国再興の芽”は是非とも刈り取る覚悟で追跡しているのだ。
つずら折りの坂道で追手の黒鉄騎兵団が山裾に見えて来た。軍馬の足並みは早い。
黒鉄騎兵団が馬車にあと700m手前の山裾まで接近している。
こちらの二頭立の箱馬車では直ぐに追い付かれてしまう。
スーは御者台から後ろを振り返り、アイラとテラの二人は車内で顔を見合わせた。
アイラ姫と神官テラは幼馴染で、スー宮廷魔道師は最近魔導国から派遣されて来たばかりでこの変事に会った。
謀反の背景を知らない三人は年も近く共感しやすく共に帝国への亡命の道を選んだ。
すぐ傍の王国側関所を通過すれば1㎞向こうには帝国側関所が見えている。
まだ今回の政変はアモン関所に通知されていないはずだった。
あとほんの30分ほど時間が稼げれば亡命できたのに・・・
「姫、追いつかれます、もはや上級火魔法“ファイアーインフェルノ”を使いますので魔術行使のご許可をお願いします。」
「そうね、責任は私が負いましょう、魔法使用を許可します」
「愛の神アフロディ様、召される魂たちに安らぎをお与え下さい」
箱馬車の御者席から、スーが長い詠唱を唱えて範囲指定をして、“ファイアーインフェルノ”とつぶやくとそれは地上に起こった。
麓の黒鉄騎兵500騎の頭上に天上からオーロラ様の白い高熱の炎が舞い降りて飲み込み、そのまま炎は100mの炎の壁となりゴウゴウと地上で回転を始めた。
炎の壁は回転しながら山裾目がけてゆっくりと移動を始めた。
円周300m程の地獄の炎環が白く渦巻き、触れた人馬は体腔から火を噴き出して自ら燃え尽きるしか方法はない。
周囲を焼き尽くして音が戻り、そして坂下の世界は見渡す限り地面が煮え立ち溶けて遠くまで溶岩台地と化した地獄になっていた。
赤黒い溶岩の上はいまだ漂う黒い煙と熱風が吹いていた。鳥の姿も見えない。
音も無く、生き物の気配もなく、骨すら残らず消失していた。
500騎の彼らは生きながらにして地獄の業火に焼かれたのだ。
焼死したナドウ革命軍精鋭の黒鉄騎兵500騎はB級熟練者と同等の実力があり、この時点でスーのランクは500人分経験値を吸収してB級に昇級している。
王国側関所の兵士は眼前に展開された光景のあまりの凄まじさに全員腰が抜けて地面にへたり込んでいた。
御者台のスーは施術後車内に入り、馬と箱馬車の周囲に結界魔法を張り、結界内に冷気魔法をかけ続けて外気の熱上昇に耐えた。馬車の中の三人の顔にも窓越しに外の発火寸前の熱気はヒリヒリと感じられた。
ファイアーインフェルノが終わってから、スーは馬達を宥めてから御者台に戻り、箱馬車を王国関所に進め始めた。
王国側関所の兵士達は誰も馬車を止めないだろう。
誰しも命は欲しいはずだ。
◇◆◇
アイラとテラの二人が乗りスーが御者する二頭立箱馬車が、ノールマン帝国兵が密集して守る帝国側アモン関所前に止まった。
「アイラ様、帝国兵が通行を妨害してきたらどうしますか? 」
「話し合いで通してくれればいいのですが」
「火球でも打ち込みますか」
「これ以上人を殺めないで! 」
「帝国兵が止めてくればやるしかないでしょう」
すると帝国関所の建物から一人のにやけた青年貴族が馬車の前に来た。
「これはこれは、クマリ王国のアイラ元王女ではありませんか? 」
「クマリ王国のアイラ王女と御存知ならば、速やかにこの関所を通して頂きたいものですわね、エビノ伯爵様」
「いゃ~、それでも眼の前でファイアーインフェルノを使われますと、なにか緊急事態がクマリ王国で発生したのかと勘ぐりますので通行を許可出来ませんな、魔導師様」
「クマリ王国から何も特段の通知がなければ、この措置は外戚のアイラ王女に対する無礼と皇帝陛下に奏上せねばですわね! 」
「おやおや、これはお気の強いことで、クマリ王国の内部で政変があったのではともっぱらの噂ですがね? 」
「そういえばクマリ王国に無法にも武力で侵入した他国軍隊の荷駄にエビノ家の家紋が見えたとか見え無いとか? 」
「はて、一向に身に覚えはありませんですがね(笑)」
「これ以上クマリ王国のアイラ王女を通行妨害するのであれば、この関所も消し炭にして差し上げますわ、エビノ伯爵」
「ふん、ついに衣の下から鎧が見えましたね、よろしい、私も消し炭になりたくありませんので、今回は通しますよ」
「ならば、関所の武装兵も街道から退かして頂けますでしょうか。エビノ伯爵様」
エビノ伯爵が右手を振ると関所の門扉が開き、兵が路上から散った。
エビノ伯爵が睨みつける中、アイラ王女たち三名の馬車はゆっくりとアモン関所の門扉を通り抜けて帝国領内に入って行った。
そのアイラ達を憎々しくオッタル大公配下のエビノ伯爵が睨みつけていた。
◇◆◇
国境の関所から帝都までの街道には、クマリからの避難民が点々と歩いていた。
幼い女の子が杖を突きわずかな身の回り品を背負い泥にまみれた衣服を身にまといトボトボとあてどもなく歩いている。
為政者の身勝手がクマリに住む庶民の運命を戦争難民に落とす。
街道そばの森からでる魔物や盗賊たちに彼ら彼女たちは無力だった。
馬車に乗る三人は無言で幼い幼女が小さな荷物を背負い歩く姿を見つめる。
(その5~6歳の幼女こそ後のテラの弟子ナタリアであった)
「この子はわたしの弟子にします、馬車を止めて! 」
止まった馬車の扉を開けてテラは飛び降りて幼い女の子を抱きしめた、
女の子の体は震えていてやせ細り全身が汗臭かった。
「あなたはどこか目的があって歩いているのですか? 」
テラは素早く浄化魔法を使った。女の子の体はみるみる汗が乾き、衣服の汚れが消えた。
「いいえ、クマリ王国の家臣だった親がエビノ軍兵に処刑されたのですが、親の最後の言葉で帝都の方向に逃げなさいと言われてから2日ほど歩いているだけです」
「昨晩は野宿したのかしら、食事はどうしたのですか? 」
「いいえ、なにも食べていません。小川の水だけ飲んでました」
「馬車の中に食べ物はありますから、私はテラといいます。これからはあなたの面倒は私がみますので早く馬車に乗ってね! 」
「私はナタリア・ウーゴと申します、こんな私を拾ってくださりありがとうございます」
テラはふらつく幼女と共に馬車の中に入り、見届けたスーは馬車を出発させた。
馬車の中には非常食も充分に持ち込んでいるので、テラが幼女に食べさせた。
アイラもエビノ伯爵に処刑された遺臣の孤児なので拾ったことに同意している。
テラ15歳の弟子となった幼女ナタリア6歳との最初の出会いであった。
保存食を食べるナタリアの体に微かに魔力の流れが感じられる。
「妾はアイラという、ここにいる者たちはみな身内みたいなものじゃ、心配せずに我らとともに帝都に行こうぞ」
このところ不機嫌だったアイラの顔にめずらしく柔らかい微笑みが戻った。
「アイラ様、テラ様、食事をくださってありがとうございました! 」
「ナタリアには魔力の流れが感じられる、これからはテラに治癒術を教えてもらうがよい」
「私はスーというよろしく、せっかくの弟子候補をテラにとられたか」
「はい、かわいいナタリアは私が治癒術師に育ててみせます」
《三人共:幼い命を消える前に救えてよかった! 》
帝都への街道には、まだまだ苦難の試練が用意されていた。
しばらく箱馬車で行くと、頭上に馬を狙ってワイバーンが舞いだした。
馬が脅えて立ち止まっていなないている、スーはアイラに魔法行使の許可を取り、馬車の御者席から降りた。
霊樹の杖を右手に持ち、短縮詠唱を開始した。
詠唱完了とともに舞い降りてきたワイバーンに白く燃えるフレイムパレットを1個発射した。
ワイバーンは炎球をみて急角度で避けたが、なんとスーの炎球は追尾を始めた!
超高温に白く燃える炎球はカーブしながらますます加速してワイバーンの体を包んだ!
“ギィ~~~ッ”
断末魔の一声を上げると、真っ黒に炭化したワイバーンが地上に落ちてきた。
“ズシン”
「焼き鳥には焼きすぎて炭ね、これは食えないわ!」
スーは魔石だけ抉り取り馬車の御者席に戻った。
スーは高い御者席からノーム自治領側の森林地帯から1人のドワーフが背負子に満載の荷物を背負って街道に歩いてきたのを見つけた。
ただ荷物の上部に括り付けてブラブラ揺れている棒は記憶にある火縄銃であった。
「火縄銃を背負った変なドワーフがこっちに歩いてきます、火球で焼き払いますか? 」
◇◆◇
この帝国入りした時点のクマリ三人娘のステータスと紹介です。
このアイラ・フォン・クマリの前世は女子高校生橘綾乃です。
念願の王女に転生しましたが、宰相ナドウに反逆されて亡命中です。
名前 アイラ・フォン・クマリ
年齢・性別 15歳・女性
種族 人族
職業 ・ランク 王女(F級)
【鑑定石ではここまで表示される】
固有スキル:領地経営(内政・外交・税制)
スキル:礼儀作法Lv3(宮中・社交・会食・舞踊)
生活魔法(火属性・水属性・風属性・土属性)
裁縫Lv1・人形製作
派生: 貴族意識
魔導師スー・マーリン はソドム魔道国からの派遣魔導師でアイラとテラと気が合い、亡命に警護役で同行しています。
このBランクは500人の騎士殲滅後の昇級です。
名前 スー・マーリン
年齢・性別 15歳・女性
種族 魔族
職業 ・ランク 魔導師(B級)
【鑑定石ではここまで表示される】
固有スキル: 魔導力(魔力上昇・魔力効率・魔力結
界) 空間魔法(流星召喚)
スキル:上級魔法 火属性Lv5(炎弾・炎壁・炎雨)
生活魔法(火属性・氷属性・風属性・土属性)
派生: フライ(空中浮揚)
神官テラ・パールはクマリ王国の治癒師でアイラとは幼馴染で、亡命中に警護役で同行しています。
聖域力という珍しいスキル持ちです。
名前 テラ・パール
年齢・性別 15歳・女性
種族 人族
職業 ・ランク 神官(C級)
【鑑定石ではここまで表示される】
固有スキル:治癒力(聖力)
聖域力(接近拒否・認識阻害・精神安定)
スキル:上級魔法 水属性Lv5(心の癒し・傷再生・洗浄)
生活魔法(火属性・水属性・風属性・土属性)
武術1(棒術・盾)
派生: 癒しの天使(広域治癒)
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